竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった 作:シスコン軍曹
「……どうなの?」
禰豆子が俺に、先ほどの問いの答えを求めてくる。
「……迷うよ」
それは、嘘偽りない言葉だった。
「迷う。いざその時になったら、例え今、どんな綺麗事並べたって、迷う。迷って迷って迷って、迷い続ける」
当然だ。
命を懸けてでも守りたい相手を殺すだなんて、考えるだけでも億劫なのに、それを実際にやらなければならないなど、余りにも残酷すぎる。
……でも、
「……それでも、切るよ。最後は必ず、お前の首を切る。そして、俺もすぐに逝く」
結局、これは責任だ。鬼を連れて行くということは、その鬼を殺す覚悟を持つことと同じなのだ。
だから、迷っても、死ぬほど迷っても、最後には必ず切る。どれだけ涙で顔を濡らし、顔がくしゃくしゃになっても、その時が来てしまったら、他の誰でもない、俺が殺さなければならないんだ。
「……うん、ならいい」
すると、禰豆子は安心したように微笑む。
そしてこの時、俺は気づいていなかった。俺達を背後の木から見つめる、
「あれ? そういえばあいつどこに行った?」
「……こっち」
あ、そっか。禰豆子は気配わかるのか。危ない危ない、危うく完全に見失うところだった。
「! 籠ある⁉」
「あるけど……、どうかしたのか?」
「もうすぐ朝日が昇るかも」
「えっ? それつまり、俺一人であの鬼と戦えと?」
「ガンバ」
そう言って、そそくさと禰豆子は背負っていた籠の中に入っていき、布を被せた。
にしても、こっちつってたけど、何処だ?
そう思いあたりを見渡していると、冷たい何かを感じた。まるで、怯えているような何かを。
俺はそれが気になり、何かが強くなっていく方へと歩いていく。
すると、
「……あ、いた」
「⁉ て、テメェ……いや、あの鬼の娘が居ねぇ……へへっ、ついてるなオイ」
森を抜けた先の崖で先ほどの鬼を発見した。
にしても、禰豆子がいないと分かった途端強気になるとか、小物の鑑だな。
「生憎、禰豆子ならこの籠の中にいるぞ。それと、気を付けたほうが良いぜ」
「あぁ? 何がだよ。テメェはただの人間だってことは分かってんだ。油断なんてもう――」
「夜明けだよ」
俺が呟いた瞬間、東から光が差し込んだ。
太陽が昇ったのだろう。にしても、これが徹夜ってやつか。初めてやったぞ。
「な――⁉ ぐっ、おぉぉぉぉぉぉ―――――ッッッ‼‼‼」
最後の言葉を残すこともなく、鬼は灰となった。
「……あっ、埋葬しないと」
あの御堂の人を埋めないとな。
そう思い、御堂まで戻ったのだが、
「あれ?」
いつの間にか血濡れた部屋は掃除され、死体が無くなっていた。
「……まさか」
俺はある仮説とともに、御堂を飛び出し庭へと向かう。
「……来たか」
居た。
天狗の面を被った老人。間違いない、鱗滝左近次だ。
「……えっと、俺は――」
「儂は鱗滝左近次だ。冨岡義勇の紹介は、お前で間違いないな?」
「あ、はい。竈門炭治郎といいます。妹は禰豆子で……」
「そうか」
……え、それだけ? 他になんかないの?
「お前なりの覚悟を持っていることは既に見させてもらった。ならば、儂から言うことは何もない」
……もしかして、俺と禰豆子の会話を聞いてたのか?
「これから、お前が鬼殺の剣士として相応しいかどうかを試す。妹を背負ってついてこい!」
「……はい!」
ついに来た。過酷な鍛錬の日々。その序章だ。
鱗滝さんが御堂を走っていき、俺はその後を追いかける。
(いや、速ッ⁉ 分ってはいたけど、なんて速さだ! 足音もマジで聞こえない……あの速度で走って足音がないって何気に凄かったんだな……)
全く追いつけない。俺にその速度で走れるようになるのか甚だ疑問だ。だが、それでもやらないといけない。
俺は、禰豆子を守る為に、もっと強くならないといけないんだから。それこそ、原作の炭治郎よりも。
そして、夕暮れになるまで走り続け、ついに鱗滝さんの家についた。
「はぁ……はぁ……‼」
死ぬ。普通に死ねる。現代のマラソン選手並みに走った気がする。
呼吸が整えられない……足が震える……立っていられるのがやっとだ。
「妹を小屋に置いていけ。その後、山に登るぞ」
「はぁ……はぁ……はいぃ……」
俺はいつの間にか眠っていた禰豆子を、小屋の中で布団に寝かし、鱗滝さんの後をついていった。
鱗滝さんはだいぶ山を登り、霧の濃い場所で止まる。
「ここから山の麓の家まで下りてくること。夜明けまでは待たんぞ」
すると、鱗滝さんの姿が霧に呑まれて消えた。
「……さて、どうするか」
俺は原作のように鼻が利くわけじゃないし、多分利いても嗅ぎ分けられないと思う。
出来るとしたら、罠の場所を覚えるくらいだが……そんなことをしても、場所を変えられたら終わりだ。
「……考えるのは後回しだ! 今は、降りることだけを考える!」
そう思い、俺は下山を開始した。
「うぉっ!?」
そして早速躓いた。
「いてて……ってあぶねっ⁉」
足元の縄に足を取られていると、横から石が飛んできた。石は何とか躱せたが、バランスを崩し尻もちを搗いた。
しかも運悪く、その場所は落とし穴だった。俺は重力に従い落下していく。
「うぐぐ……! くそっ、腰が死ぬんじゃないかこれ?」
でも、ようやく分かった。この山から下りる方法が。
下山を阻止したくて罠を張るなら、必然的に罠のある場所が目的地への道筋ってことだ。リスクはあるが、罠に引っかかれば引っかかる分だけ、ゴールに近づくということ。
「……くたばらないでくれよ体。二徹いけるなら三徹もいける! ……あ、夜が明けたらダメなんだった」
落とし穴から脱出し、俺は移動を開始する。この山は空気が薄い。
呼吸は必要最低限で、なるべく空気中の酸素を消費しないようにしないといけない。でないと、あっと言う間に酸欠になる。
走っていると、うっかり仕掛けに引っかかり、丸太がトラックの様に俺に向かって突っ込んできた。
「ちょッ⁉」
なんとかそれは躱すが、正直やばい。
ただでさえ足がもつれそうなのに、休憩もせずこのどう見ても殺しに来てるとしか思えない罠を突破するというのは中々キツイ。
「だからって……諦めるわけには、いかない!」
禰豆子が待ってるんだ。それに、任されたんだ。
とにかく、罠を察知する方法を探さないと。
「匂い……駄目だ。やっぱりわからない。そもそも、どれが何の匂いかも分からないのに、罠の匂いなんて……」
……いや、そもそもどうして俺は匂いで判別しようとしていたんだ?
「……そうだ。別に匂いを嗅ぐ必要はない。そんなことが出来る人間なんて稀だ。……俺のやり方で、突破すればいい」
なら、どうやって?
「…直感……いや、罠の気配を察知?」
そう言えば、あの鬼の気配っぽい何かを感じたような……試してみるか。
俺は近くにあった、無視すれば別に被害に遭うこともないであろう罠を、敢えて踏み抜く。
そして、目を瞑って意識を集中させる。
(……目で見るな。音を探るな。匂いを感じるな。五感は邪魔だ。必要なのはその先、第六感だけだ)
……余計なものを排除して、感じ取るんだ。
「……後ろ‼」
俺は声に出しつつも、実際に振り返らずに前転する。
その次の瞬間、背後からブオンッ!という音が聞こえた。
「……マジか」
背後から丸太が飛んできていた。あのまま留まり続けていたら、あれに背骨を折られていたかもしれない。
けど、出来た。俺は一歩進んだ。
「……さっき、後ろの方で何か……よく分からないものが近づいてくる感覚を感じた。多分、無機物が接近してきたときの気配だ。それも、人工物」
そして、それは今も感じる。
意識を集中すれば、視界の先全体で、人の手が加えられた無機物の気配を感じ取れる。
これなら少なくとも、今までより移動のスピードは上がる。
まあ、あくまでもそれは普段のスピードで動けるというだけで、身体能力が上がっているという訳ではないが。
「……行くぞ」
「……戻、り……まし、た……はぁ……はぁ……!」
危ない。今の暗さだと、多分今は朝5時30分……もしかしたら、もう少し進んでいるかもしれない。
初見でよくここまで突破できたなと、自分で自分を褒めたくなるほどだ。
「これ、で……はぁ、はぁ……俺を、認め……て、くだ…、さい、ます……か?」
「……そうだな、よく戻ってきた。……お前を認めよう、竈門炭治郎」
……やった。
余りの達成感と、ようやく終わったと同時に、疲労感が一気に増し、俺はそのまま倒れてしまった。
なんか憑依炭治郎がバケモンになってた。
でも鬼滅の世界なら普通か
どっちがいい?
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