現に微睡み、藤波に堕ちよ   作:小夜夏

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捨捌:指切りはしない

 

 

藤花は高専内にある休憩所に腰をかけて肘掛に頬杖をついていたが無言で嫌そうに視線を正面から外す。

対面に行儀悪く座ったのが五条だったからだ。

隣に腕を組んで座っている七海にチラリと視線をやるが七海も反応するのが面倒だとばかりに無言を貫く。

 

しばらくの間、三人の間に無言が落ちる。

 

「七海ィ藤花ァ、なんか面白い話してぇ〜」

 

それがつまらなかったのか五条は藤花と七海に話を振ったが無視をして藤花は袖にしまっていた呪具をいじり始め、七海は新聞を読むことにした。

 

五条と違って二人はこの沈黙が苦ではなかったのでそれを破る必要性を感じなかったのと五条に絡まれたらめんどくさいと言う共通認識があったからだ。

 

二人に無視される形となった五条はよし、分かった!!と意味不明で頭湧いてんのかと思われるようなゲームを提案して素気無く断られる。

藤花にいたっては何も言わずに嫌な虫でも見たかのような目で五条を見る。

 

そんなことも気にせずに五条は今度は自分を題材にした山手線ゲームを提案して勝手に始めた。

勿論、それに二人が乗ることはない。

本人の前で好きな所を言うなんて御免だし、好きな所なんて微塵も思いつかなかったこともある。

 

「その調子で頼みますよ。今の虎杖くんにはそういう馬鹿さが必要ですから」

 

七海は生真面目で、藤花は辛辣で。

二人は場を白けさせることは出来ても盛り上げることは出来ない。

 

おちゃらけていて、見ているだけでイラつかせる存在である五条が適任なのだ。

 

「重めってそういう意味じゃなかったんだけどなぁ」

 

五条の言葉に二人は何も言わない。

それは二人も思っていたことだ。

 

任務が予め知らされていたものと違う内容になってしまうのは往々にしてよくあることだ。

七海だって学生時代に散々経験したし、それが原因で呪術師を辞めた過去がある。

 

何時かは体験するだろうと思っていたがそれが本格的に行こうとした初っ端にきたのは運がないと片付けるしかない。

 

「藤花、吉野って子の家にあった指について悠仁に──」

「言ってません。聞かれていないので」

 

五条の言葉を遮るように藤花は返す。

 

本当に藤花は捻くれている。

とってつけたように付け足された藤花の言葉に五条は聞かれても言うつもりないのにと思うがそれを言ったら要らない毒が吐かれそうな気がしたので何も言わない。

 

「彼の場合、知ってしまえば不要な責任を感じそうですからね」

「オマエに任せて良かったよ」

 

藤花の説明に補足する形で付け足した七海に五条は素直に礼を言う。

 

「で、指は?」

「高専に渡しましたよ。貴方に渡すと碌なことをしないと私も七海さんも分かっていますし」

 

見つけた宿儺の指を寄越せと言外に要求した五条に藤花は鼻を鳴らす。

もう持っていないものを要求しても意味がないので五条は舌打ちを鳴らす。

 

それと同時に虎杖が元気よくやってきたのでこの話は自然と終了になる。

 

「はやく皆のとこ行こうぜ」

 

そう言った虎杖の目は交流会の存在を初めて聞いた時のようにキラキラと輝いており、楽しみにしていたことは何も言わなくても分かるほどだった。

 

そんな様子の虎杖に藤花は思わず子供かと呆れながら息をつく。

 

「悠仁…もしかしてここまで引っ張って普通に登場するつもり?」

「えっ違うの!?」

 

何を言っているんだという風に五条は虎杖を見る。

そんなことを言われるとは露にも思っていなかった虎杖はどう言うことだと五条を見る。

 

「死んだ仲間が二月後、”実は生きてました”なんて術師やっててもそうないよ」

 

”殺した親友の身体を使って悪巧みされてます”もなかなかないと思うけどねと藤花は心の中で皮肉げに呟く。

それを五条たちに言うことは絶対にないし、言うわけにもいかないので微妙な顔を誰もいない方へ背ける。

 

「やるでしょ、サプライズ!!」

 

五条が重要そうなことを発表するかのように言う。

その姿に藤花と七海は冷ややかな視線を向ける。

 

「……私は先に行かせてもらいますね」

 

碌でもないことをやるのだろと思った藤花は巻き込まれるなんて御免だと一足早く休憩室を後にすることにした。

藤花も七海も悪ノリした五条を止める術を持っていないのだ。

 

 

◇◆◇

 

 

五条から交流会の存在を聞いた時、虎杖は胸を躍らせた。

 

伏黒と釘崎とは一月近くも会っていない。

二人なら元気にやっているだろうが別れ方が別れ方だったので早く会って驚かせたい。

自分がどれだけ強くなったのか二人に見せたいし、それに協力してくれた先輩を紹介したいという思いもある。

他にもまだ顔も見たことがない先輩たちも出るらしい。仲良くなりたい。

 

高校生らしいイベントに虎杖はこれ以上ないほど浮かれていた。

 

藤花が同期たちと既に会っている可能性に行き着かないほどに。

 

交流会に出る先輩たちは二年生だと聞いて三年である藤花にどんな人物なのかと聞いた時は藤花から呆れた視線を頂いた。

 

虎杖はまだ見ぬ先輩たちと仲良くなり、藤花を含めた先輩たちと同期とともに力を合わせて戦う姿を夢想した。

 

良い。これは実に良い。

おれがかんがえたさいきょうのふじんの想像をしてさらに気分が上がった虎杖は隣で準備運動として柔軟している藤花に一緒に頑張りましょうと息意気揚々と声をかけた。

 

「私は出ないですよ」

 

それに冷や水を浴びさせるような藤花の返答に虎杖は頭を殴られたような気がした。

 

「なんで!?」

 

フリーズから起き上がった虎杖を見て藤花はこれは話さないと進まないと判断して手を止めた。

捨てられた子犬のようにこちらを見る虎杖にため息を隠せなかった。

 

「もともと交流会には出ない予定だったし、五条悟はあなたを交流会に出したいようですから」

 

そんな話は初耳だ。

それになんで俺が交流会に出ることが先輩が出ない理由になるんだろう?

 

疑問が顔に出ていたのだろうか。藤花は頭が痛いようで眉間によったシワを揉んだ。

 

「あなたが生きていることは学長にも伏せているんですよ?誰が虎杖くんの枠を用意するんですか」

 

交流会に出る人数は決まっているのだからと呆れたように教えてくれた藤花の話を聞いてようやく分かった。

 

『死んだフリ』をしている虎杖が交流会のメンバーに選ばれることはないのだ。

何せメンバーを選ぶ学長にも死んだと思われているのだから。

 

もし飛び入り参加が出来ても相手との人数差の問題で誰か一人外れなきゃならない。

その『誰か』は飛び入り参加した本人か、同期である可能性が高い。

 

それはまずい。『死んだフリ』して修行した意味がなくなる。

あの二人も頑張っているはずなので直前に外されるのは駄目だ。

 

やりたいことを貫こうとすると誰かが不満になるのが目に見えている。

全員が納得できる形じゃないと。

 

だからこそ、参加するように打診されているが出る気がない藤花の代わりに虎杖が参加する形となったのだと虎杖はしばらく考えて気づく。

 

本人も了承しているのなら文句が出ずに済むだろう。

その方が揉め事もなくスマートに進めることができる。

 

「でも、先輩と交流会出たかったな…」

 

頭では解っている。

だけど虎杖は同期と戦う姿は勿論のこと、藤花と共に戦う姿も夢想していたのだ。

その内の一つがなくなってしまったことを残念に思う気持ちはやめられなかった。

 

藤花は自分が枠を譲らなくてもあの男ならゴリ押しで人数の追加をしそうだと思いながらもそのことは口にしない。

言ったら実現しそうだったのとその後に待っている面倒事が御免だったのだ。

 

だが、しょげている後輩をこのまま放置しても面倒事が待っている。

五条悟は教え子に甘い男だ。しかも、虎杖のことを海外にいる後輩と同じくらい目にかけている。

そんな虎杖がしょげていたら絶対にワケを聞き出して、なんだそんなことかとさっき考えついた行動に出るのは目に見えている。

折角、綺麗にまとまった取り決めをあっさりと覆されるなどたまったものではない。

 

「……ならいいでしょう」

 

うるさいのと根本的に合わない奴がいるのでできれば顔を出したくなかったが仕方がない。

無理やり交流会に引きずり出されるハメになるより遥かにマシだ。

 

「え?」

「観戦くらいなら付き合ってあげると言ったんです」

 

ため息と共に出た妥協案に虎杖は言葉の意味を咀嚼した。

 

先輩は交流会には出ない。でも、顔を出すくらいはする。

それはつまり、二人に先輩を紹介できるということで…

 

一緒に戦えないのは残念だが、一切顔を出されないよりは良い。

 

「約束っすよ?」

 

妥協案に納得したようで虎杖はぱあっと顔を輝かせたのを見て藤花は影でほっと息を吐いた。

 

差し出された小指になんだと思ったが、ああ指切りげんまんかと幼い記憶を掘り出した。

 

幼子でもあるまいし。

世間で高校生と呼ばれている年頃がやるものじゃない。

 

「…そんなことしなくても行きますよ」

 

差し出された小指をはたき落として続きをやるわよと虎杖に手を進めるように促した。

 

 

 

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