強いぞ!一夏君! 作:じょんそん
そんな気持ちで書いてみようと思いました可能な限りストレスフリーで健康的なISです。
駅のホーム、一際目立つ姉弟がいた。姉は社会人なのかスーツを、弟は学生なのかそれなりに目立つ白い制服だった。知っている人間ならば弟が身につけているソレが本来女子のみしか着用を許されないものであると気付く事だろう。そして姉が世界的に有名な人物である事にも。
「本当に大丈夫なのか?向こうでは一人ぼっちと言ってもいいんだぞ?私は助けてやれないんだぞ?」
「千冬姉は心配しすぎだよ。それに、俺は俺でうまくやっていくから」
駅まで見送りに来た姉の心配げな顔に弟は笑みを返す。彼からすれば普段は厳格で誰にも笑顔を見せない家族の不安げな表情は新鮮なものであり、これからへの言いようもしれぬ恐れをほんの少しだけ打ち消してくれた。
『まもなく、モノレールが到着します』
「ほら来たよ。俺もう行くから」
「何かあったらすぐに言えよ。お前に傷でもつけようものならそいつを……」
「ははは、さっき助けてやれないって言ったばかりじゃないか」
今にも泣き出しそうな姉に「大丈夫」と念を押して弟はモノレールに乗り込んだ。座席に座りホームの方を見やると姉が顔を真っ赤にして今生の別れだと言わんばかりに手を振ってきている。
一緒に乗っている姿が見られるとまずい、という事で別々の時間に乗る予定だったのだが我慢出来ずに姉は追いかけてきてしまった。対策した意味がないな、と弟は苦笑いしながら手を振りかえしてやった。
間も無くしてモノレールが発車した。既に車両内にいる女子生徒達は弟を物珍しそうに席の影から窺ったり、聞こえていないつもりなのだろうがそれなりの声で噂話をしている。
(珍しい、のもまぁ仕方ないよなー。俺珍獣だもん)
今から向かうのは男子禁制の百合の園。本来ならば彼とはなんら関わる事のない場所である。
姉には気丈に振る舞いこそしたが、正直に言えばこれから自分はどうなってしまうのかと不安であるし、姉に助けを求めたい気持ちも確かにある。
けれど彼は、織斑一夏はこう心に決めていた。姉とは関係が無い一人の人間として、立派に振る舞ってやろうと。
「ちょっと、よろしくて?」
不意に名前を呼ばれ窓から目を離すと、気品漂うブロンドの女子生徒がこちらを見下ろしていた。何処かで見た事があるぞ、と一夏はしばらく整った小さな顔を見つめて、
「イギリスの、セシリア・オルコットだっけ?」
「ええ、そうです。よくご存知で」
名前を聞いておぼろげだった記憶が鮮明なものとなっていく。IS関連で何かしらの雑誌の特集を組まれていて、その時にちらりと目にした事があった。忘れずに覚えていた自分自身を一夏は褒めてやる。
「座っても?」
真向かいの席を指差すセシリア。「どうぞ」と返すとこれまた優雅に腰を下ろし、こほんと咳払いを一つした。
「改めて自己紹介させていただきます。イギリスから来ました、セシリア・オルコットです。貴方は織斑一夏さんですわね」
「ああ、そうだよ。日本語、上手いんだな」
「ありがとうございます。自分がお世話になる国の言葉くらい覚えておきませんと……」
セシリアは上品そうに微笑んだ。てっきり『他の人』の様につんけんとした態度で話しかけてくると思っていたものだから一夏は思わず目をしばたいた。
とにかく行儀が良い。声色は優しげであるし、自然と口元が緩んでいた。
「ああ、すみませんわたくしったら挨拶に気を取られてしまって。織斑さん、これから大変でしょう? わたくしで良ければ色々とお手伝いをしてあげたいな、と」
「え? 手伝いってそんな……」
「簡単に言いますと、お友達になってくださいな」
おもむろにセシリアが右手を差し出す。今度こそ一夏はぎょっとしてセシリアの顔と手を交互に見比べてしまった。
波乱に満ちた生活が待ち受けていると思っていたのだが、案外出だしは良いものになりそうだ。こんなに優しい少女がいるだなんて思いもよらず一夏はしっかり右手を制服で拭い、握手をすべく手を伸ばそうとし、
「オルコット、随分と手を出すのが早いんじゃないか? まだ初授業どころか入学式も始まっていないんだぞ」
敵意丸出しの少女の声に踏みとどまった。敵意、いや殺意と言っても良い。それだけ強い語気なものだから思わず萎縮してしまったのだ。
セシリアの背後、ポニーテールの女子生徒が刃物の様に研ぎ澄まされた眼光を携えて立っている。その威圧感ときたら一夏は腹の底から「ぎゃっ」と悲鳴をあげたくなった。けれどセシリアは背中に突き刺さる視線など何処吹く風、涼しい顔で振りかえる。
「……篠ノ之箒さん。そんなにしかめ面でいると皺が残ってしまいますわよ」
「その時はお前のせいだな。男に粉をかけている暇があるならさっさと行け」
「もう……ごめんなさいね織斑さん、それではまた後で」
可愛げたっぷりにウィンクをし、セシリアは席を離れていった。交代する様にポニーテールの女子生徒、篠ノ之箒はどかりと席に座り、大袈裟に溜息をついてみせる。
「初日から面倒な手合いに絡まれたな。仕方の無い事だが……アイツに何か渡されたりしていないだろうな
?」
「少し話して挨拶しようとしただけだよ。というか箒、やっと会えたのに第一声がそれか?」
一夏が口を尖らせると箒はほんの少しだけ顔を赤らめた。言われてようやく気付いたのか、しばらく黙り込んでから「すまない」と呟く。五年ぶりに再会した幼馴染みは以前と変わりなくぶっきらぼうで、一夏としてはありがたかった。
箒とは親の都合で三年生の時に別れたきりだった。それからはしばらく音信不通で、一ヶ月ほど前にようやく連絡が取れた次第である。
「で、だな。あのセシリアという女には近付かない方が良いぞ。奴はフランスの女狐などと噂されていてな、粉をかけられた男は一人残らず不幸になるという……おおかた、お前の姉さんに取り入る為に近付いたに違いない」
「そういう陰口良くないし、そういう箒は見たくない。もっと明るい話をしようぜ」
「む……」
箒はまた口をつぐみ、「確かにその通りだが」「いやしかし私はお前が……」などとぶつぶつ呟き始めた。その妙に意気込んでいる様子が一夏には不思議で不思議で仕方が無く、?と首を傾げてしまう。
彼の知っている箒は生真面目で頑固なところがあったが、今は何かに焦っている様にも取れるのだ。
「……あ」
そうこうしている内に、モノレールは目的地へ到着しようとしていた。
モノレールが通る路線以外、外界から隔絶された島。それが一夏の向かおうとしている学び舎、IS学園である。