竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった 作:シスコン軍曹
「……痛い」
「あっ、お兄ちゃん起きた」
全身で感じる苦痛とともに、炭治郎は最悪の目覚めを果たした。
すぐ脇には、兄をジッと見つめる妹の姿。
「……今何時?」
「午後七時くらい」
「俺が寝てからどれくらい経った?」
「一週間くらい? みんなてんやわんやだったよ。今は伊之助と善逸さんが機能回復訓練してる。もう二人とも全集中の呼吸・常中が出来るようになってたよ」
「そっか……えっ、二人ともここに居るの?」
「えっ、知らないの?」
心底驚いた表情で、きょとんとする禰豆子。
「あれ? もしかして原作……?」
「……因みに、何処まで覚えてる?」
「そもそも機能回復訓練って何ですか?」
「……」
何とも言えない表情をする禰豆子。
「……まあ、リハビリみたいなものだよ。善逸さんは蜘蛛の毒喰らってないから原作より早く復帰してるけど」
「蜘蛛の毒……?」
「……はぁ、忘れて。……兎に角、お兄ちゃんも早く体治して、訓練に参加すること。あっ、私アオイさんの手伝いしてくるね」
そういって、いそいそと部屋を出ていく禰豆子の後ろ姿を見ながら、ふと、炭治郎は思った。
あれ? なんか思ったより馴染んでるぞあいつ、と。
原作は覚えていないが、鬼殺隊は基本、鬼への恨みなどを持つ人間が多い。
それもそうだろう。普通は、態々危険を冒して自分たちへの脅威を、命懸けで取り払う存在になりたいなど、思うはずがない。
命懸けと言うのは、それだけ危険のある仕事だ。炭治郎も、自分が竈門炭治郎でなければ、禰豆子を人間に戻すという目的がなければ、鬼殺隊などならなかっただろう。
「……鱗滝さんも、冨岡さんも……みんな、俺と禰豆子のために命張ってるんだよな……。何か申し訳ない」
寝ころび、天井を見上げる炭治郎がぼそりと呟く。
「……竜の呼吸、か……」
蘇るのは、那田蜘蛛山での一戦。累との戦いの記憶だ。
死が迫ったあの時、前世での最後を思い出し、同時に知らない誰か……いや、
ヒノカミ神楽が使えない理由は分からないままだ。竜の呼吸も、その技を瞬時に編み出せたのはどうしてだ?
――考えても答えは出てこない。
「……寝るか」
つい先ほどまで眠っていたのに、再び眠りについた炭治郎だった。
翌朝、勝手に寝たことを怒られた。なんでも、起きたのなら先に言って欲しいとのことだ。
因みに、骨が特別折れているわけでもなければ、毒を受けたわけでもないので、すぐに機能回復訓練への復帰を許された。
(あの戦いで骨もやってないのか……まあ、それでも体中傷だらけだったし、途中から痛覚飛んでたもんなぁ……)
「よっ」
「⁉」
湯呑をサイドテールの少女、カナヲの頭に置きながら、思考する炭治郎。
今彼がやっているのは、反射訓練。湯呑の中の薬湯をお互いに掛け合う訓練だ。
何の意味があるのと思うかもしれないが、反射神経はとても大事なのだ。
因みに、炭治郎は現在カナヲ相手に、十戦中八勝二敗という異次元の結果を叩き出している。
眠っている時も全集中の呼吸をしっかりできていたおかげか、昏睡状態でも土台となる体の力は鍛えられており、衰えが少なかったのだ。
柔軟もすぐに終え、反射訓練も最初の二回は負けてしまったが、それ以降は感覚を取り戻し、着実に勝率を上げていた。
「ほええ……よくやるよ炭治郎。俺達カナヲちゃんには全然勝てないのに」
「クソッ! 次は俺様が勝つ! 行くぞケバヲ!」
「カナヲちゃんだよ馬鹿猪‼」
意気揚々とカナヲに向かっていった伊之助が返り討ちにされる十秒前である。
そして、次は全身訓練。所謂、鬼ごっこである。
道場の中央で、カナヲと炭治郎が向かい合う。その中心で、アオイが審判を行った。
「全身訓練……始め!」
「「!」」
瞬間、弾かれたように高速で走る二人。
小回りの利いた素早いカナヲを、炭治郎が背後から追いかける。
そして、カナヲの左手に、炭治郎が右手を伸ばすが、カナヲはそれを咄嗟に跳躍して回避した。
しかしそれを予期していたのか、炭治郎はすぐに軸を回転させ、着地するカナヲのもとに駆ける。
「ここだ!」
「くっ⁉」
勝った! そう思った炭治郎だが、咄嗟に身を引いたカナヲに躱され、スっ転ぶ。
「あだっ⁉」
嫌な音をたてながら、道場の床を滑る炭治郎。
そんな彼に、訓練の中断を指示したアオイが駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか⁉」
「……へ、平気平気。大丈夫だって。……さて、もう一戦……ッ⁉」
立ち上がろうとした炭治郎が転ぶ。
どうやら、足を捻ってしまったらしい。
「柔軟が足りなかったのでしょうか?」
「別にそう言うのじゃないよ。単純に、俺がしくじっただけだ。……ちょっと休むよ」
「そうしてください。悪化されるとそれこそ困るので」
炭治郎は足を引きずりながら善逸達のもとへ行き、足を安静にして座る。
「大丈夫か炭治郎?」
「ああ。休んでたら治るよ。善逸も頑張れよ、カナヲ凄いからな」
「そのカナヲちゃんを追い詰めたのはどこの誰だよ全く……」
それからも、機能回復訓練は続いた。
足を休めた炭治郎は、もう一度念入りに柔軟をし、カナヲとの勝負に明け暮れた。
善逸や伊之助も、徐々にカナヲに勝利を上げることが多くなっていた。全集中の呼吸・常中を完成させた影響だろう。
そんな生活を一か月ほど続けたある日。
炭治郎は、夜に一人、庭へ出て木刀を振っていた。
「ふっ、はっ‼」
機能回復訓練だけでは足りない。刀を振るのが、剣士の在り方だ。
因みに、今彼の日輪刀は今までの激戦で酷く刃毀れしたため、刀鍛冶の里に送って錬磨してもらっている。
あのままでは、いずれは折れてしまうだろうから。
そうなったら、この刀を打った
尤も、刃毀れさせたという事実だけで突っかかってきそうだが。
「……すぅー、ハァー……」
深呼吸。
余計なことは考えず、刀を振ることに集中する。
もちろん、これから鍛えるのは竜の呼吸だ。
呼吸の仕方をイマイチ再現できないが、炭治郎の考え通りなら何とかなるはずだ。
「よし、行くぞ。……ゴオオオオ‼」
記憶にある、ヒノカミ神楽の呼吸を持って、再現をする。
「竜の呼吸【銀ノ舞 乱舞】……――ッ⁉」
あの時の感覚を忘れないように、技を発動しようとする……が。
その時とは比べ物にならない苦しさに、思わず蹲る。
どういうことだ? 一体何が違うんだ……?
「……くそっ、もう一度……!」
何度も。何度も。何度も。
繰り返す。
「……呼吸の仕方が違うのか? 多分、ヒノカミ神楽に似てる呼吸だと思ったんだが……」
では、あの時はどういう呼吸をしたのか。
思い出せ。必ず何かあるはずだ。
「……うーん、ダメだ。分からない。那田蜘蛛山の時は感覚でやってたから余計になぁ……けど、竜の呼吸自体は使えるようにならないと。このままじゃ、間違いなく善逸たちに追い抜かれる」
ヒノカミ神楽は使えない。
水の呼吸は適性外。
であれば、竜の呼吸が出来なければ、近いうちに炭治郎は頭打ちになる。
そうなれば十二鬼月も、ましてや鬼舞辻無惨を倒すこともできない。
「……水の呼吸と合わせてみよう」
とにかく、出来ることを試さなければ。
そう思って、水の呼吸の呼吸をしながら、何となくで分かる範囲の竜の呼吸を組み合わせる。
「……あれ?」
意外なことに。
今までの苦しみが、嘘のようになかった。
むしろ、今まで一番動きやすいとすら感じる。それこそ、那田蜘蛛山の時以上に。
ひとまず、何が出来るのかを、確認するために庭を駆け回る。
下弦の伍との戦いの時は、辺りを駆け回った。なら、この程度は何ともないはずだ。
「……ん? あれ?」
走る。木を蹴って、壁を足場に。池を跳ぶ。
だが、その動き方は、那田蜘蛛山の時とは全然違っていた。
独特な歩法……これは、水の呼吸の動きだだ。竜の呼吸とは違う。
しかし、体に感じる万能感は水の呼吸のものではないだろう。明らかにそれ以上の力を発揮している。
「……ふう」
呼吸を解く。
すると、今までの万能感が一気に霧散した。
念のために、水の呼吸を発動するが、やはりさっきのような万能感は生まれてこない。寧ろ頼り無さすら感じた。
「分からない……。とりあえず今分かってるのは、竜の呼吸に水の呼吸の要素を足すと上手く行くってことだけだな」
一つ分かっただけでも進歩だ。
とりあえずはそう、ポジティブに考え、思考を断ち切り、今のやり方を完璧にするまで鍛えた。
「それじゃあ、今日は私と鍛錬をしましょうか。ね? 炭治郎くん」
「なんでさ」
道場の中央で木刀を構え笑顔を向けるしのぶを見て、炭治郎は引き攣った笑みを浮かべた。
因みに、作者の中で竜の呼吸は、イナズマイレブンの究極奥義みたいな扱いです