五月雨晴也の野望   作:漆原 涼介

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第二十二話 清水寺の戦い

ーーーーーーー世の中には幸福も不幸もない。全てはその場の考え方によって変わってしまうものだ。幸福なときに不幸になれるし、不幸な時には幸福になれる。所詮は自分の事だ。考え方を変えるだけで、全ては変わっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もう少しだわ」

 

信奈は清水寺から馬を飛ばし続け、既に南蛮寺近くまできていた。もし『あの言葉』が本当だとすれば、晴也が危ない。あの言葉、とは清水寺で聞いた奇妙な声のことだ。どうやら、自分だけにしか聞こえていなかったようだが……

 

 

 

『南蛮寺にて五月雨晴也、パードレ、信者を人質にとっている。助けたければ織田信奈、南蛮寺まで来いーーーーー』

 

 

こんなところで晴也に死なれてもらっては困るのだ。もっともっともっと手柄を立てさせて、押しも押されぬ織田家の家老へ。そして、やがては一国一城の主に。更には、天下統一の為に繰り出される地方方面軍をまるごと率いて、天下統一の最大の功労者に。

 

その暁には、御所から目もくらむような高い官位に晴也を昇らせて……それでも……この国が無理なのであれば、大きな船を造って、日本を飛び出せばいい。狭い日本を飛び出して、広い海へと。そうすれば、誰にも文句は言えない筈だ。自分と……晴也との………。

 

「って、なに考えてんのよわたし!?」

 

信奈は自らの妙な想いを振り切るように、頭を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふん、来たか」

 

そう呟くと、善十坊は種子島を構えた。まだ遠いが、信奈の姿ははっきりと見えた。しかし、まだ遠い。しっかりと殺さなければならない。今まで自分は、どんな相手でも一発で仕留めてきたのだ。今回も同様、無駄玉を撃つ気は一切無い。南蛮寺近くの空き家に潜んでいる善十坊は、種子島で狙いを定め始めた。もう少し、もう少し近づいてくれれば……。

 

 

ーーーーーーーそんな時、南蛮寺から大轟音。

 

 

「っ!? なんだと……」

 

その轟音に驚き、信奈の馬は足を止めてしまっていた。そして信奈の後ろから、半兵衛と犬千代が駆けつけてきた。半兵衛はすかさず札を取り出し、犬千代は信奈の前に出る。

 

「の、信奈さま!」

「……危ぶない」

「なっ!? なんであんたたちがいるのよ!?」

 

犬千代と半兵衛の二人は、信奈を守るように前に出ていた。そして、物陰に隠れていく。善十坊は舌打ちをし、民家から飛び出した。先程の銃声……おそらく傭兵たちが人質を銃殺したのだろうか。だが、そんなこと知ったことではない。南蛮寺でなにが起きていようと、織田信奈さえ殺せればいいのだ。この暗殺を成功させれば、ありえないほどの大金が自分の下に流れ込んでくる。そういう話になっている。

 

それに、織田信奈がこのまま天下を取れば、おそらく戦が無い平和となってしまうだろう。それは困る。自分のような傭兵は、この時代でなければ生きられない。今更、別の道など歩めない。

 

善十坊は息を殺し、草むらに紛れ、織田信奈の下へと見つからぬように近づく。もう少し…もう少し……よし。この位置なら狙える。下手に失敗して逃げられるのは不味い。少し遠いが、自分の腕には絶対の自信があった。

 

「これで……!」

 

心を落ち着かせ、種子島を構える。そして信奈の額へと狙いを定める。そして、ゆっくりと引き金を……

 

「織田信奈は……やらせんっ!」

「ぐほぉ!?」

 

突如、後ろから強烈な体当たりを受けた。そのまま一転。善十坊は顔に付いた泥を払いながら、直ぐさま立ち上がった。すると目の前には、龍の仮面を付けた六尺五寸の大男が立っていた。それだけで、善十坊は威圧されてしまった。

 

「な、なんだおまえ……」

「貴様が杉谷善十坊か。儂の名は龍面鬼、手合わせ願おう」

 

そう言うと、龍面鬼は腰の刀を抜刀した。

 

「お、おまえ…織田のっ」

 

善十坊がそう言葉を繋げる前に、龍面鬼は刀を振るった。間一髪、善十坊は転がるように避ける。

 

「儂は……織田の者などではない」

「じゃ、じゃあなんで……」

「我が友の為……織田信奈には、ここで死んでもらっては困るのでな」

 

これは織田信奈の為などではない。我が友の為。そう自分に言い聞かせ、龍面鬼こと斎藤義龍は、憎き相手を守る為に立ちふさがる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死んだ。絶対に死んだ。避けられない。俺、五月雨晴也の人生はここで終わりだ。当たり前だが、銃弾より速く動ける人間など存在しないのだ。いや、存在したとしても、そいつは間違いなく人間じゃないだろう。ま、そんな思考も無駄だ。もうすぐ俺は死ぬんだから。心残りはある。この時代にも、現代にも。いや、それにしても銃殺か。普通に嫌だな。死ぬほど痛いんだろうな……いや、そりゃ死ぬんだから当たり前か。悪いな、秀吉さん。あんたの代わりは、俺には荷が重すぎるらしい。

 

 

 

 

 

ーーーーそんな思考をぶち壊すように、酷く甘ったるい声が聞こえた。

 

 

 

 

 

「ほら、いつまで目を閉じているのだ?」

「……え?」

 

ゆっくりと目を開ける。そこには、倒れている男の上に堂々と立っている少女……石川五右衛門こと、『五郎吉』がいた。しかし、いつもの様な大胆不敵な格好ではなく、そこらの子供たちが着そうな服を着込んでいた。そして、なぜか得意気な顔をしている。よく見ると倒れている男は白目を向き、口からは泡を噴いていた。どうやら、完全に気絶しているようだ。

 

「いやぁ~本当に危なかったな。おまえ、少し遅かったら間違いなく死んでたぞ?」

「え、ど、どうしてだ……?」

 

ほら、と五郎吉は晴也の後ろを指さした。振り返ると、そこの壁には小さな穴があった。銃弾の跡だ。ということは、おそらく五郎吉が銃の軌道をズラしてくれたのだろう。

 

「フロイス~、壁に穴開けちまったが許してくれよぉ?」

「はい。それくらいは別に気にしなくても大丈夫です」

「え、フロイスと知り合いなのか?」

 

ああ、と五郎吉はうなづいていた。フロイスもうなずいているし、本当らしい。

 

「あたいは南蛮寺に良く来るからなぁ」

「そ、そうなのか……。そしにしても、本当助かったぜ。ありがとな」

「ん、あ、ああ……」

 

五郎吉は頬を染め、恥ずかしそうにそっぽを向いた。そして、ゆっくりと溜息を吐いて口を開いた。

 

「……ふん。最初、おまえが人質に加わった時は驚いたぞ」

「……おまえ、人質になってたのか?」

「まあな。おまえに話しかけようとしたけど……ちょっと試したかったんだよ」

「試す?」

 

すると五郎吉は不気味に笑いながら、なにかを見透かすように言った。

 

「そう、あんたがこんなところで気を小さくする男なのか。あたいの目は間違ってなかったのか……ってな」

「……そ、そうか」

「まあ、まだ色々と言いたいことがあるが、話は後でだッ!」

 

五郎吉の言う通り、先程の銃声により、信奈暗殺の為に近くに潜んでいた傭兵たちが集まってきていた。急がなければ、どっちにしろ皆死ぬ。晴也は五郎吉から短刀を受け取り、いち早く人質たちの縄を解き始める。その間に、五郎吉は南蛮寺から飛び出した。

 

「って、おい! 危ねえぞ!!」

 

晴也の制止しを無視し、五郎吉は堂々と立っていた。既に南蛮寺の周りには沢山の傭兵たちが取り囲んでいた。傭兵たちは、突如出てきた五郎吉に面食らっていた。

 

「な、なんだ、このガキ……?」

「ど、どういうことだ?」

 

やれやれ、と五郎吉は面倒くさそうに頭を掻く。そして思いっきり息を吸い込み、それを叫んだ。

 

「石川衆ッッッ!!!!」

「「「おおおおおお!!!」」」

 

その叫びに呼応し、近くの民家や茂みの中から、石川衆の屈強な男たちが声を荒げながら続々と飛び出してきた。そして飛び出すと同時に、面食らっている傭兵たちをなぎ倒していく。

 

「野郎どもォ! こいつらをぶっ潰す!!」

「「「おおおおおおお!!!」」」

 

正直に言おう。石川衆や川並衆の大将である五右衛門と五郎吉はほぼ同等だ。だが、それを除いて石川衆と川並衆が戦い合ったとしよう。川並衆よりは僅かに人数が少ないが、まず間違いなく石川衆が勝つだろう。京で義賊をするというのは、尾張や駿河なんかで盗みをするのとは訳が違うのだ。

 

「オラァ! 早くこいつらをぶっ潰すぞォォォ!!」

「な、なんなんだよ!? こいつら!?」

 

そんな石川衆の猛撃により、傭兵たちは何も出来ずに潰されていく。いくら善十坊の選りすぐりの傭兵たちだろうと、所詮は傭兵。義賊として、決して易しくない修羅場を潜ってきた石川衆とでは比べものにならなかった。

 

「俺の出る幕はない……かな」

 

おそらく、石川衆が傭兵たちを倒すのも時間の問題だろう。なら、その間に南蛮寺で捕らわれている宗久たちを解放しようとした時。

 

「晴也よ!」

 

その声と共に、草むらの中から義龍が現れた。なぜか肩には、ぐったりと気絶して縄で縛られている善十坊を担いでいた。

 

「義龍!? おまえ、どうしてここに!?」

「儂はここで残っているように、五右衛門殿から仰せつかったのだ」

 

晴也は川並衆にとある任務を与えていた。とても重要な任務である為、川並衆の全力を使ってくれと言った筈なのだが。

 

「ていうか、なんで善十坊を担いでるんだ……?」

 

義龍は担いでいた善十坊を乱暴に下ろし、口を開いた。

 

「こいつを捕まえて、色々と問いただしのだがな……晴也よ、不味いことになっておる」

「不味いこと?」

「ああ、実はな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!? それ本当かっ!?」

 

うむ、と義龍は首を縦に振った。義龍の話が本当ならば、この状況は非常に不味い。急いで清水寺に戻らなければ……!

 

そう考えていると、後ろから誰かに蹴飛ばされた。

 

「いってえっ!?」

「この、心配かけるんじゃないわよ!」

 

信奈だった。かなり飛ばしてきたらしく、息が上がっている。良かった、どうやら無事にここまで来れたらしい。しかし、石川衆の事はどう説明するか。川並衆のような無名の川族ならともかく、石川衆は京では名の知れた連中だ。

 

どうしよう、と考えていたが何時の間にか石川衆の姿は一人も見当たらなくなっていた。こちらの考えを察してくれたのだろうか。しかし、ありがたい事に善十坊が雇った傭兵たちは全員地面に伏していた。

 

「ちょっと! どこ見てるのよ!!」

「あ、ああ。信奈、悪かったな……」

「も、もういいわよ!」

 

ふん、と信奈はそっぽを向いた。しかし、これで無事解決という訳にはいかない。義龍と晴也は顔を見合わせ、黙ってうなづく。流石に信奈に見られるのは不味いらしく、義龍はひっそりと晴也たちの下を離れた。それを見届けると、口を開いた。

 

「なぁ、おまえの他には?」

「半兵衛と犬千代だけよ。二人には人質に怪我人はいないか見させてるけど」

 

すると、清水寺は数が少ない上により手薄になっているのか。なら、こんなところで悠長に話している場合じゃない。

 

「信奈、半兵衛たちと急いで清水寺に戻るぞ」

「な、なに焦ってるのよ……」

「十兵衛が危ない……!」

「ど、どういう事よ?」

 

話は後でだ、と晴也は早速自分が乗ってきた馬に飛び乗った。ここで説明するよりも、清水寺に行きながら説明をするほうがいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「信奈さま……一体どこに……」

 

信奈が清水寺を飛び出してからそれなりに時間が経ったが、未だに信奈は戻ってこない。付近を見て来るように兵に命令したが、そもそも信奈がどこに行ったのかもわからないのだ。時が経つにつれて、不安ばかりがつのっていった。

 

「まさか……この十兵衛が使えないから嫌になって……」

 

そうだ、思えば自分は全然役に立っていない。今川義元を将軍にする為に必死に集めた銭も、自分より身分が下である筈の晴也は、その数十倍以上のお金を既に調達してしまっていた。晴也先輩さえいれば、私はいらないのではないだろうか。そもそも、先輩さえいなければ……。そんな風に考えてしまっていた。一人寂しく悩んでいると、見張りの兵士から信じ難い知らせが飛び込んできた。

 

『大和の松永弾正が今川義元さまの首を狙い、一斉に京へと進軍中!』

 

思えば、松永弾正久秀が謀反と下克上の常習者である。このような事態に陥る可能性もあった筈だ。しかし、織田軍の大半は武田上杉連合を迎え撃つ為に美濃へと進軍中。今ここにいる部隊では、あまりにも兵力が足りない。それだけではない。敵は一万を超える大軍。その上、城塞ではなく、寺に籠っての防衛戦である。あまりにも状況は絶望的だった。

 

どうすれば……と光秀が悩んでいると、後ろから甲高い笑い声が聞こえた。

 

「おーほっほっほ! まあまあ、光秀さん。頼りにしていますわよ! お寺の周りが囲まれていますが、この程度の危機ぐらいあなたの知恵でどうにか出来ますわよね?」

 

沢山の松永の旗印が塀の外で乱舞している中でも、奥座敷で十二単を着込んで蹴鞠で遊んでいる今川義元だけが陽気だった。

 

しかし、そんな義元の言葉で光秀はハッとした。そうだ、自分の役目はここで義元を守り抜くことだ。信奈は「ここをお願い」と自分に命じたのだ。その命令に背く訳にはいかない。

 

「御意。京を守るは、この明智光秀。命に代えましても、必ず義元さまをお守りいたします」

 

光秀はそう言い、ゆっくりと深呼吸した。信奈さまがいなくて良かったです、と光秀は思った。不幸中の幸いと言うやつだろう。長秀たちが清水寺に戻ってくるまで……耐え続ける。

 

光秀は種子島を片手に、自ら前線に立つ。そして敵の名だたる将を討ち取っていき、松永勢を怯ませていく。もはや、光秀は自らの命を投げ出す覚悟で戦っていた。しかし、やはり一人で戦況が覆せるほど甘くはなかった。

 

遂には門が外側から破られた。敵兵が庭園に流れ込んでくる。その兵たちの先頭に立つ、一人の異国風の美女。

 

「うふ。我が名は、大和の多聞城城主ーーー松永弾正久秀。以後、お見知りおき。まあ、すぐに末期の別れとなりますけれど」

「この女が……!?」

 

妙齢、三十歳になるかならないかの熟れ頃の美女であった。肌は褐色で、この時代では珍しい清楚な短髪。一見すると、この国の人間ではなさそうだ。父か母が外国の者なのかもしれない。そして、色町の遊女のような女の色気。その豊満な身体を包む衣装は、唐風の派手なものであった。

 

「槍は、宝蔵院流にございます」

 

その母性あふれる笑顔は、まるで菩薩のようである。到底、天下の大悪人には見えなかった。しかし、それでも手に持つ武器は十文字槍。別名、鎌槍である。戦ならともかく、一対一の個人戦で槍を使うと言うのは、自らの力に自信があるのだろう。槍はひたすら前へと敵の急所に向けて直線的に突くのみ。しかし、剣は前後左右、変幻自在のものである。なので、自然と剣が有利となってくる筈だ。

 

「……宝蔵院流相手に種子島では勝負になりません。私も抜かせていただきます」

 

光秀は種子島を捨てた。所詮、鉄砲はこのような狭い場所での近接戦闘で使える武器ではない。弾を込める内に、伸びてくる十文字に心の臓を刺されるのは目に見えている。

 

「我こそは明智十兵衛光秀。剣はーーーー鹿島新当流、免許皆伝」

 

そう言うと同時に、光秀は鹿島新当流奥義である“一つの太刀”を放つ。

 

「なっ!?」

 

とっさに、十文字を構えていた久秀が後ろへ飛んだ。もし光秀が己の流派を名乗っていなければ、久秀は斬られていただろう。久秀は、初めて驚いたかのように目を見開いていた。種子島の名手でもありながら、あの剣鬼将軍の足利義輝に匹敵する剣士でもあるというのか、この娘は。そして、このような天才までもおのが配下としているのか、織田信奈は……

 

「うふっ。わたくし、どうしてもあなたが見せる絶望の表情を見たくなりましたわ!」

「面妖なことを……!」

 

じりじりと、二人の間合いが接近していく。その姿に、両軍の兵たちも戦うのを忘れ、二人に見入ってしまっていた。誰も言葉を発しない。いや、発せない。達人同士の立ち合い、おそらく勝負は初手で決まるだろう。初手を失敗すれば、確実に死ぬ。

 

そんな緊張感が溢れる中、久秀の厚い唇が、毒を吐くように蠢いた。

 

「甲賀の杉谷善十坊が、織田信奈さまを撃ったようですわ」

「っ!? なにを!」

「くすっ。あなたが五月雨晴也に渡した手紙。あれのお陰で五月雨晴也が捕まり、織田信奈さまを引き寄せられましたわ。あなたに礼を言わなければいけませんね」

 

え、と光秀は目を見開いた。あの手紙は、商人である津田宗久どのから渡されたもの。どうにか五月雨晴也どのとお話がしたい、と頼まれていたのだ。

 

「それに、今ここがもぬけの殻になっていると知らせたのは津田宗久ですわ」

 

それでは、宗久どのは初めからわたしを利用するつもりだったのか……。十兵衛は、宗久が自分を屋敷に招いて、共に話をしたことを思い出していた。

 

 

『本当に、今すぐ一万貫くれるのですかっ!?』

『ええ。しかし、一つ頼みごとがあります』

『わたしにできることなら!』

『それでは……この手紙を五月雨どのにお渡し下さい。決して、手前からだとは伝えないようにお願いします。これさえ渡してくれるのならば、約束の一万貫は今すぐにでもお渡ししますので』

『本当ですか! そのくらい、この十兵衛にお任せ下さい!』

 

 

 

そんな……と光秀は剣を手放した。よくよく考えれば、そんな上手い話なんてある訳がなかった。義元を将軍にする為に必死になり過ぎていたせいで、そんなことにも気づけなかった。

 

わたしのせいで、信奈さまが? わたしのせいで、先輩が?

 

自分の存在意義が足下から崩壊したかのような、衝撃だった。

 

「……うふ。さようなら」

 

久秀はそんな隙を見逃さず、光秀の白く細い首筋へと、十文字槍が蛇のように伸びていった。

 

ーーーーーだが、光秀は絶命しなかった。

 

「やらせるかあああっ!」

 

光秀と久秀の間合いの長秀に飛び込み、十文字槍をはねのけた者がいた。久秀は一旦後ろに飛び、距離をとる。しかし、それは光秀の下に駆け寄っていた。

 

「よく耐えたな、十兵衛」

「……え?」

 

光秀の頭をぐしゃぐしゃに撫でると、ゆっくりと手に持つ木刀を久秀に突きつけた。久秀は予想外の第三者の出現に、舌を打つ。

 

「ぶしつけな真似を……あなたは……?」

「ああ、いいところを悪かったな。だが、ここから俺、五月雨晴也が相手にさせてもらうぜ!」

 

久秀は、またしても目を見開いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




投稿が遅れて申し訳ありませんでした。

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