【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る 作:延暦寺
サイコロステーキ先輩の名前大喜利は笑いました。
ボロボロと崩れ去った累に合掌し冥福を祈った後、俺は歓喜に打ち震えていた。
長年自分を苦しめていた最大級の死亡フラグをぶち折ったのだから当然である。
この日の為に俺はありとあらゆる努力をし、血反吐を吐くまで自分の体を鍛えぬいてきたのだ。
もう、何も怖くないと言わんばかりの万能感に満ち溢れている。
「あの……」
俺が喜びを噛みしめていると、炭治郎くんが声をかけてくる。
おっといけない。喜びのあまり、彼らを忘れていた。
見れば炭治郎くんも禰豆子ちゃんもボロボロである。
鬼である禰豆子ちゃんはいずれ回復はするだろうが、未だ治る気配はない。
ふむ……。
俺は少し思案すると、禰豆子ちゃんの下へ近づいていく。
「ね、禰豆子は違うんです! いや、鬼なんですけど……その、妹なんです! 俺の妹でその……」
何を勘違いしたのか、炭治郎くんは慌てた様子で禰豆子ちゃんを庇うように立ちふさがり、しどろもどろにそう叫ぶ。
なら、苦しまないように優しく殺してあげよう、とか洒落にならない冗談をふと思いついてしまったが、これを言ってしまったら流石に人として終わっているので心のうちにしまっておく。
「安心しな、悪いようにはしないさ」
先ほどの小者口調がまだ尾を引いているのか、ついぶっきらぼうな口調でそう言いながらボロボロの炭治郎くんを押しのける。
そんなやり取りをしていても、禰豆子ちゃんはスヤスヤと眠っている。
確か……禰豆子ちゃんは怪我を治すために睡眠を取るんだったかな?
そうこうしている内に、禰豆子ちゃんの怪我はどんどん治っていく。
が、あとどれくらいで完治して目が覚めるかもわからないし、こんな山の中にいつまでも放っておくわけにもいかないので彼女を背負って山を下りることにする。
炭治郎くんは、悪いが自分の足で下山してもらおう。
なーに、長男だから行ける行ける。
……はて? なーんか、忘れているような気がするな。
何やらこの後、結構重要なイベントがあったような気がするが思い出せない。
ぶっちゃけてしまうと、俺はこの世に生を受けてから累との戦いを乗り越える事ばかりに注視し過ぎたせいでその後の展開をほとんど覚えていない。
何せ、生まれ変わってから17、8年経ってるのだ。忘れたとしても不思議ではない。
むしろ、累と戦うまでの事を覚えてただけでも凄いのではなかろうか。
そんな事を考えていると、こちらへ近づいてくる2つの気配。
一瞬、鬼の残党かとも思ったが、すぐにしのぶと冨岡さんだと分かる。
2人はこちらへまっすぐ近づいてくるので声をかけようとするが……。
「っ‼」
ガキュイィン! と激しい金属音が響く。
しのぶと冨岡さんは、なぜか刀を構え禰豆子ちゃんへ斬りかかろうとしていたので、俺は禰豆子ちゃんを抱きしめて庇いつつ、日輪刀をすかさず蛇腹モードに切り替え、2人の刀を弾き飛ばす。
それと同時に思い出す。
累戦を終えた後に控えている柱合裁判のことを。
人を喰わないとはいえ鬼である禰豆子ちゃんをどうするかで一悶着あったはずだ。
いわば、これはその前振りのイベントだ。
くそ、割かし重要なイベントなはずなのにすっかり忘れていた……っ。
っていうか、しのぶはともかく冨岡さんは関係者なんだから斬りかかってくるなよくそが!
「賽? 何で邪魔をするのかな? かな? その子は鬼なんだけど?」
しのぶは、一見柔和な笑みを浮かべながらそう問いかけてくる。
いや、怖い怖い! しのぶの体から放たれるオーラが怒気をはらんでいるので今にもちびりそうである。
冨岡さんの方は黙して語らずだが、炭治郎くんと禰豆子ちゃんを見て何やら思案しているようだった。
冨岡さんの方は良いとして、問題はしのぶである。
禰豆子ちゃんが無害だというのは知っているが、それを証明する術がないし、何でそれを知っているかの説明もできない。
俺が一方的に知っているだけで実質初対面なので、説得力も何もあったもんじゃない。
それに、少しでも対応を間違えれば隊律違反で「死刑!」となるかもしれない。
鬼殺隊の柱達は鬼絶対殺すマンばかりなので、ありえないとも言い切れないのが怖い。
「いや、えーとね、なんと言ったものか……ほら、この子! この子の妹らしいんだよね! ――名前なんだっけ?」
「え? あ、か、竈門 炭治郎って言います」
「そう、炭治郎くん! なんだか彼の様子がただ事じゃない感じだし、鬼ではあるけど暴れる雰囲気でもないから、すぐ殺すんじゃなくて事情を訊いた方がいいと思ってね! ほら、カナエさんも鬼と仲良くしたいって言ってるし、可能性があるならさ! ね?」
とりあえず、炭治郎くんとカナエさんをダシにして説得を試みることにする。
俺の秘技、なすりつけである。
「……そこで姉さんを出してくるのは反則よ」
どうやらカナエさんの名前が効いたようで、ひとまず話を聞く気になったのか刀を納めるしのぶ。
……ふぃー、一時はどうなる事かと思ったがとりあえず修羅場は乗り切ったようだ。
俺に抱きしめられている禰豆子ちゃんは状況を理解していないのか、無邪気に「むー?」と首を傾げている。
くそう、可愛いな。
愛玩動物的な意味で純粋に愛でたくなる可愛らしさだ。
俺自身が落ち着くためにも禰豆子ちゃんの頭をなで繰り回すと、ムフーと満足げな表情を浮かべている。
お持ち帰りしていい?
「賽ったら、あんな小さい子が好みなの……? どうりで私と姉さんに……」
俺が禰豆子ちゃんを愛でていると、先ほどとはまた違った雰囲気を放つしのぶが何やらブツブツと呟いている。
ちなみに、コミュ障の冨岡さんは端っこの方でボーっとしていた。
いや、なんか喋れや。場に混ざってきなさいよ、あんた今回の中心人物でしょうが。
「伝令! 伝令! カアァァァ!」
俺が内心、冨岡さんにツッコミを入れていると鎹鴉が叫びながらこちらへと飛んできた。
「炭治郎、禰豆子両名ヲ拘束。本部ヘ連レ帰ルベシ‼」
その言葉にしのぶと冨岡さんがこちらを見る。
いや、正確には俺の腕の中で目を細めている禰豆子ちゃんとその奥に居る炭治郎くんを、だ。
「……あー、炭治郎くん」
「は、はい」
「悪いけど、おとなしくついてきてもらうよ」
俺の言葉に炭治郎くんはこくりと頷いた。
さてさてさーて、累という修羅場を抜けたと思ったら、また修羅場だ。
――無事に切り抜けられると良いなぁ。
俺はそんな事を考えながら、しのぶ達と共に炭治郎くんと禰豆子ちゃんを連れて本部へと向かうのだった。
大正コソコソ噂話
主人公である賽は事あるごとに柱を引退しようとしてるけどい、その度に産屋敷耀哉が職権乱y……あの手この手で引き留めているよ!
賽を相手にするとSっ気が刺激されて少しだけいじわるになるらしい。