識と再開すべく、鷹原羽依里が足掻く物語。

夏休みが終わって数ヶ月語の世界。

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鬼ごっこ・ロスタイム

 かつて神山識という少女がいた。

 よく笑い、よく泣いて、よく食べて。

 そして少し騒がしいだけの、どこにでもいる少女。

 

 そんな神山識の人生を変えたのは、1つの予言だった。

 島を襲う大津波。

 少女は自らを海賊鬼姫と名乗り、島を襲う形で島民を避難させた。

 

 結果、計り知れないほど多くの命が救われた。

 そして、たった1つの命が失われた。

 神山識という、鬼と名乗った少女の命。

 

 死に際、彼女が笑っていたのを覚えている。

 とても幸せそうな笑顔だった。

 未練など感じさせない有終の美だった。

 そう、だからきっと、これは悲劇なんかではない。

 ハッピーエンドの昔話。

 もう覆すことのできないただの史実。

 だけど。

 

「このまま終わらせてたまるか」

 

 強く、そう呟く。

 船の野太い汽笛が聞こえた。

 水平線の向こうから見慣れた島が顔を覗かす。

 

『まもなく、鳥白町漁港に到着します』

 

 掠れたアナウンスを聞いていると、ふと冷たい感触が頬を撫でた。

 そっと、白い息を吐く。

 

「雪か」

 

 口に出して、時間の流れを実感する。

 識と別れてもう数ヶ月が経とうとしていた。

 気づけば12月。寒くもなるわけだ。

 

 ポケットの中から、小さく固いお守りを取り出す。

 ハマグリだ。

 殻の内側には、可愛らしいおむすびの絵が描いてある。

 

「俺は諦めないぞ、識」

 

 例え彼女が全て丸く収まったと考えていたとしても。

 例え誰しもが美談としてまとめたとしても。

 

 俺は。俺だけは。

 彼女を追いかけなくてはいけない理由がある。

 

「なんたって、今は俺が鬼だもんな」

 

[2]

 

「というわけで、今週も舞い戻って来たぞ」

「マジで週末になると欠かさず来るわね、アンタ」

 

 山の中にある秘密基地に足を踏み入れた途端、蒼が呆れたような眼差しで俺を見てきた。

 ちなみに隣には良一と天善、のみきも居る。

 いつもは男臭い秘密基地が妙に華やかであった。

 

「あれ、今日はやけに人が多いな」

「もうすぐクリスマスだからな。私達少年団でクリスマス会の企画を考えているんだ」

 

 見ると、普段は卓球の得点なんかが書いてあるホワイトボードがやたら賑やかになっていた。

 

「やっぱ盛り上がるといったら『裸祭り』だろ!」

「季節考えろよ」

「馬鹿野郎!『裸祭り』は通年行事だ!現に今だって」

 

 良一が自分の服に手をかける。

「また乳頭を凍らせてやろうか?」

「ごめんなさい」

 

 のみきの圧に負け、良一は降参とばかりに両手を挙げる。

 『また』ということは、以前にも凍らされたのだろうか。

 考えただけで身震いがする。

 

「おい天善、卓球の素振りばっかしてないで何か案とか出せよ」

「そんなもの、全島民卓球王決定戦しかないだろう」

「1つしか卓球台ないじゃない。何日かかんのよ」

「むぅ、そういう蒼は何か良い意見はないのか?」

「えー?まぁクリスマスだし、もっとこう、カップルが神聖な感じで」

 

「蒼が言うと下ネタにしか聞こえねぇんだよな」

「ピンク脳は己の内にしまっておけ」

「うむ、まあ公序良俗違反で却下だな」

「・・・・・・しまいにはキレるわよ」

 

 やっぱりこの島は、いつ来ても騒がしく楽しい。

 そこだけは絶対に変わらない。

 油断すれば嫌なことを全て忘れてしまいそうになる。

 

 だけど、この流れに身を任すわけにはいかない。

 俺は大きく咳払いをし、皆の注目を集める。

 

「いつもの本題に入っていいか?」

「分かってるって」

 

 そう言うと、良一はホワイトボードの側面を持った。

 このボードは裏面にも文字が書けるようになっている。

 ぐるん、とボードが回転し、今まで見えなかった文字が姿を現す。

 そこには、カラフルなマーカーでこんな文字が書かれていた。

 

『神山識、絶対救出大作戦!!』

 

「今週もよろしく頼む」

 

[3]

 

 結局の所、俺の目的は識を津波で死なせないことだ。

 そしてこの時代で一緒に生きてくことだ。

 

 贅沢なことを要求しているのは分かっている。

 だから、そんな贅沢を通すために俺は何だってする覚悟だ。

 

「これまで何度も説明したように、この時代には確かに神山識がいた」

「何度も聞くが、未だに実感がわかないな。慰霊碑に刻まれている人物と出会っていただなんて」

 

 のみきが困ったような表情で両手を胸の下で組む。

 

「皆ともよく遊んでいたはずなんだが・・・・・・、まあ忘れているのなら無理に思い出してくれとは言わない。ただ、本当に居たということだけは信じて欲しい」

 

 小さな確証は、今もポケットの中にある。

 だけれど、それを妄想ではないと証明できるほどの根拠がない。

 

「あぁ、実感はわかないが、別に信じていないわけではないさ」

「そうね。羽依里がそんな嘘を吐く人間とは思えないし」

 

 俺は礼を述べ、ホワイトボードの余白に文字を記す。

 現状、解決しなければいけない問題点を並べる。

 まずは。

 

「まずは150年前に行く必要がある」

「いつも思うが初手で詰んでいるな。これでは卓球のサーブ前に天善ゾーンが炸裂するようなものだぞ」

「そして大津波から識の命を救う必要もある」

「ハイドログラディエーター改でも大津波相手では分が悪いな」

 

 会議は踊る間もなく消沈していた。

 だけれど俺はかすかな記憶を手がかりに、何とか夏の記憶を掘り起こす。

 

「150年前に行く方法なんだが、これは恐らく『神隠し』が関係していると思う」

「それってこの島で希に起きるっていう?」

「そうだ」

 

 あの白い花が一面に咲き誇る謎の空間。

 識は『神隠し』にあった後、あの場所で自分の名前すらも忘れるほど長い時間を過ごしたらしい。

 そして、俺もあそこで一度は識を見送った。

 

 どういう理屈か分からないが、あの空間に時間の概念は存在しない。

 であれば、時を越えることだって空想ではなくなるかもしれない。

 

「なんとかして『神隠し』にあう方法はないか?」

「そうは言われても、理由が分からないから『神隠し』って言うのよ。そもそもが神様の仕業なんだから人間が手を出せるわけがないわ」

 

 その言葉を聞いて、良一がぴくりと肩を震わせる。

 

「そうだ、神様のことなら神様に聞いてみたらどうだ?」

「・・・・・・良一、お前、裸になりすぎて脳に致命的なダメージが」

「あるかそんなもん!!そうじゃなくて神様のことなら神社に尋ねてみようぜって言ってんだ」

「神社?」

 

 そこにいた全員が1つの名前を思い浮かべる。

 というか、この島で神社といえば基本的に1つしかない。

 

「鳴瀬神社か」

「しかも我らが少年団には鳴瀬家のお嬢様も所属しているしな」

「けど、しろはが協力してくれるかしら?」

「スイカバーあれば何とかなるだろ」

「それは夏の話でしょ・・・・・・」

 

 とりあえず今日の目的は見えてきた。

 神様のことなら神様に。

 単純すぎて単純な良一にしか思いつかなかった意見だ。

 

 確かにあの場所ならばヒントがあるかもしれない。

 なんたって、元は識が暮らしていた場所なんだから。

 

[4]

 

「・・・・・・私も神社については詳しくは知らない」

 

 数十分後、良一に懐柔されたしろはがスイカバーを片手に秘密基地に現れた時は、さすがに驚きを禁じ得なかった。

 

「冬でもスイカバーか」

「基本は夏しか発売されてない。なので冬のスイカバーは希少価値が増す」

「ちょっとした裏ルートで仕入れたのさ!」

 

 良一は得意気に胸を張っているが、まあ夏に買って食べ忘れて冷凍庫に眠っていたとかそんな所だろう。

 俺は一度間を置いて、改めてしろはに向き直る。

 

「なんか鳴瀬家直径の秘伝の教えとかないのか?」

「あるわけないし。鳴瀬神社って名前がついてるだけで、私の先祖が代々継いできたわけでもない」

 

 そういえば、鳴瀬神社という名前になったのは神山神社が廃れた後の話だ。

 歴史というほどのものは無いのかもしれない。

 

「神様といっても海運とかだから、そんな時間を遡るような真似はできないと思う」

 

 当たり前といえば当たり前の結論を出されてしまう。

 そもそも『神隠し』なんて神社で願ったって叶えてくれるものでもないだろう。

 

 神社は自分に誓いを立てる場所。

 そう教えてくれた識の言葉を思い出す。

 

 沈黙する俺に代わり、今度はのみきが口を開く。

 

「些細な事で構わない。『神隠し』について知っていることはないか?」

「そうは言われても・・・・・・」

 

 スイカバーを食べながら、しろははそっと息を吐く。

 

「そういえば、前に加藤のおばーちゃんが言ってた気がする」

「俺の婆ちゃんが?」

「子供の頃、ツムギちゃんっていう友達が『神隠し』にあったまま帰って来なくなったって話」

 

 ツムギと聞いて、俺の脳裏に灯台の上で歌っていた少女が過ぎる。

 いや、でも婆ちゃんが子供の頃の話なら関係はないはずだ。

 俺は疑念を振り切り、しろはの次の言葉を待つ。

 

「そのツムギちゃんって子は、灯台守の男と駆け落ちする最中だったらしい」

「ひゃー、なんかロマンチックね」

「でも、たぶんツムギちゃんは最後まで迷っていた。迷っていたから、彼女は二度と帰ってこれなくなった」

「急に怖い話になったな」

 

 しかし安易には馬鹿にできない。

 自分の婆ちゃんがどんな人物だったのかはよく分からないが、それでも『迷い』という言葉が心に引っ掛かった。

 確か、識も『鬼』になることを迷っていたと言っていた。

 

「鍵は、心の『迷い』?」

「『迷い』のある人間なんて普通にいると思うけどな。俺も常に服を着て生きる自分との葛藤を繰り返しているし」

「ただの葛藤レベルじゃ足りないとか?」

 

 と、そこで蒼が少しばかり目を細めた。

 

「・・・・・・『迷い』」

「どうした蒼?」

「・・・・・・ううん。何でもないわ」

 

 そう言うと、蒼は視線を窓から見える山の方へと向けた。

 

「私の知っていることは全部話したから、もう帰っていい?」

 

 気づけばスイカバーを食べ終わっていたしろはが、既に扉のノブに手を掛けていた。

 慌てたようにのみきが制止する。

 

「待てしろは、クリスマス会のことで話がある」

「・・・・・・ク、クリスマスは、そもそもキリストの誕生を祝う日で」

 

 ボッチ特有の言い訳みたいなことを言い出すしろは。

 その首根っこを掴んで秘密基地に再び連れ戻すのみき。

 

「ほら鷹原、お前も島にいるなら飾り付けとか手伝え」

 

 ひょいっと、星型のアクセサリーみたいなものを渡される。

 後ろにスイッチがあり、どうやら光るようだ。

 

「何だこれ」

「ツリーのてっぺんとかに飾るあれだ。役所の前にある木のてっぺんに結んでおいてくれ」

「雪とか降ってるけど漏電とか大丈夫?」

「防水能力なら私の相棒で実証済みだ」

 

 それは、なんとも心強い。

 気づけば話題の方向が再びクリスマス会にシフトしていた。

 無理矢理に軌道修正しようとは思わなかった。

 

 この島にとってはクリスマス会の方が重要に決まっている。

 むしろ毎回俺のために時間を割いてくれることに感謝している。

 

「・・・・・・今週はこんな所かな」

 

 星型のアクセサリーをポケットに入れ、秘密基地を後にする。

 外ではしんしんと雪が降り積もっていた。

 

 クリスマスは来週だが、今からその訪れにワクワクさせられる。

 ただ降ってるだけなのに、どうしてこんなに雪は心を高揚させるのか。

 

『おお!見てくれ羽依里くん!これはもう一面のおむすびじゃないか!!』

 

 識がいれば、そんな事を言っていたのかもしれない。

 目を瞑り想像してみるも、寂しさだけが心に残った。

 

[5]

 

 冬になると陽が沈むのが早い。

 神社にお参りに行ったり慰霊碑の様子を見に行ったりしている内に、すっかり辺りは暗くなってしまっていた。

 

「やべ、この暗さで飾り付け出来るかな」

 

 一応役所の前に言ってみるも、離島の夜は想像以上に暗かった。

 諦めて来週にするか、それとも素直に謝りに行くか悩んでいると、役所の隣から見知った顔が出てきた。

 

「・・・・・・蒼?」

「羽依里、ちょっと着いて来て」

 

 ぐいっと袖を引かれ、そのまま山の中へ連れ込まれる。

 

「え、ちょ、逢い引き!?」

「何でそうなんのよ!!」

 

 怒鳴ると同時に蒼の足が止まる。

 知らない間に足元には青い狐の姿もあった。

 

「ポン!」

「そういえば、蒼って夏にも夜の山に居たよな。あの時は妙な服着てたけど」

 

 その時は事情を聞く前に追い返されてしまった。

 今思えば、蒼が集めていたのは七影蝶ではなかったか?

 

「お役目は夏の祭事だからね。今は巫女服を着る必要がないの」

「巫女服・・・・・・?」

 

 ということは、蒼の家も何かしらの神社に関係しているのか。

 首を傾げる俺に、蒼は厄介そうにため息を吐いた。

 

「鳴瀬と同じように空門にも祭事があるの。夏鳥の儀のように派手じゃないけど、それでも無くてはならない大切なお役目よ」

「で、俺は何で祭事でもない夜の森に連れ込まれたんだ?」

 

 時間的にそろそろ船の最終便が出るので、本日は鏡子さんの家に泊まる事が確定してしまった。

 イナリが一層大きな声で鳴くと、視界の端でチラチラと青い光が瞬いた。

 

「七影、蝶?」

「名前知ってるのね」

「あぁ、識から聞いたんだ。触ると記憶が混ざるとか」

「なら話は早いわ。あれには決して触れないこと」

 

 実際、一度は触って痛い目を見たので身に染みてる。

 必要以上に距離をとりつつ、俺は蒼の歩く後を着いていく。

 

 七影蝶は死者の無念、と識は言っていた。

 どうやら強い思いというのは、死んでもなお時を越えて残り続けるらしい。

 

 なら、俺にももっと識を助けたいと思う力があれば。

 この想いは150年の時間を超えられるのだろうか。

 

 しばらく歩くと、開けた場所に出た。

 

「ここって・・・・・・」

 

 山の中だというのに、木々の数が圧倒的に少ない。

 いや、少ないなんてものではない。

 たった一本を除き、全ての樹木がその場所を避けるように周りを囲っていた。

 

 蒼は、バツの悪そうに呟いた。

 

「神域よ。空門家にとって特別な場所」

「神、域・・・・・・?」

「本当は部外者に教えて良いような情報じゃないんだけど、まあアンタなら下手に荒らすこともないだろうし」

 

 イナリが中央に鎮座するただ一本の木へと走って行く。

 ただの木のはずなのに、どこか威圧感を感じる。

 触れることさえ躊躇うような、妙な圧迫感。

 

「アンタの探し物のヒントになるかもって思ったの」

 

 蒼もイナリに続いて中央の木へと歩いて行く。

 俺はもう何がなにやら分からないが、着いて行くしかない。

 

 その木は既に花を枯らし、葉を散らし、翌年の準備に備えていた。

 そして蒼は木の幹に触れると、そっと息を吐くように口を開けた。

 

「この木の名前は、『迷い橘』」

 

 ドキリ、と俺の心臓が高鳴った。

 『神隠し』を探る上で出てきた『迷う』というワード。

 それがこんな所で妙な一致を起こした。

 

 いや。

 いいや。

 それだけではない。

 ずっと感じていたもう一つの既視感。

 

「ここって、『神隠し』の先で見た風景に似ている・・・・・・?」

 

 一面の花はない。明るさもない。のどかさも欠けているかもしれない。

 だけど、この木は、確かにあそこで見た光景と一致する。

 完璧に同じかは分からないが、拭えないほどの・・・・・・。

 

「へじゃぷ」

「え?何て?」

「・・・・・・ここだ。絶対に、ここにヒントがあるはずだ」

 

 俺は木の幹に触れたり、寄りかかってみたり、抱き着いてみたりもした。

 

「ちょっと気持ち悪いわよ」

 

 そんな蒼の蔑みは耳に入らなかった。

 それどころではない。ようやく手に入れた手がかりだ。

 絶対に何かあるはずだ。何かなくてはならない。

 

 だって。

 これで。

 これで何もなかったら、いよいよ糸が切れかもしれない。

 識へと繋がる、最初で最後の糸かもしれないんだ。

 

 だからある。あってくれ。何でも良いんだ。

 些細な事でも、ちょっとでも、わずかでも。

 あいつの事を、笑顔を、覚えていられるうちに。

 

 それでも、俺がどれだけ試行錯誤しようが、結果は変わらなかった。

 『迷い』が足りないのか。『想い』が足りないのか。

 あるいはその両方か。

 

 どうしようもない不安が込み上げてくる。

 意識せずに呼吸が荒らくなる。

 そして最後に、最悪の考えが脳裏に浮かぶ。

 

 もう、どうやっても識には会えないし、救えないのではないか。

 

「鷹原羽依里!!!!!!」

「ほわっ!?」

 

 自分の頬を叩き、喝を入れる。

 あぁそうだ。こんな事で諦めるほどやわな夏は過ごしていない。

 俺は救うと決めたんだ。もう二度と逃げないって決めたんだ。

 

 また一緒におむすび食って、花火して、鬼ごっこして、漁師の手伝いとかして、灯籠流して、楽しい夏を識と送る。決して妥協はしない。必ず叶えてみせる。

 

 彼女との繋がりを確認するように、ポケットからハマグリを出す。

 

『おむすびだぜ』

「あぁ、おむすびだ」

 

 これがある限り、俺と識は結ばれている。

 時代の壁なんて関係ない。

 結ばれているのなら、たぐり寄せていけば、いつかは必ず出会えるはずなんだ。

 

 だから。ここに限っては、迷うわけにはいかない。

 

「・・・・・・?」

 

 不意に、ハマグリが白くぼやけた気がした。

 いや、正確には白く発光している・・・・・・?

 

「何だ、これ」

 

 段々と光が強くなり、俺の視界が漂白されていく。

 隣で蒼が何かを叫んでいたようだが、もはや声すら正確に届かない。

 

 だけど、不思議と確信があった。

 これはあの時の感覚に似ているかもしれない。

 識と一緒に波に飲まれ、溺れかけたあの時の感覚に。

 

 苦しさこそないが、この全身を違和感が包み込むような得体の知れない不可解な現象。

 視界は明滅し、自分の存在も曖昧に。

 

 やがて。知らない間に閉じていた目を開く。

 

[6]

 

 一面の花景色だった。

 中央には『迷い橘』に似た木が堂々と構えていて、俺の心は安堵で満たされる。

 

「は、はは」

 

 ほとんど未知の場所で、思わず涙を流した。

 そうだ。この場所だ。この場所だった。

 

 ここで俺と識は鬼ごっこをして、俺が鬼で、あいつは逃げて、あいつは走りながら妙に格好良い覚悟まで決めて、それを俺は応援して、後悔して・・・・・・。

 

 もう、すごく昔のことのように感じる。

 けれど、こうして手を開くだけで識のぬくもりを思い出せた。

 

「・・・・・・識」

 

 立ち上がり、周囲を見渡す。

 手には未だハマグリのお守りが握られていた。

 

「やっぱり、誰も居ないよな」

 

 風の音1つしない、完全な静寂だった。

 以前は七影蝶が何匹か舞っていたが、今はその影もない。

 

「識が、全ての島民を救ったからか?」

 

 それはとても誇らしい。

 分かってはいたが、あいつは本当にやり遂げたんだ。

 

 今度会ったら、もっともっと褒めてやろうと心に誓う。

 

「前回は、一度しか褒められなかったからな」

 

 すると、またしても手にしていたハマグリがわずかに光る。

 よもやタイムリミットかと思ったが、どうやら違うようだ。

 

 光に導かれるように、一匹の弱々しい七影蝶がやって来る。

 

「・・・・・・」

 

 全ての島民が助かったのだとすれば、あの蝶は一体何だ。

 そんなもの、考えるまでもなかった。

 

 この空間があの津波の犠牲者が導かれる場所ならば。

 俺のハマグリが引き寄せる相手はただ1人しかいないだろう。

 

 ピトリと。

 軽い動作でハマグリの殻に七影蝶が止まる。

 恐怖なんて、あるはずもない。

 

 俺は迷わずその蝶に触れた。

 

[7]

 

 それは優しさと温かさと、わずかな後悔の記憶。

 

[8]

 

「・・・・・・」

 

 しばらく、動けなかった。

 七影蝶から流れ込んでくる記憶に汚染されたわけではない。

 

 ただ、ひたすらに感情が暴れていた。

 笑いたいし、泣きたかった。

 怒りたいし、苦しかった。

 

 そして、今まで以上に助けたかった。

 

「・・・・・・俺を1人にさせてしまうと、お前は言ったな」

 

 改めて挑みかかるように、ハマグリの上で羽を休める七影蝶に語りかける。

 

「あぁ、1人はお前が思っていた以上に、俺が覚悟していた以上に辛かったよ。もう二度とお前に会えないかもって可能性を考えるだけで、胸が苦しくなったよ。また会えるかもって可能性を考えるだけで、今日まで頑張ってこれたよ。だから、俺はもうたくさんだ」

 

 涙をぬぐい、笑みを強める。

 これからの一生は笑って過ごしたいと言った、彼女の言葉を真似るように。

 

「もう1人は嫌だから、そろそろタッチしに行かせてもらう」

 

 再びハマグリが白く光る。

 七影蝶を媒体に、想いの強さが時を超える。

 

 今度こそ。もう取りこぼさない。

 あの島に慰霊碑は似合わない。

 

 だから、戸惑うことなく、鷹原羽依里は光の渦へと呑み込まれる。

 

[9]

 

 眩しさに包まれ、気づけば見覚えのある砂浜に立っていた。

 いや、形こそ似ているが、脇に生えている植物や置かれている資材なんかが微妙に異なる。

 

 その違和感により、ここが『現代』の鳥白島ではないことを実感する。

 空を見上げれば青空で海鳥が鳴いていた。

 

「今は一体、いつなんだ?」

 

 前回のように識の死に際にタイムスリップしたわけではなさそうだ。

 だけど、タイムリミットが分からない。

 俺に残された時間が分からなければ、対策のしようもない。

 

 そもそも。

 本当に、識が死ぬ前に戻っているんだろうな・・・・・・?

 

 ここに来て神様のイタズラと勘弁して欲しい。

 俺はすぐに砂浜から上がり、何でも良いからカレンダーと時計を確認しようとして道路へと飛び出す。

 

 その時だった。

 

「ぐおっ」

「きゃうん」

 

 可愛らしい悲鳴をあげつつ、俺の脇腹にタックルしてきた少女が尻もちをつく。

 突然のことに驚かされつつも、俺はその女の子に手を伸ばす。

 

 途中で、その動きを止めてしまった。

 

「・・・・・・蒼?」

「はぁ?初対面でぶつかっておいて、人違いしてんじゃないわよ」

 

 俺はもう一度腕を伸ばし、青髪の少女がそれを掴み、起き上がる。

 

「はぁ、アンタ見ない顔だけど島の外から来たの?」

「まあそんなとこだな。ちょっと親戚の家に呼ばれて」

「ふぅん。運の悪い奴ね。よりにもよってこのタイミングとは」

 

 状況を察するに、この少女は蒼のご先祖様・・・・・・つまり空門の家の娘だろう。

 確か、空門と鳴瀬の娘は識とも親しかったはずだ。

 ならば何か情報を聞き出せるかもしれない。

 

 日付を尋ねようとして、声を詰まらせる。

 そもそも俺は津波が何日に来るのかすら教えられていない。

 夏鳥の儀の日と同じでいいのか? 

 供養の祭りだからって、まったく同じ日と考えて大丈夫なのか?

 

「なに固まってんのよ。私忙しいからもう行くわよ」

 

 よく見ると、彼女の片手には風呂敷のようなものが握られていた。

 中に詰まっているのは、溢れんばかりのおむすび。

 

「ちょっと待ってくれ」

「急いでいるんだってば!」

「どこに行こうとしてるんだ?」

「どこに行こうが私の勝手でしょうが」

「知られたらマズいのか?」

「そうね。乙女の秘密よ。暴こうものなら死罪だわ」

 

 どうにも、はぐらかされる。

 こんな所で時間を無駄にしている場合ではないのに。

 

 だから意を決して、俺は最後の核心に迫ることにした。

 

「神山識が、そこにいるのか?」

「・・・・・・い、いるわけないじゃない。きゃい賊よ?」

 

 分かりやすい嘘だった。

 蒼より少し冷たいイメージがあったが、嘘を吐くのは蒼よりも更に苦手なようだ。

 

「頼む、俺を識の場所まで連れて行ってくれないか」

「はぁ?私達になんのメリットがあるわけ?」

「やっぱり識の場所に行くんだな」

「・・・・・・・・・・・・」

「行くんだな」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 空門のお嬢様の表情筋がピクピクと揺れていた。

 俺はさらに頭を深くさげる。

 もうここは頼み込むしかない。

 最初から綱渡りでここまで来たのだ。恥とか外聞とかで立ち止まってる余裕などない。

 

 やがて頭上から、深く息を吐く音が聞こえた。

 

「1つ、尋ねるわ」

 

 次に発せられた空門の言葉には、どこか重みがあった。

 不思議と試されている感じがして、全身の筋肉が強ばる。

 

「アンタが会いたいのは、『姫巫女』? それとも『鬼姫』?」

 

 尋ねられ、慎重に答えなければいけないはずなのに、口が勝手に動いていた。

 

「姫なんて知らない。鬼なんて知らない。俺が会いたいのは、神山識だ」

 

 おむすびが大好物で、子供と遊ぶのが大好きで、足が速くて、料理が意外に上手くて、島の皆を愛していて、島の皆に愛されていた神山識。

 そこに鬼も姫も海賊も関係あるか。

 俺が好きで俺が会いたいのは、ありのままの彼女なんだから。

 

「ふぅん」

 

 何かを察したのか、空門の少女は俺の髪を掴んで下げていた顔を強引に上げさせた。

 ずいぶんと乱暴だ。

 

「まあ良いわ。着いて来なさい」

「・・・・・・ありがとう」

「大体、そんな顔されたら断れるわけないじゃない」

「君が死んだら、墓の前には厳選したエロ本を備えておくよ」

「そんな嬉しくない感謝の言葉は初めてだわ」

 

 と言いつつも拒否はしない辺り、血は争えないのかもしれない。

 

[10]

 

「ここよ」

 

 やって来たのは島の外れにある小さな洞窟だった。

 なるほど、海賊のアジトとしてはそれっぽい。

 

「さて、生きているかしら」

 

 と言いながら歩を進めると、そんなに深くない洞窟なのかすぐに最奥に辿り着いた。

 突き当たりの壁の前で、不気味に蠢く影がある。

 

 地面をはいずるように転がり、救いを求めるようにこちらへ手を伸ばす女の子。

 髪の色は赤。懐かしいピンクの羽織。

 その右腕には、俺が持っているものと対になるハマグリが括り付けられていた。

 

 ずっと探していた、彼女そのものだった。

 

「やっぱ、お前との再会はこうじゃなきゃな」

 

 こみあげてくる感情を抑えて、俺は空門の手からおむすびを1つ奪い取る。

 

「だ、誰かいるのなら、ご飯を分けてくれないかい」

「あぁ、もちろんだ」

 

 ポンと、識の手のひらにおむすびを乗せる。

 俺と彼女を結ぶ。

 

 識はゆっくりとした動作で俺の顔を見ると、おぼろげな表情のまま微かに笑った。

 

「あぁ、どうやらもう死ぬ直前らしい。愛しい人の姿が見える」

「それだと俺が先に死んでることになるだろうが」

「とても高性能な幻聴だ。僕もまだまだ捨てたものじゃないな」

 

 識はそう言うと、手の中にあったおむすびを食べ始めた。

 やがて空門が持って来た全ての食料を平らげると、識はキョトンとした目で俺を見た。

 

「・・・・・・亡霊?」

「だから死んでない」

「妖怪?」

「きちんと人間だ」

「鬼?」

「それはお前だろ!」

 

 掴みかかるように識に近づき、その動作のまま抱きしめた。

 

「ぶえっ!?」

「正真正銘の鷹原羽依里だ。ようやく捕まえたぞ」

 

 これでようやく、長い長い鬼ごっこは終わった。

 もう離さない。そんな想いを表すように、強く強く抱きしめた。

 

「ちょっと、私もいるんだけど、え、何コレ」

 

 空門が顔を赤面させながら洞窟から出ていった。

 最初は硬直していた識も、やがて腕を動かし俺の背中に手を当てた。

 

「本物なんだね?」

「そうだと言ってる」

「・・・・・・困るぜ。これじゃあ決心が揺るぐじゃないか」

「大丈夫だ。俺の決心は絶対に揺るがない。この島の住民もお前も、必ず助けてみせる」

 

 識から体を離すと、彼女の目頭が少しだけ赤くなっていた。

 きっと俺はもっと赤くなっている。

 

「その様子だと、僕はやっぱり死んでしまったらしいね」

「あぁ、おかげで寂しかったぞ馬鹿野郎」

「馬鹿は酷いじゃないか。これでも必死に頑張ってるんだ」

「いいや馬鹿だ。俺もお前も。最初から、こうしていれば良かったんだ」

 

 そうだ。

 過去に現代の人間が干渉しちゃいけないとか、ここは識が頑張る番だとか、俺はどうやっても歴史を変えられないだとか、そんな話は誰が決めた。

 共に足掻いて、足掻いて、もっと足掻いていればよかった。

 

 だから今度こそ俺にとってのハッピーエンドを目指すために。

 もう後悔しないために。

 

「今度は、一緒に頑張ろう」

 

 ずっと言いたかった言葉を、吐き出した。

 

[11]

 

「ところで羽依里君、かなりの厚着だけど大丈夫かい?」

「・・・・・・言われてみれば」

 

 今まで識を探すことに必死になって気にならなかったが、ふと我に返ると暑さがこみあげてきた。今は夏で、俺は冬着であった。

 

「津波が来るのは今晩だ。少しくらいくつろいでおきなよ」

「あれ、識はどこかに行くのか?」

「色々と準備があるのさ」

 

 識は俺から離れ、浜辺の方に歩いて行ってしまった。

 作戦決行は今晩。

 だからといって俺にできることは少ない。

 俺が島民に津波が来ることを教えたとして、誰も相手にはしてくれないだろう。

 

 予言を嫌っている風潮もある。

 余計に鳴瀬の評判を悪くしてしまうかもしれない。

 

 だから、『海賊鬼姫』は必要なんだ。

 問題は、そこからどうやって識を助けるか。

 

「・・・・・・暑い」

 

 考えていると汗がにじんできた。

 俺は我慢ならずモコモコした冬服を脱ぐ。

 

 上半身裸になり海から吹き付ける風にあたる。

 

「のみきには見せられない光景だなー」

「・・・・・・」

 

 と、洞窟の入口から視線を感じた。

 咄嗟に振り向けば、そこでは白髪の少女が侮蔑の視線で俺を眺めていた。

 

 しろは、ではない。

 たぶん鳴瀬のご先祖様だ。しろはより少し神々しい印象がある。

 

「洞窟に客人がいるって聞いたから来てみたけど・・・・・・」

「よ、よお」

「変態」

 

 白髪の少女はそっと目線を逸らして洞窟から離れようとした。

 

「いやいや、待ってくれ。男が上半身裸くらい良いだろ」

「女の子の家で上半身裸になっている身元不明は変態では?」

「うっ」

 

 確かに、ここを識の住処とするならば俺は普通に不審者だ。

 俺を弁護してくれるであろう識も今はここには居ない。

 

 とりあえず抵抗として服を着直す。

 

「夏にそんなモコモコした服・・・・・・やはり変態」

「どうしろってんだよ」

 

 よく見れば、鳴瀬の右手は細い網を握っていた。

 網に包まれているのは、一抱えのスイカ。

 

「それ、識への差し入れ?」

「・・・・・・まあ、そんなとこ」

 

 識の話題になって警戒を緩めたのか、白髪の少女は俺の隣にスイカを置いた。

 さすがに一緒に話す気はないらしく、すぐに出て行こうとする。

 

 別に引き留める気はなかったが、1人になった寂しさからか、つい声をかけてしまう。

 

「なあ」

「・・・・・・なに?」

「ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」

 

 さて、どう切り出したものかと考える。

 しかしどう工夫をこらしても不自然になる気がしたので、飾らずに言葉を作ることにした。

 

「識がこの島からいなくなったら、悲しいか?」

「それは今日の作戦が失敗するということ?」

「いや、俺と駆け落ちするってことだ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 なぜか痛い沈黙が場を支配する。

 けれど多少は考えてくれたのか、白髪の少女は細く声をひねりだす。

 

「まあ、恋愛のことはよく分かんないけど」

「おう」

「・・・・・・識が居なくなると、私は寂しい。とても悲しい」

「・・・・・・そうか」

「もしそれで識も辛い思いをしているなら、私はどんな手を使ってでも識を連れ戻す」

「どんな手を使ってでも?」

「予言の力を超悪用する。空門の力も悪用する。どんな事をしてでも男をぐえーって言わせてみせる」

「それは、とても怖いな」

 

 目から本気を感じられたので、笑い飛ばす気分にはなれなかった。

 けど、同時に安心感もあった。

 そんなことには必ずならないという確信があったからだ。

 

「識に辛い思いはさせないつもりだ。いや、絶対にさせない」

「そう」

 

 白の少女は目を瞑り、外からの光を背にほのかに微笑んでみせた。

 逆光のおかげか、今の彼女からは神秘さすら感じる。

 

「なら、良い」

 

 それだけを言い残して彼女は去って行った。

 洞窟の外から見える空が白んできている。 

 陽が傾いてきているのだ。

 

 作戦決行は、運命の分岐点は、もうすぐそこだ。

 

[12]

 

「見たまえ羽依里君! これが我が戦力だよ!!」

 

 小舟で連れて来られたのは、島の裏側にある入り江であった。

 確かに資材を隠しておくにはうってつけの場所だ。

 ここにも洞窟が見えるので島から地続きで来れるのかもしれないが、わざわざ来ようと思う物好きはいないだろう。

 

 ずらっと砂浜に並ぶのは無数の小舟。

 マストのように火の点いていない松明が備わっていた。

 

「これからこれらを海に浮かべ、水平線の彼方から向かってくるように演出するのさ」

「ずいぶんと手間をかけるんだな」

「これだけ手間をかけなきゃ、誰も僕を怖がってくれないのさ」

 

 ははは、と。

 暗い笑みを浮かべながら識が俯く。

 どうやら『可愛らしい鬼姫伝説』がまだ尾を引いているらしい。

 

「ちなみに、こんな多くの船をどうやって目的地に配列させるんだ?」

「多少は縄で繋いで連結させる。後は船乗りの勘だよ」

「勘って・・・・・・」

「まあまあ、君と過ごした夏が、ここで暮らした夏が、全て僕の力になっていることをお見せしようじゃないか」

 

[13]

 

「・・・・・・もうすっかり夜だな」

「ぎ、ギリギリで間に合ったよ」

 

 確かに操船は格段に上手くなっていたが、それでもやはりこれだけ多くの小舟を配置につけるのには時間がかかった。

 

 識曰く、「こんな暗かったら潮の流れが読めないじゃないか!」とのこと。

 未だ『うっかり鬼姫伝説』は健在のようだ。

 

 あぁ、そうだったな。

 本当に識といるんだという実感が今さらながらに舞い戻る。

 

 最後の仕上げとして、俺と識は船と船の間をジャンプしながら松明に火をつけていく。

 最初からつけていると海風で消えてしまうし、なにより配置の際に島民にバレてしまう。

 

 あくまでも、これは『海賊鬼姫』の物語なのだ。

 遠方から攻めてくる恐ろしい海賊を演出しなくてはならない。

 

「さて、と」

「まさか君と一緒に始めることになるとはね」

 

 中央の船に立ち、俺と識は手を結ぶ。

 

「にへへ、おむすびだ」

「あぁ、おむすびだ」

 

 それをもう一度出来たことに、言い様のない感動を覚える。

 ここに俺と識は確かに結ばれた。

 

 島に結ばれ、島で結ばれ、一度は離れたこの手だけれど。

 それでもまた、結ばれている。

 

 識は俺の顔を見ると、一度だけ強く微笑んだ。

 そしてもう片方の手に持った空の火縄銃を頭上へと向ける。

 

「さあ行くぞ羽依里くん!」

「あぁ、ド派手なのを一発かましてやれ!」

 

 パァアアアアン!!!という乾いた音が海に反響した。

 反撃の狼煙にふさわしい響きであった。

 

[14]

 

 島から遠く離れた海の上だが、島民が慌てているのがよく分かる。

 山の方へと明かりが練り歩き、ここからでも人の流れがよく見えた。

 

「鳴瀬や空門はきちんと島民を避難させているようだな」

「あぁ、作戦通りだ」

「・・・・・・良かったのか?」

「何がだい?」

「いや、誰にも挨拶しないで来たから」

「なんだ、そんなことか」

 

 識は未だに火縄銃で空砲を放ちつつ目を細めた。

 

「言葉なら、これまでに何度も交わしたから十分だ」

「それでも、死ぬ可能性だってあるんだぞ」

 

 もちろんそんな事にはさせない。

 だが心境として。もう『二度と会えないかもしれない辛さ』は、俺がよく知っている。

 

「それこそだよ、羽依里君」

「?」

「特別な挨拶なんかしたら、別れがもっと辛くなるじゃないか」

 

 だから、日常の会話で最後にした。

 日常の連鎖を途切れさせないために。

 また日常に帰るために。

 

「僕は最後まで死ぬつもりないよ、羽依里くん」

「俺だって、誰も死なせるつもりはない」

 

 空砲を撃ち終わった途端に、辺りが静けさで包まれた。

 島の方でも混乱が収まりつつあるらしい。

 

「よし、なら作戦通りに」

「全力で沖まで船をこぐぞ!!」

 

 松明の小舟を切り捨て、自らが乗っている船のみに全力をそそぐ。

 女の子1人よりも、俺が協力した方がはるかに早く船も進むはずだ。

 そこに助かる希望があるはずだ。

 

 そう思っていた矢先だった。

 

「・・・・・・おい、羽依里くん」

「・・・・・・」

「おい!!」

「っ分かってる!!」

 

 浜辺の方から、小さな泣き声が聞こえてきた。

 子供のものだ。目をこらすと、小さな影がうずくまっていた。

 

 たった1人の逃げ遅れ。

 それが全てを致命的にする。

 助けに行くか迷っている時間など、自然は考えてくれない。

 

 直後だった。

 島全体を揺るがすような不気味な振動が全身を襲う。

 

 巨大地震だ。

 

[15]

 

 たった1人を見捨てることは、きっと簡単じゃなかった。

 理屈とか効率とか、そんなものでは動いてないから。

 

 例え自分たちが助かって。

 島の大勢に感謝されたところで。

 慰霊碑に1人の犠牲者でも刻まれれば、それは失敗なのだ。

 

 なにより。

 誰よりも、識自身がそれを許さないだろう。

 

 だから。

 俺達は一直線に船を浜辺にまで進ませた。

 津波の予兆なのか潮が引き始めて難航したが、どうにか間に合うことには成功した。

 

「大丈夫だよ、僕は君を助けに来たんだ」

 

 識が女の子に話しかける。

 

「おい、このまま山に進めば俺たちも助かるんじゃ!」

「どうやら、そこまで甘い相手ではないみたいだよ」

 

 振り返ると、水平線が不気味に盛り上がっていた。

 遠近感が狂う。

 あんな波が押し寄せたら、命なんて小っぽけなものだ。

 

 小さな希望が摘み取られるのを、確かに感じた。

 意識が空白に染まりそうなのを必死に振り切り、次の手を考える。

 

 諦めるな。認めるな。

 足掻いて足掻いて足掻くんだ。

 

 だって、こんな奇跡はもう二度と起こらない。

 またここで識と別れたら、『もう一度』はきっとない。

 

 永久の別れは一度で十分だ。

 暗い気持ちを吹き飛ばすように、自分の名前を叫ぶ。

 

「鷹原羽依里!!」

「羽依里くん!!」

 

 振り向けば、識は一隻の小舟を押していた。

 俺たちが乗っていた船だ。潮が引いたことにより完全に浜辺に打ち上がっている。

 

「この船を海まで押すのを手伝ってくれないか!」

 

 見れば、船の中には先ほど助けた子供が乗せられていた。

 なるほど。可能性は高くないが、船に乗ってさえいれば津波を乗り切れるかもしれない。

 

 波はすぐそこまで来てる。

 決断はすぐに。

 

 俺は、すぐさま識の体を抱きかかえた。

 

「ちょ、何を!?」

「何でもかんでも自己犠牲で済まそうとしやがって!!」

 

 そのまま識を船の中に放り込む。

 

「俺はもう、お前が死ぬ姿だけは見たくないんだ!!」

 

 全力で船を押す。押す。押す。

 

「ぐおぉおおおおおお!!!!!」

 

 火事場の馬鹿力なのか、波が来るよりも早く船は海上へと辿り着いた。

 だけど。

 

「羽依里くんも早く!!」

 

 伸ばされた手を、掴むことは許されなかった。

 頭上から覆い被さった波が全身を叩く。

 回る回る、回される。

 

 かつて識が味わった苦しみを追体験する。

 想像以上の苦しさだった。

 そしてその苦痛を味わうたびに、最後に笑っていた識の死に顔が頭にちらつく。

 

 俺も、せめて笑っていないと。

 アイツを、安心させるために。

 

「・・・・・・そういえば、まだ褒め足りてなかったな」

 

 すげえよ。やっぱお前は。

 こんだけのことを、一度は一人でやり遂げただなんて。

 

 水の中で溺れているはずなのに、かつてのような恐怖はなかった。

 それは自分の行いに満足したからか。

 最後に識に名前を呼んでもらえたからか。

 

 そこまで考え、笑いがこぼれる。

 それは違うだろう。

 

 俺は神社にどんな誓いを立てた?

 俺は識を救って、もっとたくさん同じ時を過ごすんだ。

 

 妥協はしないと決めたはずだぞ。

 ここはまだ途中経過だろ。目標地点はさらに先だ。

 

 目の前を、小さなハマグリが流れる。

 大切な物だ。手放すわけにはいかない。

 最後の力を振り絞り、どこかに流されてしまう前に胸に抱き寄せる。

 

 何か、ハマグリの先に別の物体がからまっていた。

 これは。

 星だ。

 星型のアクセサリーだ。

 

 まだ持っていたのかと驚くと同時に、1つの言葉を思い出す。

 

「完全防水、だっけか」

 

 最後の抵抗にしては小さすぎた。

 だけど、迷いなくそのスイッチに指をかける。

 

 夜の海に、星の明かりが満ちた。

 

[16]

 

 そして、次に聞こえたのは泣き声だった。

 特徴のある泣き声だ。誰が泣いてるのかすぐに分かる。

 

「ぐ、うぐ、ぶえ」

「・・・・・・」

 

 目を開けば、平たい場所に寝かせられていた。

 背中の感触からするに砂浜だろう。

 

 識が俺の顔を覗き込んで涙をこらえている。

 俺の意識が戻ったことに気づいたのか、識の顔がわずかに穏やかになる。

 

「起きたのかい、羽依里くん」

「・・・・・・俺は死んだのか?」

「悪い冗談はよしてくれ。本当に死にかけていたんだから」

 

 ポロポロとこぼれる涙に、罪悪感を覚える。

 

「羽依里くんが持っていた星型のライトが、場所を教えてくれた」

「識が泳いで助けたのか?」

「さすがに船と体をロープで繋いだけどね。小舟を結んでたやつが残ってて良かったよ」

 

 なるほど。

 生きてるというのが、ここまで奇妙に思うのは初めてだ。

 だけど。徐々に。

 確かに胸が高鳴っていくのを感じた。

 

 そうだ。終わったんだ。乗り越えたんだ。

 だって、だって、だって。

 

「識、生きてるんだな」

「ここで死ぬほど、空気の読めない女じゃないぜ」

「あの子供は?」

「今は山の方で家族と合流しているだろうさ」

「そうか」

「そうだ」

 

「終わったんだな」

「まだだよ」

 

 言葉と同時に、識は俺の額を強く叩いた。

 

「説教がまだだ。僕は怒っているんだ」

「えぇ・・・・・・何でだよ」

「散々一緒に生きようとか死ぬ運命を変えに来たみたいに振る舞っておきながら、自分から死のうとするなんて卑怯にも程があるだろ!」

 

 それはまあ、返す言葉もない。

 けれど最後まで生きようと努力したのだから許して欲しい。

 

「君が死んでしまったら、僕が生きてる意味がないじゃないか」

「逆だ。お前が死んだら、たぶん俺も死ぬ。寂しさとかで」

「・・・・・・それは少しばかり愛が重いぜ」

「あぁ、激重だ。重すぎて時間まで飛び越えるほどだ」

「それは凄まじいね」

「あぁ、凄まじい」

 

 だから。と言葉を区切り、識の頭に手を置いた。

 

「これからも、俺と一緒にいてくれ」

 

 驚かれることはなかった。

 ずっと用意していた答えを呟くように、識はいつもの柔らかい笑顔で言葉を返した。

 

「あぁ、もちろんさ」

 

 頭に置いた手を両手で握られる。

 

「これもおむすびか?」

「これがおむすびじゃなくて、何だって言うのさ」

 

 水平線の向こうが白く輝く。

 どうやら朝日が昇ろうとしているらしい。

 昨日という運命を乗り越えた証だ。

 

 この眩しさを、俺はきっと二度と忘れないだろう。

 

[17]

 

「というわけで、俺たち駆け落ちします」

「・・・・・・どすこい」

 

 いち早く浜辺へと帰って来た鳴瀬と空門に最後の挨拶。

 のはずが、なぜか軽蔑されてしまった。

 

「でも駆け落ちって言っても、具体的にどうするわけよ?」

「俺が元の時代に戻れない以上、この時代で生きていくわけだが・・・・・・、まあ何とかなるだろ」

「びっくりするぐらいに楽観的ね。この島で暮らしていけば良くない?」

「おいおい、僕は『海賊鬼姫』だぜ。今さらこの島では生きていけないよ」

「そんなもん、私達が正しい情報を伝えていけば」

「それだと、また鳴瀬の評判が悪くなる恐れがあるだろう? ただでさえ予言で避けられているのに、今度は嘘つきの片棒だ。『海賊鬼姫』こと僕は天罰で死んだって事にした方が物語としても締まりが良いと思うぜ」

 

 それは少し胸の痛む決断だった。

 俺だって、識の誤解はきちんと解いておきたい。

 識が愛した島の人々に嫌われ続けるなんて絶対に嫌だ。

 それは他の二人にしても同じなようで。

 

「ま、アンタが何と言おうが、私は真実を言い広めるから」

「・・・・・・私も、友達の悪い噂は無視できない」

「おいおい、困るなー」

 

 言いながらも識は笑顔であった。

 しかしこうなってくると、この島で暮らすのもアリになってくるわけだが。

 そこで動いたのは空門であった。

 

 俺の顔を間近で凝視する。

 

「ふぅーん。アンタ、本当に未来から来たのよね」

「そうだけど」

 

 口を閉じ、束の間の沈黙が生まれる。

 空門は俺と識を交互に見た後、再び何かを試すように問いかけた。

 

「識は、この時代と未来の時代、どっちで生きたい?」

 

 それは奇妙な質問であった。

 だって、それではまるで選べば未来に帰れるみたいに聞こえる。

 対して、識は純粋に困ったような表情を浮かべる。

 

「確かに、君達と別れるのは心苦しいよ」

「気を遣わないで良いわよ」

「別に気を遣ってるわけじゃない。ただ、この島の人間のことが僕は大好きなんだ」

 

 それは、命を賭けるほどに。

 俺だって識のためなら命を賭けられるが、それとこれとは別の話だ。

 この時代が良いと彼女が言うのなら、俺はこの時代で生きていくことを受け入れる。

 そう決心した矢先のこと。

 

「でも、150年後の島だって大好きなんだ」

「・・・・・・そう」

「僕はどこだろうと大丈夫。サバイバル能力だって高いし、生きていける自信も、まあ、食料さえどうにかなれば」

「不安すぎる意見だな」

「だけど、羽依里くんはそうじゃないだろう?」

 

 識が強く俺の手を握った。

 

「僕ばかりに決めさせるのフェアじゃないぜ。羽依里くんの意見を僕は聞きたい」

「俺は」

 

 考える。この島で生きていくこと。元の時代に戻ること。どっちが俺は幸せなのか。たぶん、どっちも幸せなのだろう。だって識がいるのだから。

 

 でも。

 鳥白島の皆が、家族が、水泳部の皆が、頭から離れない。

 情けないほどに未練を抱いていることを自覚する。

 悩む俺の顔を見て、識は何かを決心したように表情を変えた。

 

「時代を越えた恋の難しいところだね」

「そうだな」

「諦めて各々の時代で生きるかい?」

「まさか」

「即答だね」

「当たり前だ。識は別々の時代で生きたいのか?」

「まさかだよ」

 

 識は最後に空門に向かって答えをだした。

 何かに挑むように、宣言する。

 

「つまりそういうことだ。時代を越えた恋が難しいなんてルールは、僕たちの道を邪魔する要因になんかならない。そこで足踏みをするくらいなら、僕は大きく踏み出そう。未来の世界に!!」

 

 その答えを聞き、空門と鳴瀬は呆れたような笑顔を浮かべた。

 

「本当にいいのか?」

「あぁ、君は僕のために遙か過去まで来てくれたんだ。僕にもこれくらい背負わせてくれ」

 

 それ以上の言葉は蛇足だと思った。

 空門が俺たちの前にゆっくりと近づく。

 雰囲気がいつもより重くなっていた。

 

「答えは聞いたわ。なら、可能性に賭けるとしましょうか」

「可能性?」

「時代を越える鍵は『縁』『迷い』など様々あるけど、一番効果的なのは『強い想い』よ」

 

 と、途端に不気味な笑みを浮かべる空門が俺たちの肩に手を当てた。

 

「元から未来にいたこの男を媒介にすれば、たぶん元の時代に戻るのはそう難しくない。問題なのは、『迷い橘』の神域の奥に至る方法なんだけど」

 

 そのままの勢いで俺と識を海の中に突き飛ばす。

 

「えっ」

「ぶえ」

 

 ざぶん!! と顔面に潮の味が充満する。

 ジタバタしようとするも、なぜか足が動かない!!

 

「ちょっとこいつらの両足縛って」

「めんどくさいし」

 

 鬼かこいつら!!

 何がなんだか分からない内に海水を飲んでしまう。

 

「結局、『逃げたい』って想いが一番の『強い想い』なのよね。さあ私達の手から逃げようと足掻きなさい。まあ可能性は低いから普通に死ぬかもしれないけど!」

 

 まさかのS属性をもっていた空門のご先祖。

 目を開けば、なぜか俺と識の持っているハマグリが共鳴するように輝きを発していた。

 

 まじか。

 こんな民間医療みたな雑な方法で良かったのかよ。

 さすが空門のご先祖、色々と知恵袋が凄い。

 

 やがて光は大きくなり、全身が光の奔流へと包まれた。

 最後に。

 

「ま、幸せに生きなさい」

「150年前から、祈ってる」

 

 祝福の言葉が耳をくすぐった。

 

[18]

 

 目を覚まして最初に飛び込んできたのは、蒼の間抜けな表情だった。

 

「いきなり消えたかと思えば知らない女の子を連れて再び現れたことについて説明して欲しいんですけど?」

「・・・・・・お前はドSの方か? ドエロの方か?」

「何その二択・・・・・・っていうかどっちでもないわよ!」

 

 辺りを見渡すと、夜の鳥白島だった。

 より正確に言うならば山の開けた場所にある空門の神域。

 

 迷い橘に寄りかかるように、識は俺の顔を見つめていた。

 お互いに何て声をかけるのか悩んでいる感じだ。

 

 だから。

 まあ。

 ここは飾らずに挨拶から入るとしよう。

 

「おかえり」

「あぁ。ただいまだぜ羽依里くん」

 

 言って、思わず笑顔がこぼれる。

 きっとこれからも多くの問題が待ち受けているのだろうけれど。

 

 ひとまず、成し遂げた。

 再開できた。

 

 だから俺たちは高らかに笑い合った。

 これまでの数ヶ月分を取り戻すように。

 

「えー・・・・・・私もいるんですけどー」

 

 ただ一人、蒼だけが泣きそうな顔をしていた。

 

[19]

 

 そして150年前では。

 取り残された二人の少女が顔を見合わせていた。

 

「なんか、落ち着いたらちょっとムカついてきたわね」

「・・・・・・同感」

「識のやつ、私達よりあんな男を選びやがって!」

「本当、理解に苦しむ」

 

 言葉こそ荒々しいが、二人の表情は清々しいまでに穏やかであった。

 やがて海に背を向け、これからの目標を定める。

 

「さーて、『海賊鬼姫』の上書きを始めましょうか」

「時間はかかるだろうね」

「ま、そうかもね。けど私達のやることは変わらない。ありのままの識について語り継ぎましょう。うっかり屋で泣き虫で可愛らしお馬鹿さんな部分も含めて、全部」

「賛成」

 

 こうして。

 二人だけの小っぽけな復讐が幕を開けた。

 ちゃんと後世にまで語り継がれるように、用意周到に。

 

[20]

 

 元の時代に戻り、一週間が経った。

 今日はクリスマス・イヴ。

 気のせいか、島の皆がいつもより元気に感じる。

 

 だけれど、そんな活気も届かない島の片隅に俺と識は立っていた。

 

「無くなってるね」

「そうだな」

 

 慰霊碑があった場所を見つめて、俺と識は肩の力を抜く。

 あった物がなくなっている、欠けた風景。

 

 それが今は、なによりも嬉しかった。

 

 心から込み上げてくるこの感覚は何だろう。

 島民を全滅させるほどの脅威を犠牲者ゼロで終わらせた達成感か。

 また識とこの場所に来きたことで、夏の記憶と重ねているのか。

 

 どちらでも良い。何でも良い。

 とにかく、今は一分一秒が楽しい。

 

「そういえば、『海賊鬼姫』って最後は生きてることになってるのかい?」

「さぁ、俺は知らないな」

 

 嘘だ。

 この時代に帰って来てから一応『鳥白山海文書』を読んだが、そこでは『海賊鬼姫』の事がとても面白おかしく書かれてあった。もはやギャグ小説だった。けれど史実というのだから、あれは全て識の黒歴史というやつなのだろう。

 

 そんなものが後世まで語り継がれているなんて、・・・・・・まぁちょっとは言ってみたい気もするが、今のところは黙っておこう。大人の対応というやつだ。

 

「どうしたんだい羽依里くん?」

 

 『鳥白山海文書』で最後に『鬼姫』が出てきた記述を思い出す。

 

 ―そして島民を救った鬼姫は、奇妙な男と共に島を去った。

 

 そして、今は俺の隣に確かにいる。

 

「いや、なんでもないさ」

 

 ぐいっと識の手を引っ張り、その場を離れる。

 誰も知らない、俺と識だけにとっての特別な場所から。

 

「さあ今日はクリスマス会だ! 全力で楽しむぞ!」

「望むところさ!」

 

 夏の眩しさを、秋の寂しさを、冬の激しさを。

 全て抱えて、俺は前へと進む。

 二人で進む。

 




識ルートが終わった勢いのまま、ほぼ一日で書いてしまったので駄文が目立つかもしれまん。最後まで読んでくれた人には本当に感謝です!

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