リスタートで世界最強   作:ダマカッス

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日常の終わりですよ

「……はぁ」

 

 学校まであと数分で到着、といったところでハジメが憂鬱気に溜息を吐く。

 もちろん今日が月曜日ということもあるが、今の溜息の理由は他にあった。

 

「あんま気にし過ぎても良いことないぞ、ハジメ」

 

「そぉそっ。チキン共の目なんて気にするだけ無駄ってものだよ」

 

 溜息の原因を知る二人が、ハジメに気遣いの言葉を投げかける。しかし二人ほど胆力のない彼女は、フォローの言葉にも複雑な顔を返すのみ。

 

「無理だよ……。ボク、二人みたいに図太くないもん……」

 

「図太いて……」

 

「ひどい言われようだねぇ」

 

 心臓に毛が生えてるのではと思う程気丈な二人を心底羨ましく思いながら、ハジメは少し先の未来を想像して再び溜息を溢す。流石にこの悩みばかりはどうにもならないので、二人して苦笑交じりに頭を撫でてやるぐらいしかできなかった。

 

 そうこうしているうち、学校に到着。緊張で委縮しているハジメの盾となるため、コナタ、ハジメ、恵里の順で扉を開け教室に入る。

 その瞬間、教室内の目が全て三人に注がれた。その目は一部を除き、お世辞にも友好的なものとは言えない。無関心ならまだいい方で、大半が侮蔑や畏怖など、負の感情が込められたものだ。

 中でも一際強い敵意の籠った視線をある一点から感じ、コナタはその方向、四人の男子が群がる場所を一睨みした。すると、鋭い瞳を返された四人組の男子は一転顔を青くし、すぐさま目を背けた。ついでに四人組程でないにしても、まだ睨んでくる他のクラスメイトにも軽く鋭い視線を返すと、こちらも揃って顔を背けた。

 敵意だけは一端な臆病者に鼻を一つ鳴らして、以降一瞥もせず歩き出す。後ろからハジメがコナタに追従するように、恵里は堂々と自席に向かう。

 

 もはや学校がある日の恒例ともいえる光景。ハジメの溜息の原因はこれである。

 そもそもなぜ彼等はクラスメイトに敵意を向けられているのか。

 

 その答えが彼女だ。

 

「南雲君、ハジメちゃん、恵里ちゃん、おはよう!」

 

「おっす白崎。おはようさん」

 

「お、おはよう……白崎さん」

 

「おはよー香織」

 

「南雲君、今日は体の調子いいんだね!」

 

「おう、今日は絶好調だ」

 

「そうなんだ! よかったぁ……」

 

 朗らかに挨拶をしてきた彼女の名前は白崎香織。

 腰まで届く長く艶やかな黒髪、顔のパーツも配置も完璧と言っていいバランスで整い、性格面も学年問わず頼られるほどの懐の深さを持ち合わせている。

 この学校において二大女神と呼ばれ、男女問わず人気を集めている美少女だ

 

 そんな絶大な人気を誇る彼女は、なぜか三人──特にコナタをよく構う。それがクラスの者達には面白くないらしい。

 

 ハジメは夜寝るのが遅く、授業中に居眠りすることが多い。恵里は居眠りこそしないし、当てられればそれに答えもするが、基本やる気なく授業をこなしている。

 

 そしてコナタだが、彼は特に良くない噂が流れていた。曰く十数人の不良を血祭に上げた。二週間に一回は必ず体調不良を理由にして学校をサボる。老人の荷物を掻っ攫おうとしたetc...

 言っておくと、噂はほぼほぼでっち上げである。とある人物がそうだと決め込んだことを、彼を糾弾する際に吹聴して流れた、9割方嘘で構成された噂が大半だ。因みにその人物は嘘を吐いている自覚はない。その人物にとって、コナタは()()()()()()()()()()()()()ことから、自分がそうだと感じたそれらは全て(まこと)の出来事なのだ。

 そして周りもコナタへの第一印象と、(コナタ)自身がそれを否定しないことから、その人物の言葉を真に受け彼を危険な不良として捉えている節がある。

 

 これらのことから、不良学生として見られている三人が、香織のような優等生に積極的に話しかけられるのが許せないのだ。

 

「まったく、毎日毎日鬱陶しいったらないよね。別に授業中どうしてようと、こっちの勝手でしょうに」

 

 香織と挨拶を交わすことで、再び視線が纏わりつく。恵里も流石に鬱陶しそうだ。

 これで成績が悪かったりするなら確かに不真面目とも取れる授業態度は問題だが、彼等の成績は三人共平均より遥かに上であり、本来そんな目を向けられる筋合いはない。

 しかしながらこの成績に関しても、件の人物に「真面目に授業も受けてないのに良い成績をとれるはずがない」と意味不明な因縁をふっかけられインチキの誹りを受けているし、それ以前に香織が積極的に構ってくる以上、やっかみは避けられないことも理解している。言うなれば一種の有名税だ。

 だからどうというわけでもない。直接手を出すことも無ければ、面と向かって何かを言う勇気すら無い、遠巻きに睨んでくるだけの、所詮は臆病者の集いである。ハジメは彼女の性格的に難しいだろうが、やっかみなどコナタや恵里は鬱陶しいと思うことはあれどほぼ気にしない。勝手にやってろのスタンスだ。

 何もしてこないなら、こっちも無関心を貫く。逆に、家族に害を及ぼすというなら容赦なく潰す。それがコナタの心構えだった。

 

(しっかし、白崎はなんでこうも俺に構ってくるかね?)

 

 コナタのことを気遣って、というのもあるだろうが、それとは別の目的も窺える。なんか視線が熱いというか、熱に浮かされてるのが見え隠れする時があるというか。

 

(まさか学校では不良で通ってる俺に恋愛感情を抱いてる、なんてことはないと思うが……)

 

 そんな考え事をしてる内、四人の男女が近づいてきた。

 ハジメの表情がさっきより曇り、恵里が露骨に嫌そうな顔をする。コナタも顔には出さないが面倒な奴が来たと思った。

 

「三人共おはよう。毎日大変ね」

 

 まず苦笑しながら挨拶をしてきたのが、二大女神のもう一人である八重樫雫。

 実家が剣道の道場で、百七十二センチと女子にしては高い身長に引き締まった体つきをしている、ポニーテールが特徴の女の子だ。香織とは幼馴染の間柄。

 凛とした雰囲気と面倒見の良さから、彼女も熱狂的なファンが多く、特に後輩の女子から熱い視線を浴びては“お姉様”などと呼び慕われている。

 生真面目な性格が災いしてか、人一倍気苦労の多い、コナタ曰く泣けてくるほどの苦労人だ。

 

「コナタン、ハジメン、エリリン、おっは~!」

 

 次に元気よく話しかけてきたのは、中学で友達になった谷口鈴。

 身長百四十ちょいの小柄なムードメーカーで、心におっさんを飼い慣らし、時々暴走する困ったさんだ。

 最初の頃は主に恵里とひと悶着あったりもしたが、今ではすっかり仲がいいフレンドリー娘である。

 

「香織、また三人の世話を焼いているのか? まったく、本当に香織は優しいな」

 

 そしてこのやたらキラキラした、優し気な笑みを香織に向け臭い台詞を放ったのが、香織と雫の幼馴染。名を天之河光輝という。

 容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人で、香織と同じくほとんどの教師や生徒から信頼を集めている。

 恵里とハジメが表情を変えたのは彼が原因だ。彼女達は彼の本質というか致命的な欠点を知っている。その為、彼女達にとっては正直絶対に関わりたくない部類の人間なのだ。

 

「全くだぜ。そんなやる気ない奴らにゃあ何言っても無駄と思うけどなぁ」

 

 最後に投げやりな調子で光輝に同調した男が、光輝の親友の坂上龍太郎。

 身長がコナタとほぼ同じ百九十センチあり、熊のような体つきをした絵にかいたような脳筋である。

 やる気のない人間が嫌いらしく、基本的に彼等に興味がない。逆もまた然りではあるが。

 

「あはは……おはよう八重樫さん、谷口さん、天之河君、坂上君……」

 

「おはよう八重樫、谷口」

 

「おは~、雫、鈴」

 

 とりあえず、挨拶をしてきた雫と鈴には挨拶を返しておくコナタと恵里。それを逃さず、光輝がすかさず問いかける。

 

「……南雲兄、中村さん。なぜ雫と鈴にしか挨拶をしない。俺達だって挨拶したんだからちゃんと返すべきじゃないか?」

 

「はぇ~、あれ挨拶だったんだ。分からなかったよ」

 

「まあ世間一般じゃ、あれを挨拶とは言わんわな」

 

 コナタと恵里の()()()に光輝の表情が硬くなる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()二人に良い気分はしないといったところか。

 

「それより南雲、君はいつまで香織の優しさに甘える気だ? わざわざサボる口実に体調不良なんて同情を買うような言い訳をして。いい加減その適当な性格直したらどうなんだ? 香織だって君にばかり構っていられないんだから」

 

 挨拶の事はもういいとでもいうように話を変え、コナタを注意する光輝。その口ぶりは、コナタが噂通りサボっているのを信じて疑っていない様子だ。

 いや、噂を信じているというのは少し語弊がある。なにせ件の人物、コナタの悪評とも呼べる噂の発信源は、他でもない光輝だからだ。

 

 天之河光輝という人間の致命的な欠点。

 それは自分が一度正しいと信じた事を疑わない。自分がそう信じたのなら、周りの人間も同じ考えのはずだと勝手に解釈してしまう。つまり結果的に自分は絶対に正しいという、その傲慢な性格にある。そして、その傲慢を光輝自身は自覚しないというのも質が悪い。

 また、さらに質が悪いのが、この傲慢さが世間でまかり通ってしまうことにある。無駄に高いカリスマのせいで、彼の出した答えがたとえどんなに歪なものであったとしても、他の者達は深く考えもせずそれに同調してしまう。これも光輝のご都合解釈をさらに助長させる原因と言えよう。

 

 もちろんコナタは──コナタだけでなくハジメも恵里も、香織に甘えた覚えなど一度だってない。だがそんな事、光輝には()()()()のだ。なぜなら、コナタに放った自分の言葉こそが“正しい”のだから。

 

 それを理解しているコナタは、彼の言い分に対して反論はしない。すればするだけ、実りの無い押し問答で貴重な時間が無駄になるのは明白だ。なのでただ肩を竦めるだけに止めておく。

 が、そんな態度すら納得いかないのか、光輝がコナタに再度小言を言おうとしたところで──

 

「? 光輝君なに言ってるの? 私は、私が三人と話したいから話してるだけだよ? それに、体調が悪い人を心配するのは当然でしょ?」

 

 香織が無自覚の爆弾を落とした。

 教室がざわつく。男子たちの目が呪い殺さんとばかりに強くなったことで、ハジメが小さく悲鳴を上げコナタの背にしがみつく。

 

「え? ……ああ、ホントに香織は優しいな」

 

 どうやら光輝の中で香織の発言は、あくまでコナタ達を気遣ってのもの、と変換され解釈されるようだ。

 

(重症だな。幼馴染の言葉すらも碌に聞き入れないんだから。なんとも厄介な奴に目を付けられたもんだよ、白崎も──)

 

「ごめんなさいね。彼も悪気はないのだけど……」

 

この子(八重樫)もな)

 

 この中では一番人間関係や各人の心情に敏感な雫が申し訳なさそうに謝罪してくる。

 

「あはは……しょうがないよ。天之河君が言いたいこともわかるから」

(できれば放っておいてほしいんだけどね……)

 

「別に雫が謝る必要はないでしょ? 僕等は気にしてないよ」

(どうせアレには、何言っても無駄なのは分かってるし)

 

「……そう言ってもらえると助かるわ」

 

 ハジメと恵里に逆に気を遣われて苦笑いを返す雫。顔には疲れというか、哀愁が漂っているように感じた。とても青春を謳歌する女子高生がする顔じゃない。

 彼女はどれだけ、光輝が首を突っ込んで自分は解決したと思い込んでる未解決の問題を、裏でなんとかしてきたのか。

 

(あっちへこっちへと、必死に頭を下げて回る姿が簡単に浮かぶな。本っ当に泣けてくる……)

 

 こうも苦労してると、ちょっとお節介も焼きたくなるというもの。

 

「八重樫こそ苦労してるだろ? 愚痴とかなら喜んで付き合うから、何時でも言いなよ」

 

「え? ……で、でも南雲君だって……」

 

「俺は心配いらねえよ。八重樫だって女の子なんだし、ストレス溜めるとキツイだろ? 無理強いはしないけど、頼りたくなったら頼れ。つっても、愚痴聞いてやるぐらいしかできないんだけどな?」

 

 肩を竦めて、少しだけおどけた口調で最後の言葉を補足する。雫の抱え込みやすい性格を鑑みると、真面目な口調一辺倒より多少おどけてみせた方が、「愚痴に付き合ってもらうのは迷惑なんじゃ……」という心のハードルを下げられるのでは? という考えだ。

 

「……ふふっ、それで十分よ。……えっと……それじゃあ、その時はお願いできるかしら?」

 

「おうよ」

 

 どうやらうまくいったらしい。さっきまでの申し訳なさそうな顔ではなく、柔らかい笑顔を見せてくる。

 

 コナタ達はあと二年もすれば光輝と離れられる。けど、幼馴染の二人はそうもいかない。下手すれば、この先もずっと付き合いは続いていく。

 

 このまま溜め込み続ければ、彼女はいずれ壊れてしまうかもしれない。なら少しでも落ち着けるように、彼女の心をちゃんと支えてやれる男が現れるまで、自分が一時的な宿り木になるのも悪くないだろう。

 

(いや臭っさ! なんだ宿り木になるのも悪くないって!? しかも上から目線で気持ち悪っ!! 自分で自分に引くわ……っ!)

 

 頭天之河かよ俺ェ、とさり気に光輝ディスも入れつつ、内心の言動にダメージを受けるコナタ。

 急に黙りこくったコナタに雫が声をかける。

 

「南雲君? どうしたの?」

 

「あー、なんでもない。自分の痛さにダメージ受けてただけだ」

 

「は、はぁ……?」

 

 何はともあれ、これでようやく席に着ける。月曜日の朝っぱらから密度濃すぎではないか?

 

「はよーっす南雲っ」

 

「おはよう南雲。朝から大変だな、お前も」

 

「はよー二人共。もう慣れたし、別に大変って程じゃねえさ」

 

 席に着くと、前と右の席に座る相川昇と永山重吾が話しかけてきた。

 

 彼等は鈴と同じく中学が一緒だったこともあり、光輝の噂に流されることなく、気さくに話しかけてくる友人と呼べる者達だ。二人の他にも、あと何人か同じように接してくれる人はいる。

 

 例えば──

 

「遠藤もおはようさん」

 

「お、おはよう南雲!」

 

 この遠藤浩介もそうだ。挨拶をすると嬉しそうに返してくる。

 なぜこんなに嬉しそうなのか? ……それは。

 

「うおっ!? 浩介、お前いつから……?」

 

「今さら!? ずっといたし!! てか挨拶しただろ!?」

 

「……すまん、気付かなかった」

 

 崩れ落ちる遠藤。

 

 ご覧の通り、彼はとても影が薄いのだ。自動ドアが認識しなかったり、存在すら忘れられることもあったりと、雫とは別ベクトルで泣けてくる存在である。

 だがコナタだけは、なぜか遠藤をほぼ確実に認識できるので彼からはすごく有難がられている。

 

「……平和だねぇ」

 

 遠藤たちのやり取りを横目に、読みかけの本を取り出し読み始める。

 ページを送る合間に窓の外に目を向ける。空は雲一つない快晴模様だった。

 

 

 

 

 

 四限目の授業が終わりようやく昼休みに入った。

 ハジメと恵里がコナタの席に椅子を寄せる。弁当を広げると彩り豊かなおかずが出迎えた。さっそく一口。

 

「うん美味い! 恵里も料理上手くなったよな」

 

 冷めても味が損なわないよう細かい工夫が施された弁当をコナタが絶賛し、弁当を作った恵里が誇らしげに胸を反らす。

 

「ふふん、でしょ~?」

 

「恵里もボクもいっぱい料理の勉強してるからね!」

 

 南雲家の料理はハジメと恵里、ごく偶に母の菫が作る。コナタも普通に料理はできるが、率先して二人が料理を担当してくれるので有難く任せることにしている。本を読む時間も増えるし、なにより可愛い妹や幼馴染の手料理を味わうのは、やはり男としては夢とロマンに溢れたものなのだ。

 

「三人共今日は教室でお弁当食べてるんだね! 私も一緒していいかな?」

 

 弁当を食べていると、またも香織が人懐こい笑顔と共に昼食同伴の催促をしてくる。

 

 コナタとしては問題ないが、確認のためハジメと恵里に目を向けた。

 

「僕は構わないよ?」

 

「……ボ、ボクもいいよ」

 

「だとさ」

 

「ありがとう!」

 

 二人とも了承の意を唱える。ハジメは若干の躊躇いがあったが、視線が気になるのと、確実に厄介者が来ることを危惧しての反応だろう。しかしそこで反対しないのが、押しの弱いハジメらしい。

 視線の方はコナタが座る位置を調整し、ハジメに向かないようにしてやる。

 

「でもいいのか? いつもあいつら(光輝達)と一緒に食ってるのに」

 

「うん! たまには他の人と食べるのもいいかなって思って! ……それとね、今日、ちょっとお弁当作りすぎちゃったんだ。南雲君、よかったら食べてもらえないかな? かな?」

 

 そう言う香織の手には、女の子っぽい丸いフォルムの小さめな弁当箱とは別に、男物の無骨なデザインの弁当箱があった。

 狙ったような作りすぎ加減な気もするが深くは考えまい。腹には全然余裕があるし、ありがたくもらっておく。

 

「そうか? なら遠慮なくもらうよ。サンキュな、白崎」

 

「うん!」

 

 お礼の言葉に満開の笑顔を見せる香織。魅力的な笑顔だ。これは人気者になるのも頷ける。

 まあ再び空気が不穏になるが知ったことではない、と早速香織から弁当を受け取る。が、それに待ったをかける人物が一人。

 

「香織」

 

「光輝君?」

 

 そう、我らが正義の味方(笑)(厄介者)、天之河光輝だ。

 香織あるところ我あり! といった風体で現れた。

 

(確実にストーカーの素質あるだろ、こいつ)

 

 彼の将来が本気で心配──にはならず、別に彼が将来的にどうなろうと自分には関係ないので、今はただ成り行きを見守ることにした。

 

「こっちで一緒に食べよう。南雲は妹と中村さんの三人だけで食べるのが良いみたいだしさ。それに、せっかくの香織の美味しい手料理を、他の料理の片手間に食べるなんて俺が許さないよ?」

 

「「「…………」」」

 

 続く光輝の意味不明な発言に、三人揃って言葉を失う。なんというか、痛々しいにも程があった。

 絶好調すぎる光輝節に、彼の頭の中は一体どうなっているのか、呆れと少しの興味を覚えつつタコさんウインナーを頬張る。

 

「え? なんで光輝君の許しがいるの?」

 

「「ブフッ!?」」

 

「ブッ!? ゴホッゲホッ!?」

 

「だ、だいじょぶお兄ちゃん!? お茶飲んで!」

 

「サ、サン゛キュ、ハジメ……ゲッホ!!」

 

 光輝の意味不明な発言をキョトンとした表情で一刀両断する天然さん(香織)。返答がなめらかかつ的確すぎて、恵里と雫が思わず吹き出す。

 コナタも慌てて口を手で塞ぎ、頬張ったばかりのタコさんウインナーが口から発射されるのを防ごうとしたところ、誤って飲み込み盛大にむせてしまう。それを見たハジメがすかさずお茶を渡してくれる。気配りのできる妹で兄は嬉しい。

 

 光輝は苦笑しながらも、なんとか香織をコナタ達から引き離そうと、臭いセリフを吐きながらしつこく食い下がる。

 

(……ほんとに痛いな。なにが痛いって、もう存在そのものが痛い。いっそテンプレな異世界にでも飛ばされないもんかね。そんな世界なら、どんなに存在が痛々しくても馴染めるだろうさ。たぶん……きっと………って、ん?)

 

 ハジメから受け取ったお茶を飲みながら、天井知らずな光輝の痛さに呆れかえっていると、突如として光輝の足元に純白に輝く魔法陣が現れた。

 

「っ、なッ!?」

 

 その異常事態にクラスにいた誰もが、その場から動かず魔法陣に視線を注ぐ。

 

(──これは……ヤバい!?)

「全員教室から出ろっ!!」

 

 直感で危険を察したコナタが声の限り叫ぶ。だが誰も動かない。否、動けない。皆この状況に頭が着いてこないのか、金縛りにあったかのように固まってしまっている。コナタの声も耳に入ってない様子だ。

 やがてその魔法陣は徐々に輝きを増し、光輝を中心にして大きさを教室全体にまで広げていく。

 

 異常が足元まで迫ると、ようやく硬直が解け悲鳴を上げるクラスメイト達。教室に残って生徒と談笑していた先生が、先のコナタと同じく「教室から出て!」と叫ぶが無理だ。コナタ含め初動が遅すぎた……。

 

「ハジメ! 恵里ッ!」

 

「「お兄ちゃん/コナタ!?」」

 

 間に合わない!

 

 そう判断したコナタは、咄嗟にハジメと恵里の腰に腕を回し抱き寄せる。何が起きても、せめて二人(大切な家族)だけは守ってみせると、抱き寄せた体を離すまいと腕に力を籠める。

 それと同時に魔法陣の輝きが一層激しくなり、教室全体が真っ白に塗り潰され、視界も真っ白に染まった。

 

 光が治まった頃、教室内は蹴倒された椅子、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品だけがそのまま残されていた。

 中にいた人だけが忽然と姿を消したのだ。まるで神隠しにあったかのように。




鈴、愛ちゃん親衛隊、永山パーティを同中出身設定に変更。

コナタの容姿はかなり整っている方。だが、目つきが鋭いのと、積極的に愛想を振り撒くタイプではないため第一印象は怖い人と見られることがほとんど。これは同じく整った顔を持ち愛想を振り撒くタイプの光輝が傍にいるため、彼との比較対象になっていることも要因になっている。
コナタも人助けはよくするが、彼は光輝とは違い困っている人を見かけてもほぼ直接介入はせず、陰からさり気なくサポートをすることが多い。そのせいか、周りもコナタの実績には気づきにくい。というか気づかない。
そのため周りのコナタの評価は、広まる悪評のフィルターもかかり怖い不良止まり。しかし基本的に他人に対してはドライな性格を自覚しているコナタは、周りの評価には無頓着。ただし周りの雰囲気に流されず、親しく接してくる同じ中学だった者には少なからず好印象を抱いているようで、彼等との交友は大事にしていこうとも思っている。
悪意や善意、対面した人の感情の機微には敏感な方で、香織がクラスメイトから必要以上に疎まれる原因とは理解しているが、同時に悪意が無いのも理解しているため無碍にはしない。むしろ香織や雫を色眼鏡で見て、必要以上に美化する周りの人間にこそ嫌悪を抱いている。もちろん光輝が自らに向ける無意識の悪感情にも気付いている。
ちなみにコナタが売れっ子小説家なのは家族以外誰も知らない。これはコナタが本を読む時間が減るからと、顔出しやメディア露出をNGにしているためである。


注意:以降光輝下げ表現が含まれています。流石にこれは過剰だろと思う方もいるかと思うので、許せそうな方のみ下スクロールしてください。



↓噂の真実
・十数人の不良を血祭に上げた→これだけはnot光輝発信。
中学の頃、園部、宮崎、菅原の三名がガラの悪い連中に絡まれているところをクラスメートだったコナタが止めに入った。最初はコナタの風貌にビビる不良だったが、コナタが穏便に済ませようとしたことと、自分達は人数がいることを思い出しコナタに突撃。これを返り討ちにした。復讐の意思が家族に向かうと事なので、意思を完全に削ぐため一定以上のダメージを与えた不良数人が病院送りにされた。というのが真相。
血祭にしたわけではないが、病院送りにはなってるので噂はほぼ真実。
因みに本編冒頭の方で強い敵意をコナタに向けた男子四人も、病院送りにこそなっていないが、手痛い返り討ちに遭い無事恐怖を刻まれた模様。

・二週間に一回は必ず体調不良を理由にして学校をサボる
コナタが体調を崩すのは本当のことであり、学校にも大体一限目の途中には来ている。噂を信じ、サボっていると取るか否かは周りの考え次第。

・老人の荷物を掻っ攫おうとした
大荷物で歩道橋を渡るのに四苦八苦していたご老人の荷物を、コナタが断りを入れ代わりに運んでいたところに光輝と遭遇。なぜか光輝はコナタを荷物泥棒と思い込み彼を糾弾。ご老人はコナタに荷物を持ってもらっていたと庇ったが、光輝はそれを聞いてコナタがご老人を脅しいているという解釈に至り正義感が悪化。いい加減めんどくさくなったコナタは荷物を光輝に渡し退散。と見せかけ光輝の次の行動を陰から観察。
光輝が代わりに荷物を運んであげるならよし、と思っていたが、光輝はコナタから荷物を()()した時点で自分の役目は終了しており、やりきった感満載の爽やかな笑顔でご老人に荷物を返却し去っていった。ご老人呆然、コナタクソでか溜息。
結局荷物は光輝がいなくなったことを確認したコナタがご老人の元に戻り、責任をもって最後まで運んであげたそうだ。

・真面目に授業も受けてないのに良い成績をとれるはずがない
そもそもどうしたらこんな考えに至るのか……これが分からない。とはコナタと恵里談。ハジメは苦笑いで言葉にこそしなかったが同意を示していたのは言うまでもない。
しかしそれで一度不正を疑われたコナタは、カンニング等がないかマンツーマンでテストを受けたことがあるというのだからヤバい。一生徒の噂を信じ込んでそんなことを強いる学校とか、控えめに言ってヤバすぎる。

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