竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった   作:シスコン軍曹

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柱との稽古

 (くだん)の問題児たる竈門炭治郎と竈門禰豆子が蝶屋敷にやってきて、一月以上たった時だった。

 胡蝶しのぶは、任務帰りだった。

 自身が所有する屋敷へと戻り、また次の任務に備えた準備を行おうとしていた時だ。

 声が聞こえた。……いや、それは『呼吸音』だった。

 奇妙な声だった。人間の声のはずなのに、どこか獣のような……いや、そんな表現では表せない、『何か』だった。

 気になったしのぶは、音のする庭へと出た。

 そして、見たのだ。

 

「ハァーッ‼」

 

 まるで見えない敵と戦うように、木を蹴り壁を走り池を飛び越える、炭治郎の姿を。

 流れるような水を思わせる、滑らかな動きだ。けど、荒々しい力強さを節々に感じる。

 その独特な歩法は、水の呼吸のものであるということは、水の呼吸の派生を扱うしのぶにはすぐさま理解できた。

 だが、それだけでは説明できない力を感じたのも事実だ。

 それこそまるで……竜……。しのぶは改めて炭治郎の姿を見る。

 水の呼吸には、生生流転と呼ばれる技がある。うねる龍の如く刃を回転させ、斬撃を重ねる技だ。

 しのぶが扱う呼吸、蟲の呼吸は水の呼吸の派生であるため、その技についても既知だった。だからこそ言える。炭治郎がやってるのは、生生流転ではない。

 生生流転は斬撃が龍のように見える技。しかし今炭治郎がやっているのは、炭治郎そのものが竜になっているような動きだ。

 新しい水の呼吸の技だろうか。ならば、十二鬼月を破ったのもその技なのか。

 水の呼吸は本来、全部で十の技がある。だが、現水柱の冨岡義勇によって、十一個目の技が作られた。ならば、あれはその先、十二の技になるのだろうか。

 そんなことを考えていたしのぶだったが、炭治郎の発した言葉を聞いて、その考えを覆される。

 

「……よし、大分いい感じだ。もう一度……()()()()‼」

(……えっ)

 

 竜の呼吸。

 今まで一度も聞いたことのない呼吸だ。一体何から派生したのかも想像がつかない。

 炭治郎の口から、人の言葉とは思えない呼吸音が聞こえた。彼は、そのことに気づいているのだろうか。

 竜の呼吸……というくらいなのだから、特別な技でもあるのかと思うが、出てくるのはやはり先ほどと同じ技。

 つまり、しのぶが先ほど聞いた『何か』は、炭治郎の呼吸音だったのだ。

 

「……」

「ハァーッ‼」

 

 鬼になっても人を食べない鬼。

 見た事も聞いたこともない呼吸を扱う剣士。

 謎が深まるばかりの兄妹だ。

 

「明日、少し試してみましょうか。彼がどこまで出来るのか……」

 

 しのぶはそっと、その場を後にした。

 

「うーん、やっぱりこの技、乱舞とは違うんだよなぁ……なんだろう、この感じ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、現在。

 しのぶの前には、ポカンとした表情の炭治郎が佇んでいる。

 いきなり柱と手合わせするのだ、驚くのは当然だろう。

 

「さ、構えてください」

「えっと……本当にやるんですか?」

「ええ、勿論。……あ、ちゃんと全力出してくださいね? 気を付けはしますが……怪我すると危ないので」

 

 刹那、しのぶの姿がブレた。

 直感的に、炭治郎は木刀を横一線に振るう……が。

 

「遅いですよ?」

「な――っ⁉ ……がッ⁉」

 

 いつの間にか……本当にいつの間にか、しのぶは炭治郎の背後にいた。

 それを認識した瞬間、右肩と左太ももに衝撃を受け、膝をついた。

 恐ろしく早い突き……炭治郎は見逃してしまった。

 

(これが柱……那田蜘蛛山の時と全然違う――っ⁉)

 

 炭治郎は禰豆子を庇ってしのぶと打ち合った時を思い出す。

 あの時は渡り合えていると思えたが……相当手加減されていたのだろう。

 それを、今になって思い知らされた。

 ゆっくりと、後ろを振り返る。

 しのぶの姿は、生娘の様に小柄で、とても柱とは思えない体格だ。

 だが、その小ささが逆に、あの目に見えない素早さを生み出しているのだろう。

 

(本気で来いって言ったのはそっちだ……あとで文句言わないでくださいよ)

「竜の呼吸……!」

 

 未だに名のない技を持って、しのぶに相対する炭治郎。

 だが、しのぶのほうはようやくか、といった感情で炭治郎を見ていた。

 

(十二鬼月を倒したという実力……見せてくださいよ?)

「はぁぁぁああああ―――ッッ‼」

 

 まるで、水中を泳ぎ回る竜のような動きで、小回りの利いた動きでしのぶを追い詰めようとする炭治郎。

 それは昨日見たものと同じ、炭治郎自身が竜になったようであり、さながら蒼い竜そのものだった。

 だが、しのぶはそれを余裕の表情でいなし、躱し、捌き切る。

 力では勝っている。けど、炭治郎はしのぶに一太刀も浴びせることが出来ない。

 炭治郎の振り下ろしを、しのぶは横ステップで回避する。その際、炭治郎は体制を崩し転げそうになるが、壁を蹴って足場にすることで持ち直した。

 一連の動作を自覚しながら、炭治郎は考える。

 

(やっぱり……この技、乱舞とは違うな)

 

 那田蜘蛛山の時は、どちらかと言うと小回りの利かない、戦車のような戦いをした。

 累の逃走を阻止するために走った時も、木の枝や葉の束を突き抜ける形で突貫したせいで、余計な傷を増やした。

 だが、あの時この技を使っていれば、そのような事態にはならなかっただろう。

 

「考え事とは、随分と余裕ですね?」

「ガッ……⁉」

 

 瞬く間に三撃、炭治郎の体に打ち込まれる。

 自分から言っても追いつけない。

 だったら、おびき寄せるしかない!

 炭治郎はわざと膝をつき、隙を見せる。

 

「ふっ――!」

(今だ!)

 

 膝をついた炭治郎に追い打ちをかけようと、しのぶが正面から接近する。

 その時、炭治郎はしのぶに隙を見つけた。

 ならばあとは、それを突くだけ。

 炭治郎は立ち上がり、自身の懐に飛び込んでくるしのぶを薙ぎ払うように、横一線に木刀を振るう。

 

「甘いですよ」

「⁉」

 

 しのぶは炭治郎の斬撃を跳躍して躱し、意図も容易く背後を取った。

 見抜かれていたのだ。炭治郎の咄嗟の思い付きは、柱からすれば簡単に読めるものでしかなかった。

 完全に追い詰められ、焦りを募らせる炭治郎に対し、しのぶは――

 

(……ふむ、カナヲ相手に優勢で勝利できる……私の動きについてこれるだけの身体能力……確かに、十二鬼月……下弦の鬼ならどうこうできそうですね)

 

 けど、それだけでは駄目なのだ。

 十二鬼月は下弦のほかに、上弦の鬼という存在がいる。その鬼は、下弦とは比べ物にならないほどに強い。

 今の炭治郎では足元にも及ばないだろう。

 

(いいやまだだ……まだ終わってない‼)

 

 キッ、と。奥歯を噛みしめ、右足を軸に重りを引っ張るような動きで回転する。

 

「!」

 

 その時、しのぶは幻視した。

 炭治郎の姿が、今までの蒼い竜と違い、銀色の竜……ほんの一瞬だったが、それは現れた。

 ビクン、と。しのぶの方が僅かに震えた。

 まるで十二鬼月と対峙しているかのような怖気が、その小さな背筋を駆け抜ける。

 

「ぉぉぉおおおおおおお―――ッッ‼‼」

 

 獣の唸り声のような叫びを上げ、横一線に斬撃を放つ。

 だが、炭治郎が木刀を振り抜いた先に、しのぶの姿がない。それと同時に、振り抜いた刀が何故か重く感じ、視線をずらす。

 

「なっ⁉」

 

 ――いた。

 木刀の上につま先立ちで乗り、いつの間にか炭治郎の首元に矛先を突きつけている。

 完敗だ。それを悟った炭治郎は、戦意を消失させた。

 それを察したのか、しのぶも木刀から飛び降りる。

 

「……はぁ、全然敵わなかったなぁ。新技も役に立たないし、やっぱり柱ってすごいですね」

「ふふっ、炭治郎くんも凄いですよ? 一瞬とはいえ、最後は私も本気になっちゃいました。うっかりです」

「えっ、今までは本気じゃなかったんですか?」

 

 今明かされた衝撃の事実に、炭治郎の口の端が引きつる。

 冗談ではないだろう。そんなことを言う意味はないし、しのぶが変に見栄を張る人間んでないなら真実として捉えていいだろう。

 

「そろそろ私は行きますね。これからも頑張ってください」

「あ、はい! ありがとうございました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、相談があるんだ禰豆子」

「は? 今忙しいんだけど。あ、なほちゃん。こっちの洗濯物干してきて。私外出れないから」

「分かりましたー!」

「……なあ、ずっと思ってたんだけど、なんでそんなに馴染んでるのお前? 言ったら悪いけど、鬼でしょ?」

「女の友情に種族の垣根なんて関係ないのよ」

「女の友情は壊れやすいって話聞いたことあるけど」

「迷信よ多分」

 

 炭治郎の無駄話には付き合ってられないと、禰豆子は朝食の準備に取り掛かっている。

 因みに、彼女が厨房を使用している間は、窓など外の光の差し込むものはすべて遮られるため、明かりは電球などを使わなければいけなくなる。

 包丁などは使うと危ないかもしれないが、鬼は再生できるので関係ないらしい。

 トントントンと、まな板を叩く音が厨房で響く。

 

「それで、話って何?」

「新しい技の名前で悩んでるんだ。一緒に考えてくれ」

「禰豆子さん! お手伝いにきました!」

「ありがとうきよちゃん。早速だけどそこの馬鹿追い出して」

「えっ、あ、ちょ! 待って禰豆子ア”ア”ア”ア”ア”―――ッ‼」

 

 幼女に引っ張られ厨房を追い出されるお労しい兄を流し見て、作業に戻る禰豆子。

 

「まったく……ふぁ~、眠い」

 

 鬼は夜型……というより、夜を主な活動時間とするため、昼夜が逆転してしまう。

 つまり、禰豆子はとても眠い。だが、お世話になる以上は働かないといけないし、最近は時間の感覚も人間のものと同じになっている。

 さほど気にすることでもないだろう。

 そんなことを考えていると、厨房の扉が開き、外からアオイが入室してきた。

 

「あ、すみません、手伝ってもらって」

「気にしないで。私が好きでやってるだけだから」

 

 アオイも禰豆子の隣に並び、朝食の準備を始める。

 黙々と二人は料理をし、会話が一切発生しない。流石に気まずいと思ったのか、禰豆子が話を振った。

 

「えっと……気を付けてね、暗いし」

「ご心配なさらずに。これくらいは問題ありません」

 

 そこで、会話が途切れる。

 重い沈黙が続いた。

 

「その……アオイさんは、私の事、嫌いですか?」

「えっ……?」

 

 意を決して、禰豆子がずっと聞きたかったことを問う。

 虚を突かれたように、呆然としていたアオイだったが、すぐに再起動し、悩みながら答える。

 

「そうですね……私は、鬼が嫌いです。憎いです」

「っ」

 

 当然だ。鬼は人から幸せを奪っている。

 彼女も、奪われた側の一人なのだ。

 

「でも、禰豆子さんのことは……嫌いにはなれません」

「……えっ?」

 

 ポカンとした顔で禰豆子がアオイを見る。

 

「え、どうして……?」

「こうやって家事をして、他の事笑い合って……そんなあなたが、鬼らしくないから、ですかね……?」

「うっ……」

「それに、羨ましいです」

「?」

 

 表情を暗くさせたアオイに、禰豆子が首を傾げる。

 

「私は、鬼と戦うのを恐れる、腰抜けですから……貴女のように、戦えないから……」

「そんなことないよ」

 

 アオイの独白を、禰豆子がバッサリと否定する。

 えっ? といった表情で禰豆子を見るアオイ。

 

「アオイさんは戦ってるよ、今も」

「……」

「本当に戦わない人は、鬼殺隊に手を貸すこともしないよ。だから、アオイさんは今のままでもいいと思う。あなたがここにいるから、救われた命だってあるはずだから」

 

 禰豆子の言葉に、アオイはただ呆然としていた。

 後方支援と言うのは、前線で戦うものから見れば臆病者に映るかもしれない。

 だが、彼らの努力なくして前線は成り立たない。

 

「私は鬼を殺す為に戦うんじゃなくて、人の命を救うために頑張るアオイさんの方が好きだよ?」

「!」

 

 まるで太陽のような笑みが、そこにあった。

 何故か照れ臭くなったアオイは、咄嗟に顔を背けながら、

 

「……は、早く終わらせましょう!」

「うん、そうだね」

 

 焦りながら言うアオイに、朗らかに笑う禰豆子が答えた。

 

 




ガールズラブのタグ必要になるだろうか……?
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