【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る 作:延暦寺
サイコロステーキ先輩の累戦のムーブにかなり悩み、少々無理があると思われるかもしれませんが私の執筆力の限界の為、何卒ご了承くださいませ。
「よく頑張って戻ってきたね」
息も絶え絶えな鴉を介抱しながらお館様が優しく声をかける。
その後も何やらぶつぶつと話すお館様を俺と隣に座っている冨岡さんは黙って眺めている。
どうして俺達がここに居るのか?
それは、何やら大事な話があるとかで呼ばれたからだ。
原作が始まった今、このタイミングで同じ柱である冨岡さんと一緒に呼ばれるなんてのは嫌な予感しかしない。
「柱を……行かせなくてはならないようだ。賽、義勇。那田蜘蛛山へ行ってくれるかい?」
「……腹痛なので辞退とかできないっすかね」
「無理な話だ。鬼が人を喰らう限りは柱に休みはない」
俺のささやかな訴えは冨岡さんにあっさりと否定される。
ちくしょう、もしかしたら累の所に行かなくて済むかなとか思ったがそう甘くないらしい。
まぁ、本来はしのぶが柱の所を代わりに俺がなっているのだから想像できたことではあるが。
……あれ? 俺、このまま原作しのぶの死に方までトレースしないよな?
「賽、最強の柱として君には期待しているんだよ。行ってくれるね?」
言い方は柔らかいが、お館様の言葉からは無言の圧力を感じる。
てめぇ、柱の癖に敵前逃亡とかせんよなぁ? という言葉が聞こえてきそうだった。
「……御意」
長い沈黙の後、俺は権力に屈し命令を承るのだった。
☆
それから少し後、俺と義勇……ついでにしのぶは那田蜘蛛山へと向かっていた。
何故しのぶを連れていくかというと、これは俺のたっての希望である。
彼女は毒や薬のエキスパートであるため、兄蜘蛛の毒対策で必須だからだ。
ついでに姉蜘蛛の相手もしてほしいし、人手は多いに越したことはない。
「はぁ……」
「ねぇ、賽。それ、何回目の溜息なのよ。柱なんだからもっとシャキッとしなさいシャキッと」
那田蜘蛛山に近づく度に憂鬱になっている俺に対し、しのぶは並走しながらたしなめてくる。
そうは言っても不安なものは不安なのだから仕方ない。
累よりも位の高い零余子たんを倒した俺がなぜこうも不安なのか?
それは、運命の修正力を恐れているのだ。
とある作品にて、ヒロインの死が確定しており主人公がその運命を回避する為にありとあらゆるルートを通るが結局ヒロインは死んでしまう、というものがある。
俺も死亡フラグを乗り越えようと様々な努力をし、原作とは違うルートを通りはしたが何らかの要因により結局サイコロステーキになってしまうのではないかと不安で仕方がないのだ。
柱の癖にオドオドし過ぎだとか、何とか言われるかもしれないが確実に勝てるという保証がない以上は、実際の結果が出るまで安心はできない。
そうこうしているうちに、俺達はついに那田蜘蛛山に辿り着いてしまう。
その後は、予め打ち合わせしていた通り、散開して山の中へと入っていく。
できれば累に遭遇しないようにと祈りながら、俺は母蜘蛛に操られているであろう隊士を助けたり、繭にくるまっている隊士を助けたりしつつ進んでいく。
うーん、分かってはいたが平隊士はほぼ全滅だ。
原作でも思ったが、柱と平隊士の実力差がえげつなさ過ぎる。
マジで俺、よく柱になれたな。
山を進んでいくと少しばかり開けた場所が見えてくる。
ワンチャン母蜘蛛かとも思ったが、やはりというかなんというか累であった。
そして傍らには炭治郎と禰豆子ちゃ……あれ? 禰豆子ちゃん、累の糸で逆さ釣りにされてない?
むき出しの足がセクシー……じゃなくて! サイコロステーキ先輩が出るのって、こんな場面だったか?
もうほとんど細かいところを忘れてしまっているが、少なくともこれよりも前の場面で現れてサイコロステーキになっていた気がする。
この後、なんやかんやで冨岡さんが現れて累に凪ってケッチャコだったはずだ。
累の糸によってきつく縛られているのか、禰豆子ちゃんの体からは血が滴り落ちていて痛ましい。
もう少しの辛抱だ。俺がここで待機していれば冨岡さんが現れるはずだ。
――本当に?
本当に彼は来てくれるのだろうか。
あくまで大元の流れは一緒というだけで、冨岡さんが現れる保証はどこにもない。
世界の修正力云々だって、臆病な俺が勝手に言っているだけだ。
そもそも、カナエさんが生きていたり、俺が柱になったり原作改変もいいところである。
もしかしたら、このまま冨岡さんは来ず炭治郎くん達もやられてしまうかもしれない。
だが、累の前に出ればサイコロステーキになるかもしれない。
どうする……。
「……っ」
禰豆子ちゃんを見ながらそんな風に悩んでいると、不意に彼女と目が合った。
――この時ほど、カナエさんの時から何も成長していないなと思った事はない。
あぁ、俺は大馬鹿野郎だ。
気づけば俺は茂みの中から飛び出しており、刀を射出させると禰豆子ちゃんを縛っていた糸を全て切り払い、落下してきた禰豆子ちゃんをそのまま抱き留める。
「誰だ」
禰豆子ちゃんにもう大丈夫だと微笑んでいると、累がいら立ちを隠そうともせずに話しかける。
落ち着け俺! 俺は柱だ、大丈夫出来る出来る出来る!
長男じゃないけどいけるはずだ、勇気を出せ!
今だけ俺に憑依してくれサイコロステーキ先輩!
「おぉ、なんだと思ったら丁度いいくらいの鬼がいるじゃねぇか」
禰豆子ちゃんを地面におろすと、俺は振り返りながら口を開く。
「こんなガキの鬼なら俺でも殺れるぜ。そこのお前は(死んじゃうと困るから)ひっこんでろ」
炭治郎を安心させるため、俺は精一杯の虚勢をはりながら、刀に手をかける。
俺の様子に累は少しばかり興味を失ったように見える。
先ほど、禰豆子ちゃんを助けたシーンは見ていなかったようで、今の言動からただのイキリモブだと判断したようだ。
……っていうか、何だな。
いざ対峙すると何やらムカムカと怒りがこみあげてくる。
そもそもこいつが居なければ、俺は死の恐怖に怯えることもなかったし、柱なんかになって激務に追われることもなかった。
今まで必要以上にビビってたのが馬鹿らしくなってくる。
「俺はな、安全に出世したかったんだよ。出世すりゃあお館様から支給される金も多くなるからな」
でもな、お前のせいで柱だよ柱。
死亡フラグ最前線だよ、責任取れよ馬鹿野郎。
「(この山に入った平隊士達の)隊はほぼ全滅だし、(どうせ俺達柱が何とかしないといけないだろうから)とりあえず、さっさとお前を倒して(みんなで)下山させてもらう」
俺はそう言うと、そのまま累に向かって走り出す。
炭治郎くんが何やら叫んだと同時に累の手が動き、俺をサイコロステーキに……することはなかった。
『影の呼吸・伍ノ型 蜃気楼』
それは、まるで蜃気楼のように揺らめき相手の攻撃を紙一重で避ける技である。
「な……っ」
まさか避けられると思っていなかったのだろう。
自分の攻撃をあっさりと避けられた累は驚きの表情を浮かべるが、すぐに気を取り直すと両手を前に突き出し、糸をギュルギュルと集めていく。
おそらくは彼の血鬼術だろう。
あれをまともに喰らったら即死間違いなしだ。
『影の呼吸・拾ノ型 刹那』
生き物は、思考してから動き出すまでにラグがある。
俺のこの技はそのラグを見極め、一瞬で頸を刈り取る技だ。
透き通る世界を併用して初めて使える技ではあるが、多用は出来ない切り札だ。
無惨が見ている可能性がある為、手の内を知られないようにこうして一瞬でケリをつける必要がある。
「あ……」
そして、頸を斬られたという自覚が無いまま累の体はボロボロと崩れ去っていく。
その姿を最後まで見届けると、俺は密かに安堵の息を漏らす。
――こうして、ようやく俺を長い間苦しめてきた死亡フラグは折れるのだった。
こんなのもうサイコロステーキ先輩じゃないわ!