Muv-Luv Alternative The Phantom Cemeter(改稿版) 作:オルタネイティヴ第Ⅵ計画
Episode5.夕呼との初交渉
2001年10月22日(月)17:08
「……あなたが、シロガネタケル?」
夕呼の部屋に入るなり不審な目を向けられた武は、主観時間で十数年ぶりの夕呼の姿に郷愁と同時に哀愁を覚えた。
だがしかし、懐かしさばかりに耽っているわけにはいかない。
(さて、ここからが正念場だな……)
と心の中で武は気を引き締めた。一度落ち着くために、視線だけで周りを見回す。
相変わらず夕呼の部屋は汚かった。
汚いというよりかは落ち着きがない部屋だった。
元々夕呼は整理整頓するタイプではないが、それでもこの部屋の汚れ方が彼女らしさを超えて、一種の心の状態の鏡とも言えるだろう。
散乱している本はどれもが読書の途中という感じだった。
まるで何かを探しているかのように武は感じられた。
(夕呼先生も辛いんだな……今回はきっと――いえ、必ずお役に立ちますから)
と熱い決意を胸に秘めている武。
武は夕呼に対し、信頼と信用の両方を寄せている。
それも絶大に。
これがいかなる意味なのか、それはこの2種類の言葉の意味を紐解けば分かる。
信頼と信用は似ているが、判断の根拠が少し違う。
信用とは、過去の実績や客観的な情報を基に、この人なら大丈夫だろう……と判断することだ。
例えば、銀行がお金を貸すときは、安定した収入があることや過去に返済の遅れがない、勤続年数が長いなどといった実績を見る。
これはその人の人格を深く知っているからではなく、数字や履歴から返してくれそうだと判断している状態だ。
あの人は期限を守るから、今回も任せられる……これも信用だ。
一方、信頼とは相手の人柄や関係性を基に、この人なら自分を裏切らないと思うことだ。
まぁ裏切るという表現は相手に期待を抱いているからだとか、そういう細かいことは今回は抜きにする。
例えば友人に悩みを打ち明ける場合、友人に特別な資格や実績があるわけではなくとも、子人なら言いふらさない、或いは自分の気持ちを分かろうとしてくれると思えるなら、その友人を信頼しているということになる。
これらを一言で分けると、信用は実績を信じることであり、信頼はその人自身を己の感覚で信じることと考えると分かりやすいだろう。
この信頼と信用を、両方とも武は夕呼に対し保持している。
つまり、極端に言ってしまえば、武は夕呼に対し疑う心を一切持っていない……ということになる。
それはもう盲目的なほどで、ある種の宗教と言ってすら過言ではない。
まぁそれはこの際は一旦脇に置き、話を戻そう。
だが、この世界ではお互い初対面となる。
つまり、武が夕呼を幾ら信じたところで、その思いは一方的なものとなる。
武から夕呼に
ましてや用心深い夕呼のこと。
仮に階級を無視したとしても、歳が20前後に見えることに加えや、基地襲撃事件の直後に現れたこと。
そしてオルタネイティヴ計画の詳細を知り、かつ彼女の胸の内を読める者となれば、夕呼が何の確証もなく信じるわけがない。
それに彼女の手腕の良さを、武は既に2回ほどこの目で見て体験している。
実際にはそれ以上なのだろうが……。
兎に角、気を抜けばあっという間に呑み込まれてしまう可能性があった。
横浜の女狐、或いは横浜の魔女という2つ名は伊達ではない。
夕呼の問いに武は、前述の通り一旦部屋の中を視線だけで見回してから答える。
「――はい。俺が白銀武です」
その見回した時間が、いい具合に会話に一間をもたらす。
それが逆に彼女を警戒させる。
「――あんた……何者?」
相手を推し量るというよりかは、どちらかというと警戒色が強めの問いだった。
夕呼は、武のかつての記憶と同じように椅子に腰掛け、左手を顎に当て、目をジッと細めてこちらを見ていた。
だが、右手だけは机の下に隠れていた。
恐らく……いや、確実にその手には拳銃が握られているのだろう。
「あれだけの検査を受けた後だっていうのに、ケロッとしているからですか?」
「何?嫌味のつもり?」
全く嫌味のつもりはなく、あくまで夕呼とのいつものやり取りと同じ感覚で返した武だが、帰ってきた返答はご覧の通り。
フラストレーションが溜まっているのだろうということは、簡単に想像がつく。
「違いますよ。おかしいですねぇ?
少しわざとらしく強調して言ってみた武。
それに対し、夕呼は早くもだんまりを決め込んだので、逆に質問を投げかけてみることにする。
「じゃぁ1つ質問されたので、こちらからも質問……いいですかね?」
「……いいわ、言ってみなさい」
「今日は、2001年10月22日ですか?」
夕呼の唇が少しピクリと動いた。
苛立ちからか、不意を突かれたからなのか、或いはそれ以外なのか……その答えは当人しか知らない。
夕呼は先ほど武が作った間よりかは、若干長めに間を作ってから答えた。
「――ええ。そうよ」
その答えに、武は少しだけ口角が吊り上がってしまった。
やはり、
それを見た夕呼は、怪訝そうな表情を浮かべる。
そして再度口を開いた。
「……なら今度はこっちの番よね?もう一度聞くわ……あんた、何者?」
我慢がならなくなったのか、再度同じ質問をしてきた。
「白銀武です。見ての通り、それ以上でもそれ以下でもないですよ」
「――黒の斯衛の制服を着ているから?」
「さぁ?どうでしょうね」
肩をすくめておどける武に、夕呼の表情は更に険しくなった。
僅かではあるが、ヒールの踵の音が机に隠れた下の方から断続的に鳴っている。
彼女のフラストレーションもそろそろ限界のようだ。
それは次の彼女の行動となって表れる。
「そう、もういいわ……じゃぁさっきの戦術機との関係、洗い浚い吐いてもらうわよ。所属不明の戦術機による、襲撃事件の数十分後に現れた、オルタネイティヴ計画を知る男。偶然にしては出来過ぎてるわ。流石にこっちはしらばっくれても無駄よ」
矢継ぎ早にセリフを吐いた夕呼。
どうやら彼女の中で、武はさっきの襲撃とは無関係ではないと、既に結論付けられているようだ。
それとも揺さぶりのつもりなのか。
恐らくはその前者よりの両方だろうと、彼は判断する。
(まぁ、当然そうなるわな……)
ただ武にとって少し意外だったのは、夕呼の興味を引くために言った、4の遅延と5の準備、ゼロとゼロ、脳とカガミなどの単語。
或いはオルタネイティヴⅣの失敗について、先に聞かれなかったことだ。
やはりいくら苛立ちが溜まっているとはいえ、外堀から埋めにきたのだろうか。
「あぁ、それは俺ですよ」
「ッ!?……あんたが!?」
ここに来て、ようやく夕呼が目に見えて表情を変えた。
というか、大層な驚きようだった。
ここまで驚きをあらわにする夕呼は、武の記憶の中でも少ない。
やり過ぎると後が怖いのはわかってはいるが、少しだけ夕呼を手玉に取れていると思うと、ちょっとだけ楽しい気持ちが、武の中に芽生えてくる。
元の世界でもこの世界でも、武が夕呼にやられっぱなしだったせいだろうか。
しかし、この世界の夕呼にとっては、それだけの驚きであったことに変わりはない。
まさか基地襲撃の張本人が自ら乗り込んでくる可能性は、彼女の中では少ない可能性だったようだ。
でもまぁそれはそうだろう。
映像越しには20代前後……こうして目の前にすると10代後半にしか見えないこの少年に、意図的とはいえ数多の激戦に投入してきた精鋭である、A-01部隊が敗北したという事実。
そして、戦術機の操縦経験がない夕呼でもわかる、有り得ないあの戦術機動の数々。
そして使用されることはなかったものの、夕呼が確信を持った電磁投射砲の小型版。
一体、この少年はなんなのだという疑問が、彼女の中で生まれる。
夕呼は立ち上がり、机の下に隠していた右手を、その手に予め握られていた拳銃の銃口を……武へと向けた。
「……一体、何が目的なの?」
武は即座にスッと先程の雰囲気や表情とは一転、真面目な顔になって答えた。
「オルタネイティヴⅤの発動阻止。そして、オルタネイティヴⅣの完全な完遂と、人類の勝利です」
「……あなたが、反オルタネイティヴ派の工作員である――って話の方に、より信憑性を感じるんだけど」
こんな馬鹿げた工作員が、一体この世のどこに存在するというのか。
やはり夕呼も平和ボケしていたのかもしれない。
こんな地下のフロアに引きこもり過ぎて、真っ当な感覚を失ってしまったのだろうか。
「工作員がわざわざ正面から、それも斯衛の制服を着てきますかね?」
「……あら、階級はもう少しマシなものにした方がよかったんじゃないの?」
ここにきてようやく夕呼が、いつものような調子で話をしてくれた。
拳銃を向けたことで、形勢が有利になったのだと思い始めたのだろうか。
武はそんな夕呼に冷や水を浴びせるつもりで言った。
「この階級は事実ですので。あと1つ、
今度は夕呼の眉がピクリと動く。
1回目に同じようなことを指摘しても、その時は平然としていたと思うが、それは武が因果律量子論の体現者だという事実が発覚した後だった
今回はまだ序盤、それは夕呼の中で可能性の1つしかないのだろう。
故に少し驚いたか、或いは緊張でもしていたか。
武がそのようなことを考えている中、夕呼の方はというと……。
(――またね……一体何者なの?こいつ……)
という感想を抱いていた。
武の予想は残念ながら外れており、意外にも態度とは裏腹に夕呼は冷静に物事を見ていた。
というより、今の銃なんてまともに撃てない……という発言で逆に冷静に戻れた気がしていた。
そう思った理由は2つ。
1つはこの怪しい少年が、またも自分の心の中を見透かしたばかりでなく、その事実を的確に指摘してくるということ。
それは自分でも自負している。
そんな自分の考えを的確に当ててくる人間など、今まで出会ったことはなかった。
2つ目は自分を先生と呼び、その眼には言いようない優しさと懐かしさの、その両方を漂わせた目をするということ。
しかし、夕呼はそこで気が付く。
初めてこの少年に会ったにもかかわらず、その向けられた視線に、前述の懐かしさを何故か自分も感じているという違和感に。
(何故?初対面なはずなのにどうして……)
という疑問が夕呼を襲うが、まずはこの少年は何者なのかということの方が重要なので、そちらの方を優先することにした。
こうしてこの違和感は、夕呼の中から暫くの間忘れ去られることとなる。
夕呼の中では何故、という言葉が止まらなくなる。
何故、オルタネイティヴⅣのことをここまで知っているのか。
何故、こうも平然としていられるのか。
何故、鑑純夏の想い人と同じ名を語るのか。
本当にこの少年、この男は一体何者なのか。
何が目的なのか。
取り敢えず、夕呼は外堀から埋めることにした。
「……さっきもそうだけど、あたしのことを先生と呼ぶのは何故?」
「……じゃぁ今から突拍子もない話をしますけど、最後までちゃんと聞いてくださいね?あと、銃は降ろしたほうがいいですよ。長い話になるので疲れますよ」
武の言葉に夕呼は少しばかり脱力した。
(この男は一体どこまで本気なのか……掴み処が難しいわね。でも不思議と怒りは感じないのね)
暫しの沈黙の後、夕呼はため息を吐いて銃を降ろした。
武は説明した。
自分は元々BETAがいない世界の住人で、ある日気が付くと、BETAのいる世界にいたこと。
そしてその世界では自分の友人や知人が、全く違う役割を持ちながらもそこに存在していたこと。
基地を訪れて捕まり、それを夕呼に助けてもらってそのままなし崩し的に訓練生になったこと。
オルタネイティヴ計画を始めて知ったのは、今年の……つまり2001年12月24日だということを。
オルタネイティヴ計画について話した時、夕呼の眉がピクリと動いたのを武は見逃さなかったが、気にせず話を続けた。
オルタネイティヴⅣは失敗。
理由は、莫大な予算を貪りながらも、何の成果も出せなかったため。
計画はオルタネイティヴⅤへと移行。
そのオルタネイティヴⅤは、G弾の集中投入によるハイヴ殲滅作戦と、全人類から選抜された10万人を、他星系に移住させる作戦であること。
その後、武は地球に残り戦い続けたが、気が付くと2001年10月22日に戻っていた――つまりループしたということを。
「……ふぅん。じゃぁなに?あんたは未来から来たって言うの?」
黙って武の説明を聞いていた夕呼が、遂に口を挟んだ。
「そういうことになりますね」
「それもオルタネイティヴⅣが失敗して、オルタネイティヴⅤが実行された未来から?」
「そうですね。ですが正確には違います」
武の否定に、夕呼が眉をひそめた。
「――どういうこと?」
「この話には続きがあるんですよ」
武は説明を続けた。
ループしたあと、武はもう一度2001年10月22日から、今度こそ全人類を救うために再スタートしたこと。
そして武に紆余曲折あったが、年内にオルタネイティヴⅣは成功したこと。
そして同時にオルタネイティヴⅣが、対BETA諜報員育成計画――つまり量子頭脳00ユニットの完成であったことを知ったこと。
そして00ユニットには――想い人であった鑑純夏が使われたことを。
「……つまりあんたは
「いえ、正確には
「まさか、まだ続きがあるってんじゃないでしょうね?」
「正解です。続けます」
武は真実を話した。
その真実を聞いているうちに、一度収まっていた夕呼の貧乏ゆすりが再開され、前はそこまで大きくなかった揺すり音も、次第に大きくなっていった。
それでも武は淡々と説明を続けた。
そして遂に我慢が出来なくなったのか、夕呼は執務机を大きくダンッと叩き、立ち上がって怒鳴った。
「ふざけた話じゃない!!」
「ですが、それが真実です。そして、それを食い止められる唯一の存在は……夕呼先生だけです」
急に持ち上げられたことに夕呼はほんの少し戸惑ったが、同時に何故か恥ずかしくもなった。
しかしそのおかげで一度沸騰した頭を、再び冷やすことが出来た。
「……そのさっきから言ってる先生っていうのは、あんたが言う元の世界の?」
「そうです。先生はまりもちゃんと共にここ、白陵大学付属柊学園に所属する教師でした」
「……そう。んんっ、BETAがいない世界、ねぇ……」
ほんの一瞬だけ夕呼が笑みを浮かべるが、咳払いをして直ぐに表情を戻す。
どうやら、まりもが教師をしていたという言葉に反応したようだ。
当然夕呼も、親友のまりもが教師という職業に恋焦がれていたことを知っていた。
「まぁ楽しかったわよ?ずいぶんと壮大な妄想話だったけど」
と夕呼は言ってはいるが、それが妄想話かどうか判断する方法を、実は彼女が既に持っていることを武は知っている。
「ループした理由なら自分が因果導体だったからですよ」
「ッ!?」
「そして俺を因果導体にしていたのは純夏でした……俺に会いたいという気持ちだけで」
BETAに捕まり脳髄の状態にされた鑑純夏は、武ちゃんに会いたい……というただの一途な強い気持ちだけでシリンダーの中で生き続けていた。
それが明星作戦で使用されたG弾2発の爆発で発生した、高重力潮汐力の複合作用と、反応炉のとの共鳴で、時空に深く鋭い歪みが発生した。
その時ほんの一瞬だけ、比較的分岐が近い世界との道がつながり、それが反応炉によって変換され、かつ増幅された純夏の思念が作用した結果、大量のG元素を引き換えに、武はこの世界に連れてこられた。
「これが俺のループした原因の仮説、だそうです。詳しいことは自分より夕呼先生のほうが分かるのでは?」
武の言葉で、そっと椅子に座り直した夕呼は、思い出したようにキーボードを叩き始め、何やらディスプレイと睨めっこを開始した。
何のデータが表示されているか、武にはまったく想像がつかないが、これと同じ出来事は経緯こそ違えど、2回目の時もあったことだ。
時間にして1分ほどだろうか。
体感時間としてはそれ以上な気もするが、夕呼は視線をディスプレイから武へと戻した。
「はぁ……どうやら認めざるを得ないようね。まさか、こんな形であたしの理論を実証することになるなんてね」
「信じてもらえましたか?」
「さっきは妄想話なんて言ったけど、あれは嘘よ。私にとっては十分信じられる内容だったわ。だって有り得ないことじゃないもの」
時空間理論、エヴェレット解釈、因果律量子論。
すべて理論が武の存在を肯定したことを、夕呼は理解しているのだ。
「それに、あんなご立派な仮説まで用意してくれればね」
「それは俺じゃなくて、純夏の話を元に夕呼先生が立てた仮説ですよ」
「あら、そうなの?ならどうしてあんたの話が真実だと、あたしが認めたのかしら?」
「社霞、でしょ?霞が俺の証明をしてくれたようで何よりです」
「なるほど。そこまでお見通しなわけね」
夕呼はニヤッと笑う。
(また何か企んでそうだな……だけど今は)
武は口を開く。
「先生が知りたいこと、俺に聞きたいことはたくさんあるとは思います。ですが、取り敢えずはこれから先のことについて、まずは話しませんか?オルタネイティヴⅣがオルタネイティヴⅤに接収されるまで、確かにあと2ヶ月ほどしかありませんが、00ユニットの完成だけならそう焦る必要はないと思います。というか
「ん?どういうこと?」
武の意味深な発言に夕呼は気づくが、敢えてそれを無視する。
「俺と夕呼先生は、オルタネイティヴⅣの為の、ある種の運命共同体みたいなものなんですよ、きっと。いえ必ずそうなはずです。でなければ、俺は貴方の元までやってきません」
主観時間で既に十数年経っているにも拘らず、武はまだまだ青臭い……ガキ臭い男だろう。
(知らないところで、夕呼先生に対して甘えが出てしまっているのだろうか……よく分からないな。いずれにせよ、夕呼先生なくして人類は救われない)
と武は思う。
一方の夕呼はと言うと……。
(こいつ、ガキ臭さはあるけど……随分と自身ありげね。何がそこまでこいつを動かすのかしら?)
それからも色々と考えを巡らせたが、夕呼は最終的に迷うのをやめた。
正直不安要素はまだあるし、分からないことも沢山ある。
しかし、一定の成果は得られた、と夕呼は判断した。
「……それはつまり、あんたと私は利害が一致している――――そう考えてもいいわけ?」
「はい。俺は先生なくしてオルタネイティヴⅣは完遂出来ない……逆に先生もまた、俺がいなくてはオルタネイティヴⅤの発動を阻止出来ないんですよ」
にしても先ほどからそうだが、この自信は一体どこから出てくるのか……夕呼は不思議に思う。
しかし中途半端に知りすぎている奴より、中身を完全に理解していた方が夕呼としてはありがたいので、取り敢えず協力関係を結ぶことにしたのだ。
「ふんっ……随分と言ってくれるじゃない。自惚れでなきゃいいけど」
「――
「口で言うのは簡単よ。この世の終わりより、酷い現実を直視するかもしれないわよ?それでもあんたは――その覚悟……とやらを貫き通せるの?」
「まさにおっしゃる通りです――ですがもう、この世の終わりも……地獄も既に見てきました」
「ッ!?」
武のその言葉に、夕呼は息を詰まらせてしまう。
別に単語自体に衝撃を受けたのではない。
その言葉の一言一言がとても重く、そして力強く語る武のその声色と……何よりその表情にとてつもない衝撃を受けたのだった。
幾らループしたとはいえ、10代後半であろうこの少年に、先程まで自信満々に言葉をつぐんだこの男の瞳の光を失わせ、死人のように冷たく……かつ無機質な目をさせたことに。
それ程の地獄を見てきたのか……と夕呼は内心驚愕する。
「あんた……」
夕呼は武の覚悟というものを、ハッキリを垣間見たようなそんな気がした。
「それに、強い意思を持って事に当たれと、望むものを勝ち取るために全力を尽くせ……と教わりましたから」
「……誰に?」
「夕呼先生、つまりあなたにですね」
「……」
何とも言えない雰囲気が、暫し両者の間に流れた。
だが、その雰囲気を作ったのも武だが、それを破ったのも武であった。
「――それで……どうしますか、夕呼先生?」
「……いいわ。ただ完璧に信用したわけではない……でも一応あんたを協力者と認めてあげる。今はそれでいいでしょう?白銀武」
「ありがとうございます」
武取り敢えず目的を達成できたことに安堵感を覚え、武は夕呼に礼を言いつつ、腰を曲げて頭を下げた。
(やはり夕呼先生が相手だと、そう簡単に上手くはいかないな……でもまぁ思ったより話は進んだ。まぁ及第点か……)
と武は素直に思い、多少なりとも安堵感を感じた。
そんな彼に対し、一方の夕呼は、武のことを何かを推し量るかのように……ジッと見つめ、目を細めた。
それを知ってか知らずか、折った腰を元に戻しながら再度口を開いた。
「――ところで、早速ですがお願いがあります」
「――何?」
夕呼は表情を元に戻し、やや怪訝そうな声を出した。
「基地を襲ったあの機体……八咫烏って言うんですが、あいつをこの基地に搬入したいので、輸送ヘリと整備チームを俺に回してください。チームの方はXG-70の整備チームでお願いします。90番
「……そう、そんなことも知ってるのね。代わりに機体、調べさせて貰うわよ」
武は八咫烏を機密扱いにしたいので、こういう提案をしているのだろうと夕呼は解釈した。
彼女としても八咫烏を機密扱いにするのは同感であり、当分は国連軍内部でも秘匿扱いにしておきたかった。
原理は不明だが、あれだけの高性能な機体……そして何よりあの電磁投射砲。
この基地に、しかも90番格納庫かつXG-70用に編成した整備チームを貸してくれと言うのだがら、恐らく調べられることは想定しているのだろう。
そしてXG-70の整備チームは、しっかりと自らの立場を弁えた軍人だけで構成されている。
機密が漏れることはまずないし、仕事が出来る連中が揃っている。
任せても問題ないだろう。
「構いませんよ。ただ壊さないで下さいね?今後の計画に重要なんですから――あと、夕呼先生の専門分野でなければ、だいたいのことは知ってますよ?自惚れでなければですが、先生の副官を何年か務めさせてもらいましたから。まぁ学ばせて頂くことの方が多かったですがね」
「……あたしの副官ねぇ――まぁいいわ。それで八咫烏を90番格納庫に搬入してどうしたいの?」
理由は先ほど述べた通りで、夕呼もその理由は分かっている。
なのに敢えて武に質問する。
これは彼に対するちょっとした試金石でもあった。
「理由は先生も分かっていらっしゃるはずでは?」
どうやらこちらの意図をしっかりと理解しているようだと、夕呼は安心した。
「それより、肝心のお願いはここからになります。取り敢えずは八咫烏からXM3を大至急取り出してほしいです」
「エクセム・スリー?」
「はい、実はここからが本題になります。八咫烏からそのXM3を取り出し、シミュレータに搭載してみてほしいんです」
XM3が何か、その詳細は後日語るとして……XM3の開発期間を無視できるのはここでは非常に意味がある。
「そのXM3は八咫烏の機能か何かなの?」
「俺が発案した戦術機の新OSです。開発者は主に霞だったらしいですが……」
「ふーん。戦術機の新OSねぇ?――役に立つのそれ?」
「必ず。基地襲撃事件の時、八咫烏が通常の戦術機とは違う機動をしてませんでしたか?それは半分以上こいつのおかげです。それだけじゃ信じられない話だと言うなら、後日シミュレータに搭載したのを俺が実際に動かしてみせます」
武自身の腕もあるだろうが、戦術機に乗ったことがない夕呼でも分かる、あの異常な戦術機道。
それが何を意味するのか、瞬時に彼女は理解した。
「……いいわ。それだけの価値があるって言うのね?」
「はい。今後、オルタネイティヴⅣを進めていくにあたり、重要な駒になるはずです」
「なら、すぐに取り掛かるわ。それで、あんたは他に何をこのあたしに要求するわけ?」
「はい。他になんですが、207訓練小隊とA-01部隊の教導をやらせてください。今の2倍……いえ、3倍程度には底上げして見せます」
新OSを使っていう話なのだろうということは夕呼も理解したが、何故そこまで底上げできるのかは少々疑問を持つ。
なので問う。
「でも、衛士としての腕前……強さなんてそう簡単に上がるものなのかしら。今の彼女たちの強さも長い訓練で培われたものよ?――まぁあんたには負けてるけど……」
「それはXM3と俺が指導すれば変わると思います。一応俺、F-22Aの2個小隊を2機で喰ったことあるんで」
武の言葉に夕呼は驚いた表情をした。
「――本当に?」
「本当です。まぁ、明日か明後日に取り出したXM3のシミュレータを見て判断してください」
「……いいわ。あんたの実力、楽しみにしてるわよ?」
「ええ、期待以上のモノをご覧に入れますとも」
両者共に悪い笑みを浮かべた。
「ですが、一番大事なのはここからでして……」
それから武と夕呼の話し合いは暫く続いた――。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
2001年10月23日(火)00:47
「ふぅ……」
武は自室として割り当てられた個室に入り、そこでため息を吐いた。
斯衛の制服を脱ぎ捨て、下着姿になりベッドに飛び込んだ。
シーツの感触は真新しい。
どうやら夕呼と話している間に、誰かが準備してくれていたようだ。
つい先ほど準備されたばかりのようで、部屋中に僅かだが香る女性らしい匂い。
準備してくれた人は女性だったのだろう。
(――疲れた。かつてないほどに疲れた……)
あれから暫く、武と夕呼は話し合いを続けていた。
武は会談の最後に、記憶媒体を1つ手渡した。
これを見れば大体の事は分かる……そう言づけて。
これは武なりに考えての行動に他ならない。
八咫烏の管制ブロックを一通り漁ったとき、武は2つの記憶媒体を見つけた。
そしてその中身を八咫烏内で閲覧したときに、ある程度の状況を察した。
因みに持参した記憶媒体は、ゲームガイと共に取り上げられそうになったが、武が夕呼の名を出して威圧をかけつつ、何とかうまく言いくるめて没収を免れた。
余計な心配だとは思うが、例の数式が入った媒体を人には任せられないからだった。
最終的に夕呼の元に辿り着くのだろうが、まぁ念の為だ。
「……取り敢えず例の数式は夕呼先生に渡した。まぁ早いことに損はないはずだ――それに騙し通すのは無理だろうしな……でもまぁこれも仕方ないことなのか」
独り言を呟くが、言葉の節々から割り切れていない様子を感じる。
そして次は胸の内でこう呟く。
感情が入り乱れているあたり、やはり割り切れていないのだろう。
なんともまぁガキ臭いものだ。
(だけど
実は夕呼と話し合いを終え、前述の通り記憶媒体を手渡した後、彼女が手配してくれた輸送ヘリと整備チームを伴って、八咫烏を90番格納庫に搬入した。
その陣頭指揮を執ったのだ。
当初、黒の斯衛の制服を着た人物に指揮されることに戸惑い気味のチームだったが、夕呼が予め詮索不要と通達してくれたため、問題なくことは進んだ。
皆、テキパキとことを進めてくれた。
搬入後は、自由に調べて構わないが壊すなよ……と念を押してその場を去った。
「はぁ……さっさと寝よう」
武はシャワーを浴びて寝ることにした。
白銀武の物語はまだ始まったばかり――。
皆様またまたお久しぶりです。
遅くなり申し訳ございません。
個人的な感想としては、武ちゃんもビックリの無限ループしてしまっています。
一度書き上げる
↓
後日チェックのため再度読みなおし、気に食わず再作成
↓
後日再チェックからのまた再作成
↓
以下略
といった感じです。
また人間関係の失敗、仕事の失敗、やる事なすこと裏目に出て……豆腐メンタルがやられまくってました。
そしてPCを買い換えたら危うく全データ喪失しかけたり……いやはや、人生上手くいかないものですね
はい、言い訳でした。
ただ自分のペースでしっかりと完結まで走りたいという思いは変わりません。
Xで励みの言葉を頂きましたし、ありがたい限りです。
お詫びと言っては何ですが、あまり変わっていませんが、2話投稿しました。
メンタル休養を兼ねて2週間弱休む予定ですので、地道に進めて参ります。
後、再勉強も兼ねて原作再履修中です。
兎に角、引き続き頑張りますので、今後とも宜しくお願い致します。