短編。1話完結でございます。
時は20XX年。キノコ王国にあるとある家。そこには赤い帽子をかぶったイカしたヒゲの漢がいた。
まぁ俺の事なんだがな!
「……ほえー」
俺は悩んでいた。ピーチ姫の事だ。考えれば考える程、わからなくなる。
「あぁピーチ姫、貴方は結婚をお望みですか?」
──いきなり変な事を言い出したと思っただろう。俺も今考えすぎて訳がわからなくなっているんだ。すまんな。取り敢えず落ち着くとする。
よし、落ち着いた。本題に入るとする。俺はピーチ姫の事で悩んでいると言ったな。単刀直入に言う。俺はピーチ姫が好きだ。もっと仲良くなりたい。結婚したい。欲望にまみれた言い方をすると、ピーチ姫とラブラブイチャイチャしたい! YAHOO!
──失礼。全然落ち着けてないな。キノコスープを飲もう。美味い。
で、結婚を見据えてもっと仲良くなる為に。それにはピーチ姫と俺との関係の進展が必要だ。そしてその為には、お互いの気持ちを伝え合う必要があるだろう。
しかしそれにも条件がある。気持ちといっても好意だ。要するにラブラブイチャイチャにはお互いの好意が必要不可欠! だから好きである事をピーチ姫に伝えなければいけない!
だけど、それを伝える勇気がない。それが今の俺だ。
どういう風に言えば良い。花束を持って貴公子のごとく現れるか。それとも、河川敷で二人きりの時にさりげなく言うか。
言うからには必ず成功させたい。ピーチ姫はどんなシチュエーションを好む。
──と、ここまでピーチ姫が俺を好いている前提で話を進めているが、その点は安心だ。本人の口からは聞いていないが、俺が嫌いなんていうことはありえない。何故かって?
女性は嫌いな男性の頬にキスをするかい?
ふふふ反論できんだろう。ルイージの受け売りなのは秘密だ。
だが、そんな事をわかっていながらも気持ちを伝える勇気を出せないのは情けない所だよな。
「兄さん、まだ悩んでるの? そろそろ覚悟決めようよ」
ルイージが俺の所に歩いて来て言う。この兄想いな弟には前から相談に乗ってもらっている。ルイージのお陰で俺はこれでも大分自信をつけた方だ。
「そうは言うがな。いざピーチ城に行こうとしても、足がすくむんだよ……」
「もう、兄さんたら。一切行動も起こさずに、頭の中で考えてばかり。そんなの兄さんに似合わないよ」
「しかしだな」
「いつもの兄さんはどうしたの? 冒険の時、兄さんは向かって来る敵をモノともせずにグイグイ引っ張ってくれるじゃないか」
「ピーチ姫の事になるとな」
「ピーチ姫だから? いや、違うね。クッパを倒して、ピーチ姫の元に行く兄さんは勇ましいながらも優しさに溢れてるよ」
ルイージ。お前はいつもそう俺を持ち上げてくれるな。嬉しいぞ。だが、そう上手く切り替えられないのだよ。
「もう兄さん聞いてる? 兄さんは頭で考えれば考える程、色々な考えが出てきすぎて、決められないんだ」
──なるほど。考える事が良い事とは限らないのか。
「だから、もう考えるのはやめにして、行動しよう。どうせ考えつくした今にもっといい考えなんて浮かばない」
たしかにそれは言える。
「だから行動だよ。行動あっての結果あり。動かなければピーチ姫は手に入らないっ!」
声を大きくするルイージ。そうだ……。動かなければピーチ姫は手に入らない。動けば手に入る。今このドアを開けて、ピーチ城に迎えば、ピーチ姫が待っている。
俺の脳内にピーチ姫が映る。ピーチ姫が手を広げ、ニッコリと笑って俺を求める。
『マリオ』
こっちを真っ直ぐと見つめる瞳。うっ、そんな風に見られては、ドキがムネムネしてしまう!
あの胸に飛び込みたい。やわらかいだろうなぁ。良い匂いしそうだなぁ。ピーチ姫、今から貴方様の麗しきそのお姿にこのマリオ、全てを投げ捨てて捧げさせて頂きます。
うおぉ、うおおぉぉお!
「兄さん!」
ルイージの声を聞いてハッとする。しかし、さっきまでの悩みはもう無くなった。やっぱりピーチ姫は最高だ!
「そうだな。俺、行ってくるぜ! ありがとうルイージ!」
「そ、そっか! 良かった」
俺はキノコスープをグッと飲み干して、衝動的に家の外へ出る。一直線にピーチ城の方へ走った。
感謝するぜルイージ。ああ、あの城に。ピーチ姫が待っている。ピーチ姫が俺を待っているぞ!
◇
眼前に広がる、高くそびえ立つ城。さぁ来たぞ。ここにピーチ姫が待っているのだ。
「おや? マリオさんじゃないですか。今日はどういったご用件で?」
扉の前に立つガードマンが話しかけてくる。まぁガードマンといってもキノピオだから、ちょっと心もとないよな。
「あぁ。ピーチ姫に重要な事を伝えなくてはならないんだ」
「重要な事ですか。どんなことなのでしょう?」
うーむ。ここでストレートに伝えると、最悪追い返されかねん。このガードマンはピーチ姫に絶対の忠誠を誓っていて、とても厳しい。だからといって手荒な真似をしようものなら、俺の尊厳が無くなって結婚出来なくなる可能性もある。誤魔化すか。
「俺の勤める配管工会社の社長からだ。機密事項と言われているからピーチ姫以外に喋ることは出来ない」
「あっ、それはそれは失礼を。どうぞお通り下さい」
「悪いな」
扉を開けてもらう。
国を何度も救ったヒーローだから多少甘く見られているのもあるだろう。上手くいった。扉からどいて会釈するキノピオを横目に、城内に入った。
城内を見渡す。エントランスにピーチ姫はいないようだな。自分の部屋だろうか? 俺は帽子や服を手で触って乱れている所をなおす。ここから先はどこで姫に会うかわからないので、身だしなみはしっかりしとかないとな。
エントランスにもガードマンが立っている。ちょっと聞いてみよう。
「ちょっといいかな」
「マリオさん。はい、なんでしょう?」
「ピーチ姫って今どこにいらっしゃるかわかる?」
「あっ、姫様なら今キノコ商店街です」
まじか、ピーチ姫も買い物に行くのか。──意外だ。
「一人で?」
「いえ、キノじいの付き添いの元です。何やらショッピングを楽しみたい、だそうで」
あー入れ違いになったな、コレ。どうするか。帰ってくるまで待たせて貰うか。
「そうか、わかった」
「すみませんわざわざ来てもらって」
「いやいや」
適当に座って待つとしよう。俺はベンチに移動する。
ばたーん
何事だ。俺がベンチに座った瞬間、大きな音が聞こえる。すぐ側だ。
右をみると、なんとさっき通ってきた城の大きな扉が俺がいる方向に吹っ飛んでくるではないか。
「YAHOO!」
俺はお馴染みの掛け声の元、渾身の力で扉を受け止める。うわおっも! 潰れる!
だが止められそうだ。
──よし。扉の勢いが止まったら、すぐに手を離す。いてえ。
誰だこんな荒々しいことをするヤツは! ベンチにいたのが俺じゃなかったらタダじゃすまないぞ。
「む? 今マリオの声が……」
「お前かクッパ!」
空いた空間からのっしのっしと入ってきたのはクッパ大魔王。トゲトゲした図体のデカいヤツ。ピーチ姫を攫ってばかりいる。
クッパの方も俺に気づいたのか、しかめっ面をする。
「マリオ! キサマなぜここにいる」
クッパの登場により、あわてふためくガードマン達。情け無いとは思うが、今はそれよりもコイツの対処だ。
なんてこった。よりにもよってこんな日に来やがって。これではピーチ姫とどうこう所では無いじゃないか!
「お前こそなぜ今日ここに来たんだ」
そう言い返すと、クッパは何やら照れた表情になる。どういうつもりだ……? 違和感を感じる。
「ふん。ピーチ姫を攫いに来たのだ」
「おい待て、その顔はなんなんだ。何か別にあるだろ」
俺がそういうと更に照れた様子を見せる。コイツのこんな表情自体初めてみたが、一体なんなんだ。まさかピーチ姫関係では無いだろうな。キッと睨む俺に暫く顔をそらしていたが、急に腕を組んで向き直ると。そして大魔王の如く笑い出す。大魔王だけど。
「ガッハッハ! ワガハイは今日ピーチ姫と結婚することにするのだ!」
──は?
ちょっとまてちょっとまてちょっとまて。結婚ってどういうことだクッパとピーチ姫がか。全く意味がわからんぞ。人と亀がか。ありえないやろ。
落ち着け、落ち着くんだマリオ。そう俺はスーパーマリオ。スーパーヒーロー。OK。
クッパを見ると先程の恥じらいはどこへ息を潜めたのか、勝ち誇ったような顔をしている。こいつの唐突な爆弾発言で頭がショートしそうだが、とにかく今確認すべきこと。最重要なことをたずねる。
「ピーチ姫は良いって言ったのか」
「む? いや、まだであるが。これから話をするのだからな」
──なるほど。確定事項ではないな。
しかしとんでもないことになった。敵が増えた。元々敵だけど。
まさかコイツが俺と同じことを考えていようとは。だがこの恋の戦いは大分こちらに分があると言えよう。クッパはピーチ姫のことを無理矢理攫っている。俺はそれを助けにいく身。ヒーロー。そうとう変なことをやらかさない限り、こちらの勝利は揺るがない。ピーチ姫が攫われ好きとかだったら怪しいけど──
いや。
女性は嫌いな男性の頬にキスをしない。
──そうだろ? スーパーマリオ。
「おい、さっきから何を黙っている」
クッパが腹を立てた様子でこちらを見ている。ふふふ、こちらの勝利は確定的なんだ。どれ、ちょっともてあそんでやるか。
「おお、悪かったな。君のバカげた発言に言葉を失ってしまってね」
「なんだと!」
「君がピーチ姫と結婚出来るなどという幻想を抱いているからさ」
「な、なにぃー!」
クッパは拳をプルプルと震わせて、今にも暴れ出しそうだ。まぁそうなったらそうなったで俺が暴れるクッパを叩きのめして、さらにピーチ姫の好感度アップってところだ。
この際だ、俺も教えてやるか。
「クッパくん。君のピーチ姫への想いは残念ながら届かないよ」
「さっきからなんなのだその口調は! 根拠もないことを言ってワガハイを馬鹿にしおって」
「根拠ならあるぞ? この俺がピーチ姫を頂いていくからな」
「何⁉︎」
クッパめ、動揺しているな。何やら周りもざわめいているが、ピーチ姫が来たらクッパのせいってことにしておこう。
「マリオ。キサマワガハイへの当てつけか! ピーチ姫はワガハイが嫁にもらうのだぞ」
「当てつけなどではない。本心だ。だからこそ、お前は俺に勝てない」
「何を根拠に」
「また根拠か。お前はピーチ姫を攫う悪役。俺はピーチ姫を救うヒーロー。これて全て説明できる」
そう言うと、クッパは少しの沈黙の後に笑い出す。
「……ガッハッハ! その程度か!」
「その程度……ねぇ。クッパ、苦しまぎれの言葉にしか聞こえないぞ」
「随分と自信があるようだな。知らぬということは哀れなものよ。我が城でワガハイとピーチ姫がいかに過ごしていたかも知らぬのにな」
「……何だと?」
コイツは何をふざけたことを言っているんだ。お前はピーチ姫を監禁して好き放題しているだけだろうに。
「ピーチ姫が我が城のケーキを美味しそうに食べていた姿が目に浮かぶわ。後はワガハイが用意したベッドも気に入っておったな」
「何を妄想しているのか。それはお前の願望でしかないだろう」
「キサマが妄想だというならそうなのだろう。キサマの中ではな」
クッ、コイツのこの物言いはなんだ。本当か嘘かわからねえ。──だが、もし本当だとしても、俺の優位は変わらねえよ。
「まぁ仮にお前の発言が本当だとしても、俺には到底及ばないな。ピーチ姫はあくまで不本意に攫われている訳だ。俺が来たらとても嬉しそうにすり寄ってくるぞ」
「不本意……ねぇ。本当にそうか? ピーチ姫を攫うのはとても簡単だ。抵抗もほとんどない。一応攫われているという体で、ワガハイの元に居たいのではないか」
「それだったら、いつまでもお前の城にいるだろう。結局俺と共にピーチ城に戻っている」
「わかってないな! キサマが助けに来た時点で帰らなければ、キノコ王国のキノコ共に怪しまれるだろう。ピーチ姫、彼女はピーチ城での退屈な生活に飽き飽きして、束の間のワガハイとの接触を楽しんでいるのだ」
「ほーお、それは違うぞ。お前を溶岩に叩き落としてピーチ姫と帰った後、いつもパーティーをしているんだがね。ケーキは勿論、ルイージやキノピオ達も合わせたディナー。ステージでのショーもあってそれはもうお祭り騒ぎ。これ全部、ピーチ姫が俺のために企画してくれるんだぜ」
「ふん、自慢になってないな。我が城でもピーチ姫を攫って来た時は、歓迎パーティーを開いている。料理は超一流コックのヘイホーによってキノコ王国では食べられないようなモノが出される。ピーチ城でのマンネリ化した料理より余程良い」
「さぁ、それはどうかね。あんな薄暗い地域でとれるような食材にマトモなモノはあるのか? ピーチ姫の高貴な口には合わないと思うがね」
「美味しそうに食べていたぞ」
「そうかい。ピーチ城でも幸せそうに食べていたがな」
言い終えると、沈黙が訪れる。クッパの野郎、ピーチ姫と色々なことをしてやがったな。全く知らなかったぜ。もてなしの良さは互角って所か。だが、向こうはクッパからピーチ姫へのもてなし。こっちはピーチ姫から俺へのもてなし。ピーチ姫がどちらの方が好きかは一目瞭然だな。
睨み合う俺とクッパ。やはりクッパは俺に負けている。だから早くここを引け、と思うが、まぁ引かないだろうな。
今すぐに殴りかかって倒すことも出来るが、コイツが俺に仕掛けて来た後に反撃する方が良い。そうすれば正当防衛が成立し、俺の圧倒的な優位性が確立される。
そんなことを考えていると、誰かの声がこの沈黙を打ち破った。
「ちょっと! どういうことなのよこれ」
エントランスに響き渡るのは透き通った声。まさか。こ、この声はピーチ姫!
壊れた扉の方を向くと、見るだけで眩しくなるような、麗しのお姫様が立っていた。しかし、手首を腰に当てている。どうやら怒っているようだ。扉のことだろう。
だが、それはそうと!
あぁ、ピーチ姫だ。見慣れてはいるのだが、今日はとても胸が高鳴っている。恋ってこういうものなんだな。家で考えていた時とは比べ物にならない。
「と、扉が見事にぶっ壊れていますじゃ! なんということ……」
クッパを見て慌てふためくキノじい。うん、この件は俺のせいじゃないからな。
「まさかここで戦いでもしたんじゃないでしょうね。マリオ、クッパ。どっちがやったの?」
戦いはした。でも物理的にではない。
「コイツがやりました」
「クッ、キサマ……」
早々に犯人を伝えておく。こういうのは言われる前に言うことが鉄則だ。それに嘘はついてないしな。
クッパが物凄い形相で俺を睨んでいる。やったぜ。
「……貴方なのね?」
「すまん、ワガハイだ」
ピーチ姫の問いにクッパは諦めたように答える。
「まぁ、いいわ。直すのは簡単だから」
──え、許すのか。おいおい、クッパは本当に好かれているってのか?
いや、ピーチ姫の心が広いだけだ。
「これ! お前達、端っこでうずくまってなにをしとるんじゃ!」
「だ、だってぇ。クッパですよキノじい」
「第一キノじいもさっきクッパにびびってたじゃないですか。ぶー」
「あれは武者震いじゃ!」
何やらキノじいがガードマン達に説教をしている。これで俺とクッパ、ピーチ姫の話の空間が出来た。
「それで、なぜ貴方達がここにいるの?」
う、ここで聞かれてしまうか……。どうする。ここで言うのは都合が悪いな。予定ではピーチ姫の部屋でじっくり話し込むはずだったんだが。
「まぁ、クッパは私を攫いに来たのでしょうけど」
「う、うむ。そうだ」
「だが、それはさせないぜ。ここに俺がいるからな」
「ふふっ、そうね」
「な゛っ」
クスっと笑うピーチ姫。ああ、とても可愛い。やはり俺に気があるんだ。クッパめ、いい気味だ。
「マリオ、やるのか?」
クッパは拳に力を込める。力ずくで攫う気だな。だが、その作戦は愚策だ。
「ピーチ姫が嫌がるから、俺は気が進まないがな。あーあ。強引なヤツはこれだから」
「クッ」
クッパも流石にこの場面で無理矢理攫っては、嫌われると思ったのだろう。拳を引っ込める。
「な、ならばピーチ姫。大事な話があるのだ。だがここでは都合が悪い。どこか人気のない所に移動したいのだが……」
「え?」
「あ、コラ!」
クッパめ、そうはさせんぞ。
「俺の方も大事な話があるんだ。クッパよりもな。ピーチ姫、先に聞いてくれないか」
「おい! ワガハイが先に言い出したからワガハイが先だぞ!」
俺とクッパはギリギリと歯ぎしりして睨み合う。
「えぇ、なんでそこで喧嘩するのよ。貴方達そんなに仲が悪かったかしら」
ピーチ姫、見苦しい所を見せてすまない。これも貴方様が欲しい一心なのです。すぐにこのクッパの馬鹿をなだめてみせますので──
「じゃあいっぺんに聞くから、二人とも私の部屋にきてちょうだい」
なんだって────
俺もクッパも目を丸くした。
「ほら、行くわよ」
「「……はい」」
そのままピーチ姫の流れに逆らえぬまま、ついていくこととなった。
──おいおい、妙なことになったぞ。
◇
ピーチ姫の部屋
「そこの席に座って」
「あ、えっと」
「大事な話なんでしょ? ちゃんと聞くから、そこに座って」
言われるがままに座る。
──この状況はどうすればいいんだ。クッパがいる中で話さなければいけないのか……? そりゃキツすぎだぜ!
まじかぁ。でもこの状況、話さないといけないよなぁ。もし俺が話さなくて、クッパが腹くくって話でもしたら。
ピーチ姫とクッパがくっつくじゃねえか! それは許されねぇ!
「はい、じゃあマリオから」
うっ。仕方ねぇ。いっちょかますか。クッパの目の前でピーチ姫とくっついて、目に物みせてやれるって考えれば良いだろ。うん。
「お、おう。じゃあ話すぞ」
緊張で声が強張る。横から小声で『早くしろバカ』と悪態をつくクッパ。うるせぇ。
「えーっと。ぼくマリオハピーチ姫に伝えなキャいけないことがありマス」
「なんだか話し方がヘンよ?」
笑われてしまった。いかん。俺は手で顔をパチパチと叩く。
「し、失礼。あー。あー。伝えたいことがあるんだ」
「伝えたいこと?」
「ああ。実は俺……。ピーチ姫の事が好きなんだ」
うおお! 言ってしまった! ついに言ってしまったぞ! さあピーチ姫の反応は?
「うふふっ、やーね。恥ずかしいわ」
おお! 思ったより良い反応! ま、まぁわかっていたがな。横目でクッパをみると、目を丸くしたまま固まっている。よし、いい雰囲気だぁ!
「初めて会った時さ、クッパ城の決戦後だったじゃん? 正直それまでピーチ姫を見たことなかったからさ。なんとなーくよくわからないまま、正義感だけで動いてたのよね。それでピーチ姫の顔見てさ、一目で惚れちゃったのよもう」
「もう、上げてくれるわねー」
「それからさあ、ピーチ姫が攫われるといてもたってもいられなくってさ。誰かが助けに行く前に俺が助けてやる! そう思うようになった」
「そう! 嬉しいわね」
「あーあとさ。リゾートにも行ったよな! そん時もクッパに邪魔されたけど、最終的にピーチ姫を取り戻してさ。バカンスを楽しんだっけ。ピーチ姫の水着、可愛かったなぁ」
「うふふ、でしょー。良いのを選んだんだから!」
「だからさ」
「ちょっとまてい!」
「なんだよ。人が話し中だぞー?」
クッパめ。今からちょうど結婚について言おうとしたのに、邪魔したな。だが、ピーチ姫のこの反応。
──俺の勝ちだ。そう確信していた。そしてそんな余裕からか、クッパに対しても余裕に接することが出来るようになった。
「そろそろワガハイだ。ピーチ姫、いいか?」
「え? あ、いいわよ?」
ピーチ姫も俺の話で上機嫌だ。ふふふ。どれ、クッパの発言に、どう答えるか、しかと見せてもらおう。
「ワガハイがこの前送ったクッキー、どうだった?」
「ああ、あれね! コシが聞いてて美味しかったわねー」
あれ? 意外にも良い反応だぞ。
──まぁピーチ姫は優しいからな。
「ガハハハ! だろう! あれはパタパタ一族伝統の由緒正しきクッキーなのだ!」
「あらそうなの。高かったんじゃない?」
「大丈夫だ! パタパタは我がクッパ軍である。数枚分けてくれたのだ」
「そうだったの。安心したわ。貴方色々なものを私にくれるから、コイン使わせちゃって悪いと思ってたのよー」
「ガハハハ、ワガハイは使っても構わんぞ! なにせピーチ姫をワガハイは好きなんだからな!」
言ったなクッパ! 普通の会話と思わせて、サラッと伝えやがった……。そういう上手さはあるようだな。さぁ、ピーチ姫の反応が見ものだ。
「もークッパまで上手いわねぇ。これは私を褒めちぎる企画かなにか?」
──あれれ? おっかしいぞ。クッパに対しても、良い反応だと? どういうことだっぺ。
俺は少し考える。すると小声でクッパが『ガハハ。勝負はまだ終わってないぞ』といってくる。
──あ、そうか。まだ俺達は想いを伝えただけ。まだピーチ姫の返答は来ていないじゃないか。
気分が高まって早とちりしすぎたか。
こりゃまだ油断できねえな。
手を口元に持ってきてクスクス笑うピーチ姫に、俺はちょっと真面目な顔を造る。
「それでさ、ピーチ姫。返答を聞きたいんだが……」
「うおっ! ワ、ワガハイもだ」
すかさずクッパも張り合ってくる。くそ、本当邪魔にしかならない存在だぜ。ピーチ姫はそんな俺達をみて『え?』とまだ笑っている。
話を続ける。
「俺の好きって感情に対して。ピーチ姫はどうなんだ? お、俺のことが好きか?」
「あっ、えーっとね」
これで聞きたいことが伝わったか。
──さて、ついにこの時だ。この次の一言で、恋の戦いの決着はつく。9割方俺の勝ちだと思うが、万が一という事がある。
高鳴る胸。早くなる鼓動。さあ、答えを言ってくれ……!
とても長い時間に思えた。ピーチ姫は口を開く。その一瞬すらもスローモーションに見える程に。
「好きよ? 勿論」
うお。
おお。
うおおおおおおおおおおおおおおっ!
聞きましたか⁉︎ ねえ! 『好きよ? 勿論』だって! 勿論だって! ええ⁉︎ ああ! おい!
堪んねえな! わかってたけどな!
やったぜ! 俺の勝ち────
「あ、クッパも好きよ」
──オォウ?
ちょ、ちょっと待ってくれwait wait
アタマのショリがオイツカナイヨ。
──脳内キノコスープ。ごっくん。美味い。
どういうことだってばよ。
「あ、えーと。ピーチ姫。どっちも好きってのはどういう……」
ピーチ姫に聞いてみる。多分今の俺は混乱して変な顔になっているだろうな。クッパも口をあんぐり開けてるし。
「え? そのままの意味よ。どっちも好き」
そのままオウム返しされてしまった。あれ、ピーチ姫って多夫一妻系お姫様だったの? なぁにそれぇ。
「ピーチ姫。それではワガハイ一体どうすれば……」
「どうすればって?」
横にいるクッパもかなり困惑している。逆にピーチ姫はニコニコしてるし……。
「け、結婚のことだ……」
クッパが言う。そうだ。どうするんだ?
まさか俺とクッパ両方と⁉︎
そんなん嫌だぞ俺! 朝起きた時、食事の時、仕事から帰った時、夜寝る時。この全てにピーチ姫に加えてクッパもついてくるのは嫌だからな⁉︎
「結婚? やーね、なにいってるのよ」
オーウ、爆弾発言おかわり頂きましたー。結婚しないマジ?
──あぁ、(クッパとは)結婚しないってことか。
「じゃあ、俺と結婚してくれるのか?」
「え? しないって言ったじゃないのよー」
違ったわ。
──いや、まだだ。俺は諦めないぞ。まだ最後の切り札のアレがある。クッパと口論した時も、使わなかったあの言葉。
女性は嫌いな男性の頬にキスをしない。
ぶっこむならここしかない。
「じゃあさ、ピーチ姫」
「うん?」
「俺が助けた時に、キスしてくれるのはなんで?」
さぁ、どう答える、ピーチ姫!
「えー。そりゃわざわざクッパ城まで来てくれてるんだから、キスの一つくらい当たり前よ。ふふ」
ここで初めて照れた顔をするピーチ姫。──でも理由が違うんだよな……。
これは好きであることからくるキスというより、うん。軽い感じの。そう。
お礼のキスだ。
──マンマミーヤ。アンマリーヤ。
俺の気持ちは空回り。しかしピーチ姫を責めることはできん。
クッパも同じ気持ちだろう。
「あら、そういえば大事な話ってこのことだったの?」
そうです……ピーチ姫……。うーむ。女性というものはわからないな……。
ピーチ姫のなんの汚れもない顔をみて、ふっと虚無感に襲われる。
は。はは。
なんだか、そんな事態で、その後はまともに話も出来ないまま、別れてしまった。
◇
当たりはすっかり夜。ピーチ城を後にした俺とクッパは適当にキノコ街を歩いた。最初はクッパにびっくりしてたキノピオ達だが、おとなしいこと、俺も側にいることで、次第に反応も無くなった。
──なんだかなあ。俺もクッパもピーチ姫を争って、何やってたんだろうなって。あんなに対立して、何やってたんだろうなって。別に和解したわけではないのだが、なんだろう。無性に二人で飲み屋にでもいきたくなったんだよ。誘ったら同意してくれた。
適当な居酒屋を見つけ、中に入る。俺達はお酒は苦手なので、ウーロン茶を頼む。そして『ふぅ』と息をする。
「なぁ、どう思う?」
「うーむ」
ピーチ姫の発言について。クッパは道中考えていたと言って、俺に話す。
「多分、姫の言う『好き』はLikeなんじゃないか」
「と、言うと?」
「友達として、だ。ワガハイ達の言う『好き』はLove。恋人」
「……ふむ」
「どうだ?」
友達としての好き。Likeか。なるほど。そう考えればピーチ姫の反応にも納得がいくがなあ。
「キスは流石にLoveじゃないのか?」
「そこなのよな。まぁピーチ姫は軽いのだろう」
ピーチ姫、俺は相当な思い違いをしていたんだなぁ。
「でさ、これはふられたって言うのか? 確かに俺達との結婚は無いって言われたけど、嫌われた訳ではないよな」
「うむ。ふられてはいないと思うぞ。ピーチ姫だって、これから会ったとしても、今まで通り接してくれるだろう。恋人として、ではなくな」
「そうかぁ。俺達、これで良かったのかなぁ」
「良かった、と言えるかわからんが、もうお前と面倒な言い争いはしなくて良いのは気が楽だな」
「ハハハ! 確かにそうだ。あん時は気がずっと立ってて、精神的疲労がすごかったからな」
俺とクッパは笑い合う。なんというか、今まで思っていた気がスーっと抜けていったような気分だ。でもピーチ姫を嫌いになったわけじゃない。なんというか、手をいくら伸ばしても届かないことを理解したような感じだ。
注文を決め、店員に頼む。何か食べながら、もうちょっとゆっくりしていくか。
食事を終え、店を出る。家に帰るのだ。
「じゃあな、クッパ。お互い頑張ろうや」
「おうよ。新しい恋の相手、見つかるといいな」
「バカ! 今はいらねぇよ。もう少し休みたいんでな」
「ガハハハ! それもそうだ」
ルイージが家で待っている。そうだな、今度新しいキッチン用具でも買ってやるか。相談に乗ってもらったお礼だ。
「ただいまー」
「おかえり兄さん、どうだっt」
チュッ
「うげー! 何するんだよ兄さん!」
◇
あの日から、どれくらいか過ぎた日
俺は皆を集め、キノコ王国のテニスコートにやって来た。
「兄さんがこんなとこに誘うなんて珍しいね。それにクッパもピーチ姫もいるし」
「おうよ。どうせならダブルスでやりたいからな」
「ガハハハ! ワガハイの豪速球でけちょんけちょんにしてやるわ!」
「あら、クッパってテニスやってたの?」
「いんや。野球と似たようなもんじゃないか?」
「違うわ!」
マリオテニス 開幕────
終わり
読了ありがとうございました。一話完結です。
割と明るい失恋の話的な何か
アイデアはオデッセイのマリオとクッパがピーチに詰め寄る所から思い浮かびました。