現に微睡み、藤波に堕ちよ   作:小夜夏

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玉蟲さんは全国で20人くらいいるらしい。
その大部分は宮城県と神奈川県にいるみたい。
ちなみに苗字の由来は全く違うよ。関係性も微塵もないよ。

感想嬉しかったから増やしまーす。キツくなったら元に戻すよ。



漆:呪術師というものは

 

 

 

────呪術師という存在はみな、どこかイカれている。

 

例えば、価値観。

 

例えば、存在。

 

例えば、信念。

 

例えば、愛。

 

 

呪霊というモノは常人には見えない。

生来からの術式を持つ者や呪力を持っている者くらいじゃないと見えないのだ。

 

見えないのが普通で、見えている方が異常。

そんな一言で片付けられてしまう世の心理。

 

だからこそ、異常な世界で平然といればいるほど、呪術師としての才能を持つほどその人物はイカれているのだ。

 

そう言う意味では彼は十分にイカれているのだろう。

生まれて十六年。それまで呪術との関わりが一切なかったのにも関わらず、平然と宿儺の指を食べて受肉した。

 

呪いの元となっているのは負の感情だ。誰もが忌避する感情だ。

それが関わっている呪術(モノ)がお綺麗なものであるわけがない。

 

『毒を持って毒を制す』その精神で安置されている”魔除け”である呪物の見た目は尚更、気持ち悪い。

 

それをあっさりと食べるなど正気を疑う。

その話を聞いた時、両面宿儺の器となった男は倫理観など欠如した狂人だと思った。

 

しかし────

 

「どーしたの?玉蟲先輩」

 

しゃがんで買うお菓子を悩んでいる姿を見下ろしているとこちらの視線に気づいたのか見上げてくる。

その顔は純粋で、今でも呪術師なのかと疑いたくなるようなものだ。

 

────普通の男子高校生なのだ。

 

見た目も、中身も。

 

「…別に。それよりも早く選んで下さい。この時間帯、人がなかなか来ないとはいえ来ることもあるんですから」

 

虎杖悠仁という青年は呪術がなければどこにでもいる一般人なのだ。

 

藤花は虎杖から視線を逸らし、早くするように急かした。

ここは高専の近くにあるコンビニだ。

今の時刻は草木も眠る深夜。日中と比べると利用する高専の人間は少ないものの訪れる人はたまにいる。

特に日を跨ぐ作業が確定してしまった事務方の人間とか。

 

「先輩、ポテチってコンソメ派?それともうす塩派?」

「どちらでも。ああ…ですが匂いが強いものはあまり好みませんね」

 

いきなりの質問に藤花は訝しみながら正直に答えた。それが虎杖の悩みを解決に導くのなら安い物だろうと判断したからだ。

 

先輩はうす塩派なんですねと言いながら足元のカゴにコンソメとうす塩を複数放り込む虎杖を見てあの質問はなんだったんだと藤花は思わずため息をついた。

 

ジュースを選びに行く虎杖を追う。

ついでに朝食を選ばせてから藤花がコンビニに来た本来の目的である栄養補給食品なゼリーを種類関係なくカゴに放り込んでレジに向かった。

 

「先輩って変な人だよな」

「備蓄がつきただけです。あの変人と一緒にしないで下さい」

 

その量にうわぁと引いている後輩を一蹴しながら会計をする。

もちろん、虎杖と自分の物を別の袋に入れるように言っておくのは忘れない。

 

「あっお金」

「良いです。年下に払わせるほど狭くはないです」

 

流れるように会計へと行き、平然と金を払う藤花を見て虎杖は慌てて尻ポケットにある財布を取り出すが藤花にバッサリと切り捨てられた。

 

その姿を目の前で生々しいやりとりを見せつけられた二年生が見れば二度見するだろうが生憎、ここにいるのは数週間ほど前に知り合ったばかりの一年生だ。

 

虎杖は素直に礼を言って荷物を全部持った。

藤花はなんのために袋を分けたと思っているとじと目で見たが、奢ってもらったからと至極真っ当な理由にため息をついて虎杖の後を追った。

 

 

◇◆◇

 

 

五条先生に玉蟲先輩を紹介されてしばらく経った。

 

先輩は悪口になっちゃうけど言われるまで先輩だって気づけないくらい背が低い。

いつも不機嫌そうでよく仏頂面とか眉間にシワを寄せている。

 

近寄るなとか関わるなとかの雰囲気を醸し出していて最初の頃は俺、何かしたっけ?と先輩と知り合ってからの出来事をよく振り返っていた。

 

でも数日すればそれが先輩のデフォだってことに気づけた。

 

先生の言っていた通りに分からないことを聞けば頭の悪い俺でも分かるように噛み砕いてしっかり説明してくれるし、理解できるまで根気よく付き合ってくれる。

 

そんな先輩の様子を見てなんだか爺ちゃんみたいだなと密かに思う。

 

構うなっていうところとか、そこまで不機嫌じゃないのに不機嫌そうにしているところとか。あとは頑固そうなところとか。

 

気づけたことはそれだけではない。

 

まずは意外に面倒見が良いことか。

教えるのも上手いし、先生が代打として先輩を連れてきたのも頷ける。

 

食に頓着していないこと。

コンビニに連れて行ってもらった時は飲料ゼリーばっかり買っていて正直、引いた。

本人は備蓄が尽きたからその代わりとか行っていたけどあの量はない。

 

ベタベタ纏わり付かれるのは嫌い。

でも黙って側にいるだけなら何も言わない。

 

見た目にそぐわないが肉弾戦も結構イケること。

これには驚いた。

 

虎杖は自分が結構動ける方であると自負している。

運動系の勝負で負けることはなかったと思う。

それなのに気づいたら床に転がされていた。

タイマンなのによく見ていないと先輩をすぐに見失う。

 

他には映画に詳しくないこととか。

今、見ている映画はテレビっ子である虎杖ですら知らないものばかりだが、少しは知っているものもある。

それについて話そうとしたところ全く知らなくて会話にならなかった。

 

ああ、そうそう。先生や伊地知さんも気づいてないっぽいやつもあったな。

と言っても俺の勝手な予想だけど。

 

「玉蟲先輩って…」

「はい?」

 

気づいたら言葉に出ていた。

 

何でもないって言って終わらせることも出来たがそこまで重要そうなことでもないし、やめる必要もないかと思った虎杖は一度切った言葉を続けた。

 

何だと言う風に顔だけ振り返った藤花だったが

 

「先輩って、もしかして苗字で呼ばれるの嫌い?」

 

思いもよらない言葉にピタリと動きを止めた。

 

「………」

「いやえっと違ってたら…ごめんなさい」

 

何も反応しない藤花を見て虎杖はワタワタと言葉を探すが上手い言葉が見つからず、親に叱られる子供のようになる。

 

「…どうしてそう思ったんですか」

「え…ん〜そんな感じがしたから。上手く言葉に出来ないなあ…」

 

別に隠していたわけではない。

ただ誰もそのことに気づいていなくて、藤花自身も言うほどでもないと思っていたから言わなかっただけで。

 

だから会ってから間もない人物にそれを指摘されたことには驚いた。

 

人一倍人の心を持ち、察しの良いパンダですら勘づいていないことに虎杖が気付くとは思っていなかったから。

 

「…好ましくは思っていないですね。語感的にも良い印象ではないですし」

 

やましいことでもないので藤花は素直に肯定する。

 

地雷を踏んだのかと内心、冷や冷やしていた虎杖は藤花が普通に答えたのを見てほっと息をついた。

 

「あの漢字、苗字に使われているの初めて見た」

「私もあそこ以外で名乗っているのは見たことないです」

 

藤花の肯定にああ、やっぱりと虎杖は共感する。

 

「じゃあ、先輩のこと藤花先輩って呼んでいい?」

「虎杖くんがそうしたいのなら。変なあだ名じゃない限りどう呼ばれようが気にしませんし」

 

思ったよりすんなりと通ったことに虎杖は目を瞬かせる。

 

普通、親しい人以外に名前を呼ばせることはしない。それが男女であるなら尚更。

 

虎杖はそれが分からないほど鈍感ではない。

短期間といえ共に過ごしてきたので藤花が虎杖のことをどう思っているのかもなんとなく察している。

 

面倒を見るように頼まれた後輩。

 

端的に表すとこの一言に尽きるだろう。

 

呆れた顔を見せながら突っ込んだりするし、気が向いたら軽口を叩くことだってある。

だけど、それ以上のことはない。

 

親しくもなく、特別でもない相手に名前で呼ばせないだろうと半分冗談で言った。

 

先輩、苗字で呼ばれるのは好ましくないとか言ってるけど普通に嫌いじゃん。

 

「とーか先輩、ここ教えてー」

「はあ…良いですか?ここは────」

 

早速な呼び方に藤花は呆れるが悪い気はしない。

さっき言った通り、他人が自分のことをどう呼ぼうが気にしないしどうでも良いが忌々しいものを連想しやすい名前よりこっちの方がしっくりくる。

 

そういえば彼もいつの間にか苗字呼びから名前呼びに変わっていたなと異国の地にいる後輩のことを思い出した。

 

 

◇◆◇

 

 

呪術師という存在はみな、どこかイカれている。

ソレの程度の差はあれど例外はない。

 

イカれていないように見えてイカれているのだ。

 

最たる例は特級被呪者だった乙骨憂太だろうか。

 

任務で外国に行ってしまった可愛い後輩の背中を思い浮かべる。

 

彼は狂った『愛』を(たっと)ぶ人だ。

 

蛇足かもしれないが私の父もそうだった。

 

あの人は家族を愛していたけれど一番に愛していたのはきっと母なのだろう。

幼い私がそう察してしまえるほどどこか狂っていた愛だった。

女の趣味は娘である私でも無いと思うくらい悪かったけど。

 

あの人は呪術師の道を選ばずに普通の道を選んだけどもし、呪術師の道を選んでいたらきっと上位に位置したと思う。

 

呪術については何も教えてくれなかったし、話さなかったけど知識を得てから当時を振り返ると少なくともそれぐらいの力はあったはずだ。

 

散々、人のことをイカれていると評している私だって例外ではない。

 

 

私がイカれているところは────────

 

 

 

 





東堂葵
三輪霞
伏黒恵
乙骨憂太

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