エンブリヲの決意~クロスアンジュ 天使と竜の輪舞tr.~ 作:はならむ
原作:クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
タグ:R-15 クロスアンジュ 天使と竜の輪舞tr. クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アウラ エンブリヲ きれいなエンブリヲ 独自解釈 ネタバレ注意
キャラの性格や台詞がブレブレかもしれないですがもし良ければどうぞ。
――ミスルギ皇国。それは最もマナの光の恩恵を受ける神聖なる巨大国家。その中心部にある暁ノ御柱(あけのみはしら)と呼ばれる最高機密区画。奈落とも言える遥か地底に伸びる巨大な柱の最深部。思わず吸い込まれそうな巨大な空間に黒い礼服を着た気品溢れる細身の男性がいる。
「やあアウラ。ご機嫌はいかがかな?」
彼の名はエンブリヲ。その甘いマスクに隠れた得体の知れぬ雰囲気を持ち不敵の笑みを浮かべるこの男――この世界の創造主にして自ら「調律者」と名乗る人物である。そんな彼の前にいるのは全長百メートルは裕に越え神々しい光りにまばゆく純白の巨大な竜の姿をした異形の怪物。その周りには無数のパイプが巻き付くように繋がれており拘束されているように見える。まるで何かを絞り取るように――彼女の名はアウラ。「ドラゴン」と呼ばれる別の世界に存在する種族の始祖である。
『エンブリヲ……この私に何か用ですか?』
「君に重要な話がある。聞いてほしい」
人間ではないものの猜疑心丸出しだとすぐに分かる怪訝な表情でエンブリヲを見つめるアウラ。そんな彼もすぐに神妙な顔となり口を開く。
彼曰く、近い内にこの歪み切った世界をリセットするために行動を起こすということ、そのために必要なことなど彼女に全てを話す。
「――というわけだ。世界の修復に君の力が必要になる。どうか力を貸してくれないか?」
彼の頼みに彼女は間を置き、こう言い放つ。
『まさかエンブリヲがわたしに頼みに来るとは正直心外でした。当時、あなたは確かにドラグニウムの発見にしてそれをエネルギーとしての実用を確立させた、並外れた頭脳を持つ世紀の天才科学者と呼ばれていた。しかしそれ以上に自分勝手で決して自身の行いを決して省みず、そして他人に対して気遣いなどなく無関心だった』
「……何が言いたい?」
『私はあなたがこれまで行った数々の所業を知らないとでも?
かつて世界大戦の影響でドラグニウムに汚染された地球に適応するため遺伝子の改造を施してドラゴンと化した私が、ドラグニウムを摂取するとマナと呼ばれるエネルギーを生み出すことを知る否やあなたは「私の世界のエネルギー不足が深刻だから是非とももうひとつの地球に来て、力を貸してほしい」と』
「…………」
「私は悩んだもののあなたの誘いに乗って本来の故郷である地球を離れ、このもう一つの地球に留まりこの『暁ノ御柱(あけのみはしら)』と呼ばれるドラグニウム反応炉の動力源として組み込まれた。
ドラゴン族の反対を押しきってまで来たのはこの星の人々の為になるならば、と――しかしあなたはそれを悪用し、私達の地球はおろかこの世界、そして生きとし生ける者全てを弄び、大混乱に陥れ、そして死に追いやった。私はそんなあなたの言葉をすんなりと信用できると思いですか?』
「分かっている。だから私はプライドを捨ててまでこうして協力を得るため君に頭を下げに来たのだ。世界の正しき方向へ修復するために」
『今更になってなぜそのようなことを?それとも他に何か目的が?』
その問いに彼は黙り込んでしまう。が、
「……ケジメをつけたいと思ったからさ」
『ケジメ?』
「私はこの別次元の地球を見つけて人類の再建を試み、君の力を借りて今の世界の基礎を造り上げ、調律した。このまま人間達はマナの光の恩恵を受け、輝かしい進化を遂げると、新しい未来を築けると信じていた。
しかしそこにあったのはかなり歪な世界だった。君を奪還しようとドラゴン達はすさまじい執念を持ってマナに干渉できるように遺伝子の改造を繰り返し、次元を越えて人間を襲う。
そこで私は想定外のノーマの出現を利用してドラゴンと対峙させるようシステムに組み込んだ。
何が何でも人類の進化を止めてはならないと、私は心を鬼にしてノーマの犠牲もやむ無しと。
だが人類は私の理想から外れてマナの光に満足して自ら進化を止めてしまった。どれだけ調整を施したところで何の意味もなさないと分かってしまった。もはや人類はゆっくりと衰退して滅びの道を歩むことになるだろう。さらにそれまでノーマとドラゴンの果てしない闘いは終わらない、これからも多大な犠牲は避けられないのは必須だ」
『…………』
「君をドラゴン達に返すことも考えたがそれではマナの供給が一気に断たれることになる。そうなれば人間側に甚大な被害を被るのは確実になる。これ以上、私の手にも負えなくなってしまった、我ながら情けない話だ」
『そこでエンブリヲ、あなたと私の力を使って世界の修復を試みたいということですか』
「そうだ。二つの可能性を生み出した地球同士を収斂し、再構築を図る。もし上手くいけばドラゴン、人間、ノーマという区別がなくなり、マナの光を必要としない本来あるべきだった平和な世界に戻るはずだ」
『……確かに今の状況を鑑みるとそれが最良に思えるやもしれません。しかしそれは今存在する全ての生物の現実を最初から塗り替えることになります。果たしてそれが本当に良いことなのかどうか……』
「ただ何から何までリセットするわけではない。今生きている者全てはそのままで世界だけをリセットする。流石に記憶までは保障できないが――」
『だからと言って、自分の都合で勝手に世界を、命を造り出しそれらが手に負えなくなったからまた最初からやり直す――本当に傲慢でとことん救いのない人ですね、あなたは』
「……そうだな。私のこれまでしてきた行いは到底許されるものではないと自分でも分かるし世界の修復をしたところでそれが免罪符になるとも思っていない。
だが、私はこの世界を創造した調律者としての責任がある、そのケジメだけはつけたいと思っている。だから頼む、どうか力を貸してくれ!」
必死に頼み込むエンブリヲからは責任と悔み、そして決意を感じ取れる、彼女が今まで見たことのない思い詰めた表情であった。
『……それにしても、あなたにも良心の呵責というものがあったのですね。それだけでも驚きです』
「まったく、本当に自分でも信じられないよ。まさかこの私が世界の、人の為を思って動くようになるとはね。正直言って複雑な気持ちだ。だが――それもいいとも思っている。これもナオミのおかげなのかもな」
『ナオミ?』
「私に協力してくれると故郷アルゼナルを捨ててついてきてくれた乙女達の一人だ。誰に対しても優しくて、呆れるくらいに前向きで……本来、ナオミはドラゴンの襲撃で死ぬ運命にあった。私はいつものことだと彼女を見放す気だった。しかし彼女はなんと生き延びた。
私はナオミの生き残る確率を計算したがそれは何の意味もないことが分かった。私の敷いた運命のレールから外れて自らの力で生を手にいれたのだ。
それからかな、私は運命とは変えられるものだと知り、更に自分のやり方に疑問を持ち始めたのは――そしてそれが全て的中することになった、私が全て間違っていたのだ。
だから、それを見せつけられたからには私も本気で動かなければならない。彼女達の、いや世界の為に何としてでも良い方向に変えなければ。それに………もう嘘はつきたくないんだ、自分にも、彼女達にも、そして……君、いやこの世界に生きる全ての者にも!」
『あなたをそこまで突き動かしたナオミという娘は一体……』
「そこでもう一度君にお願いをする。もし今の私のことを情けないと思うならいくらでも思うがいい。軽蔑、罵倒したいのなら全て受け入れよう。それでもだ、私は世界を、人々を救いたい、そのためには君の力がどうしても必要となる。アウラ、頼む……!」
冷酷無比、唯我独尊、傲慢不遜の権化であるエンブリヲが苦渋の表情を浮かべて頭を下げて懇願している。恐らく今の彼の崇高なプライドはズタズタとなっているだろう、屈辱以外の何物でもない。
常に決して他人を省みず、自分さえ良ければいいという良心など一欠片もないと思われたこの男が調律者としての責務、後悔、そして良心の呵責に苛まれ、それでも世界のためになるならと、ぐっと堪えて心を入れ換えようとしている。
もし本心でなく嘘ならすぐに見破れるアウラだが偽りの言葉でないのが分かる、間違いなくエンブリヲの本心である。彼女は彼の「決意」をしかと受け取った。
『……エンブリヲがそこまで思い詰めてるのなら、私も動かないわけには参りません。わかりました、あなたに喜んで協力しましょう』
「アウラ……」
『我が子供達であるドラゴンの民の犠牲をこれ以上避けるために私も身体を張らねばならない時が来ました。エンブリヲだけに全てを押し付ける訳にいきませんから。あなただけでなくこのような事態に発展させた私達旧人類にも責任があるのです』
「すまない……本当にありがとう」
彼女の言葉で救われたのか先程まで苦渋に満ちた彼の顔は柔らかくなり、爽やかとも言える笑みとなっていた。
『……ただ、気がかりなことがあります。私が最後の次元回廊を開くと恐らくサラマンディーネ率いるドラゴンの大軍勢が私を取り戻そうと押し寄せてくると思います』
「それだけではない。私を殺してリベルタスを完遂するためにアレクトラ率いるアルゼナル勢も一気に攻めてくるだろう。
私はそれを知った上で一人でも多く力になってくれないかと、アルゼナルで復旧も兼ねてアレクトラを含めて会談、協力を要請したがほとんどが賛同してくれるどころか私を罵倒、軽蔑し、拒絶した。
仕方ない、アレクトラにはこれまで散々酷いことをしたし、私か彼女のどちらを信じるかといえばアルゼナル側は絶対にアレクトラを選ぶだろうからそうなるのは大体分かっていた。
しかしそれでも私を信じてアレクトラを裏切り、アルゼナルを捨ててついてきてくれた子達がいた。ナオミ、サリア、クリス、エルシャがそうだ」
『しかしそれだけではいくらあなたでも厳しいのでは?』
「このミスルギ皇国の、アンジュの妹君であるシルヴィアは私に協力してくれる。だが、確かにそれだけではこちらが圧倒的に戦力不足となるだろう。
それに恐らく向こうの地球に行っているアンジュ達はドラゴンの姫君達から私達のことを含めて全てを聞かされているだろうからアレクトラ側に付くのは目にみえている。尚更こちらに分が悪い。
せめてアンジュが私の目的を理解し、加担してくれるなら頼りになることこの上ないのだが期待はしないほうがいい。それに――」
『それに……?』
「先程ナオミ達にも全てを話した。その上で本当に私に協力してくれるかどうか数日の間に決めるよう選択肢を与えた。彼女達は正直言って渋い表情だったからもしかしたら全員が私から離反することも充分ありうる。できれば協力してほしいが、それは彼女達にとって本当に自分のためになると思えた場合の話だ。私からはもう無理強いできないししたくない」
『それはつまり――』
「最悪の場合、シルヴィア、いや私一人で全て対処しなければならなくなる。いくらなんでも正直無謀だな、私が不死身だとしてもだ。
それに万が一、世界の修復に成功したとしても代償として私の身に何が起こるか分からない。下手をすれば私は消滅するか良くても次元の狭間に閉じ込められて永遠に出られなくなる可能性が高い。それらの点を踏まえて世界の修復が成功する確率は……限りなく低いだろう」
――その事実を聞き、アウラは次第に何かを気づき、唖然となる。
『エンブリヲ、あなたはもしかして……っ』
「長い事、1000年以上好き勝手に生きてきたがもはや私の命運もこれまでかもしれない。だが覚悟の上だ、それでもやろう。
成功すればそれでよし、もし失敗したとしても君は心配いらない、無事ドラゴン達の元に返還されるだけだ。リベルタスが成就されても私の造り出した人間達のことだ、マナの光が無くなっても上手くやっていけると信じている。
どの道に転ぼうともそれも定めだと思えば悔いはない。ナオミが私に運命は変えられるものだと教えてくれた、なら私もそれに習い一片の望みに賭けてみたい。それだけの価値はある!」
彼は「死」を覚悟している。世界の修復のために自分はどうなっても構わないと――これまでポーカーフェイスを貫いてきた彼からは今まで見せたことのない、揺るぎない信念を持った真剣な男の顔そのものであった。
『エンブリヲの覚悟と決意を知ったからにはわたしも最早迷いなどありません。あなたの目的が達成できるよう全力を尽くしましょう』
互いのわだかまり、因縁を乗り越えてついに意気投合するエンブリヲとアウラ。見つめ合う二人からは揺るぎない信頼を確かに感じられた――。
(ただ……やはり不安なのも事実だ。正直、アウラの言う通り世界を修復するのが本当に正しいことなのか悩むことがある。99%は心に決めている。だが残りの1%が迷いを生じさせている。なんでもいい、私の背中を少しだけでも押してくれるきっかけがあればよいのだが――)
世界の修復――これから起ころうとしている大事に向かって彼らは新たな一歩を踏み出す。
たとえそれが厳しい茨の道になろうとも、少しでも希望があるのならそれに賭けてみたい、かつてナオミが自身の死ぬ運命を覆したように――それが十字架を背負ったエンブリヲの決意であった。
アニメではエンブリヲがアウラを強奪したことになっていますがこのルートだとアウラを招き入れたと言っていますので、もしそれが本当なら恐らく合意の上だったのだろうという解釈で書きました。
あと、もしかしたらブリヲとアウラは実は元同僚、または研究員仲間だったのかなとも思っています。それで戦争後に荒廃した地球に残るか、地球を捨てて新たな星に移住するか、もしくは再建するかで派閥が出来て、口論になり決別したのではないかとも思っています(あくまで自身の想像ですが)。
このルートのエンブリヲはアニメ版、ゲームにおけるドラゴン、リベルタスルートと比べると(良い意味で)別人です。作中の所業を考えれば彼のことを嫌い、死んで当然だと思う人は沢山いると思いますが個人的にこういう世界線のブリヲがいただけでも正直嬉しかった思いであります。