あと数話だけ後日談的なもの入れて次の章に入ります。
藤花は最短ルートで地下水路に向かった。
羽音が目印になったのか七海の協力者である猪野とも直ぐに合流することが出来た。
蟲の位置を完全に理解している藤花が先導となって地下水路内を駆ける。
その中で蟲たちが突然、二手に分かれた。
どう言うことだと藤花は足を止めて蟲たちの方により意識を向ける。
藤花は蟲に真人を追うように命令を下した。
より正確には真人の呪力を追うようにと。
これは蟲が視覚よりも呪力の探知能力の方が優れているからだ。
姿を捕らえられなくても僅かに漏れた呪力さえ見つけてしまえば追跡を続けることができる。
真人の手によって改造された元人間の呪霊は僅かとはいえ、真人の呪力が残っていたのだろう。
蟲は従えている術者の命令を聞く知能は持っているがそれを柔軟に考えるほどのものではない。
呪力を喰らう蟲は本能でどちらが呪力が濃いか分かっていながらも追うように命令を下された呪力と同じ呪力だからと追いかけて行ってしまったのだ。
「玉蟲!?」
いきなり止まった藤花に猪野は驚いて踏鞴を踏む。
それに藤花は素直に謝って蟲たちの現状を伝える。
「呪霊が
幸運なのは二手に分かれた蟲の数に偏りがあることだろう。
暴食である蟲たちは呪力が多い方に釣られやすい。
おかげで囮に釣られた今でもどちらが本命なのか分かって追えるが真人がそれに気づけば蟲は簡単に撒ける。
藤花たちは更にスピードを上げた上に途中で分かれて追ったがどれも改造人間ばかりで空振りに終わった。
最後の方では数が少なくなった蟲を潰されたのでその地点を中心的に探したが真人の姿を見つけることは出来なかった。
霊安室で七海と別れた後、虎杖は廊下で壁に背を預けている藤花を見つける。
「藤花先輩…。先輩も説教?」
沈んだ表情の虎杖に藤花は組んでいた手を下す。
「私にも落ち度はありましたし、七海さんが説教をしないと言うのならば私から言うことはないです」
肝心な時に虎杖と一緒に行動をしていなかったし、七海の窮地に藤花は何もしなかった。
それに加え、あのメンバーの中で追跡能力が一番あったのにも関わらずに真人を逃している。
あの男が頼んできたのは宿儺の指を五条ではなく高専に渡すこと。真人のことについては一つも触れなかった。
だから真人を逃すつもりはなかったし、あそこで潰す気は満々だった。
────それなのに逃した。
ギュッと拳を握る。
これは完全に藤花の手落ちだ。
責任者である七海なら説教する権利はあったが、そんな藤花が虎杖に説教をする権利はない。
二人の間に無言が落ちる中、藤花はつい数時間前のことを振り返る。
藤花はあの時、躊躇った。
七海が死ぬには惜しい存在だと思いながら。
虎杖と違って彼を助け出す術を明確に持っていたのにも関わらず。
虎杖が何もしなかったのならば藤花はどうしたのだろうかと考える。
あの時、もう少しで測り終えた天秤の秤を再度測る。
私は彼を助ける確実な方法ではなくその次である不確実な方法を取る。
七海は確かにあそこで死ぬには惜しい存在だ。
でも、私の全てを差し出して助けるほどの価値はない。
出せて精々、少し。そう、ほんの少しだけだ。
七海さんには悪いけど私の全てを差し出す相手は決まっているから。
まだ、溺れるわけにはいかないから。
「あなたは…もし、吉野順平が七海さんと同じ状況になっても助けようとしましたか?」
ふと、虎杖ならどうするのだろうかと思った藤花は虎杖に問いを投げかけた。
「するよ」
「両面宿儺が介入せず、あなたが死ぬことになっても?」
「うん」
「吉野順平があなたを騙していても?敵に回っていても?」
虎杖の即答に意地が悪いと思いながらも問いを重ねる。
「…先輩が何を言いたいのか分からないけど、俺はそれでも助けるよ」
そんな藤花に虎杖は怒ったが藤花の顔に茶化す様子は一切なく、真剣だったので怒鳴ることはせずにちゃんと考えて答える。
「俺さ、死ぬなら正しい死に方して欲しいってずっと思ってたけど今日、人を殺して思ったんだ」
「正しい死って何?」
虎杖は霊安室で七海と話したことを思い出す。
「ナナミンはそんなの分かんないって言った。俺たちよりも長く生きているナナミンが分からないのなら俺がその答えを見つけるのはすっごく時間がかかると思う」
だけどと虎杖は言葉を続ける。
「俺はまだ正しい死は分かんないけどあの場面で死ぬのは間違っていると絶対に断言できるから。例え、順平でも先輩でも誰でも助けるよ」
しっかりと藤花を見て答えた嘘一つない言葉に確信する。
虎杖はきっとどんなに可能性が低くとも手の届く範囲内にいる人を見捨てずに助けようとするのだろう。
これから起こる出来事の遠因は彼かもしれない。
虎杖はそれを否定することなく、認めながらより良い結果を求めようと必死に足掻くだろう。
あの時の藤花のように天秤にかけることなく。
ああ、彼ならば躊躇うことなく手を伸ばしてくれる。引っ張ってくれる。
彼なりになんとかしてくれるかもしれないと思えるし、五条悟よりも寄り添ってくれるだろう。
「……一つ。あなたに言うことがあったわ」
早計なのかもしれない。
虎杖は彼らに劣る。
藤花が望む方へ導く確実性も。
藤花が求める強さも。
藤花の中に積み上げてきた信用も。
藤花が寄せる信頼も。
だけれど、呪術師としての感性が強い私たちよりもまだ一般人側の彼ならばと思ってしまった。
何時か藤花は虎杖を殺さなければいけない時がくるかもしれない。
その時は藤花は躊躇わずに虎杖を殺すだろう。いや、絶対に殺す。
それが藤花の世界のためになると心の底から信じているから。
でも、もし。
そうじゃなかったら。
その時が来る前だったら。
少しだけなら任せてもいいのかもしれないと思ってしまったから。
「あなたはあの状況で出来ることを全力でやった」
仲良くなった吉野順平が殺されて、その元凶である呪霊を祓うことは出来なかった。
そして、改造された人間を殺した。
虎杖にとって今回の結果は彼が望んでいたものではなかった。
でも、藤花は虎杖が人を殺すところで足を引っ張ると思っていた。
虎杖が必要に迫られたとはいえこの短期間で無理やり乗り越えれるとは思っていなかったのだ。
それだけでも藤花的には十分だったのに虎杖はそれだけではなく、七海を助けた。
無策で飛び込んだことは正直言っていただけないが結果的には呪霊をあと一歩のところまで追い詰めた。
改めて言おう。虎杖が望んだ結果とはならなかった。
だが、虎杖が改造された人間を殺さなければ。
領域に引きずり込まれた七海を助けようと領域内に飛び込まなければ。
藤花が考えていた中で最悪の結果となっていただろう。
本人は満足しないだろう。
ただの慰めになるのかもしれない。いや、慰めなのだろう。
それでも、この言葉を贈ろう。
「よくやったわね、
いつものように素っ気なく言うのではなく、釣り上がり気味の目尻を下げて虎杖を褒めた。
普段全く見せないその表情に虎杖の喉元から熱いものがこみ上げそうになる。
泣きそうになった虎杖に藤花はどうするべきか視線を彷徨わせる。
何故か昔のことを思い出す。
こんなことがあった時、藤花はいつも優しく抱きしめて撫でていた。
例え似たような状況になったとしてもそれを思い出して重ねることなんてずっとなかったのに。
思わず撫でてあげようと手を伸ばすが同年代女子の平均身長を大きく下回る藤花が絶賛成長期な男子高校生である虎杖の頭に手が届くはずがなく。
中途半端に伸ばされた手を引っ込めた藤花は気まずくなって虎杖に背を向けて見ないフリをした。
しばらくして落ち着いた虎杖は何も触れなかった藤花に感謝とともに気恥ずさを覚えながら分かれる。
ふとガラスに映っている自分を見ると目が赤くなっている。
苦笑するとともに視線を自分の目元から少し視線をずらすと普段閉じられている宿儺の目が開いていた。
宿儺は眼球を右側に向かせていた。
虎杖も釣られて見るとつい先ほど廊下で分かれた藤花の後ろ姿があった。
宿儺が出てくるのは主に虎杖を揶揄う時でそれ以外で出てくるのは珍しい。
つい数時間前に真人とともに虎杖を嘲笑ったのは今でも怒りを覚える。
それと同時に無意識に宿儺に縋ろうとしていた自分を情けなく思う。
それは一旦置いておいて。
一体、どんな気を起こしたのか。
「中途半端で在り続けるよりもいっそ堕ちてしまえば楽なものを」
先輩が角を曲がって姿を消した後にポツリと宿儺が言葉をもらした。
「中途半端…?」
宿儺が先輩の何を指して中途半端だと言っているのか分からず、言外に説明を求めたが宿儺はそんな虎杖に鼻を鳴らすだけだ。
虎杖は答えてくれない宿儺にムッとするも自分勝手で傲慢だと言うことを思い出してそういえばコイツはこう言う奴だったと思い直す。
そして最初の疑問に戻る。
体の持ち主である自分は分かる。
力のない序列云々と言っていたから最強である先生に関心を持つのも分かる。
では藤花先輩はどうだろうか?
先輩は強い。でも、本人が言うには一級でも下の方らしい。
それが事実ならば強さの方面では先輩は宿儺が求めるほどのものではないのだろう。
じゃあ、何でだろう?
宿儺を全然理解していない虎杖には宿儺が藤花に関心を持つ理由なんて分からない。
だが、強いて言うのならば特に理由のないことなのかもしれない。
「お前、藤花先輩のこと気に入ってんの?」
他に理由が見つけられなかった虎杖は宿儺に単刀直入に聞く。
「ハッ、俺が?あの小娘を?有り得ん」
それを聞いた宿儺は嘲笑する。
あの痴れ者とは違い分を弁えているがそれだけだと言う。
そもそも宿儺が今、好奇を寄せているのは伏黒恵ただ一人なのだ。
間違ってもあの
「小娘のような類いの女は逆の意味で例外だ」
どちらかと言えば心底、面倒。
ああいう手合いの女は理想への飢えも人一倍で第三者として見れば些か愉しめるが当事者としては余興にも成り得ない。
自身は地の底を這いずるほど弱いと、敵う筈もない弱者だと理解しているのにも関わらずに汚い手で己の裾を掴み、引き摺り降ろそうとする気概が特に不快だ。
「あんな死んでも面倒な女と関わるなぞ、御免だ」
宿儺はあの小娘は自分の知らぬ所で野垂れ死ねば良いと心底思うが
「先輩ってそんなに面倒な人じゃないんだけど…」
嫌そうな声音を隠さない宿儺を意外に思いながらも虎杖は藤花に対する心象を溢す。
そんな虎杖に宿儺はお前は何も分かっていないなとため息をついて引っ込んだ。
ピロリン♪
七海の好感度が上がりました
七海は虎杖を呪術師だと認めた ▼
√『私の世界を穢す者』の分岐判定に弾かれました ▼
藤花の好感度が上がりました ▼
藤花の虎杖への好感度がギリギリ基準を超えました
新規√『藤浪に隠された少女』が発生します ▼
宿儺の藤花への好感度が一定基準を下回りました
派生エピソード『暴食と悪食』が発生しました
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お遊びなので内容はよく考えてないです。