竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった   作:シスコン軍曹

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最近筆が進むなぁ……と思ったら止まる。もうわけがわからないよ


竈門炭治郎

 

「ホント意味分かんない! 急に抱き着いて、いきなり泣き出すんだもん!」

「……悪かったって」

「ははは、まあいいじゃない。ほら、ちゃちゃっと準備しろ」

 

 服を着替え、華の作った朝食を食べる。

 

「でも、ホントに大丈夫なの?」

「大丈夫だって。心配性だな美優は」

「――べ、別にお兄ちゃんを心配してる訳じゃないんだからね! ただ、お兄ちゃんが変なことしてると、妹の私の評判まで悪くなるから、仕方なく――」

 

 顔を真っ赤にしてそっぽを向き言い訳を重ねる美優に、竜也が微笑む。

 いつも通りの朝……当たり前の世界だ。

 

(なのに、なんでこんな久し振りに感じるんだろ……疲れてんのか?)

 

 そして学校に行き、授業を受け、帰ってきて今度は夕食にする。

 風呂に入って就寝し、また新しい一日が始まる。

 何気ない、誰もが過ごす当たり前の日常だ。

 でも、竜也にはそれがとても尊いモノのように思えて仕方がない。

 姉の声を聞くたびに、胸が締め付けられそうになる。

 妹の姿を見るたびに、後ろ髪を引かれる気持ちになる。

 二人が当たり前に過ごすこの家にいると、暖かいのに悲しい気持ちになる。

 

「ふぅ……」

 

 自室に戻った竜也が息をつく。

 部屋は綺麗に片づけられており、壁には美優が幼少の頃に描いた絵が飾られている。

 中心には()がいて、その周囲で炎や水、雷に風が吹き荒れている。

 一体、幼い頃の彼女は、何を思ってこんな絵を描いたのか、それは本人も分かっていない。

 

「……歯、磨くか」

 

 何故だろうか。

 いつもはその絵を見ると微笑ましい気持ちになるのに、今は一目見る気にもなれなかった。

 気分を変えるために、竜也は洗面所へと向かう。

 

「…………は?」

 

 竜也が停止する。

 まるで幽霊でも見たかのように、固まってしまっていた。

 

「……誰、だ……お前……?」

 

 竜也の視線の先には、鏡がある。

 鏡は光の反射で、自分自身を映し出すものだ。だから、その鏡面に映るのは竜也でないとオカシイ。

 なのに、鏡には全く関係ない人物が写っていた。

 無造作に伸びた髪を後ろで一つに括り、作務衣(さむえ)の上にはんてんを羽織り、首巻を絞め、(わら)ぐつを履いている。

 額の左側には火傷痕のような痣があり、目や髪は若干赤が入っている黒。

 知らない人だ。竜也には何の関係もない……はずだ。

 なのに、その姿を見ていると頭痛がしてくる。その、何かを訴えるように、叫んでいるかのように口を動かす少年を見ていると、何か忘れているような気持ちになる。

 竜也の本能が訴えている。関わってはいけない、今すぐここを離れろと。

 なのに、彼の足は石造のように固まって動かない。

 その額から、冷や汗が流れ落ちる。

 

『……き………きろ‼』

 

 少しづつ、少年の声が聞こえるようになってきた。

 焦った様子で何事かを叫んでいる。

 

『起きろ、お前がいるのは夢の中だ!』

 

 刹那、竜也の体が鏡に引きずり込まれた。

 

「う、があああ‼」

 

 そこは、暗闇の世界だった。

 だが、あちこちに鑑が設置されており、まさしく鏡の世界と呼べる場所だ。

 

「起きろ! 攻撃されてる‼ 今すぐ覚醒するんだッ!」

「……お、前は……?」

「! ……そこまで……」

 

 竜也が理解の追い付かない現状に困惑しながら問いかけると、少年は心底困った顔をしていた。

 悩みながらも、少年は己の名を語る。

 

「俺は……()()()()()

「……は?」

 

 竈門炭治郎と名乗った少年に困惑する竜也。

 彼はその名を知っている。

 

「鬼滅の刃……いや待て、だから何だ。お前は一体何なんだ⁉ ここは何だ⁉ 家は、みんなは……ッ⁉」

 

 情報量の多さにパニック寸前になりながら、ヒステリックに叫ぶ。

 

「俺の話を聞いてくれ! 今君は、鬼の血鬼術に掛かり、夢の中にいるんだ!」

「⁉」

「思い出せ!」

 

 竈門炭治郎の叫びに答えるように、周囲の鑑に映像が映し出された。

 雪の中で目覚めた自分。鬼となった禰豆子との出会い。冨岡義勇との邂逅。他にも、鱗滝に錆兎と真菰、善逸や手鬼。謎のモヒカン少年にカナヲ。鎹鴉に沼鬼、鬼舞辻無惨、毬鬼や珠世に愈史郎。矢印鬼や響凱に伊之助。累に母蜘蛛、しのぶや村田。柱のみんなやお館様、アオイや蝶屋敷の三娘……たくさんの人との出会いがあった。

 これは間違いなく現実で、今いる世界は夢であり、幻だと決定づけていた。

 

「だから、今すぐここから脱出しろ! 俺の予想では、この術を破る方法は――」

「――嫌だ」

 

 竜也がぼそりと呟いた。

 その言葉を聞いた炭治郎は固まる。

 

「…………は?」

「……嫌だ、絶対に嫌だ! 出るもんか! ここには二人がいる……いるんだよッ‼ 失った、俺の家族がッッッ‼」

 

 力の限り、竜也は叫ぶ。

 瞳から涙が零れ、足も生まれたての小鹿のように震えている。

 怖いんだ。この幸せを取り上げられるのが。

 一度失って、失う悲しみを、辛さを知ってしまったから。

 竜也はとうとう、頭を下げた。額を地面に擦り付けた。

 

「頼む……俺からもう、家族を奪わないでくれ……‼」

 

 悲痛な懇願だった。

 見ているだけで胸が締め付けられるほど苦しくて、聞いているだけで躊躇ってしまう。

 

「……ダメだ」

 

 だが、炭治郎は認めなかった。

 なにより、目の前の少年がそんなことを言うことを、認められなかった。

 

「失ったモノは……戻ってこないんだ」

「――ッ! 失ってない! ちゃんとあそこに――ッ⁉」

 

 竜也が炭治郎の言葉を否定しようとして、止まる。

 炭治郎も泣いていた。瞳から一筋の雫を流しながら、それでも惨めに蹲る竜也を見下ろして、優しく諭す。

 竜也の気持ちが分からないワケじゃない。

 むしろ、分かるから……自分だって、ずっとそこに居たいって思えるから……だからこそ、引き止めるのだ。

 そこに居ることは、どれだけ幸せでも間違いで、どれだけ辛くても、現実に戻らないといけない理由があるから。

 

「壊れた幸せは直らない。だから、新しく創り直すしかないんだ。一から……これまでの思い出と一緒に……」

「……思い、出……?」

「……ああ」

 

 途端、周囲の鏡に、またしても映像が流れた。

 

『主人公とか、そんなの関係ない。貴方は貴方だから』

 

『……もし私が、人を喰ったら、どうするの?』

 

『お兄ちゃん‼』

 

 ああ……と。竜也の口から洩れた。

 そうだ。現実には、禰豆子がいるんだ。何度も自分を助けてくれた、今度こそ守ると誓った少女が。

 いつの間にか、涙は止まっていた。竜也はゆっくりと立ち上がる。

 

「……お前は」

「?」

「……炭治郎、お前はそれでいいのか? 俺が出たら、お前はまた……」

 

 竜也の問いかけに、炭治郎が押し黙る。

 何となく察していた。炭治郎はずっと自分の中にいて、少なからず彼の精神に影響を与えていたのだ。

 精神の世界には、無意識領域と言うものがある。人が知覚できない、認識できない深層心理を表した空間だ。

 恐らく炭治郎は、竜也の憑依によってずっとそこに押し込まれていた。ならば、今はチャンスのはずだ。竜也から主導権を奪い返すことも出来るだろう。

 

「いいんだ」

 

 なのに、炭治郎は蹴った。

 一切の躊躇いもない、確固たる意志を持って拒否する。

 

「……どうして……?」

「確かに、君が戻ったら、俺は無理やり無意識領域に押し込まれるのだろう。けど、この体は既に君のモノになっている。もとより、()()()()()()だったんだと思う。他を受け入れ、染まる。だから、俺は今のままでいるのが正解なんだ」

「……何だよ、それ……。――おかしいだろ! 俺みたいな情けない奴に乗っ取れて、好き勝手されるのが正しいなんて、そんなの――」

「君だから、俺は受け入れたんだ」

 

 炭治郎は、一切の悲しみの色を見せなかった。

 むしろ、誇らしさすら感じる微笑みだった。

 

「家族を大切に出来て、その尊さを良く知っている。そんな君だから、俺は受け入れられたんだ」

「…………」

「余り自分を卑下するな。君は今までよくやってきた。これからも、君は絶対に折れない。もう何度も折れてきた君は、そう簡単には折れないさ」

「……俺は……」

「必ず、禰豆子を……()()()を人間に戻すんだ」

「? それ、どういう――」

 

 竜也が問いかけようとした……その時。

 空間が途轍もない揺れに襲われ、周囲の鏡が次々に割れていく。

 

「――ッ⁉ 早い、もう干渉されたのか……⁉」

「ちょ、何が……ッ⁉」

「時間がない! 一度しか言わないからよく聞いてくれ! この夢の世界から脱出する方法は一つだ! それは―――‼」

 

 炭治郎の口から聞かされる方法に、竜也は黙って頷いた。

 それを見た炭治郎は安堵し――

 

「よかった……頑張れ、君は今までよくやってきた。これまでも、これからも!」

 

 屈託のない笑みを浮かべ、言葉で餞別を送るのだった。

 

 




正直夢はカットしようかと悩みましたが、鋼の精神で続けます。
一般人こと竜也の本音にもう少しご付き合いください

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