閑話です。
本編で説明出来ていない部分や補足、会話については、TIPSという形で書いていこうと思います。
鈴奈庵で、外の世界のことについて話していた最中のことである。
おかしな遊びでもしているのか、外から子供達の笑い声が通り過ぎていくのが聞こえて、ふと思う。
「そういえば、幻想郷には寺子屋があるんだっけ……」
前に鈴仙から、幻想郷の小学校的施設である寺子屋の存在を聞いたことがある。俺が思っているよりも規模は小さくて、通うのは小さな子供だけだとか。まさに江戸時代に登場する寺子屋がイメージされる。
しかし、学校か。
別に大した思い入れは無いが、いざ行かなくなってしまうと、少しばかし追懐するというか、懐古的になってしまう。何だか、授業終わりに飲んでいた、安くて甘いだけの自販機のコーヒーが恋しくなってきた。幻想郷に来てからはお茶ばかり飲んでいたし(というか、お茶くらいしかドリンクが無い)、久しぶりにグイッと行きたいところだな。
思い返すと、俺の学校生活は最初から最後まで暗黒の日々だった。地獄というには生温かったが、まぁまぁ居心地の悪い空間に何時間も拘束されるのは、精神衛生的にあまりよろしいことではなかっただろう。
何より、会話するような――友達というのもいなかったし。
一人でいるのは気楽で、余計な心配をすることも無くて良い。しかし、クラスメイトが仲間とワイワイやっている様が、ちょっとだけ羨ましくあったのも事実である。
人付き合いのリスクよりも気楽を選択したのは俺なんだが、よく言う隣の芝生は青いって奴かね?
そういえば昔……小学生に入ってすぐか、その直前に、母親から友達は作るなと約束させられたことがあったっけ。他の連中が遊んでる時間を勉強に費やす云々、おかしなことを教え込まれたような。
今でこそ異常な約束、もとい拘束だと嘲りながら言えるが、当時はそれが普通だったんだよな。笑えない話だ。
多分、俺がぼっち気質なのは大体あの人の教育の所為だと思う。小学校時代にコミュニケーション能力を磨かなかったのも要因の一つだが、変に言いなりになった反動で、性格のひん曲がった人間になってしまったのだろう。生まれつきの部分も結構あるけどさ。
反発するようになってからこそ干渉は控えめになったが、あの家の教育方針は酷いもんだったと改めて思うね。父親もどうしてあんなのと結婚したんだか……って、いけないいけない。今更あの人への不満を再燃させても仕方の無いことだったな。
負の感情を振り払うように、溜め息を吐いた。余計なことは考えるべきじゃない。
「何だ、寺子屋に行きたいのか? 面白いところじゃないと思うが」
俺の呟きを聞いて、魔理沙が反応する。
「いいや、俺も一週間くらい前までは学校に通っていた身分だったからな……ちょっと退屈な授業が懐かしくなっただけだ」
「混ざりに行きたいってんなら止めはしないが、あそこは小さい子供が通うところだからな。変な目で見られても知らないぞ?」
何でそんな心配をされにゃいかんのだ。大体、俺が通っていたのは高校であって小学校じゃないし、十七にもなってガキに混ざってお勉強したい願望があるはずもない。
「行かねーよ、今更初等教育なんか受けたら脳が退化しちまう。どうせ勉強するんだったら、もっと趣味的で、難しそうなことに挑戦するね」
しっかり探した訳じゃないし、ラインナップ的にあるのかどうか疑問だが、鈴奈庵に外国語の学習本があるなら、第二言語の習得に勤しむのも良いかもしれない。そうすれば、暇潰しに読める本の種類も増えるしな。英語のよく分からん本とかね。
まぁ、多分やらないだろうが。妄想的なやる気だけはあるんだけどなぁ、実際やるとなると、疲れて辞めてしまうのが目に浮かぶ。
「趣味関連の雑誌でしたら、うちで扱っていますよ。良ければ見ていきますか?」
「趣味ねぇ……ま、今日はお使いで来ただけだし、またの機会にしておくよ」
店番の少女の提案をやんわり断りつつ、趣味を見つけるのも有りだな、と思案する。ぶっちゃけ、幻想郷に来るまでの趣味はどれも退廃的というか……動画サイトを観たり、ゲームをすることが大半だったから、ここらで健康的な趣味を始めるべきなのかもしれない。
今の生活が落ち着いたら、考えよう。まだ幻想郷生活は始まったばかりだしな。
しかし、言い換えれば、俺が外の世界で行方不明になってもう一週間も経ったことになるのか。確か、失踪届は七年間行方不明になったら出せるんだっけ? 七年もあれば、高校生活を二回と三分の一回も送れるな。
高校は、今のところ外の世界に戻る予定は無いから、近い内に退学扱いになるだろう。折角入ったんだから、卒業証書くらいは貰っておきたかったな。家から一番近いっていう理由で選んだだけの学校だったとは言え、何だか勿体無いことをした気分だ。
「趣味なら
「私も妖魔本っていう珍しい本を集めているんですが、新しい妖魔本を入手した時は感動しますね。こう、満たされていくと言いますか」
「一応、私もいくつか
「それ、集めてるって言うのか……?」
一生借りる、みたいな言い草だ。いや、まさか借りるという名目でパクったりはしていないだろうけど、妙に引っかかる。
にしても、幻想郷には魔導書が存在するのか。それっぽいインチキ本なら外の世界にもあったが、どういうことが書いてあるのか一度読んでみたいな。
……そういう話を聞くと、どうせ非常識で空想的な世界なんだからと、そういう本格オカルト的な趣味を始める道にも興味が湧いてくる。例えば、魔理沙の知り合いという魔法使いに、魔法を教えてもらって勉強するとか……うん、楽しそうだ。実際可能かどうかはともかく。
今度、永琳や輝夜にソレ系の面白そうな趣味がないか訊いてみるか。あの人達は色んなことを知っているし、亀の甲より年の功、良い案を出してくれるかもしれない。
今まで学校で、散々現実的な勉強をしてきたんだ。思い切ってベクトルをひっくり返して、オカルト的趣味を見つけてみようか――――と、俺は脳内スケジュール表に、こっそり趣味の捜索について書き込むのであった。