竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった   作:シスコン軍曹

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さて、無限列車編は今回で終了。
これからは週一投稿くらいになります



新たな決意

 ただ、膝をついて見ていることしかできなかった。

 煉獄が傷つき、ボロボロになりながらも、一歩も引かずに刃を振るう姿を。

 妹が捨て身で飛び込み、自分たちと煉獄を救うために戦う姿を。

 涙が出た。悔しさで死にたくなった。己の無力を、これでもかと言うほど悔やみ、呪った。

 

(どうして……俺は、こんなにも弱いんだ。何も出来ないんだ)

 

 いっそのこと不思議でしょうがない。

 どれだけ努力し、鍛錬を積み、いざ戦場に出ても。

 目の前には常に高い壁が聳え立ち、炭治郎を塞き止める。その先で戦う仲間のもとへ行かせてくれない。

 

「竈門少年」

 

 顔を俯かせていた炭治郎に、煉獄が声を掛ける。

 肩から羽織っていた羽織がない。恐らく、禰豆子を太陽の光から守る為に貸し与えたのだろう。

 体中傷だらけで、間違いなく骨の一本や二本は折れている。

 しかし、その表情は、どれだけ傷つきながらも、とても穏やかなものだった。

 

「よく生き抜いた」

 

 煉獄としては、褒めたつもりだったのだろうか。

 だが炭治郎は、逆に辛くなった。

 

「……生きてるだけです。俺は、何もできなかった……猗窩座を倒すことも、煉獄さんを手伝うことも―――禰豆子を守ることだって‼」

「悔しいか?」

「……はい」

 

 静かに問いかけた煉獄に、炭治郎は頷く。

 すると、煉獄はふっ、と笑い――

 

「その悔しさを忘れるな。いつか必ず、強くなった未来の君を支える柱となるはずだ」

「……俺は、強くなれるんですか?」

「当たり前だ。自分の弱さを知るものが、強くなれないはずがない」

 

 煉獄は至極当然のように断言する。

 しばらく、炭治郎は呆然と煉獄を見つめていたが、やがてその瞳に溜まる涙を振り払い、はっきりと告げる。

 

「煉獄さん、お願いがあります」

「何だ?」

「俺を―――!」

「ぅおおおおおお‼ どこだ鬼ィィィィィ――ッ⁉」

「ちょ、待てって伊之助ェ――‼」

 

 何かを頼もうとした炭治郎の声を遮るように、いつの間にか起きていた伊之助と善逸がやってくる。

 

「うお⁉ ギョロギョロ目ん玉どうした⁉」

「えええええ⁉ なんでそんなボロボロなの⁉ 何があったわけマジで⁉」

「は、はは……」

「……竈門少年」

 

 いつもの二人の様子に、炭治郎が毒気を抜かれたように肩をすくめる。

 これでは締まらない。頼むのは次の機会にしよう。

 そう思っていると、煉獄に名を呼ばれたので、目を合わせる。

 

「一つ言い忘れていたことがある」

「えっと……」

「俺は君の妹を信じる」

「!」

 

 炭治郎が両目を見開く。

 続いて、伊之助と善逸も、唐突な煉獄の宣言に黙り込んだ。

 

「多くを語るつもりはない。君の妹を信じたお館様の判断は正しかった。君の信じる妹は間違っていない。胸を張って生きろ」

「…………はい……! ……あっ、でも……」

「強くなれるか自信が無いなら、俺の継子になるか? 君たちなら大歓迎だ」

「……えっ、よろしいんですか? 俺なんかで……」

「ああ」

 

 曇りなき眼で、煉獄が言う。

 炭治郎は姿勢を整え、深く頭を下げていった。

 

「――お願いします……!」

「おい待て! お前だけ強くなろうたってそうはいかねェぞ! 俺だってムカゴになる‼」

「継子だっての! それに、誘われてるのは炭治郎だけで、俺達は――」

「構わんぞ? むしろ、俺は三人共を継子にする気だったのだが」

「っしゃああ‼」

「えええ⁉ い、いいのそれ⁉ ていうか、俺も入ってるの⁉」

 

 再びギャーギャーと騒がしくなる場を、炭治郎は苦笑して眺める。

 だが、それを見てようやく、炭治郎は思い出した。

 戦いが終わった……夜が明けた事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無限列車の任務は、無事に終了した。

 乗客も隊士も一人も欠けることなく、さらには上弦の鬼と遭遇し生き延びるという、大戦果であった。

 上弦の鬼に遭遇したものは、柱であろうと例外なく殺される。

 だからこそ、此度の任務は鬼殺隊の歴史を動かす一歩となるだろう。

 

「……で?」

 

 禰豆子がむすっとした表情で、蝶屋敷の寝所で包帯グルグル巻きで横たわる炭治郎を見やる。

 

「で? と言われましても……」

 

 禰豆子に見つめられる炭治郎が、困ったように呟く。

 さっきからずっとこの調子なのだ。むしろ怒りたいのはこっちの方なのに、禰豆子の無言の圧がそれを許さない。

 

「どうして、私の本名知ってたの?」

「あ、それか……いや、別に説明しなくても分かると思うんだが……」

()()()()()()()()()()?」

 

 僅かに目付きを鋭くし、値踏みするように禰豆子が問いかける。

 

「……白銀竜也、それが俺の名前だ」

 

 だが、炭治郎は特に気にした様子もなく、穏やかに答える。

 すると、ブワッと禰豆子の瞳から大粒の涙が溢れ出し――

 

「うわあああああああ‼ 馬鹿野郎! 馬鹿野郎‼ そうならそうって言ってよォ!」

 

 ……全力で炭治郎に抱き着いた。

 

「うごご……‼ 死ぬ、これ死ぬ‼」

「あ、ごめん」

 

 禰豆子が炭治郎からバッと離れる。

 

「うぅ……でも、いざそうなっても何話せばいいのか分かんないや」

「ははっ、俺もだよ。……でも、そうだな……」

 

 炭治郎は窓の外を見ながら、悲しそうに呟いた。

 

「姉さんも一緒だったらよかったのに……」

「……もしかしたら、姉さんもどこかにいるんじゃない?」

「……そうかな?」

「そうだよ! 私たちだけ転生して、姉さんだけ仲間外れなんておかしいもん!」

 

 落ち込む炭治郎を励ますように、禰豆子が明るく言う。

 それもそっか、と。炭治郎は納得し、頬をパチンと叩いた。

 

「よし、明後日からは俺も機能回復訓練に参加して、その後はみんなで煉獄さんの家に移動だ。禰豆子も忘れ物ないようにするんだぞ?」

「学校の遠足か、別に持ってるものなんてない……あっ、そうだ」

 

 すると、禰豆子が思い出したように手を叩き、自身が入る箱を漁った。

 突然の行動に首を傾げる炭治郎だが、禰豆子が箱の中から取り出したものを見てギョッとした。

 

「ちょ、それ……!」

 

 まるで炎を思わせる外套。それは、煉獄が身に付けている羽織だった。

 

「うん、太陽が昇った時に、煉獄さんに渡されたの。危ないからって」

「いや、それは分かるけど……というか、早く返さないと」

「お兄ちゃんに渡してくれって」

「……えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、煉獄さん!』

『む? 竈門妹か! どうかしたのか?』

 

 蝶屋敷の廊下を歩いている煉獄に、禰豆子が話しかけた。

 非常に痛々しい姿だ。体の至る所に包帯が巻かれており、片手で松葉杖をついている。

 

『これ、この前お貸し頂いたものです』

 

 それは、綺麗に折りたたまれた煉獄の羽織だ。

 差し出してくるそれを、煉獄はジッと見つめ……。

 

『いや、それは竈門少年にくれてやってくれ』

 

 そういった。

 

『えっ、どうしてですか?』

『なに、新しい羽織はまた用意すればいい。彼は先の任務で羽織を紛失していただろう?』

『それこそ、また新しいモノを買えば……』

『聞いているぞ? 君たちの家庭のことは。そんな余裕はないのではないか?』

 

 確かに、竈門家はそこまで裕福ではない。新しい羽織にも、着物には金を使えないほどには。

 

『……でも』

『ふむ、実はな……。その羽織は、代々煉獄家に伝わる、炎柱のみが羽織ることを許される由緒正しい証なのだ』

『えっ⁉』

 

 突如明かされた煉獄家の伝統と、その羽織の価値に禰豆子が慄く。

 

『そ、それだったら尚更駄目じゃないですか‼』

『……だが、竈門少年が着なければ、もう誰もその羽織を羽織る者はいなくなるだろう』

『……えっ? でも、確か煉獄さんって弟さんがいらっしゃいますよね? 先日も見舞いにいらっしゃってましたし』

『……ああ。だが……、こんなことを言いたくはないが、弟……千寿郎には、鬼殺の剣士としての才能がない。千寿郎が日輪刀を握っても、刀の色が変化しなかったからな』

『そんな……』

『それに父上も()()()()()だ。……俺も柱として復帰できるようになるか分からん……恐らくは不可能だろうが』

『……』

 

 それは、敢えて誰も触れていなかった事実だ。

 煉獄は上弦の参、猗窩座との戦闘で深い傷を負った。内臓にも傷がいっており、蝶屋敷に来た時点では本当に危険な状態だった。

 それでも、煉獄の驚異的な生命力で危機を脱することはできたが、柱としての復帰は難しいだろうとのこと。

 

『……胡蝶が言うのだ、間違いあるまい。……だからこそ、俺はこの羽織を、竈門少年に託したい』

『…………』

『俺は彼の瞳に希望を見た。その奥で燃え上がり始めている(きぼう)を。俺は、彼がこの羽織を持つに相応しいと思っている』

『けど、煉獄家のしきたりは……』

『なに、千寿郎も……黄泉の国に住まう母上も分かってくれるさ。……父上は興味も示さんだろうがな……』

 

 煉獄は空いている手で禰豆子の頭にポンッと手を置き、

 

『これは、俺の、君たち兄妹への信頼の証だ、どうか、受け取ってはくれないか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「――って、そう言われて……断れなくて……って‼」

「うぅぅ……!」

 

 禰豆子が煉獄との話を炭治郎に聞かせていると、感極まった炭治郎は泣き出した。

 

「ちょっともう、しっかりしてよ。そんなに涙脆かった? ……いや、結構涙脆かったわねお兄ちゃん」

「……そんなに大事なものを……俺に……」

 

 炭治郎が自分の右手を見つめる。

 本当に、そんな資格が自分にあるのだろうか? 煉獄家の伝統を曲げてまで、大切な羽織を預けてもらうだけの価値が、自分に……。

 そんな炭治郎の不安を見透かしてか、禰豆子は、

 

「……悩んでてもしょうがないよ。煉獄さんが渡すって決めたんだもん、弟子のお兄ちゃんはそれに従うだけでしょ?」

「それは……」

「らしくないなぁ。不安ならやることなんて一つでしょ?」

「?」

 

 ビシッ、と炭治郎の鼻先に人差し指を突きつけ、

 

「その羽織に相応しくなるくらい強くなりなさい! もう誰にも負けないくらい!」

 

 そういった。

 余りにも自信満々に言う禰豆子に、炭治郎は思わず笑みを零す。

 

「――ははは! ……そっか……、そうだよな。それしかないもんな」

「そうよ!」

「……ふっ、じゃあ、早いとこ体治して、また鍛え直すか!」

「おーう!」

 

 二人は互いに拳を打ち付け合い、太陽のような笑みを浮かべた。

 

 




煉獄さんの羽織が超大事なものだと知った時、この展開にするか正直迷いました。
けど、憑依炭治郎の決意を揺るがないものにするにはこれしかなかったんです……!
怒らないでお願い……! あっ、千寿郎くんと炭治郎は会ってないです。そん時炭治郎は寝てたんで。
猗窩座のブラック虐めは次の機会です。しばらく四か月の修行を見せる編になるんで
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