東方明夜郷   作:ヨモナ

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第八話 千年に一度の陰陽師

 霧が晴れるように、意識が取り戻す。

 瞼を開けると、見慣れない天井がそこにあった。

 視線を横に動かすと、自分が、これまた見慣れない和室で寝ていたのだと分かった。淡く差し込む太陽の光が、今が朝だと伝えてくる。

 

「…………ここどこ?」

 

 寝惚けた頭でそう呟いてから、数秒。昨日の記憶が蘇ってくる。あぁ、そうだった。神隠しに遭って、何やかんやで幻想郷で暮らすことになったんだったな。

 

 大きく欠伸をしながら、身体を起こす。

 段々と感覚が明瞭になっていく。微かに感じられるよその家の匂いが、俺に現実を思い出させる。

 

「夢じゃなかったのか……」

 

 昨日、散々味わってきたことをリピートした。寝て起きたら、いつも通りの日常が戻っている……なんて夢オチは無さそうだ。あれだけ肉体的にも精神的にも疲弊して、全部夢でしたというのも嫌なもんだが。

 

 今日は確か、霊力の使い方を教えてもらうんだっけ? 空を飛ぶとか言ってた記憶がある。

 

「んー……」

 

 枕元に置いておいたスマホで、時刻を確認する。六時になるちょっと前くらいだ。普段の起床時間と比べると、かなり早い時間に起きたな。昨日は疲れていたし、早く寝たからだろうな。健康的で良いんじゃないか?

 

 いやまぁ、眠いけど。

 このまま二度寝したい。

 

 永琳達には、別に何時に起きろとか言われてなかったしなぁ。だったらこのまま二度寝しちゃっても……良いよね?

 

「寝よ」

 

 布団を被って、横になる。

 ああぁあぁ……最高……二度寝する時の幸福感、背徳感、全てが最高。夢の世界の入り口に立ってる感覚がたまらん……。

 

 …………。

 

 

 

「おっはよー、起こしに来たよ!」

 

 

 

 てゐがノックもせずに、大きく音を立てながら部屋に入ってきた。

 やかましそうなのが来た。もうちょっと寝ていたかったのに。……あと一分くらいは、寝てるフリで時間を稼げるか……? などと思考を巡らせていると。

 

 返事も待たずに俺に近付いてきて、てゐは布団を鷲掴みにして()()がした。

 ……敷布団ごと。

 

「うおおっ!?」

 

 当然、その上に寝っ転がっていた俺は、追い出されるように布団から転がり落ちる訳で。

 全く予想していなかった衝撃に咄嗟に対応出来るはずもなく、無様に身体を畳にぶつけた。

 

「っ……痛ってぇ……」

「おはよう、朝だよ」

「……おはよう、てゐ。人を起こす時はもっと丁寧に優しくするべきだと思うぞ」

「えぇ? これが兎の伝統的な起こし方なんだけどなぁ」

 

 絶対嘘だ。

 既に口元がニヤニヤしてるもん。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……まぁいいや、それでどうした? もう朝飯の時間か?」

「うんにゃ、お師匠様が用事があるみたいだったからさ、顔洗って行ってきなよ。寝癖も酷いし」

 

 指先で、明らかに変な方向に曲がった髪を摘む。確かに酷い寝癖だ。元々、言うことの聞かない髪質をしているので、割と日常茶飯事なレベルだが。

 

「分かった。……ちなみに、顔はどこで洗えば?」

「こっちだよ。案内してあげる」

 

 無理に覚醒させられた(まなこ)を擦りながら、てゐの案内に従って部屋を出る。

 風が肌を掠る。つい先程まで布団で温められていた身体には、外の風は寒すぎる。熱が引いていって、どんどん頭が冴えていく。もう二度寝をする気分にはなれそうにないな。

 

 てゐに教えてもらった洗面所で、顔をバシャバシャと洗い、寝癖をある程度直す。完璧に直すことはどうやっても出来ないので、まだちょっと髪が跳ねているが、仕方無い。

 

 そうして身嗜みを整え、てゐに永琳がいるという場所まで連れて行ってもらう。

 普通の家なら外周を一回り出来そうなほどの距離を歩きながら、改めて永遠亭の広さを思い知る。今更ながら、自分がここに居候することになった事実を疑ってしまいそうだ。俺、本当にここに住んで良いのかな。身の丈、おかしくないかな。

 

「多分この部屋にいると思うから、それじゃね」

 

 案内が済むと、てゐは駆け足でどこかに消えていった。動物みたいに動きの激しい奴だ……って、兎だったな、あいつは。

 

 それはそうと、何の用事なんだろう。こんな朝っぱらに呼ぶくらいなんだから、緊急ないし早めに伝えておきたいことなのだろうが。話すことは大体話したように思うんだけどな。

 

 扉をノックして、入室する。

 

「失礼しまーす」

「あら、霜夜。おはよう」

「おはようございます」

 

 中に入ると、永琳が椅子に座って、机の上で紙に何か書き込んでいるのが見えた。事務仕事でもしていたらしい。朝早くからよく仕事なんか出来るな、俺には無理だ。

 

「まだ起きるには早い時間だけど……何か聞きたいことでも?」

「え?」

 

 永琳が、まるで奇妙なものでも見るかのような目で俺を見つめた。

 とてもじゃないが、今から用事について話そうとする人の目には見えない。

 ……あれ?

 

「いや、永琳が俺に用事あるって、てゐから聞いたから、何かなーと……」

「? 特に無いわよ?」

 

 …………あれれ?

 

「……あぁ、騙されたのね」

「えっ?」

「もう少し寝てても良かったのよ? 昨日は疲れたでしょうし、まだここに来て二日目なんだから」

「えっ……と……?」

 

 てゐは、永琳が俺に用事があると言って俺を起こしに来たが、永琳は用事なんか無いと言って、それどころか二度寝をしてれば良いと……。

 

 ふむふむ、アーハン? なるほどね……。

 

 

 

 ――――――あの野郎、とっ捕まえて毛皮を剥いでやる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食を食べ終わると、鈴仙に声をかけられた。

 ちなみに、てゐには逃げられた。逃げ際に「早起きは三文の徳って言うじゃん? むしろ、私は二文をお礼に貰ってもいいと思うんだよね」などと供述していたので、反省は見られなさそうである。

 

「それじゃ、早速やるわよ」

「へい」

 

 腹ごなしの運動、もとい霊力の特訓だ。

 場所は永遠亭の庭。庭と言っても、小さい公園くらいのスペースは優にあるから、身体を動かすには充分だろう。

 

 肩を回したり柔軟をしたりして、準備を整える。こんなことになるんだったら、制服の下に体操着を着てくるべきだったな。尤も、昨日は体育の無い日だったし、そもそもこの状況を予測するなど無理な話なんだが。

 

「まずは霊力を覚醒させることからね。手を出しなさい」

「手を?」

「とりあえず、私の力を流し込んでみようかなと。身体で一度、力の流れを理解すれば、自分の霊力の流れも把握しやすいと思ったの」

 

 確かに、瞑想なんかでゼロから覚えるよりは、実際に身体で体験した方が分かりやすい。永琳に光弾を見せられた時のように。

 

 言われた通りに手を差し出すと、指先を掴むようにして、手を重ねられた。

 細く小さい、女の子の手だ。柔らかい感触で指先が包まれる。……自分と違う体温って、何でこう、むずむずするんだろうな。

 

「行くわよ、集中して」

 

 その言葉の直後、指先から何かが流れてくるのを感じた。血液が流れるように、全身に行き渡っていくのが分かる。熱や痛みは無い。意識して初めて気付けるような淡い感覚だ。

 

「慣れない感覚だな」

「最初はね。じきに馴染むはずよ」

 

 意識を集中させ、力の流れをより鮮明に感じ取る。どうやら、流し込まれた力は、体内を循環しているらしい。心做(こころな)しか、内側にエネルギーが籠もっているようだった。

 

 鈴仙の手が離れ、流れがストップする。しかし、身体の内側にはまだ力が残っているのが何となく分かった。自分のものでは無いが、これが霊力とか呼ばれるものなのだろう。

 

「どう? ちょっとは感覚的な理解が深まったんじゃないかしら」

「そこそこ。俺自身の力については分からないけど、今貰った分が身体に残ってるのは分かるな」

 

 そう言いながら、手のひらを観察してみる。ここから、この力を消費して光弾が出たりするんだよな。こんな感じで、力を集中させたりして――――――。

 

 

 

「えっ」

「え?」

 

 

 

 そう、軽く意識すると。

 手のひらの上に、小さな光弾が出現した。

 

 開いた口が塞がらない。

 言葉が出てこない。

 どうリアクションするべきなのか、さっぱり分からない。

 

「えーっと……」

 

 しばし、沈黙が流れて、ようやく結論が出る。

 即ち、『無かったことにしよう』

 

 永遠亭の敷地外の方向に身体を回転させ、ソフトボールを投げる要領で、光弾をどこかに放り投げる。光弾は大きく放物線を描いて、竹林の彼方に消えていく。想像以上に吹っ飛んだから、探しに行くのは難しいだろう。そもそも残るものじゃなさそうだが。

 

 ……まぁ、これで一件落着ということで。

 

「よし、次は何をすれば良い?」

「いや、スルー出来ないわよ!? ああもう、頑張って段取り考えてきたのに、早速崩れたじゃない!」

「そこはまぁ、無かったことにして、予定通りに」

「それが出来たら苦労しない!」

 

 難儀な奴だ。スルースキルを身に付ければ、小さい問題なんて気にせずに生きていけるというのに。

 驚いているのは、俺もなんだが……いやだって、まさか本当に出来るとは思わなかったよね。ちょっとした軽いノリじゃないか。俺は悪くない。

 

「はぁ……じゃあ次は、自分自身の霊力の認識かしら。まだ私が渡した分が残っているはずだから、ちょっと時間を置く必要があるけど。それまで何させようかな」

「今みたいに弾を量産して、消費を早めるのは?」

「それでもいいかもね。どうせ段取りは滅茶苦茶になったんだし……」

 

 そんな恨めしそうな目で見られても。

 とにかく、残量をさっさと光弾にしてしまおう。

 

 先程と同じく、手に意識を集中させ光弾を生み出す。案外呆気なく出来てしまうので、拍子抜けというか、想像していたものとのギャップに悩まされる。こんな簡単に出来て良いのだろうか。

 

 そして、被害の出ない方角に向かって投げる。そういえば、霊力は思念によって操作可能って昨日聞かされたな。これ、いちいち投げる動作をしなくても、念じればどっか飛ばせたりするのかね。ちょっと試してみよう。

 

 出現させた光弾への意識を、上空に向けてみる。

 

「うわっ」

 

 その思念に応じるように、光弾がビュンと放たれる。思った通り、考えただけでも動かすことが出来るようだ。いちいち投げるよりは、こうやって飛ばした方がずっと楽だな。

 

 何だか、魔法使いになったみたいで面白くなってきた。今日はまだ初日だし、この程度のことしか出来ないが、いずれはメラ〇ーマやギガブ〇イクなんかも放てるようになるのだろうか? レベリング欲がむくむくと湧いてくる。もし幻想郷にメタル系のモンスターがいるのであれば、即刻狩りに行きたいところだ。

 

「……ほんと、簡単にやるわね。まだ序の口とは言え、こんなあっさり出来るなんて思わなかったわ」

 

 呆れた表情で鈴仙がぼやく。

 

「……もしかして、俺って才能ある? 天才児? 千年に一度の陰陽師か?」

「自分で言うことじゃないでしょ……少なくとも、並の人間よりは出来ていると思うわ」

 

 俺には大した才能など無いと思い込んでいたが、ここに来てとんでもないもんが開花しちゃったもんだな。どうせ目覚めた才能なんだから、もっと伸ばしてみたい。

 

「そうかそうか、いやぁ、楽しい。物事が上手く運ぶと気持ちが良いな」

 

 気分が良くなってきて、徐々に光弾の生成速度が上がる。

 ババッと空に弾を放った時の、何とも言えない快感が堪らない。もっとだ、もっと試したい。

 

「あまり調子に乗ると痛い目見るわよ? 急に力を付けた最初の頃は特に」

「大丈夫大丈夫、制御も慣れてきたし」

 

 なんて言いながら、何発もの光弾を空に撃ち込む。

 ちょっと物足りなくなってきたな。もっとこう、派手にやりたい。今は一弾ずつ飛ばしているが、複数個同時に生み出すことは可能なのだろうか? それなら回避の難しい弾幕を展開することが出来そうだが。……ちょっとやってみるか。

 

 力の流れを意識して、複数箇所に力を集中させてみる。一つに集中させていたものを分散させるだけだから、それほど難しくは――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ドオォォォォォォン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャアアアァァァッ!?」

「きゃっ!?」

 

 ……轟音が周囲に響き渡った。土煙が舞い、衝撃が大気を駆ける。

 全身に電流のような痛みが走ったのと、不意に訪れた衝撃に体勢を崩して、地面に背中を打ちつけた。

 

「うっぐ……背中……背中が……!」

 

 何が起こった? と一瞬混乱して、すぐに理解する。爆発したのだ。原因は……言うまでも無く、俺が弾幕を張ろうとしたからに他ならない。たまたま庭に埋められていた地雷が爆発したとかで無ければ、間違いなく俺の仕業だ。

 

 幸い、爆発の被害は少なく、屋敷にまで及ぶものでは無かったが、至近距離で爆風を受けた鈴仙的には「良かった」で済まされたくないだろう。

 

 ウサミミをしおしおにして咳をしながら、鈴仙が言った。

 

「けほっ、けほっ……だから言ったのに、もう」

「えっと…………すみません、調子乗りました……」

「やっぱり堅実に訓練した方が良さそうね、またこんな爆発されたら困るもの。今後、勝手に変なことはしないように、分かった?」

 

 ……返す言葉も無い。

 

 今日の教訓、調子に乗ると酷い目に遭う。

 これからはもっと慎ましく生きよう……。

 




そこそこ書いてきたなぁ、と思うと同時に、まだあまり話が進んでないなと悩
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