竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった   作:シスコン軍曹

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まさかここまで来てしまうとは……


無限列車

「おい……おいおい、なな……、なんじゃこの生き物はぁぁぁ―――ッッ‼⁉」

 

 次の任務の為に無限列車までやってきた炭治郎達。

 切符を購入し、駅から停車している汽車を見て、伊之助が驚愕の声を上げる。

 

「こいつはあれだぜ……この土地の主、この土地を統べる者――ッッ‼‼ この長さ、威圧感……間違いねェ。今は眠ってるようだが、油断するな‼」

「いや汽車だろ。知らねーのかよ」

 

 一人で盛り上がる伊之助に、善逸が呆れた視線を向ける。

 

「まず一番に俺が攻め込む‼」

「落ち着け伊之助、よく見るんだ」

「そうそう、どう見たってこれは生き物じゃない――」

「この黒光り、見た目……きっと、この方はこの土地の守り神、下手に攻撃すると罰が当たるぞ」

「なんでだよ⁉ いや音で分かるぞ、お前分かってて言ってるよな⁉」

 

 善逸の非難の視線から逃げるように顔を背ける炭治郎。

 たまには自分だって気の抜けたことを言いたいのだ。

 すると、炭治郎たちの話を欠片も聞いていない伊之助が、とうとう感極まって汽車に頭突きをかました。

 

「猪突猛進ッ‼」

「やめろ馬鹿恥ずかしい!」

「俺の頭突きが効かねえ……だと……⁉」

「当たり前だ! 人間の頭突きで壊れる汽車があってたまるか!」

「何をしている貴様ら⁉」

 

 流石に不審者と思われたのだろう。

 車掌らしき男性が二人、炭治郎たちを見て怒鳴り散らす。

 傍らの男性が、三人を見て叫んだ。

 

「こいつら刀持ってるぞ⁉ 警官だ、警官を呼べーーっ!」

「おっと、これは流石にやばいな……にしても対応が素早い……流石だな……」

「感心してる場合か⁉ 早く逃げるぞーー!」

 

 現代と違って対応の素早い車掌に感心する炭治郎に、伊之助を脇に抱える善逸が叫ぶ。

 そして、色々あって時間は過ぎた。

 

「伊之助のおかげでひどい目に遭ったぞ、謝れ!」

「ハァ⁉ だいたい、なんで警官から逃げなきゃならねェんだ⁉」

「政府公認の組織じゃないからな、俺達鬼殺隊。堂々と刀持って歩けないんだよほんとは。鬼がどうこう言っても、なかなか信じてもらえんし、混乱するだろ」

「……俺、前に浅草で鬼と戦ったことがあるんだ」

「は?」

「しかも、そこでは沢山の人がひしめき合ってる街中で――」

「お前やっぱり馬鹿だよね⁉ 人前で堂々と刀振って戦ったってこと⁉ よく指名手配されてないな!」

「多分、鬼の衝撃が強すぎて、対応に困ってるんだろうなぁ……」

「伊之助以上にやばい奴がいたよ……とにかく、刀は隠そう」

 

 幸い、炭治郎と善逸は隊服の上に羽織を着ている。

 羽織に隠れるように刀を持てば、一般の人にも見られることはないだろう。

 

「ふっ」

 

 どこか得意げな雰囲気を隠そうともしない伊之助が、後ろ腰に刀を差している姿を見せる。

 

「丸見えだよ馬鹿」

「伊之助は服着てないからなぁ……」

 

 善逸はやはり毒を吐き、炭治郎は苦笑いを浮かべた。

 途端、発射を知らせるベルの音とともに、プシューッ‼ という汽笛の音が駅中に響き渡る。

 

「やばっ、もう出発だ! 警官いるかな……」

 

 善逸が隠れていた物陰から顔を出し、恐る恐る周囲を窺う。

 今のところ、時間帯が夜であることもあってか、駅に人は少なく、警官らしき人物は見えない。

 

「どっちにしろ出発だ。いたとしても振り切れる。行くぞ二人とも」

「おっしゃー! 勝負だ土地の主‼」

「えっ、おいちょっとぉ⁉」

 

 一気に飛び出て汽車の最後尾の車両に乗り込む炭治郎と伊之助を見て、善逸が慌てて追いかける。

 だが、出だしが悪かったせいか、善逸は乗り遅れ、レールの上を走って列車の後部デッキの細い柵を追いかけている。

 

「ちょ、炭治郎、伊之助ぇー!」

「やばっ、早く手を!」

 

 柵にしがみ付いた善逸が、泣きながら手を伸ばす。炭治郎たちはその手を互いに握り、一息で善逸を引っ張り上げた。

 多難ではあったが、三人は無事、汽車に乗り込むことに成功した。

 まるでそれを確認したかのように、列車は加速する。

 

「ふぅ、危ない。危うく善逸だけ置いていかれるところだったな」

「もう最悪。これも全部あのバカのせいで目を付けられたからだよぉ……もうホント最悪。早く中に入ろうぜ」

「うっひょー! 速ぇぜ!」

「……悪い、善逸。先に入っていてくれ。伊之助が飛び降りそうだ」

「……はぁ、この馬鹿猪は……そういや炭治郎、本当によかったのか?」

「ん?」

 

 善逸が思い出したように、炭治郎に問いかける。

 

「ほら、禰豆子ちゃん連れてきて。蝶屋敷の子とも仲良くなってたし、置いてきたほうがよかったんじゃないか?」

「……確かに、そうかもな」

 

 否定はしない。

 鬼との戦いは今後、さらに苛烈を極めるだろう。今まで以上に危険な任務がやってくるかもしれない。

 いくら鬼が不死身と言っても、苦痛を感じはするのだ。そんな思い、出来る事ならしてほしくない。

 ――けど。

 

「でも、いいんだ。危ないことがあるなら、守っていけばいい。それが出来るくらい強くなればいい。……善逸や伊之助も一緒なんだしな」

「えっ、俺も⁉ べ、別に俺はそこまで強くはないし……そのぉ……」

「それに、置いていったら泣くかもしれないしな」

 

 どうして汽車に連れて行ってくれなかったのうわーん! と。泣き叫ぶ姿が目に浮かぶ炭治郎だった。

 

「さて、そろそろ中に入ろうか。ほら、伊之助も」

「ん? おう、主の中に入るのか! よっしゃあ、行くぜぇ!」

「こいつは本当に……」

「ははは……」

 

 相変わらず元気溢れる伊之助に、二人は苦笑した。

 

 

 

 

 客車の引き戸を開けると、既に座席の半分以上が埋まっていた。

 車内にはいろんな人がいた。仕事で移動中らしき男性、旅行客とおぼしき老夫婦。仲睦まじい男女に、子ども連れの家族など。

 誰もが同じ目的地を目指しているという訳ではないだろう。しかし、彼らの表情は、遠目から見ても弾んでいるのが分かる。

 

「うおっ⁉ うお! うほ‼」

 

 そんな車内が物珍しいのか、伊之助は先ほどよりも浮き立った声を上げている。

 きょろきょろと周囲を観察し、興奮気味に近くの窓へと張り付いた。伊之助に割って入られた乗客が、突然の乱入者に怯える。

 

「うはははは‼ 速ぇーー‼ うははははは――ッッ‼」

「すみません! すみません! おい、いいからこっち来いバカ‼」

「速ぇぜ! ぬハハハ‼」

 

 善逸は驚く周囲の乗客に謝りながら、伊之助を半ば羽交い絞めにして窓から引き剥がす。

 だが、余程列車に乗ったことが嬉しいのか、伊之助はそこまでされても上機嫌のままだった。

 そんな二人を置いておいて、炭治郎はと言えば――

 

「よっと。これでいいか?」

「おお、ありがとうねぇ」

「若いのに偉いのう」

「これくらいなんてことないですよ」

 

 ――老夫婦の荷物を棚の上にのせていた。

 今までの戦いですっかり成長した炭治郎は、老人に優しくする気づかいを完璧にものにしていた。

 そして、興奮冷めきらぬ伊之助を引きずる善逸とともに、車内を移動する。

 目指す場所は、合流予定の炎柱・煉獄杏寿郎のもとだ。

 

「柱だっけ? その煉獄さん。顔とか分かるのか?」

「ああ、多分……派手な人だったから、会えばすぐに分かると思――」

「うまい‼」

 

 炭治郎の言葉は、突如奥から響いてきた声に掻き消された。

 室内で発する声量とは思えないほどの音量の高さに、善逸だけでなく、炭治郎までも委縮してしまう。

 恐る恐る扉を開け、車両の奥へと進む。

 

「うまい! うまい! うまい、うまい‼」

 

 同じ声が、何度も同じ言葉を発している。

 炭治郎たちが進んでいくと、一心不乱に牛鍋弁当を食べる、二十代の男性がいた。

 ところどころ赤く染まった金髪。大きく切れ上がった双眸に太い眉。炎を思わせる羽織の印象的な男だ。

 

「あ、そっちか」

「えっ」

 

 ぽつりと洩らした炭治郎の言葉を聞いて、善逸がマジかといった視線を向ける。

 因みに、炭治郎の考えていた派手な人とは、銀髪で宝石などの装飾品を備えた派手が口癖の男である。

 

「うまい!」

 

 煉獄の隣には未開封の弁当が、その反対側には逆に食い終えて空になった弁当が積まれていた。

 まるでブラック企業の仕事量を思わせるその弁当タワーに、炭治郎たちがどころか周囲の人も引いていた。

 しかし、そんな彼の異様の雰囲気に当てられたのか、それとも単に関わるのを避けたいのか、誰も車内で叫ぶ彼を咎めようとはしなかった。

 

「うまい! うまい! うまい! うまい! うまい!」

 

 一口食べるごとに連呼している。

 それならいっそ全部食べ切ってから言った方がいいのでは? と、炭治郎は思った

 

「なあ、あの人が炎柱? でいいんだよな?」

「……多分」

 

 善逸が疑惑な視線を向けて、声を掛けあぐねる炭治郎に問う。

 

「うまい! うまい!」

「……ただの食いしん坊の人じゃなくて?」

「……隊服着てるし……とりあえず声かけてみる」

 

 炭治郎が煉獄に近づき、声を掛ける。

 

「あの……すみません、煉獄さん」

「うまい!」

 

 しかし、煉獄は炭治郎の声が聞こえていないのか、箸を止めない。

 再び炭治郎が、少し大きめに声を掛けると――

 

「うまい‼」

「……あ、さいですか……」

 

 炭治郎のほうを振り向いてとどめのように叫んだ。炭治郎は考えるのをやめた。

 

 

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