竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった   作:シスコン軍曹

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盲目……鬼……あれ? どっかで聞いたことがあるような……


盲目の鬼

 唐突だが、昔話をさせて欲しい。

 とある町に、一人の少年が生まれた。だが、少年は生まれながらに足枷(ハンデ)を背負っていた。

 少年がこの世に生まれ落ちた時、少年の父は、彼を不浄の子だと吐き捨て、蔑んだ。

 産婆でさえ、顔を真っ青にしてそそくさと場を去るほどだ。周囲の者は、少年を嘲り、忌み子だと石を投げた。

 何故、少年はそこまで苦しめられたのか? その理由はただ一つ。

 

 ――少年には、生まれつき眼がなかった。

 

 現代では、無眼球症とも呼ばれる。

 視力が低下して目が見えないとか、そういう次元の話ではない。本当に、眼が形成されていないのだ。

 本来人間にあるべき物がない。それは、少年の人生を大いに苦しめてきた。

 ……それでも、少年は強く生きてきた。

 少年の存在を認める、ただ一人の人間がいたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、目が見えないのか?」

「……触れたな」

 

 ? 炭治郎が首を傾げる。

 対する鬼は、顔を俯かせ、肩を震わせている。

 

「俺の禁忌に触れた……お前は確実に消す。死体になろうとぐちゃぐちゃに叩き潰す‼ 染みになろうと殺し尽くす‼‼‼」

 

 怒声と同時に、鬼が超速で肉薄する。

 もはや無意識に近い動きで、炭治郎は鬼を迎撃した。

 横一線に振るわれた刃……それを鬼は空中に飛び上がって躱し、背後から腕を引き絞った。

 

(その位置から攻撃……? どう考えても当たらな―――)

 

 そこまで考え、否定する。

 以前相まみえた上弦の参も、虚空に拳を打ち込むことで遠距離攻撃を可能としていた。

 ならば、距離だけで決め付けるのは早計に過ぎる。炭治郎は咄嗟に後方に飛んだ。

 ほぼ同時に、先ほどまで炭治郎のいた場所が、強烈な圧でへこむ。

 

(やっぱり……コイツ、遠距離攻撃も出来るのか⁉)

 

 今のは恐らく、奴の血鬼術の特性だろう。

 だが、血鬼術の正体が分からないままでは、それを見極めることも出来ない。

 

「ぉ」

 

 だが、分からないから放置するわけではない。

 むしろ、簡単に見極められないなら、速攻でケリを付けるべきだ。

 

「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーッ!」

 

 重い踏み込み。

 その足が地を蹴った瞬間、地面が抉れ、肉体が風を裂くような速度が生まれた。

 炭治郎の高速の突進により、彼我の距離はほぼゼロ距離まで詰められた。

 鬼は迎撃してくる様子はない。炭治郎の速度に対応できていないのかはあずかり知らぬところだが……好機であることは間違いない。

 

「はぁぁぁぁぁぁああああーーッ!」

 

 炭治郎の刃が、鬼の頸を捉える――

 

「……は?」

 

 ――はずだった。

 

「……残念だったな」

 

 刃は通っていない。

 だがそれは、鬼の頸が固くて斬れないとか、そういう話ではないのだ。

 ()()()()()()

 刃が、頸に到達する前に、()()()()()()()()()()()。弾かれる音も立てていない、不自然な停止……。

 

「ふ――」

「ぐっ!」

 

 直後に放たれた電光石火の連撃。

 それらをすべて刃で受け切り、逆に反撃(カウンター)を行う……しかし。

 

「また……!」

「無駄だ! お前の力で、これは突破できない!」

 

 何度放っても、空中で攻撃が停止してしまう。

 いや、この感覚は……。

 

(何かに、押し返されているのか……?)

 

 事実、炭治郎の刀が停止するとき、ぶるぶると震えていた。まるで、二つの力が正面から向き合っているかのようだ。

 例えるなら、斬り合いの際に、刀が打ち合うと、火花を散らせてカタカタと震えるような感覚だ。

 強い力が正面から打ち合うと、二つの力が脇へそれてしまいそうになり、それを縫い止めるためにさらに力を使う。

 つまり、ここから推察されるのは。

 

(何か、不可視の力が、俺の刀を押し返している。そして、その力こそが、奴の血鬼術!)

 

 だんだんと、敵の手の内が見えてきた。

 

(けど、その力の性質が見えない……不可視の力ってなんだ? 超能力か?)

 

 この時代に超能力の概念があると思えない。

 そもそも、そう言った(たぐい)の力を血鬼術と片づけてしまうのだろう。

 だから、別にあるはずだ。不可視の力の正体が。

 

(まずは情報を整理しよう)

 

 鬼の攻撃を躱し、反撃を入れる……が、やはり空中で停止した。

 炭治郎の脇腹に槍のように鋭い拳が放たれ……紙一重のタイミングで、炭治郎は刀の柄でそれを受ける……その瞬間。

 ドガッ! 忘れていた、遅れてくる衝撃に吹き飛ばされる。

 

「ぐっ……!」

(この遅れる衝撃……これも不可視の力が関係しているのか……⁉)

 

 これまで分かったことを纏めると。

 盲目。遅れる衝撃。不可視の力。凄まじい圧力……。

 

「……待てよ」

 

 何となく、それを思いついた炭治郎は、即座に行動に移した。

 

「ふっ!」

 

 ボロボロの跡地を、音を大きくならして破壊。即座に、音もなくその場を立ち去る。

 目が見えない……その状態で戦うならどうすればいいか? 炭治郎は、脳裏に善逸を思い浮かべた。

 彼は盲目ではないが、睡眠状態で戦闘を行うことが出来る。それは、周囲から発生する”音”を聞き分け、状況を把握しているからだ。

 もし、あの鬼が”音”を聞き分けているとしたら……間違いなく家屋に飛び込むだろう。

 だがもし……。

 

「音で俺を誘おうとしても無駄だぞ?」

 

 足音も立てずに下がる炭治郎に、鬼は鋭い剃刀のように鋭い踏み込みから、拳が放たれる。

 それを見た炭治郎が……()()()

 

「とんでもない、待ってたんだよ!」

「――ッ⁉ ぐっ⁉」

 

 炭治郎は拳を最小限の動きで避け、その二の腕を切断した。

 攻撃が通った……不可視の力による妨害はない。

 

「お前の血鬼術……それは」

 

 炭治郎は(トリック)を暴いた探偵のような口調で言う。

 

「風……だな?」

「…………」

 

 鬼は無言……だが、それはもはや肯定だった。

 

「目が見えない……その(ハンデ)を覆すために、お前は風……空気の流れから周囲の状況を把握していた。遅れてくる衝撃は、拳に風を纏わせ、俺が防御した瞬間に、風を分散させることで、解放された拳が直撃することで発生する、血鬼術の副産物だろ? 不可視の力による防御は、限界まで圧縮した空気の壁が、刃を拒んでいた……だが、腕を切断できたということは、お前は風を部分的にしか纏えない。だって、そうだろう? 全身で纏えるなら、風の鎧を常に着込むだけで、お前はほぼ無敵なんだ。それをしない理由がない、俺でもする」

 

 思えば、土煙を吹き飛ばしたのは、空中に舞った砂が状況把握に邪魔だったからなのだろう。

 砂の中には微小の小石なんかも含まれる。それらが正しい空間把握を邪魔していた。

 

(もし仮に風を全身に纏えたら……俺じゃ勝てなかったかもな。風の全身装備(フルアーマー)とか、攻略のしようがないし……)

 

 案外、圧縮した風すら押しのけるほどの力で攻撃すれば、突破できるかもしれないが、今の炭治郎には酷な話だった。

 

「だから、どうした?」

 

 鬼はただ一言、悠然と告げる。

 

「お前に……俺の風を突破することはできない!」

 

 そう言って、鬼は神速の右ストレートを放つ。

 感覚で分かる。その拳にも風が乗っている。まともに打ち合っても弾かれるだけだ。

 

「けど、俺だって強くなるために磨いてきたんだ……」

 

 炭治郎は姿勢を低くし、右手を引いて左手を前に。まるで弓を引くかのような構えを取った。

 

「負けるつもりはない。……竜の呼吸」

 

 四ヶ月の成果……それが今、ここに開放される。

 

「【(けだもの)ノ舞 牙獣突(がじゅうとつ)】‼」

 

 風の拳と、限界まで引き絞られ、弾けるゴムのような動きで放たれた鋭利な突きが、衝突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 

 

 

 栗花落カナヲは、任務を完了し蝶屋敷への帰路についていた。

 右手の中には、亡き姉、胡蝶カナエから貰ったコインが一つだけ。

 それを眺めながら、カナヲは思考を巡らせる。

 

(……私が大事にしたいもの……心の底から求めているもの……か)

 

 ずっと、だ。

 竈門炭治郎という少年に言われた言葉が、頭から離れない。何度も何度も、頭の中を反芻している。

 このままでは師範に怒られる、と気を引き締め直そうとするカナヲ……だが、その度に炭治郎の顔が、言葉が邪魔をする。

 

「……っ!」

 

 どうでもいいと思えない。それがとても苦しい。……なのに。

 

(苦しい事なのに、失くしたいって、消したいって思えない……どうしたんだろう。一度、師範に聞いてみよ―――)

「イヤァァァァアアアアアア―――ッッッ‼‼‼」

 

 突如。

 蝶屋敷の玄関から悲鳴が聞こえた。

 

「――ッ⁉」

 

 カナヲが門から中を覗き込むと、高い背丈に、宝石の装飾品を身につけた大男が蝶屋敷の少女たちを攫おうとしていた。

 袖の部分を切り落としているが間違いなく鬼殺隊の隊服。しかも、カナヲはその人物に覚えがあった。

 

(あれは……音柱・宇随天元……上官の人……どうして?)

「やめてください! 離して、私……この子は……ッ‼」

「うるせぇな、黙っとけ」

 

 低い声で泣き喚く少女たちを黙らせようとする宇随。

 攫っておいてその言い草は何だと思い、カナヲが止めようとするも――

 

(……いいの? 相手は上官、多分任務……命令されたら私は―――)

 

『心が教えてくれるからさ。カナヲにとって、大事なものを』

 

 再び反響する炭治郎の言葉。

 しかし、今はそれが、苦しさではなく、安らぎを。勇気を与えてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 宇随天元は強烈な殺気を感じ思わず飛び下がった。

 瞬間、先ほどまで宇随の居た場所に蹴りを放った姿勢で停止する少女の姿があった。

 昼間なのに敵襲か⁉ と慌てて身構える宇随だが……。

 

「あん? よく見たらてめェは、胡蝶の継子の……お前、何のつもりだ? それが上官に対する――」

 

 宇随の言葉は、カナヲの右拳によって遮られた。

 尤も、カナヲの拳もまた、宇随の手によって止められたが。

 腕を使ったことで、右脇に抱えられていた、なほが地面に落ちる。

 

「あぐっ!」

「……と、突撃ぃぃぃぃぃぃ‼」

「カナヲさまに続けぇぇぇぇぇぇ‼」

「「猪突猛進―――――ッッ‼‼」」

 

 どこかの猪侍(いのすけ)のようなことを叫びながら、宇随にしがみつくきよとすみ。

 ついでにカナヲもまだ抱えられるアオイを助け出そうと取っ組みかかった。

 

「ちょ、てめーら、いい加減にしやがれ!」

「それはこちらの台詞ですよ、宇随さん」

 

 その場の全員が、全く同じタイミングで動きを止めた。

 底冷えするような冷たい声。背後から掛けられる凄まじい重圧。宇随天元は過去最大級の死を感じ取った。

 一瞬でその場を退き、屋敷の天井に上り詰める……が。

 

「そう簡単に逃がすとお思いで?」

「チッ!」

 

 いつの間にか隣に並び立っていたしのぶの姿を見て、宇随は舌打ちしながら数メートル下がり、向かい合う。

 

「……戻ってたのかよ胡蝶」

「つい先ほど。……それで?」

「悪ぃがコイツを借りてく。異論は認めん」

「ふざけないで! アオイさんを返してこの変態‼」

「そーよそーよ!」

「てめーらコラ! 誰に口利いてんだコラ‼ 俺は上官、柱だぞ小娘ども‼」

「今の貴方の柱としての威厳なんて紙屑未満ですよ」

 

 宇随が怒り心頭で叫ぶが、この場合悪いのは九割九分彼の方である。

 

「俺は任務で女の隊員がいるんだよ! 継子のほうは胡蝶の許可がいるから、帰ってこねーうちに攫って来ようと思ってたのに!」

「目ん玉抉られたいんですか? というか、どうして女性の隊員が必要なんですか? そろそろ私も我慢の限界ですよ?」

 

 見れば、胡蝶は額に青筋を浮かべ、左の拳で虚空を殴って気を静めようとしていた。

 いつ暴発してもおかしくない爆弾が隣に設置されていることに、ようやく気が付いた宇随。

 しかし、彼にも彼の事情がある。引くわけにはいかない。

 

「うっせぇ、とりあえずコイツは連れて行く。役に立ちそうもねぇが、こんなのでも一応隊員だ」

「待てやゴラァ‼」

 

 宇随の右側から怒鳴り声が響いた。

 振り向けば、猪の被り物をした隊士が彼の行く手を阻まんと立ち塞がっている。

 さらに背後を振り返れば、金髪のタンポポのような髪をした少年が、奇妙な箱を背負って佇んでいる。

 

「禰豆子ちゃんとともにいる俺は無敵だ。消えな、ぶっ飛ばされんウチにな(嫌ァァァァ‼ 柱、怖っ⁉ つか、なんだあの筋肉達磨(ダルマ)気持ち悪っ‼)」

「アオイを返して」

 

 正面にはカナヲ。

 四方を囲まれた宇随は、暫く睨み合っていたが……分が悪いと判断したのか、

 

「ちっ、ぬるいな。このようなザマで地味にぐだぐだしているから鬼殺隊は弱くなっていくんだろうな」

 

 捨て台詞とともに、納得のいかなそうな表情でアオイを解放した。

 

「アオイ!」

「……それで、どういうつもりなんです?」

「今回の任務の行き先がちょいと特殊でな。内容からもどうしても女の隊員が必要だった」

「行き先……?」

「ああ」

 

 宇随は屋根の上から降りつつ説明を始める。

 それに続くように、しのぶたちも屋根から降りた。

 

()()()()”遊郭”だよ」

 

 満を持して、宇随はその行き先を口にした。

 

 

 




遊郭編は炭治郎の視点とカナヲたちの視点を交互にやって行こうかな、と……ちょっと雰囲気を変えてみたかったんです
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