竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった 作:シスコン軍曹
祝いの禰豆子たんぺろぺろ
「……駄目か」
俺は大岩に
残念ながら、全集中の呼吸を使っても、この岩を切ることは出来なかったようだ。型を使えば切れるかもしれないが、それで切っても意味はない。
技を使うことなくこの岩を切るからこそ、意味がある。
「……何度も同じ場所に打ち込んで……いや、それじゃ採掘と同じだ」
そのやり方はツルハシと同じだ。刀でやることではない。
ならばどうするか。どうすればこの大岩を一刀のもとに切ることが出来る?
「……初心に戻る。定番だが、これしかない」
そう思い、俺は再び山下りの鍛錬を行うことにした。
と言っても、今までと違い、前まで禰豆子を運ぶのに使っていた籠を使い、その中に石などを入れて重りとすることで、より負荷を与え、更なるパワーアップを測ろうという結論に至った。
まあ、それも三か月程度でやめた。何故って? 頭打ちになったんだよ。
そう。この方法でのパワーアップが限界に来ていた。ここ最近はただの作業のように感じてどうも時間を無駄にしている気がした。
なので、そろそろ別の方法を試すことにした。
「すぅぅ……はぁぁ……」
俺が今やっているのは、睡眠を含む二十四時間一日中、全集中の呼吸を行う、全集中の呼吸・常中というものだ。
尤も、これは鬼殺隊の最上位の存在、柱への入り口とも言われている技術。まさに奥義と呼ぶべきものだ。
当然、並大抵の時間で身に付くものではない。その上、効果が出るのにも時間が掛かる。けど、俺に残された道はもうこれしかない。
「はっ! はっ‼ やぁっ‼」
もちろん、剣の鍛錬も忘れない。
素振りは勿論、全集中の呼吸を行いながら、重りを背負って山を下りる。その際、罠がいつもよりより鮮明に感知できるようになっていた。
……けど、このままで大丈夫なのだろうか。今のままで、俺は本当に最終選別に行けるのだろうか。この大岩を切れるのだろうか。
原作の炭治郎よりも強くなると頑張ってきたが、だからこそ、原作を越えている出来事を目の前に、不安がこみあげてくる。
「弱気になるな……! 禰豆子を守るんだろ⁉ 余計なことは考えるな……!」
「やかましい。男が喚くな。見苦しいぞ」
そんな声が、背後から聞こえた。
思わず振り返るとそこには、宍色の髪の狐の面を被った少年がいた。
「……お前は」
「フン!」
すると、狐の少年は俺に向かって木刀を振るった。
俺はそれを刀で防ぐが、狐の少年は刀を滑るように木刀を動かし、俺の防御を抜け、横腹に一撃を叩き込む。
「ガハッ⁉」
「その程度か? 鱗滝さんの教えを受け、力を得ていながら、その程度の実力しかないのか?」
「なっ……! 俺だって必死で――!」
「言い訳は要らない。現にお前は、俺に翻弄され一刀を受けている。俺の刀が真剣なら、お前は今ので死んでいたぞ」
……確かに、その通りだよ。理解は出来る。けど、納得なんてできない!
だったらどうしろっていうんだよ⁉ 俺にこれ以上、何処へ進めというんだよ。
「お前の動きには無駄が多い。兎に角余分なものしかない。だからお前の刀は、この大岩を切れない。本来なら既に切り捨てるだけの力がありながら、お前の無駄なものが邪魔をしている」
無駄なものと言われても、即座に浮かんでは来ない。
教えてくれる師がいないから、俺の剣の何処が悪いのか分からない。
「はぁっ!」
「くっ……!」
突如、狐の男性が再び切りかかってくる。
俺はそのスピードと技に翻弄されるばかりで、防御を行うのが精一杯だ。
稀に反撃を行おうとしても、それを出す前に一撃を入れられてしまう。
「がッ……!」
「どうした? もう立てないのか?」
「うる、さい……ッ!」
なんで……足がふらつく。視界が揺れる。刀を持つ手がブルブルと震える。
どうなっているんだ。この攻撃より痛い目にだって合った。今更この程度、なんともないはずなのに。
「ふん。随分と脆い自信だな。鱗滝さんの教えを叩き込みこそすれど、心は成長していないようだ」
「なっ――⁉」
「違うとは言わせないぞ。たかだか数回、俺との打ち合いに敗れただけで自信を失うような男が……いや、そんなものを男とは言わない!」
狐の少年の声が、森に響き渡る。
俺はその迫力に気圧され、へたりと座り込んでしまう。
「何をしている⁉ 立て! 立って構えろ‼ そんな弱腰で、妹を守れると思うのか⁉」
狐の少年はそれを見てさらに叫ぶ。
…………。
そうだ。何をしているんだ。俺は禰豆子を守るんだろ。そのために、強くなるために……ここまで来たんだろ。
出来る。ここまでだってやってこれたんだ。俺は出来る。自分を信じろ!
己を鼓舞して、俺は狐の少年に構える。もう、震えは収まっていた。
「はぁぁぁぁぁ――――ッッッ‼‼‼」
俺は叫びとともに狐の少年に走り、刀を振り下ろす。
狐の少年はそれを横に躱し、回転しながら俺の顎を打ち上げた。
「ガハッ⁉」
顎への衝撃で脳が揺れ、俺は意識を失った。
「……はっ⁉」
そして、次に目を覚ました時、俺は空を見ていた。寝そべっているのか。
起き上がると、右横に狐の面を被った少女がいた。
「……えっと、君は……」
「真菰。さっきのは錆兎っていうの」
……あっ、そうだ。思い出した。
確か、この山に住み着いている……。
……いや、今はそんな事どうでもいい。
「……なあ、俺も、錆兎みたいになれるのか? いや、錆兎よりも強く……!」
「大丈夫。そうなれるように、私が見てあげる。貴方は呑み込みが早いから、直ぐに出来るよ」
……こういうのもなんだが、誰かに褒められるのは久しぶりだから、ちょっと嬉しいかも。
そして、真菰との鍛錬が始まった。彼女は俺の悪いところ指摘し、無駄な動きとして癖になっている部分を直してくれた。
癖である分、完全に直すのには時間が掛かったけど、それでも、動きがいつもより洗練されていくのを感じた。
「……うん。流石だね、炭治郎は」
「二人はどこから来たんだ?」
「ふふっ」
俺の質問に、彼女はただ微笑むだけだった。やっぱり不思議系なんだな。
そして、鍛錬を行って、およそ九か月が過ぎた。
俺はその日も、大岩の前に行く。そこで待つ、錆兎に勝つために。
「……来たか。いい顔つきになった。覚悟を持った、男の顔だ」
「そりゃどうも。……行くぞ」
その時、錆兎は真剣を持っていた。
俺は腰を落とし、今までの成果を詰め込むように、一切隙のない構えを取る。それに応えるように、錆兎から発せられる気迫が、かつてないほど膨れ上がっている。
けど、負ける気はしない。
「「……、」」
互いに沈黙が続く。
それが何十分にも感じられたが、実際はほんの数秒だったのだろう。
ただ、一つだけ言えるのは、
「「ッ」」
俺たちは全く同時に動き、一瞬で互いに背中合わせの状態になる。
ぶんぶんという音とともに、上空から刀が落ちてきて、地面に突き刺さった。
錆兎の手に、刀は握られていなかった。
「……ふっ」
錆兎が軽く笑う。多くは語らないということだろう。でも、それだけで十分だった。
きっと……錆兎はまだ余力があったと思う。でも、俺は勝った。今の錆兎を乗り越えた。これからの錆兎を乗り越えるのは、その時考えればいい。
「……やったね。炭治郎」
「真菰……あぁ。あとは……」
俺は目の前に聳え立つ巨大な岩を見て、刀を強く握りしめる。
これを切る……前までの俺なら、必ず心のどこかで不安があった。迷いがあった。
でも……今なら。
そう思うと、ふと、錆兎たち以外の気配がした。振り返るとそこには、竹に背中を預け、腕を組む鱗滝さんの姿があった。
「全く……お前という奴は」
「鱗滝さん……」
いつの間に来ていたのやら。
ふと、錆兎たち視線を向けるが、すでに彼らの姿はなかった。
「……見ててください」
「あぁ」
俺は大岩に刀を構える。
呼吸を整え、全力を振り絞る。今の俺に出来る、最高の一刀。
「はぁぁぁぁ―――ッッッ‼‼‼」
カァァン! という音が響く。そして、俺は自分の持つ刀が軽くなっていることに気づいた。
目を向けると、刀身が半分ほどの長さになっていた。折れたのだ。
「……炭治郎」
「鱗滝さん……俺……、
上空から、折れた刃が地面に突き刺さる。
それと同時に、大岩は
それを見た鱗滝さんは、
「戯けぇ!」
「べぶらッ⁉」
何故か腹パンを繰り出した。
「ちょ、何するんですか⁉」
「刀を折るなと言っただろう! 本来なら骨一本へし折っているところだったぞ」
うぐっ、それを言われると何も言い返せない。
すると、鱗滝さんは俺の頭にぽんっと手を置き、優しい声で言った。
「だが……よく頑張った。……お前はよく無理をして、ボロボロになる自分を気にもせず鍛錬に打ち込んでいた。このままではいつか壊れてしまうのではないか。そう思い、この岩を用意したんだ」
「……鱗滝さん」
「お前が壊れるのを見たくなかった。この岩は絶対に切れない。これでお前も諦める……そう思っていたんだがな。……お前は変わった。今のお前なら、安心して送り出せる。よく頑張ったな。最終選別、必ず生きて戻れ。儂も妹もここで待っている」
そう言って、鱗滝さんは俺を抱き寄せた。
……久しぶりだな。こうやって誰かに抱かれるの。暖かい……。
無意識のうちに、俺の瞳から涙が零れる。今までの努力が報われたのを感じ……いや、この気持ちは、きっと言葉では表せない。
ふと、自分の手を見た。豆だらけで、しかも潰れているのもあった。
兎に角ボロボロで、痛々しい……が、俺の努力の証だ。
「って! 何この豪華料理⁉」
普段は割と質素なご飯なのに、今日は豪勢だった。
これは……すき焼きか? それとも鍋? そういや、原作でもそれっぽいのご馳走になってたっけ? 鍛錬ばっかりで全然覚えてないや。
「全ての修業を終えた祝いだ。遠慮せず食うといい」
「はい!」
鱗滝さんに言われ、ガツガツと鍋料理を頬張っていく。
美味い……禰豆子にも食わしてやりたい。……いつか一緒に。
そう思いながら、次々とお代わりをし、あっという間に食べきってしまった。
その後、髪が随分と伸びていたので、鱗滝さんに切るように言われたので、何となくの感覚で髪を切っている。手鏡が欲しいなせめて。
「なぁ炭治郎。鍋はうまかったか?」
「そりゃもう。あんな美味しいご馳走は久しぶりですし」
本当に久しぶりだった。二年間の間の生活でもあんな料理は滅多に出てこなかったし、前世でもあんな料理はあんまり食べなかった。
「お前のような食べ盛りは、食った分だけ力もつくし、体は大きくなる。だが、それは鬼も同じ。覚えておけ、基本的に鬼の強さは、人を喰った数だ」
「人を喰う数……」
「そうだ。力は増し、肉体を変化させ、怪しき術を使う者も出てくる。お前の気配を察知する力も、より極めれば、鬼が何人喰ったかわかるようになるだろう」
マジか。
そういや、最近この気配察知能力がドンドン強力になってる気がしたけど、成長してたのか……。
すると、鱗滝さんが狐のお面のようなものを俺に渡してきた。
「これは?」
「厄徐の面という。お前を災いから守るようにと、まじないをかけておいた」
その面は、錆兎や真菰が被っていたものと、作りが同じだった。
壊さないようにしよう。
そして翌日。
俺は鱗滝さんにこの日に合わせた服と日輪刀を借り、それらを身につけ、禰豆子が眠る部屋へと向かう。
「禰豆子……絶対に生きて戻ってくる。こんな序盤でくたばったりはしないからな」
答えが返ってくるはずはない。分かってはいても、言わずにはいられなかった。
「……頑張って」
「⁉ ……あぁ!」
ただの寝言だろう。でも、十分に元気を貰った。
「妹の事は心配するな。儂がしっかり見ておいてやる」
「はい! お願いします!」
一礼し、俺は軽くジョギングの感覚で山を下りる。
振り返りはしない。必ず戻ってくる……また会うのだから、今は、必要はない。
「行ってくるよ。錆兎、真菰」
刀が折れても岩を切る演出は一度やってみたかったんです。
どっちがいい?
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