【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る 作:延暦寺
――下弦の肆である零余子ちゃんを討伐してから数日後。
しばらくは無惨からの報復や上弦の来襲に密かに怯えていたのだが、そのどれもが杞憂に終わった。
零余子ちゃんを倒したことで自信の付いた俺はその後も鍛錬と鬼狩りを続けた。
その間も、不死川兄が柱になり、100億の男である煉獄さんやイグッティなども加入し段々と原作のメンバーへと近づいていった。
特に十二鬼月と遭遇することもなく平和(?)に鬼殺隊での日々は過ぎていく。
そんなある日の早朝。
俺は、少し離れたところから双眼鏡でとある場所を覗いていた。
そこには数名の子供達が居り、見知った顔がいくつかあった。
「あぁ……ついに来てしまったか……」
俺は双眼鏡で覗きながら、溜息を吐く。
優しさの化身、長男の鑑である我らが主人公、竈門 炭治郎だ。
彼がこの入隊試験の最終日に居るという事は……原作が本格的に始まった事を意味する。
それと同時に最大級の死亡フラグが足音を立てて近づいてきているという事になる。
「うぅ、やだなぁ……」
これから必ず来るであろう蜘蛛山の決戦に、俺は既にモチベーションが下がりまくっている。
柱を引退しようかとも思い、お館様にそれとなーく話を振ってみたりもしたが、あのめちゃくちゃいい声でまんまと丸め込まれてしまい、ずるずると柱を続けていた。
そうそう、柱の現在のメンバーだが、俺が加入したことにより少しだけ原作と差異がある。
それは、しのぶが柱入りしていないという事。
元々、しのぶはカナエさんが亡くなった事で彼女の代わりになろうと非力ながらも柱入りしていたのだが、柱を引退したとはいえカナエさんが生存しているので死に物狂いで柱になる理由はしのぶにはなかった。
しのぶ自身も柱になるつもりはないと言っていて、彼女の希望もあり俺の補助役になっている。
俺の住居も蝶屋敷だ。
一応、俺にも自分の家があるっちゃあるのだが、元々カナエさんの場所を引き継いでいるので、そのまま一緒に住んだ方が都合がいいというわけだ。
まぁ、一緒に住んでいるからと言って別に風呂を覗いたりなどのラッキースケベがあるわけでもない。
基本的に鬼狩りで忙しいし、人の出入りも激しいので甘酸っぱい雰囲気になりすらしなかった。
ちくしょうめぃ!
もし生き残れて平和になったら、美人な嫁さんも捕まえたいものだ。
「えーと、あとの合格者は……あぁ、やっぱカナヲちゃんも受かってるか」
双眼鏡で他も見渡せば涼しい顔してぽつねんと立っているカナヲちゃんが居た。
基本的に意思表示をしないので彼女の考えが分かりにくいが、確か原作ではしのぶの役に立ちたいとかそんな感じだったりする。
見た感じ汚れらしい汚れもなく無傷なようで、これだから天才はと軽く妬んだりしなくもない。
「ん?」
合格者達を眺めていると何やら騒がしくなっている。
顔に大きな傷のあるモヒカンの少年……あれは不死川弟か。
何やらギャーギャーわめいているようだった。
今にも暴れだしそうな雰囲気を醸し出していたが、炭治郎がすぐに割って入り事なきを得たようだった。
今はまだ炭治郎と面識を持つわけにはいかないので、少しだけホッとする。
もし彼と会ってしまったら、累と対峙する前に俺が柱だとわかってしまう。
何があるか分からないので、できれば原作通り蜘蛛山で初対面となりたい。
その後、俺も経験したことのあるやり取りが終わり合格者は解散となったので、俺もその場を後にした。
☆
「たーだいま」
「おかえりなさい、どこに行ってたのよ?」
蝶屋敷に帰ってくると、しのぶが怪訝そうな顔をしながら出迎えてくれる。
この4年の間に、しのぶも俺の前で普通に素で話すようになっていた。
原作ではだいぶ無理をしていたようだが、今は自然体で過ごせているようなので本当に良かった。
「いや、今日って入隊試験の最終日だったろ? ちょっと合格者の顔ぶれを見たくてね」
これは別に嘘ではない。
そろそろ原作開始かなぁ? っと思ったので炭治郎が居るかどうか確認をしたかったのだ。
まぁ、その結果死が近づいてきてると実感してげんなりしてるけどな。
「そうそう、カナヲちゃんも受かってたぞ。見た感じ汚れや怪我もなくて流石は天才児って感じだったね」
「……それ、賽が言うの?」
いや、俺の場合はガン逃げ一択だっただけだし。
「はぁ……ま、いいわ。とりあえずカナヲが帰ってきたらお祝いをしましょう。……私としては、カナヲには鬼殺隊に入ってほしくなかったけどね」
その気持ちも分からなくもない。
カナヲはとにかく自分の気持ちを表に出さないので、しのぶ達も知らなくて当然だが、カナヲなりに役に立ちたいという気持ちの表れなので無下にできない。
それに、来る童磨戦ではキーマン(ウーマン?)になるから、俺としては彼女には是非とも鬼殺隊に入ってもらいたかったのだ。
現在のしのぶは、カナエさんの引退するきっかけをつくった童磨は憎い対象ではあるが、自分の身を犠牲にしてでもというほどには切羽詰まっていない。
俺としても、長いこと暮らしているのでカナエさんもしのぶも……カナヲちゃんも死なせたくない。
となると、しのぶの毒特攻は使えないため、少しでも童磨を倒すための戦力が欲しいのでカナヲちゃんは外せないというわけだ。
……女の子を頼らなければいけないのは男として、柱として恥ずかしいとは思うが、そんな綺麗ごとで上弦を倒せるほど甘くはない。
……まぁ、まずは俺が蜘蛛山の決戦で生き残れるかどうかなんだけどな。
あー、引退してぇなぁ!
いよいよ原作開始となります。
死亡フラグが近づいてくる(´・ω・`)