東方明夜郷   作:ヨモナ

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 今更ですが、本作のタイトルである明夜郷の読み方は「みょうやきょう」ではなく「めいやきょう」です。



第七話 まぁ、頑張っていこう

「特訓?」

 

 夕飯を頂きながら、俺は永琳の言葉をオウムのように繰り返した。

 面子は永琳、輝夜、鈴仙、てゐの四人だ。鈴仙やてゐ以外にも妖怪兎がいるらしいが、そいつらは別で勝手に何か食べたりしているそうだ。最初にここに来た時、兎を見かけた覚えがある。あれも妖怪だったのかもしれんな。今度見かけたら、確認しておくか。

 

 それはそうと、永琳の話である。輝夜から既に聞いている通り、俺の今後についてのお話だ。

 

「えぇ、特訓よ。最低でも、中級の妖怪と対峙出来るくらいの力は身に付けてもらうわ」

「妖怪と対峙て。力ってのは昼間に見せてもらった光弾(アレ)のことだよな。……出来るのか、俺に?」

 

 対峙と言うくらいなんだから、勝たなきゃ駄目だろう。実際妖怪がどれくらい強大なのかは知らないが、生半可な能力じゃ(たちま)ち返り討ちにあうことくらいは何となく察せる。そういえば、鈴仙やてゐも妖怪だったな。あの重そうなつづらを軽々担いでいたんだから、まぁ俺よりずっと強いだろう。殴り合いになったら即KOされる自信がある。

 

「ただの人間でないのは間違いないのだから、時間をかければ確実に身に付くでしょう。それが明日なのか、一ヶ月後なのか、来年なのかは断言出来ないけど……強くなる素質は充分にあるわ。安心しなさい」

「先の長い話だな。まぁあんなオカルトな力、一朝一夕で扱えるようになるとも思えないけど」

 

 手品にような、手先の器用さの延長線上にあるものとは違うのだし。それ以前に、俺が親しんできた物理的な次元の話ですら無い気がする。何かこう、霊的というか、スピリチュアルというか。

 

「そこは才能が問われるところね。期待してるわ」

「……ご期待に添えるよう努力致します」

 

 プレッシャーを与えんな、プレッシャーを。こちとら昨日まで普通に高校生やってたんだぞ?

 若干気持ちにウェイトがかかるのを感じながら、焼き魚を口に運ぶ。うん、美味い。星三つ!

 

「んぐ……っていうか、その、何だっけ? 幻想になった力だったか。それって何なんだ?」

 

 口に入れたものを、喉をごくりと鳴らしながら飲み込んで、永琳に訊ねる。頭に思い浮かぶのは勿論あの光弾だが、まずあれが一体どういった物体なのか教えてもらいたい。ゆくゆくは俺もそれを扱うことになるのだから、理解を深めなければなるまい。

 

十把一絡(じっぱひとから)げに力と言っても、それぞれ性質が違うので説明が難しいのだけれど……貴方の場合は、主に霊力が該当するわね。私が貴方を『普通の人間ではない』と断じた所以は、そこではないけど」

「霊力?」

「人間などの生物、自然が生み出す霊的なエネルギー。他の一般的なエネルギーと異なる点としては、思念によって操作可能で、濃度が濃いこと、そして他より遥かに少ない労力で生み出せることが挙げられるわ」

「んー…………」

 

 ええっと、要するにゲームで言うマジックポイント的なものと捉えていいんだよな? 思念によって操作可能っていうのは、光弾のように自由に出現させ制御出来る、ということだろうか。

 科学の授業を受けている時の億劫な感じが漂ってきた。ちょっと眠気が……。

 

「霊力は通常ほとんどの人間が持っているわ。ただし、身体の外側に放出したり操作したり出来るのは、ほんの一握りの者のみ。そもそものキャパシティが小さすぎて、実用段階に持っていくどころか、霊力を認識することさえ困難な人が大半というのが実情ね」

「その一握りって言うのが、どれだけ少ないパーセンテージを指してるのかはともかく……俺も認識出来ない内の一人なんだが、大丈夫なのか?」

「外の世界で生まれ育ったのだから、霊力の存在に気付けなくてもおかしくはないわ。特に外の世界では、こういった力の存在は感じ取りにくいもの」

 

 それもそうだ。よしんば気付く機会があったとしても、俺はきっと気のせいと思い込むだろうし。輝夜も、力には『目覚め』が存在すると言っていた。オカルトの排斥された現代では、必然的にその機会が少なくなっているのだと一人納得する。

 逆に、幻想郷のような世界では力が発現しやすそうだ。何せモノホンの妖怪が存在するんだしな。最近力に目覚めてさー、なんて会話が案外その辺で行われていたりするかもしれん。おっかない世界だ。

 

「で、まぁ、俺には霊力を扱う資質があると」

「第一の課題は、その資質を開花させることね。早速明日からやってもらおうと考えていたけど、身体の調子は大丈夫?」

「ちょっと疲れてるくらいだ。休めば戻る」

 

 精神面はだいぶ疲れてるから、一ヶ月くらい休ませてほしいところだけど。

 

「それで、特訓って具体的には何をするんだ?」

「最初は霊力の操作と、飛行の仕方を覚えてもらおうかと。基本的なところからね」

「ストップ」

 

 手のひらを永琳に向けて、話を中断した。

 

 飛行って言ったか、今?

 非行少年の非行……じゃないよな、話の流れ的に。その言葉が、幻想郷独自の用語だったりしない限りは、恐らく俺の思った通りの意味だ。つまり、飛行機の飛行。

 

 幻想郷では飛行能力がありふれているんだろうな、と心を広くして受け入れようとしている自分に、ちょっとだけ成長を感じる。今日一日で、柔軟性が驚くほど鍛えられたな。昨日の数百倍は柔軟になったに違いない。

 

「空を……飛ぶのか?」

「あら、高所恐怖症なの?」

「そういう話じゃないよ!? 高いところはむしろ好きだが! ただ空を飛べるのは鳥くらいだと認識してたもんで……」

「兎や人間、私だって飛べるわよ。空を飛ぶのは鳥の特権じゃないわ」

「ライト兄弟もびっくりだな。全国の子供達に教えてあげたい事実だ、きっと大喜びするだろうよ」

 

 ぶっちゃけ、俺もちょっと高揚してなくもない。誰しも一度は、自由に空を飛べる鳥に憧れたことがあるはずだ。実際、スカイダイビングやパラグライダーに興味のある大人は少なくないだろう?

 

「にしても空かぁ、楽しみだな。ご教示願うよ、永琳」

「いえ、教えるのは私ではないわ。最初は私がやろうと思ったのだけれど、輝夜に止められてね」

「だって、わざと難しく説明するでしょう? 霜夜が理解出来ずに困る様を見て、楽しむつもりよ、きっと」

 

 とんだサディストじゃないか……。

 オモチャのような扱いを受けるところだったとは。何されるか分からないし、もっと警戒して生きた方がいいのかもしれないな。

 

「じゃあ、輝夜が?」

「遊びなら教えてあげるけど……今回は鈴仙に任せることにしたわ」

「えっ、ええっ? 私ですか!?」

 

 何にも知らされていなかったらしく、鈴仙は耳をピンと跳ねながら驚いた。もっと情報共有とかした方が良いんじゃないか、お前ら。鈴仙が上司の無茶振りに右往左往させられているようで不憫だ。

 

「でも、あの、私なんかで大丈夫なんですか?」

「大丈夫よ。どう指導したところで、結局出来るか出来ないかは霜夜次第だし。だったら、折角だからコミュニケーションの一環として活用するべきじゃない? 貴方、結構人見知りだし、丁度良いと思うわ」

「はぁ、分かりました……」

 

 不安そうに返事をする鈴仙だが、そんな様子を見せられると、こっちまで不安になってきてしまう。なんか、これで特訓の成果が出なかったら俺が悪いみたいじゃないか? 不安だ……果てしなく不安だ。

 

 味噌汁を啜って、心を落ち着かせる。喉の奥に旨みが染み渡る。ふぅ、やっぱり飯は重要だな。美味しいものを食べれば大抵のことは解決する。

 

「じゃあ鈴仙、明日からよろしく」

「気軽に言うわね……厳しくするから、覚悟しておきなさい。出来なかったら鞭打ちの刑に処すわ」

「軍隊かよ、鞭はいらないんで飴だけくれませんかね……」

「飴なら今日あげたわ。明日は鞭の番」

「何だよその交代制!?」

 

 鞭のシフトなんざどこにもいれなくていいだろ! 飴を年中無休で働かせておけよ! 人権必要無いだろ、飴に!

 

「うわー、鈴仙の鞭は厳しいからねぇ。覚悟しておきなよ?」

 

 てゐが横から、想像したくもないことを言ってくる。

 面白がるなよ、こっちは鞭の恐怖に怯えてんだぞ……?

 

「私も何度やられたことか」

「それはあんたが悪いんでしょうが。いつも勝手にどっか行っちゃって……」

 

 もしや、自分と同じ目に遭わせようと画策してるんじゃなかろうな。だが残念だったな、てゐ。俺はお前のようなミスは決して犯さない。むしろ、お前という存在が俺に失敗させない理由になるのだ。

 

「鞭だったら、確かどこかに仕舞ってあったわね」

 

 永琳さん? 何で今そんなこと言うんですか? 怖くて泣きますよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特訓については、より具体的なことはその時になってから説明されることになった。予習しておけ、などというふざけた教師のようなことを言い出されることも無く、本格的な話は全て明日からになったのは本当にありがたい。自習、あんま好きじゃないからな。

 

 でもって、今後の俺の生活についてだが……しばらくは鈴仙に霊力の使い方を教えてもらいつつ、永琳達の手伝いをする方針になりそうだ。生憎薬の知識はさっぱりなので、製薬などの専門的なことはせず、まさしくお手伝い程度のことを頼むらしい。薬の人体実験に付き合わされたりしないか心配だったが、質問するのも怖いので、そこは聞かないでおいた。……いや、大丈夫だよな? まさかな?

 

 夕飯を食べ終わると、永琳にそれなりの広さの部屋に案内された。ここが俺の部屋となるそうだ。

 居候にこんな人並みの部屋を与えて良いのかと申し訳無くなったが、そもそも屋敷が広いもんだから、手頃な狭い部屋が無いと言われた。こういう時、金持ちの家は不便だと思う。俺なんか階段下の物置にでもぶち込んでおけば良いのに。

 

 ……そして、現在。

 風呂に入れと着替えを渡され、俺は今、旅館の大浴場のような立派な浴室で湯船に浸かっていた。

 

「あー、気持ちいい……」

 

 何が気持ちいいって、こんな一般人が滅多に入る機会の無い雰囲気のところで湯船に浸かれるのが本当に最高。旅館なんて、修学旅行くらいでしか利用しないしなぁ。それだって、クラスの連中と常に一緒だからリラックスなんて出来るはずが無い。一人でのんびり湯船に浸かる行為が、こんなにも極楽だったとは。

 

 息を吐いて、ぼうっと天井を見上げた。頭が(とろ)けそうだ。いや、もう半分くらいトロトロじゃないか?

 今日は、今までの人生で一番疲れが溜まった日だしな。いっそ全部蕩けたところで、責める者はいるはずも無くて。

 

「ふぅ」

 

 うん、本当に疲れた。精神がボロボロだ。非常識によって痛めつけられた心に、湯船の心地よい温度が沁みる。

 明日からも疲れる日々が続くんだろうが、今日以上に疲れることは無いだろうな。

 

 特訓に、手伝いだったか。もし永遠亭に辿り着けなかったら、もっと大変なことになっていたのを思うと、疲れるなんて甘えたことを言ってちゃ駄目かもしれないが……どのみち大変なことには変わりないな。

 

 しかし、人生をやり直せる良い機会だと考えれば、やる気も湧いてこなくもない。

 今更どう騒いだところで、俺はこれから先、どうにか上手くやっていくしかないんだ。

 

 これからの幻想郷ライフに一抹の不安を抱きつつ、この蕩けそうな頭の片隅で、小さく決意する。

 

 

 

 まぁ、頑張っていこう、と。

 




 あらすじのイラストを変更しました。なお、イラストは知人であるShaymin(仮名)によるものです。
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