竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった 作:シスコン軍曹
炭治郎たちが乗客を守る為に戦っている最中。
この男も、目覚めていた。
「うーん、うたた寝している間にこのようなことになろうとは、よもやよもやだ‼」
大声で独り
「柱として不甲斐なし。穴があったら――」
刀を右肩に置き、左手を前に突き出す。
途端、その全身に紅蓮の如き炎の闘気が満ちた。
そんな彼を恐れてか、触手は乗客より先に煉獄を始末せんと、一斉に襲い掛かる。
「入りたい‼」
叫びとともに、煉獄の技が触手を薙ぎ払う。
自身に迫る触手だけでなく、窓、天井、床に浮き出た鬼の肉と、続けざまに斬撃を放ち、列車を大きく揺らした。
「む?」
目の前に触手と戦う剣士を見つけた。
額に火傷のような痣のある、銀色の日輪刀を持つ少年。
「竈門少年!」
「⁉ れ、煉獄さん⁉ 目覚めたんですね!」
振り向いた瞬間、目の前に煉獄の顔が現れたことに驚く炭治郎。
「ここに来るまでにかなり細かく斬撃を入れてきたので、鬼側も再生に時間が掛かると思うが、余裕はない‼ 状況は把握できているか⁉」
「あ、えっと……相手は十二鬼月、下弦の壱です! 人を眠らせる血鬼術を使え、この汽車と融合しています!」
「なるほど! 列車との融合は推測通りだが、人を昏倒させる血鬼術か! これほど容易く掛かってしまうとは、不甲斐ないばかりだ!」
すると、煉獄は片手を広げ、炭治郎の鼻先につきつける。
「いいか、この汽車は八両編成だ。俺は後方五両を守る。残りの三両は黄色い少年と竈門妹が守る。君と猪頭少年は、その三両の状態に注意しつつ鬼の頸を探せ」
頸……そういえば、汽車の前方で嫌な気配を感じたが……。
顎に手を添える炭治郎を見た煉獄が、
「心当たりがあるのか?」
と、問いかけた。
「あ、はい」
「うむ、では任せるぞ!」
「――はい‼」
煉獄の指示は的確だ。
全員の実力を正しく判断した上での無駄のない作戦。
一人で五両もの車両を守る途轍もない実力。
これが、鬼殺隊の『柱』。
(遠い……だけど、今は感心してる場合じゃない!)
煉獄は既に後方へと向かっている。
自分がここで立ち止まっているわけにはいかない。
炭治郎は前夫へと続く戸の前に行き、鬼の肉で固められた戸を蹴破る。
通路を抜け、再び列車の屋根へと上る。
「伊之助、居たのか!」
「うるせぇ、ぶち殺すぞ!」
呼びかけると、何故か不機嫌そうな声が返ってきた。
「ギョロギョロ目ん玉に指示された! ギイイイ~‼」
伊之助は常に唯我独尊という言葉を地で行くような男だ。
他人に指示されるのは我慢ならないようで……しかしどこか湧き上がる興奮を抑えているようだった。
「なんか……なんか凄かった。腹立つぅ……! 俺だっていつかあれくらいやってやるわ! 親分だからな‼」
「そうか! よし、行こう。恐らく鬼の頸があるのは……」
「おう! 全力の漆ノ型で見つけた。この主の急所だ‼」
伊之助は迷うことなく最前方……石炭の積まれている場所へと駆ける。
炭治郎もそれについていき――。
「ここか」
二人は炭水車の石炭の上で立ち止まった。
目下からは、特別気色の悪い気配を感じる。
「オリャァアア‼」
石炭の上から宙へと舞った伊之助が、二本の刃で運転席の屋根を切りつけ、吹き飛ばす。
伊之助が「オッシャアア‼」と雄たけびを上げながら室内へ降り立つと、そこに居合わせた運転手が驚いた顔を向ける。
炭治郎もそれに続き侵入すると、蒸し暑さを感じた。石炭を燃やし続けているからだろうか。
だが、それとは別の気持ち悪さが、部屋全体から漂っている。
「怪しいぜ怪しいぜ、この辺りは特に‼」
運転手の背後の機械の手前辺りを刀でさすと、傍にいる運転手が「なんだお前は! で、出ていけ!」と喚く。
無論、伊之助の眼中には運転手はいないし、炭治郎も、運転手の顔色の悪さから、あの子供たちと同じ事情なのだろうと悲痛な表情をする。
炭治郎はまず、その運転手に被害が行かないよう、気絶させ脇に抱える。
背後では、既に伊之助が大きく刀を振りかぶっており――
「キモッ⁉ あっちいけ、シッ、シッ!」
振り下ろそうとした瞬間、室内に鬼の肉がボコッと浮き出た。
一気に膨れ上がったそれは、伊之助目掛けて一斉に襲い掛かる。
肉の塊から生えてくる腕には、さしもの伊之助もギョッとし、しゃにむに刀を振り回す。
刀に当たった触手が床に落ちるが、腕は次々生えてきて留まることを知らない。
遂には伊之助の両手両足を掴み、身動きを封じた。
「手ェ多過ぎだろ⁉」
とどめとばかりに伸びてきた二本の触手が、伊之助の頭部を掴み、握りつぶそうとする。
(しまっ――)
「させるか! 【水の舞 水分神】――ッ‼」
運転手を気絶させ、安全の場所まで運び戻ってきた炭治郎が、伊之助を縛っていた腕を全て斬り落とした。
鬼の腕がボロボロと崩れ落ちる。
「伊之助、大丈夫か⁉」
「お前に助けられたわけじゃねえぞ‼」
刀を下ろした炭治郎に案じられるが、伊之助は悔しさからつい憎まれ口を叩いてしまう。
しかし、炭治郎はむしろいつもの調子の伊之助に安堵した様子だった。
そして、キッ、と伊之助が怪しいと睨んでいた場所を視線で射抜き――
「伊之助頼む!」
「おう! 親分に任せな! 獣の呼吸【弐ノ牙 切り裂き】‼」
伊之助の放った斬撃が、運転室の床に炸裂した。
文字通り大きく切り裂かれた床から、真っ白な蒸気のようなものが噴き出てくる。
「……骨?」
思わず、背筋が震えた。
床下には、隠れるように巨大な骨が埋まっていて、ドクンと脈打っている。
「くっ――!」
咄嗟に炭治郎が刃を振るう……が、一瞬遅かった。
炭治郎が攻撃していた時には、既に骨は床から生えた腕に守られていた。
思わず奥歯を噛みしめていると、鬼の腕が炸裂したかのように四方に伸びた。
二人は次々と襲い掛かる腕を掻い潜り、一度、屋根の上に戻る。
「まずい……こっちの攻撃より早く、腕が骨を覆う……!」
「はっ! だったら腕が出るより先に骨を斬りゃいい!」
「そんな簡単に……いや、それだ! 伊之助、同時に攻撃して、どちらかが頸を斬れるように呼吸を合わせるんだ!」
「なるほどな、いい考えだ。褒めてやる‼」
伊之助が愉しそうに応じる。
「ああ! 行くぞ……!」
炭治郎の掛け声とともに、互いに鬼の頸へと駆けだす。
その間に、炭治郎は伊之助に厭夢の情報を伝える。
「いいか伊之助。相手は俺達を眠らせる血鬼術を使う、奴の声が聞こえて、何かしらの要因で夢の世界に送られたら、即座に自決するんだ。覚醒できる!」
「テメェに言われるまでもねえよ‼」
――強制昏倒睡眠・眼。
刹那、厭夢の声が聞こえたような気がした。
それに合わせるように、無数の目が備わった触手が、炭治郎へと迫る。
先程聞こえた言葉の内容……今まで見た事のない触手。
炭治郎はほぼ直感で叫んだ。
「目を見るな‼」
叫びながら、炭治郎は目を閉じた。
既に空間の把握は終わっている。目を閉じて戦っても問題はない。
「うるせぇ‼ 命令すんな、お前に言われなくても分かってんだよ‼」
伊之助は術に掛かる様子を見せない。
そういえば、と炭治郎は思い出す。伊之助は常に猪の被り物をしているから、この術に掛からないんじゃないのか?
実際、その読みは当たっていた。何度か二人の前に目の付いた触手が現れるが、二人の勢いを止めることができない。
気配で伊之助の大立ち回りを認識しながら、勝利を確信する。
(行ける……!)
「止めだ!」
「おっしゃあ‼ 終わりだ鬼ィ‼」
炭治郎は迫りくる触手を切り裂き、続く攻撃を宙へ飛んで回避し、石炭の上へと着地する。
伊之助もまた、襲い掛かる触手を次々と避けながら、炭治郎の隣に着地する。
あとは肉を裂き、骨を断つだけ。
すると途端に、頸を守っていた肉が大きく膨れ上がった。
炭治郎は気配でそれを察知し、咄嗟に飛び上がる。
伊之助もそれにつられ飛び、その直後に二人のいた足場を、触手が石炭ごと薙ぎ払った。
だが、上空へと逃げた二人を、数多の触手が追いかける。
「く、そぉ……!」
たまらず、炭治郎は目を開けた。
気配を探るだけで対応するには、数が多すぎる。気配が混同してしまうため、第六感ではなく五感に頼るしかない。
自由の利かない空中で、それでも伊之助と連携して応戦する。
そんな二人を囲むように、巨大な二つの肉塊が出現した。
(まずっ……! 今眠らされたら、例え覚醒しても潰される……‼)
「くそがぁっ‼」
青ざめる炭治郎だったが、間一髪で伊之助に救われた。
猛然と周囲の目玉を切り刻み、伊之助は二本の刀で突き刺す形で両足を付けると、そのまま肉の表面を削ぎ落しながら駆け下りた。
「行くぞ、ついてこい‼」
「ああ‼」
炭治郎は重力に身を任せながら刀を頭上に構える。
伊之助の体は肉塊を離れ、運転室へと頭から飛び込んだ。
真下にあるのは鬼の頸。
「獣の呼吸【肆ノ牙 切細裂き】‼」
刀を構える伊之助に、腕が危機を察知して迎撃するが、襲い。
二本の刀が放つ斬撃の嵐を前に、一つ残らず砕け散った。
まさしく力業で、伊之助は鬼の頸を露出させた。
「行けェ‼」
伊之助が吼える。
この機会を逃すわけにはいかない……だが、一つだけ問題点があった。
それは、今の炭治郎にはあの骨を打ち砕くほどの技が一つしかないということだ。
実際に見て分かった。骨は水分神で斬れるほど柔ではない。本気で斬るつもりなら、乱舞を使わなければならないだろう。
だが、乱舞は未だに未完成。ここで成功させられるかは賭けであり、失敗すれば後が無くなる。
(……いや、いいや! 迷ってる暇はない、信じろ‼ そして掴み取れ、一秒先の
「竜の呼吸【銀の舞 乱舞】――ッッ‼」
銀の刃が、更なる輝きを放つ。
……胸に苦しさは感じない。むしろ、かつてないほど力が沸き上がるのを感じる。
成功―――そう思うのと同時に、炭治郎は骨を断った。
―――ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――――ッッッ‼‼‼
この世の終わりを告げるような絶叫が、同時に響き渡る。
瞬間、列車がビックリしたかのように飛び上がった。
書いてて思った。結局水の舞で止めさせなかったじゃん