風と共にあれ   作:ネマ

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十香デットエンド:裏

 

女神は盤上を見て小さくため息を付きます。

 

シナリオ通りに"王国"は封印され、次は"慈悲"の所まで来ました。

 

更なる精霊を"彼"に当てても良いですが、そうすると彼に全ての秘匿がバレてしまいます。

 

女神は少し考え、白いコマを2つ動かします。

女神が産んだ神の子であり、そして忌むべき子です。

 

"片方"はスペアとして機能していますが、もう片方は特に大きな役割は持っていません。

 

女神は少し小さめの片割れのコマを転がし、相手の陣地に置きます。

 

女神は一応は安心しますが、それでもまた心配が残ります。

女神は手元に有るコマに力を込めます。

 

(……………■■。)

 

確かに、女神様はこの単一宇宙下ならば最強と呼べる存在ですが、彼には敵いません。

彼が一度法則を流せば、自分なんて簡単に砕け散る事を知っています。

 

それに、彼にとってどんな小細工は簡単に砕けてしまいます。

彼に興が乗り、放置してもらわないと、今まで作り上げた策なんて一瞬の内に解体されてしまいます。

機械仕掛けの神も、■■も何もかもあの"超越者"には効かないのです。

 

それゆえに、女神様も完全に策を作り上げます。

彼を必ず■■為に。

今度こそ逃がさない為に。

その為には、あらゆるもの全てを利用することすら厭わない。

 

必要以上に力がこもってしまった手元の駒を見て、やってしまったなと言う雰囲気と共に、手をフィールドに翳します。

その刹那、力の込めすぎた駒はいつも通りになり、女神様は一安心。

 

ただ……女神様が知らず知らずの内に触れてしまったフィールドが今後どうなるか。

それはこれからのお話です。

 

 

 

 

 

 

 

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[フラクシナス]特別通信室

 

指令である琴里以外入ることが許されない特別通信室において知謀と策略のお時間が始まっていた。

 

「以上です。」

 

『成る程。まさに彼の力は本物だと言える……か。』

 

『そして同時に古き術を扱えるなど素晴らしい。』

 

口々に少女を誉める。

そこに置かれているのはチェシャ猫のぬいぐるみやら熊のぬいぐるみであるが、その奥。

 

琴里に話しているのは"ラタトスク"のトップとも言える方々。

〈フラクシナス〉の指令である琴里で有ってもその姿は見ることが叶わなかった。

それでもその声は、権力は本物である。

 

「恭夜ならできると言ったでしょう?」

 

『ああ。確かに。』

 

『だがあれだけではあまりに信憑性に欠ける』

 

上層部に恭夜として伝えられた情報は2つ。

 

・自己蘇生能力

・精霊の力の封印

 

この2つである。

確実な裏取りがとれているわけでもなく尚且つ、単騎で世界と戦争出来る怪物だ。それの力を封印出来るなどにわかに信じがたいことだった。

 

それに、今まで隠されていた恭夜の秘密は上層部にとってとても素晴らしい事であった。

 

『だが"古の術"を使えるのだと言うならば』

 

『うむ。対応を考え直さねばならん。』

 

「?」

 

琴里の頭の中では?が浮かんでいるが、次の上層部の一言に琴里は静かに驚愕した。

 

『やはり封印指定が必要かの?』

 

そこまでする必要は無かろう。

だが今反逆等起こされたら次こそ壊滅だろう。

性格は魔術師にあるまじき善良。

いやしかし必要があれば。

そう騒ぎ立てる周囲を尻目に、一番前の偉いヒトらしい声が重々しく伝わる。

 

『……古の術を使う。それはこの世界ではもう失われた技術である。』

 

『さよう。だがあの少年は確かに"ルーン"を使っていた。』

 

一切のラグ無く、さらには超高等技術である"圧縮詠唱"まで行われた。

この世界には、古き神代の息吹きは喪われ、"魔術"に変わる機械まで現れた。

この時点で、神秘は非常に黎落し、"魔術"と呼ばれる代物ははるか昔の話になってしまった。

 

その名かで尚、昔の技術を使いそれでいて"色位"であってもおかしくはない。

……未だに彼の全貌は掴めていないが、もしあの暴走した時に更なる技を使っていれば、"冠位"が与えられていてもおかしくはなかった。

逆に裏を返せばそれほど危険なのだ。

猛獣が檻に入らず町の中で腹を空かせているというレベルですら生易しい。

 

『……逆に懐柔するか?』

 

使う術がどの様な物であれ、古き術を扱うものならばその血を取り込みたいのは日本の者だけではない。

古くからの魔術師の総本山"イギリス"に残る魔術師だってそうだし、北欧の上の方もそうだ。

 

「待ってください。」

 

琴里にとっても今回の事態はあまりに希な出来事過ぎる。

と言うか希と言うレベルではない。

何気なく上に提出したこういう力が有るみたいですよ。そしてそれをこういう様に使ってましたよ。と簡易的に纏めただけなのだ。

だと言うのに、いざ蓋を開けてみれば封印だとか色々と親しい兄が人権すら無視された扱いをさせられそうになる。

 

ここで琴里は一つ大きな間違いを犯してしまった。

自身が精霊で有ること、そしていつも関わっている異常が精霊と言う文字通り人智を越えた存在を相手にしていた事が問題として浮き彫りになった。

 

「そうすると………」

 

具体的に言うと、琴里は凄く頑張った。チョー頑張った。

ただでさえ、精霊は感情の振れ幅が人間より大きいのにここでまたやんごとなき事態が発生したとなるとすべてが水の泡だ。

……只でさえ、色々と精霊の対応も有るというのに。

 

『確かに一理有るだろうな。』

 

最終的に無期限延長となった話だったがその変わり、この場所に彼を連れてくることを約束させられた。

……何故だろうか。始めからそれが目的の様に感じてしまうのは。

 

 

 

 

 

 

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「………………………」

 

未明。恭夜は一人レポート用紙片手に深く考えに潜り込んでいた。

 

(精霊の存在)

 

そもそもこの世界では確かに存在していたはずなのだ。

自然の触覚の"本当の精霊"が。

だというのにこの世界には、"デミ・フェアリー"いわばヒトから変異したであろう精霊をしか知覚した覚えがない。

 

(………英霊召喚システム)

 

過去の英雄を現世に止まらせるあらゆる願いを叶える願望機。

"聖杯戦争"。

……とは言っても原点の杯の出来損ないで叶えられる願いなぞ高が知れている。

不老や、あり得ないほどの富。

そして霊体の受肉。

出来てその程度だろう。

"歴史改変"などパラドックスに引っかかる。

行えるのは…きっと"あれ"と"月の観測機"位だろうか。

 

話は逸れたが、結局は"契約"と言う側面では広く見れば同じだ。

それが霊体か肉体か物言わぬ武具かの些細な違いは有ろうともそこに違いはない。

確かに契約は行われた。行われたのだ。

だというのに違和感が激しい。

違和感が有るというのに上手く思考が纏まらない。

……どう考えても何かが掛かっている。

おかしい。おかしい。

魂が侵食されている訳でも何か宇宙の果てから蛸だかなんだかが干渉してきているわけでもない。

 

……そもそもおかしいぞ。

この計画には五河士道だけでも良かった筈なのに。

女性同士になるが基本どこでもよくある事だ。

だというのに私が駆り出される理由………わからん。

いや。理由が思い付きすぎて分からない。

 

「……質問。起きてますか?」

 

「ああ。起きてるぞ。」

 

どうやら夕弦が部屋を訪ねてきたらしい。

書きなぐったレポート用紙を机にしまい、ドアを開ける。

何時ものような普段着や精霊時の礼装ではなく、いつもの青色のネグリジェを着て私の部屋に現れたらしい。

どうにか慎みをもって欲しい物だ。

夜分にこうして一人で男性の元に現れるなど、時代と地域によってはお誘いの様にも聞こえるぞとは胸に流し終えた。

 

「どうかしたか?」

 

「本題。…きっと分かっているんでしょう?」

 

「それはお前たちが一つの精霊という事か?」

 

声もなく頷いた夕弦を見て、成る程なと思った。

こいつらの存在はそもそも一つの存在。

オリジナルから派生した別側面……アルターエゴだけが動いている状態だ。

とは言っても月のお人形ほど破綻しているわけでもなく、ただどちらかがオリジナルに近いかを争って今だ。

 

「恐怖。こわいのです。」

 

夕弦は静かに語る。

今の幸せのせいで何もしたくなくなるかの様な幸福感に溢れること。そして、恭夜に嫌われたらエラーしか吐き出さなくなるこの心に心底夕弦は恐れているのだ。

 

「成る程ね…………」

 

人形が愛という物を学び始めた。

これはもう私の手には負えない。

月のお人形よりは出来が良いが所詮同じ穴の狢だ。

結局は感情を薪に自壊しながら死にむかうお人形風情。

わざわざ自分から沈むと分かっている泥船にのるバカは居ない。

 

天使と呼ばれる礼装が"風"を司るから丁度良いかと調整を掛けたのが不味かったか。

あの時放置していればきっといずれかは自滅していただろう。

それはそれでも良かったな。

あの時の自分は素体はこいつら以外に居ないだろうからと面倒を見ていたが、〈フラクシナス〉だったか?あれに関わるならもっと大量のサンプルが手にはいるだろう。

適当な所で流すか。

あとは勝手に競い合い、自滅するだろう。

 

ああ。そうそう。自滅した時一体どうなるかだけは把握しないと。

結局あれは結晶が作り上げた別側面なんだからそれが砕けた際結晶に吸収されるのか果たして、魔力として世界に霧散するのか。

……前者が大穴だな。

 

「………大丈夫。きっとあの時運命を踏み越えた君ならね。」

 

魔術師と無垢な天使は笑い合う。

ただ皮肉なことに魔術師はもう天使の事などすでにあたまに無かったのだから。

 

 

 

 

 

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「……はぁ……」

 

五河士道は一人静かに横になりながら思案に更けていた。

士道にとって恭夜のその何かは多少は感づいてはいた。

兄のようで、片親のようなそんなヒトだった。

それはどちらかと言えば"信仰"に近い。

 

(今日は特に色々と合ったなぁ…)

 

きっとそうなのだ。

彼から"魔法"の説明は受けているが、それでも半信半疑だった。

きっと私がそれを美しいと思ったのは恭夜が暴走した時。

すべてが燃え尽きるかの様なそんな暴虐。

きっと私のこれは憧れだ。

確かに圧倒的な暴力は時にどんな美しさを圧倒したのだから。

 

「……精霊……かぁ…」

 

恭夜と私にしか無い才能。

"精霊封印能力"。

きっといずれは私もその能力を使わざる負えないだろう。

その時にしか分からないだろうけどそれでも恭夜の意味になりたい。

……今日は色々と有った。

ゆっくり休むぐらいは許されるだろう。

 

士道は最後まで気がつかない。

その瞳が一部赤く光っていたことなんて。

 

 

 





[キャラ紹介]

時雨恭夜

死なずの怪物。
肉体が一時的な死を迎えようともその魂が安泰を得ることは出来ない。
それは不死殺しの剣や御業でも不可能だった。
神代のさらに前。
今だ亡き創世の神々が覇権を争う時代から彼は記憶を繋いでいる。
同じ時代の平行世界等にも生まれることが有るから実際の年齢は把握し切れない。

それに従って、魔法や魔術。
さらには仙道やその他諸々の実力はほぼトップ。
"祝福"によって水に纏わる全ての事で上に立つことも出来るという祝福もかね揃えている。
実際に、すぐにでも自身の法則を押し流して今の法則を塗り変える事も可能だが基本的にはしようとはしない。

そしてどれほど温厚に見えようとも彼の本質は"中立"だ。
彼にとってすべては下で有る。
簡単にいうと悪平等。
その為、何度かnice boatされた事があるらしい。
そりゃ救うだけ救って放置は惨たらしい。

五河士道

tsさせる意味とは……
と深く考えたがやっぱり可愛い方が良いじゃない?
原作の士道と同じで"精霊封印能力"と"蘇生能力"は健在。

特に士道とは関係ないが…
神の血と肉と存在を与えられた物も聖遺物とも言えるだろう。

八舞夕弦

有る意味被害者。
風を司る天使の片翼。
作者からの寵愛という最高位の祝福を得ているが故に茨の道が確定している子。

心を知り、半身を分かった。
その手伝いを行った少年に依存の域で信仰を抱く少女。
八舞テンペストがモード:ウルトラナイトコアになりました。



[次回予告]

「あれが精霊"ハーミット"よ。」

「………望まれることを望むように行う。」

「どうしてだ…?きょーや。」

「………せめて。私だけでも"人間"として彼を支えたい。」

「警告。」

「良いだろう。もはやこれは懲罰ではない。」

―――――処刑だ―――――

次回。四糸乃パペット


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