現に微睡み、藤波に堕ちよ   作:小夜夏

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蝉時雨 弐捨壱:この世は金があればなんでもできる

 

 

 

死んだはずの虎杖が登場してから全員──特に学長たちが何か言いたげな視線を五条と藤花に時折やったが二人は当然無視した。

五条は流石に楽巌寺を煽りすぎたと反省しているのか甘んじて夜蛾に〆られていたが。

 

団体戦のルールと注意事項を伝えて解散した後も追求されるのを面倒に感じたのか五条は早々に庵を捕まえて逃げた。

残ったのは京都校学長である楽巌寺と夜蛾と藤花である。

 

三人とも何も喋らず沈黙が間に落ちる。

気まずい!!と夜蛾が内心、冷や汗が流れる。

 

藤花が上層部を毛嫌いしているのは有名な話だ。

五条も五条でこき下ろしているし、さっきみたいにバカにするように煽るが藤花の場合、冷戦なのだ。

以前、一度だけその場面に遭遇したが笑顔でいつもの八割増しな口撃に夜蛾は藤花を敵に回してはいけないと悟った。

 

五条と楽巌寺の組み合わせは胃がきりきりしそうだが、藤花と楽巌寺の組み合わせは胃が死ぬ。

 

夜蛾はこの状況にした五条をあとでまたシバくと密かに決めた。

 

楽巌寺は藤花を一瞬だけ睨む。

殺気も含まれているソレに藤花は怯えることもなく嘲笑する。

それを見た夜蛾は舌戦の火蓋が切られたと顔が青褪める。

 

「笑ってられるのも今の内だぞ、寄生虫」

 

楽巌寺は捨て台詞を吐いて踵を返す。

行く方向はモニター室ではなく、京都校に割り当てられた建物だ。

夜蛾の予想とは裏腹にあっさりと終わったそれにほっと息をついた。

 

「ふふ、そうですか。…再起不能なほど根腐れを起こしているのに呑気なものですよね。さっさとくたばればいいのに」

「おまっ」

 

藤花の言葉に夜蛾は慌てて後ろを振り向く。

楽巌寺は気づいていない風を装っているが絶対に今の言葉は聞こえてた。だって隠そうとしてなかったもん。

 

後で楽巌寺から絶対に何か言われる。

 

じゃあ行きましょうかと少し上機嫌そうな藤花を見て夜蛾は一言申したくなるが五条と同じで何を言っても無駄なんだろうなと頭を抱えるしかない。

 

藤花は例え上の立場の人間だろうと敵認定した相手には容赦しない。

毒は平然と放つし、存在ごと無視するし、嫌がらせを持ちかけられたら嬉々として行う。

なまじ優秀なので上層部の嫌がらせだってモノともしない。むしろ、熨斗つけて丁寧に返すレベルだ。

 

その様子はなんだか五条を見ているような気分になる。

実際に言ったら、生ゴミでも見るような目で見てその矛先をこちら向けるので口が裂けても言えないが。

 

藤花が京都校──主に加茂。ついでに楽巌寺に毒を吐くと思っていたので予め胃薬は用意しているが足りるかなと懐に入れた薬の量を思い出しながら、早速キリキリしてきた胃を押さえる。

 

「はあ…玉蟲、この際虎杖の件は置いておく。だが、交流会の参加についてはどういうつもりだ」

「どうもこうもないと思いますが?」

 

気を取り直して夜蛾はモニター室に向かいながら藤花に話を聞くことにした。

 

虎杖の件はどうせ五条が無理やり巻き込んだんだろう。

藤花は五条のことを嫌っているが上層部の嫌がらせのことになると協力的になりやすい。

 

夜蛾の問いに藤花は何を言っているんだという風に首を傾げる。

 

「いや、出ると言っていただろう」

 

平行線の話し合いに話し合いを重ねた末に藤花は確かに交流会に出ることに頷いた。

 

「はぁ…わかりました。…そのくらいなら顔を出しますよ。もうこれでいいでしょう?」

 

と、ため息を着きながら渋々と。

その代償として夜蛾のポケットマネーが幾ばくか無くなったが確かに出ると言ったのだ。

 

「ええ。だから約束通り、ちゃんと()()()()()じゃないですか。それに代わりの人間を連れてきましたし…文句はないでしょう?」

 

藤花の言葉に夜蛾はガッテムと額に手を当てた。

 

交流会に()()()()が、交流会に()()()()とは言っていない。

 

つまりはそういうことだ。

いちゃもんだと叫びたくなるがそこは確認を怠った自分が悪い。

 

藤花は時たま故意に誤解させるような言い方をするが聞けばちゃんと答えてくれる人物だ。

金銭が絡めば特に。

 

そう、藤花は基本的にウソはつかないのだ。聞かれなかったから答えなかっただけで。

毒は時も場合も考えずに吐くくせにそういうところだけはちゃっかりとしている。

 

しかも藤花が出ないことで穴が開いた部分は虎杖が埋めたので文句も言えない。

 

そんなこんなで藤花と夜蛾は一足先にモニター室にやって来た。

誰もいないと思っていた藤花だったが、顔の前で薄い水色とも藍白とも呼べる色の長い髪を三つ編みしている女性が部屋にいたのを見てちょっと意外そうにする。

 

「あら、冥々一級呪術師ではないですか」

「やあ、玉蟲。今日も稼いでいるかい」

 

冥々はフリーランスの呪術師だ。

そんな冥々が何故、この場所にいるのかと一瞬思ったが答えはすぐに出た。

高専に雇われたからここにいるのだ。

 

交流会と称しているがその名称通り、仲良くなろうなんて思っちゃいない。

ぶっちゃけると相手が気に入らないからぶっ飛ばすなんてザラだし、教師陣に至ってはどっちが強い呪術師を育てているかのマウント取りしているようなものだ。

 

そんな意識があるのだから不正とか嫌がらせとかはままあるのだ。

だからどちらにも所属していないし、どの派閥でもない冥々が中立の立場として試合の中継役を担うのだろう。

その証拠にモニターに映っている映像は誰かの視点のように動いている。

冥々の術式によるものだ。

 

「ええ、貴女ほどではないですが程々に稼いでいますよ」

 

と言っても冥々はお金が大好きな守銭奴なので『お気持ち』を受け取ったら簡単に寝返りそうだと思いながら藤花は笑顔で言葉を返す。

そうかい、それは良かったねと冥々もフフと笑う。

 

「試運転がてら見たけど驚いたよ。まさか宿儺の器が生きてたなんて」

「そうですね。私も驚きました」

 

近くにいた小動物の目でも借りて見ていたのだろう。

 

「本当にな。知っているんだったら話せば良いものを」

 

五条もそうだが知っていたなら話せよと呆れた視線を夜蛾からもらったが藤花は肩を竦めるだけだ。

 

夜蛾は楽巌寺側の人間じゃないので藤花としては別に隠す必要性を感じていなかった。

それこそ、七海を虎杖に会わせた時点で言っても良かった。

 

「それも含めての依頼でしたので」

 

ただ五条はそうしなかったし、誰にも言うなと言っていたから黙っていただけだ。

 

「依頼なら仕方ないね」

「ええ、仕方ないです」

 

そんな2人を見てこの守銭奴どもめと夜蛾を呆れた目をする。

 

「君は五条くんが嫌いなのによく依頼を受けるね」

 

冥々はそういえばと言うように世間話をする。

 

今回も五条の頼み(依頼)に乗ったのは上層部の嫌がらせを兼ねながら互いの利害が一致したからだ。好き好んで依頼を受けたわけじゃない。

 

藤花は不可抗力ですと顔を盛大に歪める。

 

「気に食わないし関わるだけで面倒事を持ってくる厄介な相手ですけどそれも踏まえて報酬はしっかりとしてますからね」

 

あの男、他人の事情は考えないくせに金払いは良いのだ。

それと人を強引に巻き込むことがなければ当の昔に縁を切っていたところだ。

 

苦々しく言う藤花に確かにと冥々は笑みを浮かべる。

 

冥々はフリーランスでやっていけるほど実力も確かな人間だ。

それに加え、守銭奴だが呪術師の中ではマシな人種に分類される。

 

小遣い稼ぎで頼まれ事をやっている藤花を使っているのだ。

藤花を使っておいて冥々を使わないほど五条はバカではない。

 

この人は要所要所であの男に雇われているんだろうな。

 

「それで良いのか?」

「どのような手段で稼ごうとも金は金です。例え気に食わない奴でもそれ相応の報酬を貰えばその分だけは働きますよ」

 

苦々しい口調に夜蛾は思わず突っ込んだが、藤花はそれはそれ。これはこれ。とバッサリと切り捨てた。

 

「ん?つまり、俺がもっと金を出したらちゃんと出ていたと言うことか?」

「ええ、そうですね。でも、あの男との取引もあったのでその報酬以上は出してくれないとやる気が出ないですね」

 

そして、場合によっては今回ちゃんと交流会に出たのではないかと思い、藤花に聞いたところ返ってきたのは肯定だった。

ただし、要求される金額が頼み事と全く釣り合わない。

五条が藤花にどれだけの金を支払ったか知らないが、藤花の無理でしょうけどというような態度から倍でも全然足りないことだけは分かった。

 

そもそも、ただの中間管理職が御三家の人間に財力で勝てるわけがない。

しかも五条は『最強』であるが故に引っ張りだこだ。元々ある何もなくとも遊んで暮らせるほどある資産が膨れ上がり、一生豪遊して暮らしても問題ないほど稼いでいるはずだ。

尚更、勝ち目などあるわけがなかった。

 

ただその財力がなければ藤花が見向きもしていないのがなんともいえないが。

 

「本当、お前は金が好きなんだな」

「資本主義社会ですから。金はいくらあっても困りませんもの」

 

夜蛾の呆れに藤花は澄ました顔でそうでしょう?と冥々に話を振る。

 

「ああ、玉蟲と私では今すぐ要求するか、後からしっかりと回収するかで過程が違うが金がいくらあっても困らないことには間違いないね」

 

冥々は金を得る過程が違うがそれでもいくらあっても困らないことには変わりないので藤花の意見に同意する。

 

何せ、金は大事だ。金に換えられないモノに価値などないのだから。

 

金さえちゃんともらえればそれで良い。

用益潜在能力があれば額が少なくても多少は良い。でも多ければ尚、良し。

 

冥々は心の底からそう思っているのだが、今までの付き合いからどうやら彼女はそうでもないようだ。

 

まあ、彼女が金を集めてどうするのかは知らないけれど同じ金を求める仲であることには間違いない。

どう行動するにせよ、それもそれで面白そうだ。

 

「似ているようで違うけれど私は君のこと結構、気に入っているよ」

 

ついでというように付け足された言葉に藤花は口元に手を当てて笑う。

 

「そんなこと言ったってお金はあげませんよ?」

「フフ、言葉だけで金がもらえたら苦労はしないさ」

 

生々しい冗談にこの守銭奴どもめと夜蛾は思わず呟いた。

 

 

 





どちらも『O☆KI☆MO☆TI』が多いと嬉しい。
ただ藤花は相手によってその最低ラインが変動する場合があったりなかったり…

〜お金の使い方〜
・冥々
ひたすら貯め込む
ゼロがいっぱいの通帳を眺めるのが好き

・藤花
基本、貯め込む
必要な時は札束で殴ることも厭わない

・五条
甘いモノとちょっとした頼み事と可愛い教え子のための時にパーっと使う
それ以外は経費で落とさせる

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