竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった   作:シスコン軍曹

31 / 45
夢幻の世界

 あれから、大量に積まれていた弁当を全て食べ終えた煉獄は、炭治郎の姿を見て思い出したように呟いた。

 

「君は、お館様の時の」

「あ、はい。竈門炭治郎です。こちらは友人で、我妻善逸と嘴平伊之助です」

「そうか! それで、その背負っている箱に入っているのが……」

「はい、妹の禰豆子です。今は眠っているようなので、挨拶はまた次の機会に……」

「うむ、あの時の鬼だな。お館様がお認めになったこと、今は何も言うまい」

 

 正直、不安はあった。

 柱の中では、炭治郎たちはとにかく印象が悪いだろうから、どんな嫌味を言われるかと若干身構えたいたのだ。

 だが、蓋を開けてみれば、煉獄は禰豆子の存在に嫌悪の色を見せず、ただ見守ってくれている。

 その対応が、炭治郎はただ純粋にうれしかった。

 すると、煉獄が自身の隣の席をポンポンと叩き、座るように誘った。

 炭治郎はそれに従い、向かいの席に箱を置いて腰掛ける。

 そんな彼らを他所に、伊之助は煉獄たちとは反対側の席では子供のようにはしゃいでいた。

 

「ぬはっぬはっ、すげぇ! 主の中すげぇ‼ ぬはははっ!」

 

 まるで何かと力比べでもするかのように、窓ガラスをバンバンと叩き続ける伊之助。

 

「割れるだろガラス‼」

「ぬははははは!」

「少しは落ち着けよ……」

「あ、はは……」

「君たちはどうしてここにいる? 任務か?」

 

 伊之助の奇行を見て苦笑していた炭治郎に、煉獄が問いかける。

 炭治郎は、鎹鴉からの報告で無限列車の被害が拡大し、現地の煉獄と合流するよう命じられたことを伝えた。

 

「うむ、そういうことか。承知した!」

「あ、はい」

 

 やけにあっさりと頷く煉獄に、炭治郎はつい、この人ちゃんと考えてるのかな? と、思った。

 隣ではやはり上機嫌に暴れる伊之助を、善逸が押さえつけている。

 

「溝口少年、君は十二鬼月を倒したそうだな?」

「えっ? あ、はい……えっ、溝口?」

 

 突然話を振られ、戸惑いながらも答える。

 何故か名前を間違って覚えられていたので、そこの訂正も忘れずに。

 

「うむ。頼りにしているぞ!」

「あ、それはどうも……」

「俺の継子になるといい! なんなら君の友人も含めてな! まとめて面倒を見てやるぞ!」

「えっ、何その急展開。話の方向が明後日どころか銀河系まですっ飛んでるんですけど」

 

 見れば、善逸は奇怪なものを見る目で煉獄を見ている。伊之助は相も変わらず窓にべったりだ。

 

「炎の呼吸は歴史が古い」

 

 またしても唐突に煉獄が話のレールを切り替えた。

 その判断の速さには鱗滝どころかトロッコ問題もビックリだろう。

 

「炎と水の剣士は、どの時代でも必ず柱に入っていた。炎・水・風・岩・雷が基本の呼吸だ。他の呼吸はそれらから枝分かれしてできたもの。霞は風から派生している」

「聞いてないんですけど」

「竈門少年! 君の刀は何色だ⁉」

「銀です」

 

 途端、勢いのある煉獄の会話が途切れた。

 

「……そうか。銀……初めて聞いたな」

「……えっと、その……俺は、竜の呼吸というのを使っていて」

「竜の呼吸! 初めて聞いたな、一体どの呼吸の派生だ⁉」

「……その、我流です。俺は竜の呼吸を扱う前は水の呼吸を扱っていたのですが、水の派生とはとても言い難いので、恐らく……」

「なるほど! ならば、俺のところで鍛えてあげよう‼ もう安心だ!」

 

 今気づいたが、煉獄の視線が明後日の方向を向いている。

 猪の被り物をしている伊之助と同じくらい、どこを向いているか分からない。

 

「すっげぇすっげぇ! はっえええ‼ わはははは!」

 

 当の本人は叫び声を車内に轟かせている。

 気付けば、列車は山間を駆け、上機嫌が最高潮に達した伊之助は、窓から身を乗り出していた。

 

「俺、外に出て走るから! どっちが早いか競争する‼」

「馬鹿にもほどがあるだろ⁉」

 

 善逸が全力で怒鳴りつけた。

 すると、今までそんな二人に何も言わなかった煉獄が、初めて彼らに向けて言葉を発した。

 

「――危険だぞ」

 

 だが、それは先ほどと比べてトーンが幾分か低く、鋭い刀のような声音だった。

 

「いつ鬼が出てくるか分からないんだ」

「……えっ?」

 

 煉獄の言葉に、善逸がギョッとして振り返る。

 目にも止まらぬ速さで煉獄ににじり寄り、

 

「嘘でしょ⁉ 鬼でるんですかこの汽車⁉」

「出る!」

 

 自信満々に答える煉獄に、善逸は頭を抱えた。

 恐怖のあまり身をくねらせ、絶叫を上げた。

 だが、煉獄はそんな鬼殺隊にあるまじき姿を見ても気にする風ではなく、簡潔に状況を説明する。

 曰く、短期間のうちに、この汽車で四十名以上の人が行方不明となっている。

 数名の剣士を送り込むも、全員が消息を絶ってしまった。

 故に、柱である煉獄が来た、と。

 

「なるほどね‼ 説明ありがとうございます! 炭治郎、俺降りる‼」

「落ち着け善逸。今降りても逆に大怪我するだけだぞ? もう腹を括って戦おう」

「嫌ァァァァァアアアアアアアアアアアーーッ‼ 無理! 心の準備できてない‼ ちくしょう、まだ先だと思ってたのに‼ こんなことある⁉」

 

 善逸は平常運転だった。やけに大人しかったから、心配していたが、大丈夫なようだ。

 すると、後方の車両に続く戸が静かに開いた。やせ細っていて、体調の悪そうな車掌が、俯きながら近づいてくる。

 

「切符……拝見……致します……」

 

 ボソボソと小さく呟きながら、切符の拝見を行う車掌。

 炭治郎は、他のお客さんを無視して真っ先に自分たちの所にきた車掌に違和感を覚えつつも、切符を渡す。

 それに続いて、煉獄と善逸、伊之助も切符を渡した。

 パチリ、と。切符が切れる音が聞こえる。

 一瞬、天井の灯りがジジジジという羽虫のような音をたてて点滅した。

 ……しばらくの間、車掌はその場を動かなかった。

 

「拝見……しました……」

 

 車掌は制帽を深く被り直し、()()()()()()()()()()を流し見て、他の乗客の切符を切りに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 少年は、暖かい布団の中で目を覚ました。

 眠気眼をこすりながら、周囲を見渡す。勉強用の机に、散らかった床。クローゼットに、放り投げられた学生鞄。

 そう、そこはどこからどう見ても、少年の部屋で―――

 

「――ッ⁉」

 

 少年……竈門炭治郎は、驚愕しながら飛び起きた。

 そこは、かつての自分……前世の世界で、住んでいた家。平和で退屈で、だからこそ愛おしいと気づかされた、もう戻りはしない失われた幸せの空間だ。

 周囲には誰もいない。伊之助も善逸も、禰豆子も、煉獄さえも―――。

 

(どういうことだ⁉ 俺はさっきまで無限列車にいて、それで……)

 

 腰にある日輪刀を確認し、柄を握りながら警戒する。

 目の前の異常事態に、パニックを起こしそうになるのを堪え、観察する。

 部屋の形は間違いなく、前世の自分の部屋だ。だが、今の自分の恰好は、鬼殺隊の隊服、市松模様の羽織、銀色の日輪刀。

 それだけが、自分の現状を明確に示す証拠だった。

 

「くそっ、血鬼術か⁉ とにかく、一度外に出て態勢を――」

「あれ? もう起きてんのお兄ちゃん」

 

 この時、炭治郎は全集中の呼吸・常中すら忘れ、完全に止まっていた。

 ギギギ、と。壊れた絡繰り人形のような動きで、首だけを動かし、声の主を見る。

 

「……」

「えっ、何固まってんの? 一人だけ時間停止してる?」

 

 少女……白銀美優(しろがねみゆ)は、己が兄、()()()()に困惑の視線を向ける。

 

「ちょっと、何やってんの美優? さっさと起こし――」

 

 美優の後ろから、エプロンを身につけた黒髪ロングの女性、白銀華(しろがねはな)が姿を現した。

 竜也は、呆然と二人を見つめていた。

 彼は気づいていないが、いつの間にか彼の姿は変わっていた。

 現代的な寝間着。ボサボサの茶色が混ざった黒髪。僅かに鋭い目つき。

 恐る恐る、竜也は二人に近づきそれぞれの頬に手を触れる。その行動に戸惑いを見せる二人に構わず、限界だとばかりに泣きだした。

 竜也は二人を抱き寄せ、倒れながらその温もりを感じ、大粒の涙を流した。

 

「う、ぁああああああ……! ああああああああああああああああああーーッ‼」

「えっ、ちょ、お兄ちゃん⁉」

「は? おま、ちょ、やめ――!」

「ごめん……」

 

 突然のことに驚き、困惑する二人を他所に、竜也は謝り続ける。

 

「ごめん、ごめん……ごめん……‼ うわあああああああ‼‼」

 

 もはや、その言葉にどんな意味があるのかすら、竜也は理解できなかった。

 それでも、叫び続け、泣き続けた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。