竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった   作:シスコン軍曹

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一回、内容全部消えて発狂しそうになった……悪夢だ。
まあそのあと自動保存で再生したから万事解決だけど


下弦の壱

 列車の外に出た炭治郎は、途轍もない突風で飛ばされそうになり、咄嗟に身を屈め、屋根にしがみ付いた。

 強風に耐えながら、悍ましい気配を感じ取る。

 近くに鬼はいない。だが、列車の先頭の方から気配を感じる。

 

「……この気配……十二鬼月か?」

 

 以前戦った下弦の伍・累を思い出す。

 あの時よりも濃密で、体の芯から震えそうになる。

 今までと違い、格段に恐怖を感じる。

 

(……そうか、アイツが無意識領域で俺の精神に影響を与えていたから……これまでも、恐ろしい鬼とも戦えた。……ここからは、俺だけで行けってことなんだな)

 

 もしそうだというなら、白銀竜也にとって、これが初の鬼退治となるだろう。

 思わず唾を呑む。手汗が止まらない。今なら善逸の気持ちも分かる。鬼と戦うことの恐ろしさが、本当の意味で自分を襲っている。

 死神の鎌が、今にも己が首を裂かんと、こちらを虎視眈々と狙っているかのようだ。

 それでも、炭治郎は前に出た。

 体を起こしたことで、強風が全身を嬲る。少しでも気を抜けば、列車から振り落とされるだろう。

 炭治郎は僅かに姿勢を低くし、風の影響を最小限にする動きで、前方車両へと駆けた。

 鬼の気配が、さらに強くなる。

 

「!」

 

 見つけた。

 鬼も炭治郎に気づいたのか、ゆっくりと振り返る。

 炭治郎でも気を抜いたら飛ばされそうになるほどの風を一身に受け、余裕そうにする洋装姿の男。

 その水色の左目には、”下壱”という漢数字が禍々しく刻まれていた。

 確信する。やはり十二鬼月だった。それも、下弦の鬼の中で最強格の。

 

「あれぇ起きたの? おはよう」

 

 気の抜けるようなのんびりとした口調で、下弦の壱は場違いな挨拶をする。

 下弦の壱は、炭治郎にひらひらと手を振って、

 

「まだ寝ててよかったのに」

 

 炭治郎に掌を向ける。

 左手の甲には口がついていた。

 

(戦え、戦え! 戦え‼)

 

 震える精神を叱咤し、刀の柄に手をかける。

 全身の震えは止まっていた。いつでも戦闘に移れる。

 そんな炭治郎の気配を感じ取ったのか、下弦の壱は――

 

「なんでかなぁ?」

 

 ――とても、不思議そうに言った。

 

「せっかく良い夢を見せてやっていたでしょう?  お前の家族みんな、惨殺する夢を見せることもできたんだよ? そっちの方がよかった? 良い訳ないよね。その辛さは、君はよく知ってるだろ?」

 

 粘っこい笑みで、下弦の壱が告げる。

 そんな鬼を前に、炭治郎は言葉を失っていた。

 何なんだこいつは。本当に、元は人間だったのか。どうしてそんな残忍なことを平気で口にする。

 口調、声色で十分判断できる。こいつの言ってることは真実だ。だからこそ、腸が煮えくり返りそうだ。

 

「じゃあ、今度は姉の結婚式でも見せてやろうか? よかったね、君にお兄さんが出来るよ」

「――ッ‼」

 

 限界だった。

 炭治郎は堪忍袋の緒が切れ、怒りのままに日輪刀を引き抜く。

 

(……まずいな。まだ、まだだ……もう少しだけ、()()()()()()()()

 

 不気味な笑みを浮かべつつ、内心は僅かに焦る下弦の壱は、話を切り替えた。

 なるべくこの少年の注意を引く話をしなければ。

 

「俺は下弦の壱、厭夢(えんむ)

「……竈門炭治郎」

 

 真面目なのだろうか。

 厭夢が名乗ると、炭治郎も社交辞令で名乗り返す。

 だが、にじり寄る足を止めない。

 

「少し、話をしようか」

 

 炭治郎の歩みが止まった。

 

「俺はね、本当は人に幸せな夢を見せた後に悪夢を見せてやるのが大好きなんだ。人間の絶望に歪む表情がたまらない」

 

 瞬間、炭治郎は本当に、呼吸すら忘れ絶句していた。

 あわや風で吹き飛ばされそうになるほど、厭夢への理解が及ばず、放心していた。

 

「だからね、君が見逃したあの子たちにも、ちゃんと悪夢を見せてやるつもりだったよ? いいよね、幸せな夢が見れると思って、幸福に満たされていた子供たちが、失神するほどの惨劇に遭い、それでも夢の中だから意識を失うことが出来ないなんて……どれだけの絶望があの子たちを襲うんだろう……考えるだけでも、夢見心地だよ」

 

 大仰に手を広げ、演説でもするかのように、狂ったことを告げる下弦の壱。

 そして、彼は感じた。その身に、途轍もないほどの殺意と憎悪がぶつけられていることに。

 どす黒い感情を放っているのは、間違いなく目の前の少年だ。

 

「……でも、最初はちゃんと幸せな夢を見せるよ。少なくとも、まだ幸せな夢を見るだけの時間は与えたのに、なんでお前はここにいるんだい?」

「決まっているだろう」

 

 炭治郎の銀色の日輪刀が、夜の闇の中で鈍い輝きを放つ。

 

「人の幸せを踏み躙る、悪魔(あくま)を斬るためだ‼」

 

 厭夢を烈火の如く睨み、停止していた全集中の呼吸を再開する。

 

「竜の呼吸――」

(禰豆子……ありがとう)

 

 心の中で、妹に感謝の言葉を述べる。

 

(お前の名付けてくれたこの技で、アイツを討つ‼)

 

 思い出すは、数分前。

 自身に耳打ちしてきた言葉が脳裏によぎる。

 

『いい、一度しか言わないからよく聞いて。新しい技の名前は――』

 

 

「【水ノ舞 水分神(みくまりのかみ)】‼‼‼」

 

 

 その瞬間、厭夢は幻覚を見た。

 一瞬だが、炭治郎の姿が蒼い竜となった幻だ。

 しかし、すぐに厭夢はそのことを忘れ、炭治郎のある一点に釘付けになった。

 

(あれぇ? 耳に花札みたいな耳飾り……へぇ、運がいい。早速俺のとこに来たんだ)

 

 鬼舞辻無惨は言った。

 耳に花札のような耳飾りを付けた鬼狩りを殺せば、さらに血を分けてやると。

 いざその時に立ち会う前に、実際に血を分けてもらった時の歓喜と興奮が厭夢を襲う。

 既に分けてもらっていたのに、そこからさらなるご褒美を受けるとなれば……その上、()()()()()()()があれば、上弦との入れ替わりも夢じゃない。

 厭夢は恍惚とした表情で、自身に向かって駆けてくる少年へと左手を向けた。

 

「血鬼術、強制昏倒催眠の囁き。お眠りィィィ」

 

 これで終いだ。

 現に、目の前の鬼狩りは意識を失い、今にも倒れそうになっている。

 こいつを殺し、眠っている柱や鬼狩りを殺した後に、列車内にいる人間を全て喰らえば……。

 そう、厭夢が次の予定を考えていた時だった。

 

「……くっ‼」

「なっ――」

 

 あと少しで倒れるという瞬間に、炭治郎は踏み止まった。

 再び射抜くような視線で厭夢を睨み、その頸を斬らんと刃を振るう。

 思いのほか鋭い太刀筋に目を見開くが、宙に飛んで身を捻り回避する。

 列車の屋根に右手をついて優雅に着地し、再び炭治郎に左手を向けた。

 

「眠れ」

 

 厭夢が新たに術をかける。

 炭治郎は大きく仰け反り、白目を剥いている。

 今度こそ、間違いなく術に掛かった。そう確信し、ほくそ笑む厭夢。

 ――だが。

 

「まだ、だぁ……ッ‼」

(……あり得ない。いくらこいつが、()()()だとしても……それ以外に何か特別な何かがあるわけじゃない……何故効かない?)

「眠れ。眠れぇ。ねぇむぅれええぇぇぇ‼‼」

 

 何度術をかけても、どれだけ倒れそうになっても、炭治郎は起き上がる。

 不可解極まりない現象だ。

 見極めるため、厭夢は炭治郎をじっくりと観察する。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……!」

 

 炭治郎は肩で息をしていた。

 顔色は青を越えて真っ白。冷や汗を滝のように流し、体を震わせている。

 寒さ……ではない。間違いなく、恐怖の色だ。

 

(こいつ……やはり術に掛かっている。かかった瞬間にそのことを認識し、覚醒の為の自決を繰り返しているんだ)

 

 何度も、何度も、何度でも。

 夢の中の自分を殺し、立ち向ってくる。

 だが、夢とはいえ自分自身を殺すと言うのは、相当な胆力が必要だろう。現に、炭治郎は厭夢が眠らせるだけで、覚醒の為に首を斬り、勝手に精神的に追い詰められている。

 しかし、異常なのはその後だ。

 自分の死を実感し、まともな人間なら座り込んで、肩を抱いた震えるのが関の山だろう。

 なのにこいつは、座るどころか走ってくる。

 何が、この少年を動かすんだ。何故、その瞳は未だに、自分を睨んでいる?

 

「チィ!」

 

 ならば、と。厭夢は炭治郎に見せる夢を変えた。

 こいつは絶望に弱い。

 厭夢の血鬼術は、術に駆けた相手の記憶を見ることが出来る。そこで情報を集め、被術者の望む幸福の夢を見させることが出来るのだ。

 だから、厭夢は知っている。炭治郎……白銀竜也のことを。彼の生前、転生前の人生を。

 転生が真実がどうかは関係ない。どうでもいい話だ。重要なのは、この少年を止める方法だ。

 厭夢が炭治郎に見せたのは、家族が惨殺された日の出来事。そして、その状況で、守れなかったと後悔する男が、守ってもらえなかった者たちに責められたら、どうなるのか。

 答えは簡単……精神崩壊だ。手加減はしない。今できる全力で、少年の心を折る。

 これで少年は終わる……はずだった。

 

「……ふざけるな」

 

 そこ冷えする声で、炭治郎が言う。

 その瞳には、一つの感情しか残っていなかった。

 

「言うはずがないだろ、そんなことを! 姉さんが、美優が‼ ふざけるのも大概にしろッッ‼‼」

 

 折れない。

 むしろ、炭治郎の怒りを増長させるだけだった。

 その事実に気づいた時には、もう遅い。

 既に炭治郎は厭夢の懐に潜り込んでいる。その頸元に、刃を添えている。

 

「三流演出家が……図に乗るな―――ッッッ‼‼‼」

 

 炭治郎の怒りを乗せた刃が、厭夢の頸を跳ね飛ばした。

 

 

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