現に微睡み、藤波に堕ちよ   作:小夜夏

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捨肆:何もなければね

 

 

 

帰る途中、七海が負傷したと聞いて虎杖は驚いた。

 

どうして調査していたはずの七海が負傷したのか。

傷の深さはどれくらいなのか。

 

聞きたいことがたくさんあったが、眉間のシワを深くした藤花の話しかけるなという様子に黙り込むしかなかった。

 

「この仕事をしている限り君もいつか人を殺さなければいけない時が来る。でも、それは今ではない」

「理解してください。子供であるということは決して罪ではない」

 

治療を終えた七海に噛み付いて聞き分けのない子供に言い聞かせるように丸め込まれた。

 

いや、実際ナナミンから見れば俺はまだまだ子供か…

 

俺は子供じゃないと思う一方、未成年=子供と言う社会では当たり前な法則が頭に浮かんで思わずため息をつく。

 

別行動を取る前に虎杖も藤花も七海は調査を続けると言うことを聞いた。

あの時、虎杖は本当に調査をするのだと思ったし、藤花もそれについては何も言わなかった。

 

でも、そうじゃなかった。

 

数時間前の急に機嫌が悪くなったと思ったらさらりと七海が負傷したことを言った藤花の姿が浮かぶ。

急に機嫌が悪くなったのは話の流れから多分、別行動した結果が空振りだったから。七海の件は関係ないと思う。

 

七海の負傷とそれによる予定外の行動の発覚に対して何か言うと思っていたがそれは一つもなかった。

報告だけ聞いて何処かに行ってしまった。

 

恐らく、いや、絶対。同じ立場にいる(子供である)はずの藤花は七海が何をするのか知っていた。知っていて黙っていた。

虎杖はそこにどうしようもない疎外感を感じた。

 

藤花も七海と同じように一級呪術師だ。同じ学生でも一級呪術師ではない虎杖とは立場も責任も全く違う。

それは分かっている。理解している。

 

でも、納得できない。

 

先輩は俺のこと、どう思っているんだろう?

ナナミンと同じく子供だと思っているのだろうか。

 

パタンと何かが閉じる音が響く。

誰もいないと思っていた虎杖は驚いて音がした方を見る。

 

音がしたのはすぐそこの廊下の曲がり角だ。

今、虎杖がいる廊下とは違い電気は着いていなかったから人がいたとは思わなかった。

 

虎杖は『死んだフリ』をしているので生きていることを知っている伊地知たち以外の高専の人間と出会うのはまずい。

 

どうする!?隠れる?それとも逃げる?

 

いきなりのことにどちらを選択すればいいのか迷っていたらコツコツとヒールの音ともに見慣れた姿が見えた。

綺麗な斜めラインを描く黒とも濃い紫とも取れる色をした髪。

同じ女子生徒である釘崎よりも虎杖たち男子生徒に似た上着に横にスリットが入ったタイトスカートの制服。

 

「藤花先輩…」

 

心臓に悪い登場にいつもの虎杖なら軽く悲鳴を上げて藤花に脅かさないでよと近寄っただろう。

しかし、七海と別れてから考えたこともあって虎杖は囁くように藤花の名前を呼ぶ。

 

囁くだけの声量でも夜が更け、静まり返っている廊下に響くのには十分なもので。

藤花はそこで初めて虎杖の存在を認識したようで振り返った顔は驚いた顔をしていた。

だが、それも一瞬で気まずそうに視線を逸らした。

 

「……先輩はナナミンが戦うって知ってたんだよね?」

「ええ」

 

疑問形を取った確認に藤花は隠す必要もなかったので肯定した。

 

「どうして黙っていたんだよ。藤花先輩もナナミンと同じように思っていたの?」

 

七海と同じように。

藤花はきっとまだ子供だからとかそんな感じの話をされたのだろうと生真面目な七海が言いそうなことを思い浮かべる。

 

「いいえ。それについてはどうでも良いです」

 

バッサリと切り捨てる藤花に虎杖は思わず目を白黒させる。

 

確かに藤花は落ち込んでいた虎杖を慰めることはせずに期待していないと傷口を抉ると同時に七海の意見に賛同していると伝えた。

でも、それは戦力面から見てのことでまだ子供云々だからではない。

 

そもそも、藤花から見れば子供だからは止める理由にはならない。

子供だろうがやらなければならない時は来るし、やる時はやるのだ。

それに大人だろうが子供だろうが飲み込むのに時間がかかるのは多少の差はあれど同じことだ。

 

「虎杖くん、あなたは初めて会った時と比べて知識を身に付けました。まだまだ荒削りですが技術も。ですが、今回の呪霊との戦いではあなたは足手纏いです」

 

足手纏いか否かの質問に七海は答えなくて、先輩は足手纏いだと言った。

悔しくてグッと拳を握る。

 

五条先生やたまに先輩とやる鍛錬は転がされまくるし、まだまだ弱い部類に入るだろう。

それでも足手纏いだと言われるほど弱くはないと思いたかった。

 

「それは…そうかもしんないけど、蚊帳の外はないだろ…」

「事実を突きつけても大人しく待っている(たち)ではないと判断したので」

 

そうでしょうと確信を持って聞いてくる藤花に虎杖はむすっとしながら頷くしかない。

もし、七海に呪霊と戦うから待機していろと言われたら虎杖は絶対に大人しく待つことなんてせずに七海たちについて行く。

 

足手纏いと言われても、自分だけ呑気に待ってることなんて出来ない。

 

転入したその日に五条先生に戦わずに待っていれば良いと冗談で言われたことがある。

呪霊のことを知って、仲間が命をかけて戦っている。

俺は弱くて足手纏いだから仕方がないとか言い訳して待っているとかそんなのゴメンだ。

 

それくらいなら七海たちについて行って怒られながらも戦っている方がまだマシだ。

 

「それに少年院の一件のようにまた死なれては困るんですよ。両面宿儺の気まぐれで生き返りましたが次もそうとは限らないんですから」

「私を面倒事に巻き込んだ挙句、簡単に死なれるとか損でしかないじゃないですか」

 

面倒臭そうにため息を吐きながらそう言う藤花に虎杖は俺はそこまで弱くはないと言いかけたが一度止まる。

 

近付き難い雰囲気を出しているが実際に関わってみると面倒見が良いし、頼んだことはきちんとやってくれるのが先輩だ。

多少なりとも付き合いのある虎杖は藤花のことを良い先輩だと思っている。

 

だけど、欠点はある。

言い方がキツイし、分かりやすい態度を見せない。

虎杖は慣れてしまったが人によっては合わない。

 

そう、藤花先輩は良い先輩だけど人を選ぶ先輩なのだ。

 

それも含めてさっきの言葉の意味を改めて考える。

 

……。

う〜ん、これは心配している…?

聞き分けのない子供扱いされているのがちょっとムカつくけど。

 

なんか違うニュアンスがありそうだが多分、大部分は間違っていないと思う。

虎杖はポジティブな人間なのだ。そういうことにしておこう。

 

「先輩ってどうしてそう棘のある言い方しか出来ないのよ」

「は?事実しか言ってませんが?」

 

ちょっと言い方変えれば良いのにそう言うところで先輩って損していると思う。

 

「とりあえず、先輩が心配してくれることは分かったけど蚊帳の外にされるのはもうゴメンだ。次は何言われようとついて行く」

「はあ?私が何時あなたの心配をしたんですか。あなたがどんなに不満に思おうと今回の任務の責任者は七海さん何ですから指示に従ってください」

 

不満であることを隠さない虎杖に藤花は七海の指示に従うように言うがその顔は何を言っても意思を変えないと言わんばかりだ。

 

「もう良いです。明日も早いですし、休みましょう」

 

このまま話し合っても平行線だ。

 

そう感じた藤花はもう面倒になったので対応を伊地知たちに投げることに決めた。

平行線な言い合いを何時までもするほど藤花はお人好しじゃないし、今はそんなことしている気分ではないのだ。

 

 

◇◆◇

 

 

翌朝、もう一度集合した七海たちはそれぞれの予定を確認する。

ここまでくれば七海はもう隠すことはせずに呪霊の殲滅をすると言い、虎杖はそれについて行くと一悶着が起こった。

昨日の言い合いで平行線だと分かった藤花は虎杖を言い包めるのを七海と伊地知たちに任せて廊下で外を眺めていた。

 

扉が閉まる音に外の景色から目を外してそちらを見る。

七海がサングラスのブリッジを押し上げていた。

 

「どうでしたか?」

「納得はしてくれませんでした」

 

七海の答えは藤花の予想していた通りだった。

そうですかと答えた藤花は外に出ようとする七海と並んで歩く。

 

「虎杖くんたちの元に戻らないんですか?」

 

七海と入れ違いで戻ると思っていた藤花が並んで外に出ようとするので七海は当然の疑問を投げる。

 

「ちょっと気になることがあるので相手が本格的に動く前に確認してきます」

 

藤花は虫の知らせじゃないと良いけどと呟きながら昨日のことを思い出す。

 

夏油傑と名乗ったあの男。

わざわざ宿儺の器である虎杖を見に来たことから何か企んでいそうだ。

それが何なのかは藤花には分からないがタイミング的にあの呪霊に絡んでいるのは間違いない。

 

虎杖たちに振られた仕事は吉野順平の監視だ。

何か起こっても虎杖も伊地知とともに近くにいるし、すぐに対応できる。

そう判断した藤花は昨日聞きそびれたことを吉野に聞こうと思った。

 

それに呪霊と関わってそうな吉野と会話しても何にもならないかもしれないがどうしてか藤花はそうした方が良いと思った。

 

「そこまで離れるつもりはありませんし、何もなければすぐに戻りますよ」

 

 

 

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