リスタートで世界最強   作:ダマカッス

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第一章
コナタ君、プロローグですよ


 ──月曜日。それは誰もが逃れられない恐ろしい奴の名である。

 

 少年──南雲コナタが微睡みながらそんな認識をしていると、布団がゆっくり何者かにはがされる。

 目を開けた先には、ナチュラルボブカットの黒髪眼鏡女子。数年前から南雲家の一員として共に暮らす、幼馴染であり家族でもある少女、中村恵里がコナタの顔を覗いていた。

 

「やあ、おはようコナタ。はい、おはよーのちゅ~……ぅぶっ」

 

「残念ながら、当方おはようのチューは受け付けておりません。……おはよう恵里」

 

 挨拶ばりの軽いノリでキスをかまそうとする恵里に対し、コナタは慣れた動作で、枕元の本を手に取り自分と恵里の間に差し込んでそれ(キス)をガードした。

 

「もう……つれないなぁ……。ダメじゃないか、ちゃんと受け取ってくれないと。かわいい幼馴染女子からのおはちゅーを受け取るのは、幼馴染男子の特権であり義務でもあるんだから」

 

「すごい暴論を聞いた気がする。聞いたことねえよそんなの」

 

 一切の動揺も見せず普通に挨拶を返し身を起こせば、恵里が若干恨めし気に見つめてくる。割と無茶苦茶なことを言いつつ、可愛らしくむくれてみせる幼馴染に苦笑を禁じ得ない。

 

「ていうか毎度毎度、突然キスしようとしてくんのやめーや」

 

「それは仕方ない、発作みたいなものだからね。乙女心は時として猛禽類になるものさ」

 

「なにそれこわい」

 

 そんな朝の軽いやり取りを済ませると、「それにしても」と恵里が呆れ交じりに部屋を見渡すのでコナタもそれに倣う。

 視線の先には本、本、本の山。壁一面に設置してある本棚からあぶれた数百冊はあろう本が、部屋の床や勉強机などを侵食するようにうず高く積み上がっていた。なるべく邪魔にならぬよう纏められてはあるが、一山でも崩れようものなら部屋の中は大惨事待ったなしである。

 

「また随分増えたねぇ」

 

「増えちゃったなぁ」

 

「そんな他人事みたいに……」

 

 呆れ顔をさらに強め、視線と言う名の弾丸を浴びせる恵里。視線が突き刺さり心持ち居心地悪くなったコナタは、顔を明後日の方向に背ける。

 まるでイタズラがばれた子供か犬猫のような反応を見せる彼の仕草に、今度は恵里が苦笑を浮かべながら肩を竦めた。

 

「ま、コナタのビブリオマニア(愛書狂)は今に始まった事じゃないからね。でもなんとかしないと、また菫さんに怒られるんじゃない?」

 

「そーなぁ……。レンタルボックスをもう一部屋……いや、もういっそのこと家のどこかに図書室を増築した方が色んな無駄が省ける気も……」

 

「そこで手放すって選択肢が出ないのも君らしいよ……。それと、もし増築するなら、愁さんと菫さんの二人にはちゃーんと相談するように」

 

「わかってるさ」

 

 彼の頭に手持ちの本を減らすという考えは更々ないらしく、都合十部屋目となる倉庫を借りるか──それどころか家を増築する算段すら講じ始める始末。筋金の入った愛書家っぷりには、もはや呆れるやら感心するやら。

 

「ところで──」

 

 幾つかの案をどれが一番効率的か頭の中で整理していると、ふと恵里が表情を真剣なものに変え、話の転換を促してきた。なので一旦思考を止め、彼女の言葉を待つ。

 

「体調はどう? 今日は見たとこ大丈夫みたいだけど」

 

「ああ。問題ねえよ」

 

「……本当に~?」

 

 確認の言葉に答えて見せるも、恵里はコナタの言葉をすぐには受け止めず、目を疑り深く細め顔を見据えてきた。その目はさながら真贋見極めんとする鑑定士の様だ。

 それから暫し、納得できたのか表情を緩め安心したように微笑んだ。

 

「ん、だいじょぶそうかな」

 

「……いや、だからそう言ったろ? ったく、信用ねえの……」

 

「当然! 君には嘘をついた前科があるのだから!」

 

「……そうだっけか?」

 

「そうだとも!」

 

 自分の言葉をすぐには信じてくれないという、あんまりと言えばあんまりな恵里の態度に、ジト目を向け拗ねた様に唇を尖らせるコナタ。しかし直後にビシッ! と力強く指を指され論破されれば、掌返したようにすっとぼけてそっぽを向いた。

 因みに、微妙に責めるような物言いをしている恵里だが、その実言う程怒ってはいない。その証拠に、軽くため息を吐き「まったくしょうがないんだから」と間もなく頬を緩ませる。

 

「それよりほら、特に問題ないならそろそろ準備しないと! もう朝ご飯の支度はできてるから、隣の寝坊助さん起こして着替えたら降りてきなよ」

 

 恵里はすでに制服姿だ。この部屋には身の回りのこと含め、すべて片付け終えてから来たのだろう。行動にそつがなく頭が下がる思いである。

 

「マジか……。悪い、手伝わなくて……」

 

「ふふっ、僕が好きでやってることだからいいさ」

 

 ばつが悪そうに謝るコナタに、彼女はさして気にした風もなく楽しそうに笑い、足取り軽く部屋を出ていった。

 

 恵里が出ていくのを見届けた後、やってしまったと言うように頭を掻くコナタ。

 

「昨日は少し夜更かししすぎたな……。ネタがどんどん湧いてくるから、つい時間を忘れちまった」

 

 無類の本好きであると同時に、実は彼自身も“東雲彼方”の作家名で、中学一年時のデビューから現在まで多数のヒット作を生み出す新進気鋭の小説家だったりする。

 昨日はかなりノッていて、次々と湧いてくるネタを逃さぬようメモに書き留めていたら、かなりの時間が経ってしまっていたのだ。

 

 時計を確認したところ、時間にそこまで余裕はない。恵里の言う通り、あまりのんびりはしてられなさそうだ。

 

「ハジメー、起きろ~! 朝だぞー!」

 

「う、うーん……むにゃむにゃ……」

 

 こちらに身を寄せ気持ちよさそうに寝息をたてる、隣の寝坊助さんこと妹の南雲ハジメを起こしにかかる。しかし、呼べど揺すれど起きる様子はない。

 

「起きろっての。遅刻すんぞ?」

 

「……まだ、ねむ…………くぅ……」

 

「…………はぁ、仕方ねえ……」

 

 昨日ハジメは遅くまで売れっ子少女漫画家である母の作業を手伝っていたので、普通に起こすのはなかなか骨が折れそうだ。

 そう思い小さく溜息を吐くと、どこからともなく紙を取り出すコナタ。

 そして徐にそれをハジメの口許に近づけていく。すると、途中で紙が意思を持ったかのように彼女の口に吸い付いた。

 一見何の変哲もない──いや、実際どこにでもある紙なのだが、まるでガムテープを彷彿させるほどピタリと密着し、簡単には剥がれそうにないのが分かる。

 

「んで鼻も摘んでっと」

 

 口を塞いだ後に鼻も指でつまむことで、完全に呼吸をシャットアウト。

 

「く、ぅ……? ……ぅぐっ!? む、むぐぐぐー!?」

 

 そうしてすぐに息苦しさを感じたのか、ハジメがジタバタし始めた。口許に引っ付いた紙を剥がそうとするも、どうやら完璧に密着しているようで剥がれる気配はない。

 目が覚めたのを確認したので手を離す。同時に紙の方も、ハジメがどれだけ頑張っても剥がれなかったのが噓のように呆気なく離れた。

 

「ぷはっ! はぁっ、はぁっ……もぉお~~! ひどいよお兄ちゃん!! あんな起こし方!」

 

「いくら起こしても起きないからだろ」

 

「だからって()まで使う!? 鬼! 悪魔! 鬼いちゃん!」

 

「そこ鬼と悪魔だけで良くね? なんでわざわざ俺を加えたし。てかお兄ちゃんのニュアンス、なんか変じゃなかった?」

 

「気のせいだよ!」

 

「さいですか」

 

 ボクは怒ってます! とばかりに胸をぽかぽか叩いてくるハジメ。コナタは両手を高く上げ、されるがまま。

 しかし再度時計を確認したところで、いよいよ時間に余裕がない事に気付いた。

 

「って、そんな場合じゃねえって。そろそろ支度して飯食って出ないと、マジで遅刻しちまう」

 

「むぅっ! ……じゃあ、はい」

 

 まだ微妙に拗ねた様子のハジメはそう手短に言うと腕を広げ、何かを待つポーズをとる。

 

「アレしてくれたら許してあげる」

 

「……はぁ、ったくもう。この甘えん坊将軍は……」

 

 早く早くと期待を多分に含んだ目でせがんでくるハジメに、呆れと微笑ましさが四:六で混ざったような表情をして、彼女ご希望のアレ──ハグをしてやる。

 右手でゆっくり髪を梳くように撫でつけ、左手で背中をポンポンと優しく叩く。

 

「ん…………えへへ~」

 

 それだけのことでハジメの表情が半端じゃないほど蕩けだした。彼女の顔は、まさに今幸せの絶頂にいる、とでも言いたげな程ゆるっゆるだ。そんな顔をされては、こっちまでつられて頬が緩んでしまう。

 

「どうだ? 満足したか?」

 

「ん~……うん、満足! じゃあ、ボクも支度してくるね!」

 

「おう、そうしろ」

 

 どうやら満足したようで、ベッドを降り部屋を出て──

 

「あ、そうだ!」

 

 行こうとした直前、何かを思い出したのか立ち止まって振り返る。そんな彼女に、何事かと首を傾げるコナタ。

 

「おはよう、お兄ちゃん!」

 

 どうやら挨拶するのを忘れていた、ということらしい。目をしばたかせ、一、二秒キョトンとしていたコナタもすぐに表情を緩め──

 

「ああ、おはようハジメ」

 

 笑顔で挨拶を返した。

 今度こそ満足して、ハジメは自室に戻っていく。

 

 昔から変わらない妹のブラコンぶりに思わず苦笑が漏れる。まあ血が繋がってない上に、思春期真っただ中とも呼べる年頃になった今でも、変わらずお兄ちゃんと慕ってくれるのは兄冥利に尽きるというもの。だからこそ、つい甘やかしてしまうのだが。

 

「……ふぅ」

 

 自分以外誰もいなくなった部屋。静かに一つ、息を吐く。

 大好きな家族との、変わらない朝の一時を噛み締めることで、()()()()()()を無理やり流し去る。

 そうすることで、起床時から今まで、少しずつこみ上げてきていたモノ(不快感)を押し込んだ。

 

(ま、やらかしちゃいないんだから、別に嘘ではねえよな?)

 

 屁理屈じみた言い訳を心の中で延べ、しかし心配してくれた恵里には、やはり心の中で一言謝っておく。

 

「…………よし! 今日も一日、がんばるぞい!」

 

 気持ちを切り替えるようにお気に入りのアニメのセリフを口ずさんで、コナタは部屋を後にした。




ここでは本文で書けなかった補足を書いていこうと思います。
すまない…上手く本文に載せられたらいいんだけど、執筆力がお察しですまない……

南雲コナタ
身長:191cm
特技:速読、マルチリンガル

日も落ちかけた河川敷で、南雲夫妻が四歳くらいの少年が川を一人ボーっと眺めていたところを無視できず話しかけたのが始まり。
その後南雲家に養子として引き取られ、ゲーム会社社長の義父─愁と少女漫画家の義母─菫の影響でハジメと、後に家族に加わった恵里の三人揃って順調にオタクに育つ。
自他共に認めるビブリオマニアでオタクとして漫画やラノベはもちろんのこと、和書や洋書も問わず手を出している。様々な国の本を読みたいがためだけの理由で多様な外国語を全部独学でマスターしちゃったやべーやつ。
ただ、愛書家ではあるが本狂いというわけじゃなく、一番大切なのは家族と豪語しており家族との時間を最も大事にしている。不潔だと恵里やハジメに避けられたら死ねる自信があるため、身嗜み等もちゃんと気を払う。
本代やレンタルボックス九部屋分の代金は全て小説家としての稼ぎから充てている。
特技の速読は、本はじっくり読みたい派なので滅多にやらないらしい。
体はかなり丈夫な方だが、約二週間に一回のペースで起床時に体調を崩していることがある。どうやら睡眠時の何かが原因のようだが……

南雲ハジメ

お兄ちゃん大好きなブラコン。コナタには家族としての感情以外のモノも抱いてるっぽい。
一週間に一度、多い時は一週間まるっとコナタの布団に潜り込んでくる。一回それに関してコナタがやんわりと抑えるよう言ったところ、涙目上目遣いのおねだりにより間近で見ていた愁諸共鼻から溢れた愛に沈められ突破された。なお、彼女にあざとい行動を教えたであろう黒幕こと某売れっ子少女漫画家は、その様子を見て腹を抱えて笑っていたとかいないとか。
朝に弱い。

中村恵里

コナタとハジメの幼馴染兼家族。コナタによくキスを迫る。恵里もハジメ同様、コナタには家族以外の別感情を持ってるっぽい。それでもハジメと不仲な様子は見られない。
ある一件以降南雲家の養子に迎えられたが、南雲性は名乗っておらず、愁や菫のことも名前呼び。これは別に南雲家にマイナスの印象を抱いてるとかではなく、単に性や呼び方を変えるのはある目的を果たしてから、というのを自らに課しているからである。愁、菫もそれを受け入れ、その時がくるのを楽しみにしているようだ。
朝には強い方。
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