竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった   作:シスコン軍曹

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花の心

 先日、研ぎ終わった刀が返却された。

 刃毀れでも鋼鐵塚がぶちギレて包丁を振り回したのは言うまでもない。

 伊之助も新たな日輪刀を手にしたが、石で刃毀れさせて刀匠に殺されそうになったが、それ以外は特に問題なく進んだ。

 既に全員万全の状態まで回復しており、いつでも任務に出れる……そんな状態の時だった。

 

「朝ダー! 起キロー‼」

 

 朝と言っても午前四時くらいの時間帯で、炭治郎の鎹鴉が叫ぶ。

 

「……無理ぃ……っていうか、まだ暗いじゃん……いつからお前は目覚まし鴉になったんだよ……」

「無限列車ノ被害拡大。四十名以上ガ行方不明。現地ノ煉獄杏寿郎ト合流セヨ。直チニ西ヘ向カエーーっ‼」

 

 どうやら新たな任務のようだ。

 炭治郎は眠気眼をこすり、洗面台へと向かう。ついでに善逸と伊之助を起こしながら。

 修繕してもらった隊服と羽織を纏い、日輪刀を腰に携える。

 いつでも戦いに出れる……その前に、蝶屋敷の人に挨拶をしようと思った。

 これくらいは社会人の常識だろう。そう思い、まずは怪我を直してくれたアオイとしのぶ。次にきよ、すみ、なほへと挨拶に向かった。

 

「これで一通り……ああ、最後にアイツ残ってたなぁ……」

 

 うんざりした様子で、炭治郎は空を仰ぐ。

 思い浮かべるのは、常に人形のような無機質な笑みを浮かべた少女、栗花落カナヲだ。

 正直に言うと、炭治郎はあの少女が苦手だ。人間であるはずなのに、まるで現代のアンドロイドを相手にしているような違和感を感じた。

 なのに、()()()()()()()()()()()()()()()()。失礼だが、変な奴だと思ったのだ。

 だから、なるべく会わないようにしていた。意図的に避けていたのだ。

 

(……ああ、挨拶しなきゃよかったかなぁ……?)

 

 重い足取りで、炭治郎はカナヲのもとへ向かった。

 

 

 

 

「……いた。おーい、カナヲー!」

「……、」

 

 庭の縁に腰掛ける少女は、声を掛けられ振りむく。

 相変わらず機械染みた笑みで、カナヲは炭治郎を見る。

 

「……あー、その、何ていうか……ありがとな。色々と」

 

 目を逸らし、気まずさから口下手になりつつもお礼を言う。

 すると、カナヲは何を思ったのか、コインを取り出して指で弾く。

 コインは高速回転しながらカナヲの手の甲に納まり、裏と書かれた面を出した。それを見たカナヲは、意を決して炭治郎のほうを向き、

 

「師範の指示に従っただけなので。お礼を言われる筋合いはないから。さよなら」

 

 淡々とした返しだ。しかし、初めて声を聞いた気がする。

 不思議と、炭治郎は今までの忌避感が消えるのを感じていた。カナヲのことを、しっかりと見れる気がした。

 

「えっ、今の何?」

「さよなら」

「もしかしてコイン? よくそんなの持ってるな?」

「さよなら」

「……実は超電磁砲(レールガン)撃てる?」

「なにそれ?」

 

 どれだけ別れを告げられても、根気強く粘る炭治郎。

 そんな彼に根負けしたのか、カナヲはコインを見せながら話をした。

 

「指示されてないことは、これを投げて決める。今、貴方と話すか話さないか決めた。話さないが表、話すが裏だった。裏が出たから話した」

「ふぅ~ん」

「さよなら」

「いやいやいや……ここまで来たらそう簡単には帰らないぞ。どうしてコインを使うんだ? 別にコインじゃなくても自分で決めたらいいじゃないか」

「……どうでもいいの。全部どうでもいいから、自分で決められないの」

「どうでもいいかぁ……まあ、気持ちは分かる。どっちでもいい時ってあるよなぁ……夕食とか」

 

 明らかに二人の認識はズレているが、お互いに気にする様子はない。

 

「そうだ。どうしてカナヲは鬼殺隊に入ったんだ? コインを投げて決めたのか?」

 

 炭治郎としては、この機会にカナヲへの抵抗を完璧に失くしておきたい。

 だから、なるべくカナヲのことを知らなければいけないのだ。

 カナヲに聞けることは聞く。知れることは知る。そうして、人は互いに理解し歩み寄れるのだ。

 

「…………」

「あれ?」

 

 だが、何故かカナヲは黙り込んでしまった。

 いや、よくよく考えれば、鬼殺隊に入る理由なんてそこまでバリエーションがあるわけでもない。

 きっと彼女にもやんごとなき事情があるのだ。個人に深入りするのは駄目だろう。

 そこまで思い至り、炭治郎は話題を変えようとするが、

 

「あ、その……不躾だったよな?」

「……い」

「えっ……?」

「――分からない……コインで決めたわけじゃないの。師範から、最終選別を受けることは禁止されていたから」

 

 初めて、カナヲの顔に、笑み以外のモノが浮かんだ。

 

(そうだ。私は、認められていなかった。だから、技も盗み見て覚えて、それで……)

 

 勝手に最終選別へと向かった。

 思い出すのは、そこから帰った時のことだ。

 みんな、泣いていた。師範はいつもの笑みを消して、本気で怒っていた。

 

(でも、分からない。どうして今、そのことを思い出すの? そこに何があるの……?)

「……分からない?」

「うん……考えても、分からない……」

「それでもいいんじゃないかな?」

 

 カナヲは、心底不思議そうな顔で炭治郎を見た。

 炭治郎は、穏やかの笑みを浮かべたまま言う。

 

「分からなくても、カナヲはそれをどうでもいいと断じてない。コインでどうこうしてない。……だから、カナヲは全部どうでもいいなんて思ってないんだよ」

「……………………………………………………………………ぇ」

 

 まるで雷に打たれたかのような衝撃が、カナヲを襲った。

 違った? どうでもいいと思ってないことがあった? 本当に? どこに、どうして……?

 

(………………………あ)

 

 蝶屋敷。

 自分の帰る場所。

 それを思い出し……思わずコインを落とした。……だが、それを拾おうとはしなかった。

 動かないカナヲに代わり、炭治郎がコインを拾い上げる。

 

「本当に大事なものは、ちゃんとカナヲの胸の中にあるさ。だから、コインなんてあってもなくても変わらない。分からなくてもいいんだ。――心が教えてくれるからさ。カナヲにとって大事なものを」

 

 コイン越しに空を見上げる炭治郎。

 彼の脳裏にあるのは、亡き家族の姿。

 今までも、道を見失いそうになった時はあった。でも、その度に呼び戻してくれた家族がいた。

 負けそうなときに、自分の背中を押してくれた家族がいた。心が、その存在を明確に示してくれた。

 炭治郎はコインをカナヲの手に戻し――

 

「頑張れよカナヲ。きっと見つかる。カナヲが大事にしてきたもの、これからも大事にしたいもの、心の底から求めてるもの。……応援してる」

 

 それじゃあ、と。それだけ告げた炭治郎は、いそいそとその場を去る。

 後には、そんな彼の去った場所をジッと見つめるカナヲがいた。

 

 

 




カナヲって多分こんな感じだよね?雰囲気違ってたらすまそ。
次回から無限列車編です。映画見てない人は今すぐ劇場へ!……まだやってるよね?
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