【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る 作:延暦寺
炭治郎曰く、賽はほぼ無臭で底が知れないって言っていたよ!
「竈門炭治郎、同行感謝する。ここは鬼殺隊の本部で、君は今から裁判を受ける事になる」
薬によって眠らされていた炭治郎君が目を覚ますと、俺はそう告げる。
本部の場所を知られたくないために彼を眠らせていたのだ。
んで、なんで俺が説明しているかというと――。
「裁判の必要などないだろう! 鬼を庇うなど明らかな隊律違反! 我らのみで対処可能! 鬼もろとも斬首する!」
「ならば俺が派手に頸を斬ってやろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやるぜ。もう派手派手だ」
「あぁ……なんというみすぼらしい子供だ。可哀想に……生まれて来たこと自体が可哀想だ」
と、上から煉獄さん、派手柱、行冥さんである。
蜜璃ちゃんは顔を赤らめながらポーっと炭治郎くんを眺めており、関係者であるはずの冨岡さんは沈黙。
無っくんはお空を眺めてる。
しのぶは、この世界では柱ではないので出席はしていない。
――とまぁ、こんな感じなので消去法で俺が説明しなければならないのだ。
うーん、何だか胃が痛くなってきたぞぉ。出来る事なら今すぐに帰りたい。
ちなみに、なんで彼に対してタメ口かというと柱っぽく威厳あるように見せかけたかったからだ。
俺が素を出すのは基本的に蝶屋敷だけで、外では一応柱としての体裁もあるので柱モードを維持していてこういう口調になっている。
他の柱に舐められたらやってけないからね。
「その小僧の事もそうだが、栖笛はどうするのかね」
俺が痛くなってきた胃を押さえているとネチっとしたいやらしい声が頭上から聞こえてくる。
蛇柱のイグッティだ。
「拘束をしないどころか、普通に中心になって話を進めようとしている様に俺は頭痛がしてくるんだが。聞いた話によると隊律違反は栖笛も同じだろう。俺は前から気に入らなかったんだ。柱の癖にやる気が感じられずお館様への忠義も薄い。さぁ、どう処分する。どう責任を取らせる」
相変わらずのネチネチした言い方で長々と責めたててくるイグッティ。
もはやおぼろげな原作では確か冨岡さんが責められていたはずだが、矛先が俺になっている。
おそらく、俺が炭治郎くんと禰豆子ちゃんを庇ったせいで変化が生じているのだろう。
おかげで冨岡さんが益々蚊帳の外だ。
「俺のことは後回しでいいだろ。まずは彼から話を聞いてからでも遅くない。なにせ、お館様が直々に生け捕りにしろと命令してきたんだからな。それともイグッティ。君はそんなお館様の意向を無視する気か?」
「……イグッティと呼ぶなと言っているだろう。本当に腹の立つ奴だ」
ぐちぐちと不満げではあるが、お館様の名を出されると反論できないらしく恨みがましい目でこちらを見ながらも押し黙る。
何故か知らないが、俺ってイグッティに嫌われてる気がするんだよね。
イグッティが柱になった直後はそんなでもなかったんだけど、ある時期から殺意というか怨念というかそういうネチっとしたものを向けられるようになった。
もっとも、俺の方が古株という事もありこういう機会でもないと普段は表立ってつっかかってきたりはしないが。
「ほら、少年。とりあえず話してみてくれ。事情を説明しないと周りの怖いおじさんたちが君と妹を殺してしまうぞ」
俺は、しのぶから預かっていた鎮痛薬入りの水を飲ませながら炭治郎くんに話すよう促す。
炭治郎くんは1、2回ほど咳き込んだ後、こちらを見上げながら口を開く。
「……俺の妹は鬼になりました。だけど、人を喰ったことはないんです。今までも、これからも、人を傷つけることは絶対にしません」
「くだらない妄言を吐き散らすな。そもそも身内なら庇って当たり前。言うこと全て信用できない。俺は信用しない」
「あああ……鬼に取り憑かれているのだ。早くこの哀れな子供を解き放ってあげよう」
炭治郎くんの言葉に対し、イグッティと行冥さんはそんな事を言う。
ほんと、この鬼絶対殺すマン共は……融通が利かないというかなんというか。
「聞いてください‼ 俺は禰豆子を治すために剣士になったんです! 禰豆子が鬼になったのは2年以上前のことで、その間禰豆子は人を喰ったりしてない!」
「話が地味にぐるぐる回ってるぞアホが。人を喰っていないこと、これからも喰わないことを口先だけでなくド派手に証明して見せろ」
喰ってないことはともかく、これからも喰わないことを証明ってのは中々に難しいよな。
悪魔の証明というやつだ。
炭治郎くんと派手柱達がそんなやり取りをしていると、蜜璃ちゃんがおずおずと口を開く。
「あのぉ、でも疑問があるんですけど……さっき栖笛さんが言っていた通り、彼をここへ連れて来たのはお館様の命令です。という事は、何か考えがあると思うので勝手に処分とかしちゃいけないような気がするんですけど……」
その言葉に、先ほどまでぴーちくぱーちく騒いでいた鬼絶対殺すマン達は一斉に押し黙る。
うーん、流石は俺の女神。一発で静かにさせた。
「妹は俺と一緒に戦えます! 鬼殺隊として人を守るために戦えるんです!」
「オイオイ、何だか面白い事になってるなァ」
炭治郎くんが必死に訴えていると、新たな声が聞こえてくる。
「困ります、不死川様。どうか箱を手放してくださいませ!」
隠の人が必死に訴えている通り、そこには禰豆子ちゃんが入った箱を持っている傷だらけの柱……不死川 実弥、通称
「鬼を連れてた馬鹿隊員はそいつかいィ。一体全体どういうつもりだァ?」
「……どういうつもりかはこっちが聞きたい。何を勝手な事をしてるんだ実ちゃま」
俺は珍しくイラっとしながら実ちゃまに話しかける。
禰豆子ちゃんに関しては隠の隊士達に預けていたはずだ。それを何でこいつがもっているのだ。
実ちゃまは、鬼絶対殺すマンの中でも筆頭の殺意持ち。彼が関わってくるとろくな事にならない。
後ろの隠達も申し訳なさそうな顔でこちらを見ていたが、まぁ柱相手には強く出れないだろうから仕方あるまい。
「いくらアンタでもこればっかりは譲れないんでねェ。んで、鬼が何だって? 坊主ゥ。鬼殺隊として人を守るために戦えるゥ? そんな事はなァ……ありえねぇんだよ馬鹿がァ!」
実ちゃまはそう叫ぶと禰豆子ちゃんが入っている木箱に刀を突き刺そうとするも、既にその手に木箱はなかった。
「何してんだ、賽さんよォ?」
奪い取った木箱を地面に置いている俺を見て、実ちゃまが怒気を孕んだ瞳でこちらを睨んでくる。
「そっちこそどういうつもりだと何度言わせるつもりだ。今、この中に入っている子を刺そうとしたな?」
いくら日和見主義で事なかれマンの俺とはいえ、目の前で禰豆子ちゃんが傷つけられるのは流石に看過できない。
女の子が可哀想な目に遭うのは無理なんだわ、俺。
そんな訳で、実ちゃまの強面に漏らしそうになりながらも俺は彼を睨み返す。
「それがどうしたァ? 中に入っているのは鬼なんだぜ? それをわかってて庇うって事は、つまりはアンタも敵って訳だよなァ?」
「やめておけ」
刀を構えながら殺気立つ実ちゃまに俺はそう言う。
「あぁ? どうせアンタに勝てねぇから無駄だってかァ⁉」
「このままやりあうと、俺の返り血を浴びる事になるぞ」
「上等だァ、アンタの返り……は?」
俺の言葉の意味を理解できなかったのか、一瞬毒気が抜かれた表情を浮かべる実ちゃま。
「俺の前で気を緩めたな?」
「しま……っ」
実ちゃまの気のゆるみを見逃さず一瞬で距離を詰めると彼の刀を蹴り飛ばす。
「相変わらず、卑怯な手を使いやがって……っ」
「武士道で生きてけるんなら正々堂々生きてやるさ。とりあえず、いったん終わりだ。そろそろお館様が来るはずだ」
俺がそう言ったすぐ後に続くように白髪の子供(お館様の子供だが名前は忘れた!)の後ろから声が聞こえる。
「よく来たね。私の可愛い
そこには、子供たちによって手を引かれた我らがボス、お館様が立っていたのだった。
何で実ちゃまかというと中の人が関智一さんだからです(分からない人はドラえもんの声優で検索検索ぅ!)