現に微睡み、藤波に堕ちよ   作:小夜夏

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突然ですが単行本のvs.真人解説が好きです

ちょっと納得いってないけど先に進めたい。
いつか改稿するかも…?


捨伍:これだからクソなんだよ

閑静な住宅街。

普段なら特に気にはならないがその静けさに何故か藤花は胸騒ぎを覚えた。

 

コツリと吉野宅の前で止まった藤花は一息ついてからチャイムを鳴らす。

 

「……?」

 

しばらく待っても反応はない。

今の時間なら余程の事がない限り寝ていることはないはずだし、どこかに行っていることもないはずだ。

もう一度チャイムを鳴らしても反応がなく藤花は仕方なくダメ元でドアノブを捻ってみる。

 

鍵をかけ忘れたのだろう。ドアは予想に反してあっさりと開いた。

 

「───っ!!」

 

奥から微かに漂ってきた血の匂いとそれに伴って現れた残穢の気配に藤花はただ事ではないと感じ思考を切り替える。

 

スティレットを構えながら藤花は土足で中に入る。

リビングには残穢があるが何故か血はなかった。だが、依然として血の匂いは微かに漂っている。

残穢がここに残っていると言うことは呪霊が現れたことには違いない。

 

事件と関連があると突き止めた時から高専は吉野家をそれとなくマークしていた。

吉野家に呪霊が現れたならすぐに報告があったはずなのにそんな報告は一つも受け取っていない。

恐らく、マークしていた者たちも生きてはいないだろう。

 

隠すこともなく舌打ちした藤花は家の中の捜索をする。

気配からして呪霊はすでにいないが血の匂いが微かに漂っている以上、被害者はいる。

 

リビングの奥にある部屋を乱暴に開ける。

そこは寝室のようでベットと開けっ放しにされたクローゼットがあった。

ベットには土気色の吉野の母親が寝ていた。

 

血の匂いの元は彼女だ。

 

藤花は無言で近づいて掛け布団を剥がす。

吉野の母親は腰から下がなかった。

 

むわりと鉄の匂いが強くなると同時に閉じ込められていた冷気が放たれる。

死体が腐敗しないようにかあるだけの保冷剤と氷嚢が敷き詰められていたのだ。

 

そしてそこに無造作に置かれた魔女のように尖った黒色の爪の指。

 

藤花は嫌そうにそれを手に取る。

 

「両面宿儺の指…」

 

母親の死体を見つけてこのような処置をしたのは吉野だろう。

そして彼女を亡き人にした原因はこの特級呪物だろう。

 

何故、こんなところに宿儺の指が…

 

昨日この家に足を踏み入れた時は呪物の気配は全くなかった。

特級呪物が近くに居てそれに気づかないほど藤花の探知能力は鈍くない。

 

十中八九、藤花たちが帰った後にこの呪物が吉野家に置かれたのだろう。

 

今、七海が追っている呪霊の仕業かと一瞬思ったがそれにしてはやり方が遠回りだ。

藤花の脳裏に夏油傑と名乗ったあの男の姿が浮かぶ。

 

あのタイミングからして今回の呪霊と手を組んでいるのは分かっている。

ならばこの仕掛けは呪霊ではなくあの男なのだろう。

 

ここに宿儺の指を置く理由はなんだ?

まるで宿儺の指を見つけてくれと言わんばかりだ。

 

「何か仕掛けてある…?」

 

思いついた考えに藤花はじっと宿儺の指を見る。

 

流石、規格外の特級呪物。

宿儺の指の気配は強大でそれ以外の気配が分かりづらい。

それでも何かあるのではないかと言う自身の直感に従い藤花はじっくりと気配を探る。

 

「───これは」

 

微かに掠ったその違和感を掴もうとした時に帳が降りた気配を感じ取った。

 

しまった。宿儺の指に気を取られ過ぎていた。

 

帳が上がったのはここからそう遠くない場所だ。

今の虎杖は何がなんでも帳の方へ行くだろう。伊地知さんでは止められない。

 

多少の違和感を持っても直ぐに七海たちに報告すべきだった。

藤花は自分の失策に舌打ちする。

 

懐から携帯を出して連絡をしようとすると丁度、電話が鳴る。

表示されたのは七海でも伊地知でもなく非通知だ。

 

今、この瞬間に藤花に電話をかける人間は限られている。

藤花は相手が誰かを確信しながら出た。

 

「これはあなたの仕業ですか?」

「やあ、藤花。その口ぶりだと吉野順平の家にいるみたいだね」

 

電話の相手は夏油傑と名乗る男だ。

呑気な口調の相手に藤花は忌々しいとばかりに舌打ちをする。

藤花が予想した通り、吉野家に宿儺の指を置いたのはこの男だ。

 

「ええ。一般家庭に劇物を放り込むなんて趣味が悪いですね」

「仕方なかったんだよ。私だって一般人を巻き込むことに胸が痛い」

 

藤花の嫌味に男は心にも思っていない言葉を返す。

夏油傑の声で夏油傑ならば絶対に言わないことをいけしゃあしゃあと言うこの男に苛つきを覚える。

 

「それを初めに見つけたのが藤花で良かった。まあ、七海でも良かったんだけど」

「…やはり、高専に回収させることが目的ですか」

 

藤花でも七海でも良かった。

その言葉に藤花は己の考えが正しかったことを知る。

 

藤花も七海も虎杖の件で五条とは手を組んでいるが宿儺の指を見つけたからと言ってそれを五条に渡すことはしない。

それとこれとは話が別だからだ。

 

「藤花はやっぱり鋭いね。でも、それは内緒だよ」

 

聞き分けのない子供に言い聞かせるような口調に藤花は黙るしかない。

この懸念を伝えたとしても高専側はそれを本気にすることはないだろう。

本気にさせるためには正直に全てを話すしかないがそれだと藤花が高専に切られる。

 

己のために藤花は口を噤むしかないのだ。

 

「それよりも帳が上がったようだけどこのままそこにいてもいいのかい?」

 

男の真っ当な指摘に藤花はギリっと歯を食いしばる。

 

七海から虎杖の面倒を見るように任されている。

直ぐ戻るつもりで別行動を取ったが帳が上がった今、出来るだけ早く合流しないといけない。

この男と何時までも会話をしている場合ではないのだ。

 

「……約束は守りなさいよ」

「勿論だとも。では、頼んだよ藤花」

 

電話をぶち切った藤花は男と話しているうちにこみ上げてきた感情を鎮めるために息を吐く。

 

再び電話が鳴る。

相手が伊地知だと確認してから気持ちを切り替えて出る。

 

「伊地知さん、時間がないので端的に言います。吉野順平の家に人を送ってください。彼の母親が呪霊に襲われて死んでいます」

 

虎杖のことを話そうとする伊地知の言葉を遮って藤花は伊地知に指示して手の中にある宿儺の指を一瞥する。

これから虎杖と合流して呪霊と戦うことになる藤花にとって呪霊を引き寄せる宿儺の指は戦う時に邪魔になる。

 

だからと言ってこのまま、ここに放置していいものではない。

あの男の思い通りになるのはシャクだが宿儺の指を破壊できない上に虎杖に渡す気がないので取れる選択肢は一つしかない。

 

「後、帳の近くにいますよね?虎杖くんと合流する前に家で見つけた宿儺の指を渡しますのでよろしくお願いします」

 

伊地知の胃が悲鳴を上げた気がしたが藤花が虎杖と合流する前に会う人間は伊地知しかいないので仕方がない。

これは必要な犠牲なのだ。

 

 

◇◆◇

 

 

校庭に球形の物体が出来たのを見て藤花は直ぐにそちらに駆ける。

 

「ざけんな!!」

「虎杖くん!」

 

虎杖は血を撒き散らしながら球形を叩き続けている。

 

「先輩っ!!ナナミンが閉じ込められた!!」

「っ!!領域展開ですか」

 

その言葉で藤花は七海が相手の領域展開に引きずり込まれたのだと理解した。

 

領域展開は自分の有利な状況にさせると同時に術式を必ず当てる。

呪霊の術式は七海からの報告で魂に干渉する術式だと分かっている。

 

それの領域展開となると…五条悟のように領域に引きずり込んだだけで勝つものだ。

 

このままでは七海が死ぬ。

 

領域展開の対処法は幾つかあるがその最も有効な手段は受けた側も領域を展開すること。

しかし、七海は領域を展開出来ない。呪術で受けて防ぐ方法もあるがそれじゃあ長くは持たない。

 

七海は善い呪術師だ。

こんなことで失くすには惜しい人材だ。

わざわざ、虎杖の教育に巻き込んでいるのだからきっと五条悟もそう思っているはずだ。

 

七海を死なせずにこの状況を脱する方法はないのだろうか?

 

藤花は必死に叩き続ける虎杖の後ろで思考を高速回転させる。

 

汗が一筋垂れる。

 

七海を助け出す方法は()()

だけど、その選択をすると言うことは───

 

バリンと叩き割れる音に藤花は我に返る。

 

虎杖の拳が球形に無理やり穴をこじ開けたのだ。

虎杖はどうにか開けた穴に身をねじ込む。

 

「虎杖くん!?」

 

虎杖には穴に入った後の考えなんてなかった。

ただこのままでは七海が死ぬと分かってしまった。

目の前にいるのに何も出来ずに七海が死ぬのが嫌だった。

 

虎杖が無策で飛び込んだのは藤花でも分かった。

 

七海以上に虎杖を今ここで死なすわけにはいかない。

 

無策である虎杖よりもある程度の対抗手段がある藤花が飛び込んだ方がいい。

そう判断した藤花は先ほどまで躊躇した一歩を踏み出して落下する虎杖と場所を入れ替えるために腕を掴んだ。

 

ゾワリ

 

「───っ!!」

 

今まで感じてきた中で一番の悪寒に藤花は反射的に手を引っ込めた。

せっかく掴んだ腕も離して。

 

その瞬間、目の前にあった球形は消えて肩から血を流す継ぎ接ぎの人型呪霊──真人と状況を把握できない七海と虎杖が現れた。

 

「何が…」

 

状況を直ぐに把握したのは虎杖だった。

急接近し、呪力を乗せた拳を握る。

 

真人もこれで決着がつくと判断したのだろう。

ありったけの呪力を籠めて膨れ上がる。

 

最後のチャンスを無駄にしないと虎杖は今、自分ができる最高の攻撃である逕庭拳を真人に入れた。

 

パンと風船が破裂するように弾けた真人に虎杖は戸惑う。

 

今までで最も威力が乗った会心の一撃。

自分でもそう思うほどの攻撃だったがその割には手応えがなさすぎた。

 

原因はなんだと視線を巡らせていると視界の端を塊が過ぎていった。

 

あいつが膨れ上がったのは攻撃のダメージを通さないための防御じゃない。

逃げるための目眩しだ。

 

そう虎杖が理解した瞬間には七海も藤花も動いていた。

 

「逃すかっ!!」

 

藤花はスティレットを投擲し、真人を縫い止めようとしたがすんでのところかわされて排水口に潜り込もうとする。

 

「バイバぁ〜イ」

 

隠すことなく舌打ちした藤花はスティレットに付与されていた自身の呪力を操作しながら袖に隠していたアンプルをへし折る。

 

アンプルをへし折ったことで漏れ出た薄紫色の液体は細く長く藤花の元に伸ばされた極細の呪力を辿るように糸となり、藤花の手と地面に突き刺さったスティレットを繋ぐ。

 

────触毋(そくぶ)呪法 殺蔦(あやづた)

 

真人を真っ二つに切断にするために藤花は手を横に引いて弛んだ糸をピンと張ったが、何故かカクリと藤花がバランスを崩したことで目測を誤って真人の腕を切断する。

それと同時に七海の鉈が排水口を捉える。

土煙が晴れた排水口には真人の姿はなかった。

 

「チッ、玉蟲さん!」

「分かっています!」

 

糸を霧散させた藤花は蟲に排水口に逃げた真人を殺すように命令を下す。

ぶぶぶと羽音を鳴らし、カサカサと地面を這う蟲たちが七海の足元にある排水口に殺到して姿を消した。

 

「猪野くん、本丸が排水口から逃げました。ええ、玉蟲さんの蟲が追っていますが猪野くんもお願いします。今なら君でも祓える」

 

七海は急いで別行動を取っていた猪野に真人を追うようにスマホで連絡を取る。

 

「私たちも追いましょう」

 

藤花は真人を追った蟲の方に集中していたがその横でドサリと虎杖が倒れる。

合流してからもずっと血を撒き散らして戦っていたことから血が足りなくなって限界が来たのだろう。

 

すぐさま虎杖に駆け寄った七海とアイコンタクトを取り、七海に虎杖の介抱を任せて藤花は地下水路に向かう。

玉蟲が使う蟲の術式は烏を操る冥々の術式と違い蟲の視界を共有することが出来ない。

真人を仕留めたのか、それとも逃したのかは自身の目で確かめるか蟲の動向で判断するしかないのだ。

 

 




ようやっと藤花の術式名出せた!
術式名いつ出そうか迷うよね

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