竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった   作:シスコン軍曹

37 / 45
今回までタイトルが不穏でしかない……!


地獄の連鎖

 途轍もない絶叫とともに、のたうち回るように跳ね上がった汽車が横転しようとする。

 骨は列車の連結部分と重なっていたようで、運転席が独りでに独走していく。

 

「まずい……!」

「おい権太郎‼」

 

 足場が不安定になり、ふらついていた炭治郎に、伊之助が手を伸ばした。

 炭治郎は咄嗟にその手を掴もうとし――。

 

「あ……」

「――ッ⁉ 炭治郎ーーッ‼」

 

 珍しくしっかり名前を呼んだ伊之助に内心感心しながら、炭治郎は浮遊感を全身で感じていた。

 列車から勢いよく投げ出され、刀を落とし、羽織が脱げた。

 これ以上は危ないと、咄嗟に受け身を取る。

 

「あぐっ⁉」

 

 背中から落下し、肺の中の空気がすべて吐き出される。

 脳が揺れる。目眩が止まらない。

 朦朧とする意識の中、列車は金属の擦れる音を反響する音が耳を刺す。

 

(……うっ……生き、てる……?)

 

 目眩が取れ、視界がハッキリとしていく。

 炭治郎は重い足取りで進む。列車が脱線していないか確認しなければならない。

 途中、落とした日輪刀を見つけた。

 腰を下ろして拾い上げようとすると、背中から激痛が走る。

 うっ、という苦悶の声を漏らしながらも、刀を拾い上げ、周囲を見渡す。何もない場所だ。線路以外は森があるだけ。

 近くに列車が見えないということは、脱線は免れたのだろうか。

 

「……あ、羽織どっか行ったな……まあいいか」

 

 黒と緑の羽織。

 あれは、自分が竈門炭治郎となってから、最終選別の時以外ずっと身につけていたものだが、実はそこまで愛着があるわけではない。

 だから別に、今紛失しようとそこまで必死になって探そうという気にはならなかった。

 

「……一瞬、衝撃みたいなのがあった。煉獄さんか……?」

 

 あの人のことだ。きっと、こちらの失態の尻拭いをしてくれたに違いない。

 戻ったらお礼を言おう。そう思い、炭治郎は刀を杖のようにして一歩ずつ歩いていき――

 

「――ッ⁉」

 

 唐突に、何かが接近してくる気配を感じた。

 慌ててその方向を振り向くのと、謎の飛来物が土煙と衝撃波を発生させるのは、全く同時だった。

 

「ぐっ……何が……っ!」

 

 鬼の気配。

 それも、今まで感じたことがないほど強く、濃厚で、邪悪な気配だ。

 体が震える。冷や汗が止まらない。今にも膝から崩れ落ちそうだ。

 だが、相手が鬼なら戦わなければ。

 炭治郎は杖代わりにしていた日輪刀を構え直す。

 

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――おかしい。こんなはずじゃなかった。

 何度考えても、これだけはあり得ない。あり得てはならない。

 中型の獣程度の肉塊となった厭夢は、己の肉体が崩れ落ちるのを感じながら、疑問の渦の中に居た。

 

(体が崩壊する……再生できない。……負ける? 俺が? ――馬鹿な、俺はまだ全力を出せていない‼)

 

 その気になれば、いつでも列車内の人間を皆殺しに出来たんだ。

 なのに、たった四人の鬼狩りに邪魔をされた。

 

(こんな姿になってまで……! これだけ手間と時間をかけたのに……! アイツだ、アイツのせいだ!)

 

 厭夢の脳裏に、炎のような髪型をした男の姿がよぎる。

 

(二百人も人質を取っていたようなものなのに、それでも押された。抑えられた。これが柱の力……? アイツ、アイツも速かった。術を解け切れてなかった癖に……‼)

 

 新たに、目を閉じたまま車内を稲妻のように駆け巡る黄色い少年が浮かぶ。

 そして、その傍らに居た鬼の娘の姿も。

 

(しかもあの娘、鬼じゃないか! 鬼狩りに与する鬼なんて、どうして無惨様に殺されないんだ⁉)

 

 くそぉ、と呻く。

 同時に、全ての発端となった耳飾りの少年の姿が思い出され、憎しみが込み上げてくる。

 

(そもそもだ。アイツに術を破られてから全てが狂った! すべてアイツのせい……どこにいる……⁉)

 

 必死になって周囲を見渡すが、(くだん)の少年は影の形もない。

 

(いや、あのガキだけなら殺せたんだ! あの時の猪が邪魔さえしなければ……!)

 

 そうだ、アイツの邪魔がなければ。

 そんなことを考えていたせいだろうか。

 

「ん? 何だこいつ?」

 

 青い髪の筋肉質な少年に見つかった。

 腰には刃毀れの酷い日輪刀を携え、猪の被り物を脇に抱えている。所々土で汚れているが、間違いない。

 

「お、前は……!」

「あ? その声……あっ、さっきの主か‼」

 

 途端、少年の顔に獰猛な笑みが浮かぶ。

 

「ハハハッ、なんだその恰好! ダッセェ!」

(………………は?)

 

 何だこいつは、何故嗤っている。

 ――いや、違う……こいつは、自分を嗤っている。

 醜い小動物のような姿になりながら、崩壊していく自分の姿を見て、侮辱しているんだ。

 怒りで頭に血が上りそうだった。だが、上らせる血もない。

 

「ふざ……おま、えの……ぜい、だぁ……‼」

「はっ、知ってるぜ。そう言うのは、負け惜しみっつぅんだろ? ガハハッ‼」

 

 違う。オカシイ。

 何故お前が、鬼狩り(おまえ)が嗤うんだ? そこに立っているのは自分であるはずだろう?

 悔しさで涙すら出てくる。よりもよって、この男に嗤われて死ぬことになるなんて。

 信じられない、まるで悪夢だ。

 

「あばよ主!」

 

 少年は厭夢を振り返ることなく去っていく。

 そんな後姿を呆然と眺めながら、止めすら刺してもらえない厭夢は塵となって消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――晴れていく土煙の中から、そいつは姿を現した。

 人形のような無表情を顔に浮かべ、心底つまらなそうにしている若い男だ。

 紅梅色の短髪に中性的な顔立ち、細身ながらも筋肉質な体格の若者といった外見で、顔を含めた全身に藍色の線状の文様が入っており、足と手の指先は同じ色で染まっている。

 両目に数字が刻まれており、服装は、上は素肌に直接袖のない羽織、下は砂色のズボンと両足首に数珠のようなものを着けているだけの軽装。

 

(……竜の呼吸――‼)

 

 ”上弦の参”。

 男の瞳に刻まれた数字から、その情報が読み取れた。それと同時に、炭治郎は全力を出す。

 余力など残せるはずがない。むしろ、全力でも敵うかどうかわからない。

 それでも、やれることはやらなければ。

 

「……あ?」

 

 だが、炭治郎は何故か空を見上げていた。

 仰向けに寝ているのだろうか。ならば、何故()()()()()()()()()()()()()のか。

 口の端から赤い液体が伝う。手足に力が入らない。

 

(あ……)

 

 そこでようやく思い出した。

 そうだ、一歩を踏み出した瞬間、あの鬼に殴り飛ばされ、気を失ったのだ。

 恐らく、気絶していたのはほんの数秒だろう。何故なら、()()()()()()()で、自分は目を覚ましたのだから。

 

「あの方からの命令でな。貴様は優先的に殺せと言われている。理由は知らんが、俺もお前のような弱者には虫唾が走る。特に、お前を見ていると、な」

 

 空中を舞っていた炭治郎よりも高い場所で、鬼が拳を構えていた。

 

(動け、動け、動け‼)

「……竜の、呼吸……」

「竜だと? 貴様のような弱者にはまるであっていないな!」

 

 駄目だ、向こうのほうが早い。

 それに、刀を握る手に力が入らない。

 炭治郎は自身に迫る拳をただ眺めることしかできず――

 

「やめろクソ野郎ォォォォォ‼」

「炭治郎!」

 

 咄嗟に、炭治郎は善逸に拾われ、伊之助が鬼に刃を振るっていた。

 その刀は何故か赤く染まっており、しかし刃は鬼に掠り一つ付けない。

 

「ふざけた刀だ。その刃毀れ、弱者の証だ」

「ン、だとォ――ッ⁉」

「失せろ」

 

 鬼が伊之助に蹴りを放った。

 蹴飛ばされた伊之助は、凄まじい勢いで地上へ向かう炭治郎と善逸に衝突した。

 三人はもみくちゃになりながら地面へと墜落し――

 

「うっ、いてて……あれ? どうなってんの⁉ なんで外にいんの⁉ っていうか何この音⁉ ……うっ」

「あ”ぁ”……あ? ギョロギョロ目ん玉? ……んで、ここに……」

 

 善逸と伊之助が気を失った。

 そのすぐそばには、三人を受け止めている煉獄がいる。

 

「うむ。三人とも無事だな!」

 

 気絶する二人を見て、煉獄が軽快に告げる。

 傍らには、突然の事態にオロオロしている禰豆子がいる。

 

「ほう……その闘気、練り上げられている。()()()()()()()()。お前は柱だな?」

 

 鬼が、笑顔で煉獄に問いかけた。

 それとは真逆に、煉獄はどこまでも無表情で鬼に答える。

 

「そうだ。俺は炎柱・煉獄杏寿郎」

「俺は猗窩座(あかざ)

 

 名乗ると、煉獄は即座に猗窩座と名乗った鬼に攻撃を仕掛けた。

 猗窩座はまるでかつての旧友と出会ったかのような笑みを浮かべ、応戦する。

 炎のように赤い日輪刀と、鬼の拳が衝突した。

 

「いい刀だ」

 

 猗窩座の腕が、煉獄の刃に負け千切れ飛んだ。

 

「……ん?」

 

 そこで、猗窩座は失った己の腕を見ながら、不思議に思った。

 

(腕が再生しない……?)

 

 おかしい。上弦の鬼である自分の再生力ならば、この程度の傷は瞬きの間に治るはずなのに。

 これは、明らかに何らかの力が働いている。ならば、それを仕掛けたのは誰なのか。

 

「何をした? 杏寿郎」

「馴れ馴れしく名を呼ばないでもらいたい……俺の力ではない。竈門妹の血鬼術だ」

「血鬼術……?」

 

 猗窩座が、唯一鬼狩り達とは違う気配を放つ少女を見た。

 なるほど確かに。彼女は鬼だ。ならば、血鬼術を使えて当然だろう。

 ……だが。

 

「何のつもりだ? 何故鬼狩りであるお前が、鬼の力を借りて戦うのだ?」

「確かに彼女は鬼だ。だが、彼女は人を襲わない、喰わない」

 

 煉獄は、揺るぎない、信頼に満ちた声で断言する。

 煉獄の言葉に、炭治郎と禰豆子は驚いてその背中を見る。

 柱合会議では、煉獄は禰豆子を殺処分すべきと訴えていた。今まではあくまでもお館様の命で黙認していたにすぎない。

 なのに、今の煉獄の言葉には、自らの意志で断言している節があった。

 

「なぜ断言できる? 人を喰わない鬼がいるとでも?」

「俺も、つい先日まではいないと思っていたさ。だが、彼女はそんな俺の認識を変えた」

 

 俺は見たのだ、と煉獄が続ける。

 

「彼女が血を流し、それでも人を守る為に戦い続ける姿を。たくさんの人を守り続け、仲間に背を預けながら戦う姿を」

 

 煉獄の脳裏に、死に物狂いで鬼の触手を燃やし続ける禰豆子の姿が再生される。

 その瞬間を思い出し、やはり自分の考えは間違っていないと、改めて確信し、告げる。

 

「ならば、彼女は鬼殺隊だ。俺が守るべき存在であり、頼るべき仲間だ」

 

 煉獄の言葉は、一切の躊躇いがなかった。自分の信じる者を信じる……そう言う思いが見え隠れしていた。

 その禰豆子への信頼の厚さに、炭治郎は泣き出しそうになった。

 

「まあいい」

 

 しかし、一切興味がないのか、猗窩座は戦闘を始めた。

 今度は猗窩座の拳が、とてつもない速度で放たれ――

 

「炎の呼吸【弐ノ型 昇り炎天】」

 

 その片腕を煉獄の斬撃が弾き飛ばす。

 猗窩座は失った両の腕を見て、確信した様子で会話を始める。

 

「杏寿郎、お前に提案がある?」

「提案?」

「ああ―――お前も鬼にならないか?」

「ならない」

 

 躊躇いなく、煉獄が淡々と即答する。

 しかし、断られた猗窩座は相変わらず楽しそうな笑みを浮かべている。

 

「気が合うと思うのだがな」

「ないな。初対面だが、俺は既に、君のことが嫌いだ」

「何故だ?」

「君は先ほど俺と打ち合った時、竈門少年を狙っただろう? 逆に問うぞ、何故手負いの者から狙う?」

「邪魔だから……まあ、その小僧に関しては、あの方からの命令があるのだ」

「鬼舞辻無惨か」

 

 すると、猗窩座が最初に失った左腕が再生された。

 それを見て、煉獄が刀を構え直す。

 

「ならば、竈門少年を殺させるわけにはいかない。猗窩座、彼を殺したいなら、まず俺を倒せ」

「いいだろう」

 

 徒手空拳の構えで、微笑む猗窩座。

 

「鬼にならないなら殺す」

「その前にお前を倒す」

 

 全く同時に、二人は駆け出した。

 猗窩座の神速の貫手が、煉獄の鳩尾を貫かんと繰り出される。煉獄はその拳を柄で弾き、回転しながら頸の右側に斬撃を放つ。

 綺麗な曲線を描く斬撃を、猗窩座は僅かに仰け反る形で回避し、回し蹴りを放つ。

 煉獄はその回し蹴りを刃で受け止め、大きく振りかぶった一太刀を浴びせようとする。

 しかし、猗窩座は咄嗟に飛び退いて煉獄の一撃を躱した。

 どちらも一歩も譲らない、接戦だった。

 

「俺の言ったことを覚えているか杏寿郎?」

 

 再び衝突しながら、猗窩座が煉獄に問いかける。

 

「なぜ、お前が至高の領域に踏み入れないのか教えてやろう。……人間だからだ」

 

 心の底から侮蔑を持って、猗窩座が吐き捨てるように言った。

 

「老いるからだ、死ぬからだ。……鬼になろう。そうすれば、百年でも二百年でも鍛錬し続けられる。強くなれる」

 

 猫撫で声で誘う。

 だが、その声はどこか凍てついたように冷たく、感情の底が知れない。

 満面の笑みで放たれる拳をいなしながら、煉獄はハッキリと告げた。

 

「老いることも死ぬことも、人間という儚い生き物の美しさだ。老いるからこそ、死ぬからこそ、堪らなく愛おしく尊いのだ。強さと言うものは、肉体に対してのみ使う言葉ではない」

 

 猗窩座の肉体に傷を入れ、煉獄が強い口調で告げる。

 

「長い時を過ごしていたのだろう? その割に、君は世界を知らなすぎる。もう少し勉強しておくべきだったな」

「杏寿郎、俺は悲しいよ。お前の理解が得られないことが」

 

 今までと違い、心底悲しそうに表情を曇らせ、治った腕を胸に当てながら猗窩座は言う。

 

「せめて、強いお前のまま……死んでくれ」

 

 その瞬間、猗窩座の空気が変わった。

 足元に雪の結晶のような方陣が展開され、その身に纏う覇気がより一層強くなる。

 

「術式展開 破壊殺・羅針」

 

 にぃっと嗤い、猗窩座は煉獄に拳を繰り出した。

 

 




なんか、こうして書いてると、この時の猗窩座ってほんとクソだなって思う
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。