現に微睡み、藤波に堕ちよ   作:小夜夏

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この時期にあり得ない人…一体誰なんだろうなー(棒)


捨弐:有り得ない邂逅

 

 

 

近くの河川敷に場所を移した藤花たちは吉野が呪霊を見えていることを改めて確認した。

虎杖は自分が捕まえた蠅頭を見せて映画館でこういうのを見なかったかと吉野に聞いた。

 

それを見た吉野は一瞬、映画館で出会った知り合いの姿を思い浮かべたが蠅頭とは似ても似つかなかった。

 

「いや、見ていないよ。そういうのハッキリと見えるようになったの最近なんだ」

「……最近、ですか。それは映画館に行った後から?」

「えっと…そう、ですけど…」

 

藤花はそれを聞いて顎に手をあてて考える。

 

吉野のことについてすでに伊地知が軽く調べている。

呪術に関わりのない一般人。彼が最近見え始めたと言うのならその原因は映画館での一件だ。

 

呪いは普段、一般人には見えない。

が、例外はある。

 

呪いが濃い場所にいたり、呪霊に襲われている時などだ。でもそれはその場の時だけで離れれば見えなくなる。

あとは呪いによる人の死際に遭う。

これはそれ以降でも見えることが多い。一般の出で呪術師になった人にも少なからずいた。

 

そういえばと藤花はさっきの質問を振り返る。

虎杖の言葉を要約すると蠅頭に似たモノを見なかった?になる。

 

藤花が考えている呪霊の姿は人間に似た姿をしたモノだ。

この場合、蠅頭に似たモノは藤花が得たい答えを導くには適していない。

 

人間の姿に似たナニカ、或いは誰も気づいた様子を見せなかった人を見なかったか?

 

藤花の求めている答えを得るには吉野にそう聞くべきだったのだ。

 

違うなら振り出しに戻るがもし、そうだったら彼は映画館で例の呪霊と会っているということになる。

 

行き着いた高い可能性にこれは是が非でもオハナシしなくてはならない。

 

「ちょっと、何映画の話を始めているんですか」

 

虎杖と吉野の映画談義に沈んでいた思考が浮上する。

もう話は終わったような態度に思わずツッコミをいれる。

 

「え?だって見え始めたのは最近って言ってたから…」

 

もう聞くことなくなったでしょ?と首を傾げる虎杖に藤花はそういうことじゃないと叫びたくなった。

 

だが、虎杖はつい最近まで呪術と何ら関わりのなかった人間だ。

そんなど素人な虎杖に呪術の知識を懇切丁寧に教えるのが藤花の役割だった。

しかし、術式について優先的にやっており、これについては後回しにしていた。これは完全に藤花のミスだ。

知識もないのだ。一般人が呪霊が見えるようになるという意味を全く持って理解していないのは当然のことだと言えよう。

 

とりあえず今は簡潔に結論を教えて吉野から洗いざらい吐いてもらわないと。

 

あとで説教ついでに教えないとと苛立ちを思いため息と共に外に吐き出す。

何故、藤花が怒っているのか分からずにおろおろしている虎杖の首根っこを掴んで耳元で囁く。

 

「いいですか?最近、見えたということは────」

 

誰かの視線を感じた藤花はその視線を感じた先である橋を見上げる。

 

フードを被った細身の男がこちらを見ている。

一瞬、吉野の家で待ち構えていた教師かと思ったがそもそもの体型が違う上に服を着替える必要性がない。

 

では、あれは誰だ?……もしかして例の呪霊と関係ある呪詛師?

 

逆光でフードの中が見えない。怪しいことこの上ない人物に少しでも情報がほしいと藤花はそっと気配を探る。

 

僅かに漂う()()()()呪力の気配に藤花の背筋が凍った。

 

「────っ!!」

 

藤花の様子が変わったことに気づいた男はクスリと笑うと何でもない風に橋から離れた。

思わず虎杖を突き飛ばして土手を駆け上った。

 

吉野から話を聞くこともあとで虎杖に説教することもすでに藤花の頭から抜けていた。

 

────────あの男を見失ってはならない。

 

ただそれだけが思考を占めていた。

 

「え?ちょっ…藤花先輩!?」

 

突然の行動に驚いて尻餅をつく虎杖の声で幾分か藤花に冷静さが戻った。

 

「二人とも私が戻るまでその場で待機!!」

「えっ!?」

「は?」

 

でもそれは一方的に指示を出す程度でそれだけ言うと藤花は男の後を追いかけて行った。

 

「……君の先輩、どうしたんだろうね」

「さあ?それでさっきの続きなんだけどさ……」

 

走り去る藤花の姿を見送った二人は理由は分からないもののそこにいろと言われたので映画談義に戻った。

数十分後に通りかがった人物によって既にそのことを忘れたが。

 

 

◇◆◇

 

 

あり得ない。あり得るはずがないのだ。

そう思いながらも藤花はひたすらに僅かに漂う呪力を追う。

 

息の乱れを整えながら人気が全くない袋小路の奥で待ち構えている男と対峙する。

見慣れた袈裟の姿ではないが、下ろされたフードから現れたのは見覚えのない傷が額を走っているものの見慣れた顔。

 

信じられないといった表情で藤花は声を絞り出す。

 

「どうしてあなたがこの場にいるんですか。────夏油傑」

「やあ、藤花。あんな呪力でよく気づいたね」

 

さすが優秀なだけはあると言うのは一年前の百鬼夜行──あの騒動で五条悟の手によって()()()()人物。

そしてかつて藤花が密かに師事していた男。

 

「宿儺の器をちょっと見に来ただけだったんだけどね…まさか藤花に見つかるとは思わなかったよ」

「………」

 

成長したねと褒める夏油に藤花はその割には余裕そうじゃないかと思いながらも口にはしない。

 

ただ、何時でも攻撃できるように警戒を高め、袖に隠している呪具であるスティレットを密かに握ると同時に身に潜めている蟲たちをいつでも放てるように呪力を細く送る。

 

「ん〜。藤花にバレちゃったからなあ…どうしようか」

「一戦やってもいいんですよ?」

 

予定外だと悩む夏油に軽口を叩くが内心、何をされるか気が気じゃない。

 

高専の人間が知らない過去を夏油は知っている。

むしろそのために短い期間とはいえ師事したのだ。知らないはずがない。

 

その見返りとして藤花は夏油に協力をしていたのだから。

 

それを含めたことを高専に暴露するのは夏油にとっては赤子の手を捻るほど容易で、藤花にとってはこれ以上ないほどの致命傷だ。

 

藤花にとって高専は上層部がクソなことこの上ないがそれを含めても藤花の目的を達成するためにこれ以上ない場所なのだ。

 

それがもし高専に知られれば藤花は高専には居られない。

その後に高専が特に上層部が何をするのかを想像すればその過去は絶対に隠し通さなければならないことなのだ。

 

「そうだ!藤花には()()()()()()をやってもらおう」

「……従うと思っているんですか?」

「勿論。君は世界で一番大切な子のためならなんだって出来るからね」

 

親族を皆殺しにするくらいなのだからこれくらい簡単だろうと夏油は藤花に微笑みかける。

 

「くっ…!」

 

分かっていたが人質を取られた。

夏油が生きているなんて想定外だ。

どうすればいい?いや、それ以前にあの子は無事なのか?

 

「ああ、大丈夫だよ。不安なら前と同じように”縛り”を課そうか?」

 

動揺しているのが目に見えていただろう。

夏油は藤花が落ち着くように優しく提案する。

 

「それは…」

 

夏油が優位の状況にも関わらず提案された”縛り”に本気かと夏油を見る。

 

「本気さ。なんなら改めて言おうか?『私たちは()()()に手を出さないし、関わらない』」

 

それは藤花が折れる絶対の言葉だ。

ぎしりと奥歯を噛み締めて握っていたスティレットから手を離す。

 

「………絶対ですか?」

「そのための”縛り”だろう?」

「……あなたと関わっている呪霊もですか?」

「ああ、ちゃんと言っておこう」

 

藤花の確認に夏油は勿論だともと頷く。

本当なのかと疑うように夏油を見るがこればかりは夏油の誠実さを信じるしかない。

 

夏油は仲間の呪術師のことを家族意識を抱いている。

一応、藤花もその『家族』に入れられている。藤花的には遠慮したいことだが。

 

「何が、目的なんですか…」

 

あのタイミングでの出会い。恐らく、藤花たちが今追っている呪霊と手を組んでいると見ていいだろう。

だが、なんとも言えない違和感がある。

だからこそ藤花は分かり切っていることを改めて聞く。

 

「おや、忘れたのかい?」

 

夏油は意外そうに藤花を見る。

 

「……覚えていますよ。呪術師だけの世界を、でしょう?生憎、私は賛同できませんが」

 

それを聞いた夏油はよくできましたと言わんばかりに笑みを深めてうんうんと頷く。

 

そう。夏油傑が目指したのは非術師を排除した世界の構築だ。

そこには一般人も呪霊も存在していない。呪術師だけの完全なる世界。

 

────ああ、そこか。そこに私は違和感を感じていたんだ。

 

夏油傑の術式は呪霊操術。文字通り呪霊を取り込み操る術式だ。

ここで注目すべきは夏油と呪霊の間に使役関係が存在する点だ。

夏油にとって呪霊とは呪いを祓う手段であり、自身を強化するものだ。

自分を強くするために呪霊は必要だが、それ以外は祓うべきもの。

 

夏油傑が理想とする世界に呪霊は添え物で罷り間違っても主役にはなり得ない。

 

そう、特級に分類されるほどの高度な知能を持ち、人間との主従関係も築いていない呪霊と協力関係になるはずがないのだ。

 

何故なら夏油の術式によって操る呪霊が人並みの知性がある必要性はないのだから。

むしろ、それは夏油にとって邪魔なものになるだろう。

 

「藤花は呪術師が大嫌いだもんね。私とは逆だ」

「………」

 

高専の人間は私のことを人嫌いだというが別に誰も彼も嫌いであるわけではない。

 

ただ過去の出来事から呪術師に生理的嫌悪を抱いているだけだ。

七海のように善い呪術師がいるということは勿論、解っている。

 

それでも好きになれない。ただそれだけの話。

 

対して、夏油は敵であろうとも若い呪術師なら甘くなる。

若い呪術師同士で互いに身を守り合っているのが『理想の関係』だと自ら語っていたのだからそれは確かだ。

そしてそれが価値観が全く違うのにも関わらず、夏油が私に力を与えた理由でもあった。

 

「……最後に一つ、いいですか?」

「なんだい?」

 

ニコニコと先を促す夏油を睨みつけながらも藤花は途中から感じていた疑念を口にした。

 

「────あなたは、()ですか?」

 

ピタリと夏油は動きを止めた。

さっきまで浮かべていた笑みは消えてスッと細められた目に思わず藤花の身体が震えるが睨み付けるのだけは止めない。

 

「何を言っているのかな。藤花自身が言っただろう?───夏油傑だと」

 

──────殺られる。

 

そう感じた藤花だったがその思考に反して身体は動かなかった。

 

その予想に反して夏油は何もしなかった。

 

細められた目は数瞬で元に戻り、ただ藤花の方へ歩いていく。

徐々に近づいていく夏油の姿を瞬きもせずに穴が開くくらいずっと見続けていたがまた会おうねと夏油はすれ違い際にぽんぽんと藤花の頭を撫でて去っていった。

 

 

「………クソがっ!!」

 

夏油の気配が完全に消えるまで動けなかった藤花は頭をかき乱して近くの物を蹴り飛ばした。

 

早く、早くあの子の無事を確かめなくては。

 

自分の中を駆け巡る衝動のままに携帯電話を取り出し、ボタンを連打して発信ボタンを押そうとしたがその寸前で手が止まる。

 

思い出すのは蹲ってこちらを見上げる絶望の顔をしたあの子の姿。

本当はあんな顔をさせるつもりはなかった。そんなに強く拒むつもりはなかった。

 

あの出来事もあいまってあの子とは疎遠になってしまった。

唯一繋げている保護者としての縁も事務的な物である。

 

あの子の無事を直接確かめて、それでどうする?

 

いきなり電話をしたもっともらしい理由が作れない。

さっきまで駆け巡っていた激情はなりを潜め、代わりに色々な感情が複雑に絡み合う。

 

藤花は電話番号を表示された画面を握り締めてしゃがみこむ。

 

何故かどうしようもないほど泣きたくなった。

 

 

 




設定を盛っていることは自覚している
だけどやめられなかったんじゃ
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