【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る 作:延暦寺
本人はそんな気が全くないですが!
――
我ら鬼殺隊のトップであり、柱がお館様と呼び敬愛する人物。
何を考えているか分からずすべて見通しているかのような言動が目立ち謎に包まれてる。
一見、後ろに隠れて安全圏から他の隊士にだけ命を賭けさせている臆病者と見られがちだが、その実一番覚悟が決まっている人だ。
もし出来る事ならこの手で無惨を倒したい、そのためなら身内全ての命を賭ける、とドン引きするような事を俺に語ったこともある。
確か、原作でもそんなシーンがあった気がする、いつだったかは忘れたがそう遠くない未来だ。
死なない事に全力を尽くしている俺からすれば信じられないことである。
まぁ、そんなお館様だからこそ柱になってしまった今でも、一応の忠義は尽くしている。
可能なら今すぐ引退したいけどな!
「お早う皆、今日はいい天気だね。空は青いのかな?」
産屋敷――お館様が口を開く。
「顔ぶれが変わらずに半年に一度の柱合会議を迎えられたことを嬉しく思うよ」
俺だけ他の柱と変わっててほしかった。
そんな事を考えていると、実ちゃまもとい実弥が炭治郎くんの頭を無理やり地面におしつけていた。
お館様の前だから頭を下げさせようとしたんだろうがやり方ぁ!
ほんと血の気が多すぎて困るから献血して、少しは血を抜いてほしい。
「お館様におかれましても御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます」
ほらもうお館様を前にするとすげぇ理性的にしゃべるもん。
いつもその態度でいれば、俺も毎回ちびりそうにならなくてすむのに。
俺がそんな事を考えていると実弥は話を続ける。
「畏れながら、柱合会議の前にこの竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士について、ご説明いただきたく存じますがよろしいでしょうか」
そんな理性的に喋る実弥の様子に、炭治郎くんも驚いている。
うんうん、初見ではビビるよなこれ。
どう見てもさっきまでは蛮族だったもん。
「……そうだね、驚かせてしまってすまなかった。炭治郎と禰豆子の事は私が容認していた」
その言葉に、他の柱の奴らは嘘だろ、といった風に驚いている。
まぁ、そうだよな。鬼を殺すための集団のトップが容認しているのだから、驚くなという方が無理である。
「それと、おそらく話を聞いていると思うけど賽についてだ。彼が炭治郎と禰豆子を庇っていた理由も知りたいことだろう」
……お?
お館様、何を言う気だ?
俺は単に原作を知っていて、炭治郎くん達の事をよく知っているからかばっているだけなんだが……。
お館様どころか他の誰にも俺が原作を知っていることを伝えていないし、よそに漏れるはずもないんだが。
「彼だけには伝えていたんだよ。顔に痣のある少年の隊士が鬼を連れているが、害はないから見つけたら保護してほしい、と」
もちろん、そんな命令は一度も受けていない。
どういう事だ……?
俺が不思議に思っていると、目が見えないはずのお館様はこちらを見るとフッと優しく微笑んだように見えた。
――なるほど、そうやって恩を売ったつもりか。
俺側の事情は知らないが、何か考えがあると察して俺に責が及ばないようにとお館様なりに気を遣ってくれたのだろう。
くそ、おかげでまた柱引退が言い出しにくくなったじゃねぇか。
「お館様、何故に栖笛だけにお伝えしていたのでしょうか?」
実弥の言う事ももっともで、他の面々もうんうんと頷いている。
冨岡さんだけは押し黙っていて何考えているか分からなかったが。
「それは、君達が鬼と見ると問答無用で倒してしまうからだ。賽は鬼に対しても公平に物事を見る冷静さを持ち合わせているから最適だと思ったんだ」
鬼に対して、というか美少女に対して甘いだけなのだが俺は何も言わない。
それに、原作を知らなければ俺も他の柱同様に禰豆子ちゃんを斬ろうとしていたし、全ては偶然である。
「……なるほど、話は承知致しました。お館様の命であるならば、確かに栖笛に責はないでしょう」
自分が、鬼絶対殺すマンという事は自覚しているのか、お館様の言葉を聞いて渋々納得する実ちゃま。
悔しそうな顔をする実ちゃまに対し、俺はどや顔を披露してやる。
「納得してくれたようで何よりだ。さて、それで皆にお願いなのだが炭治郎と禰豆子のことを認めてはくれないだろうか」
そのお館様の言葉に対し柱の反応は、
「嗚呼……たとえお館様の願いであっても私は承知しかねる……」
「俺も派手に反対する。鬼を連れた鬼殺隊員など認められない」
「私は全てお館様の望むままに従います」
「僕はどちらでも……すぐに忘れるので……」
「信用しない、信用しない。そもそも鬼は大嫌いだ」
「心より尊敬するお館様であるが理解できないお考えだ‼ 全力で反対する‼」
「鬼を滅殺してこその鬼殺隊。竈門の処罰を願います」
と、一部を除いて否寄りだ。
まぁ、組織の信念というか行動理念がアレだけに当然の結果と言える。
今のところ、肯定組は俺と蜜璃ちゃん、あとは……冨岡さん? くらいで中立が無一郎くん。
うーん、中々に劣勢だ。
……こうなれば、俺の引退と引き換えに炭治郎くん達の安全を確保できないだろうか。
俺もあとくされなく引退出来て、炭治郎くん達も無事。まさにWin-Win。
そんな事を考えていると、お館様の子供が手紙を取り出し読み上げ始める。
元柱であり、炭治郎くんの師匠でもある鱗滝さんからの手紙だ。
内容は要約すると禰豆子は大丈夫、人は喰わないよ! っていう擁護の手紙だ。
「――もしも禰豆子が人に襲い掛かった場合は、竈門炭治郎及び鱗滝左近次、冨岡義勇が腹を切ってお詫びいたします」
と、締めくくる。
冨岡さん、これまで何も言わなかったがしっかり認識はしてたんだな。
他の面子も、「え、アンタも関係者だったの?」という顔をしている。
そりゃ、ここまで何もしゃべらなかったから当然だ。
「……切腹するから何だと言うのだ。死にたいなら勝手に死に腐れよ。何の保証にもなりはしません」
「不死川の言う通りです! 人を喰い殺せば取り返しがつかない‼ 殺された人は戻らない!」
と、鱗滝と冨岡さんの決死の手紙の内容を聞いてもブレない実弥と煉獄さん。
「確かにそうだね。人を襲わないという保証ができない、証明ができない。ただ、人を襲うということもまた証明ができない」
と、涼しい顔で反論するお館様に対し何も言い返せない実ちゃまざまぁ。
「禰豆子が二年以上もの間、人を喰わずにいるという事実があり、禰豆子のために4人の者の命が懸けられている」
ん? 今、4人っつった?
キノセイカナ?
「これを否定するためには、否定する側もそれ以上のものを差し出さなければならない。それに……炭治郎は鬼舞辻と遭遇している」
その衝撃的な言葉に、他の柱は一斉に色めき立ちぴーちくぱーちくと騒ぎだす。
炭治郎くんは、その様子に圧倒されていて何も話せない。
その様子を見ながらお館様は柱を静かにさせ、口を開く。
「鬼舞辻はね、炭治郎に向けて追手を放っているんだよ。その理由は単なる口封じかもしれないが、私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を掴んで離したくない。おそらくは、禰豆子にも……鬼舞辻にとって予想外の何かが起きていると思うんだ。わかってくれるかな?」
お館様の言葉に、ようやく納得しかける柱達。
だが……。
「分かりません、お館様。人間ならば生かしておいていいが鬼はだめです。承知できない」
と、実弥だけが歯を食いしばりながら頑なに否定する。
……いい加減、腹が立ってきた。
ただでさえ柱合会議は胃が痛くなり、今も現在進行形でキリキリしていて早く帰りたいというのに、実弥の頑固さのせいで帰りが遅くなる。
お館様が見逃せと言っているんだからいい加減無理にでも納得しろよ。滅私奉公しろよ。
お前が粘った所で誰も得しないんだよ。
「
気づけば、俺は実弥に話しかけていた。
「いい加減にしろ、だと? 何をいい加減にすればいい。相手は鬼だぞ、いつどこで人を襲うかわからねぇだろうがァ!」
「だから今まで喰ったことないと言っているだろ。お前はお館様の意見に逆らうのか?」
「うるせぇ! 俺は認めねぇ。鬼が人を喰わないなんてありえねぇんだ」
「だったら喰わないように監視してればいいじゃねーか」
「誰がやるんだ、そんなのよォ! 鬼と一緒に行動なんて反吐が出るぜェ!」
「だったら俺が見るわ! それなら文句ねーだろうが!」
瞬間、シンと静まり返る。
……あれ、俺、今なんか言っちゃいました?
「というわけで、炭治郎と禰豆子は賽が監視する事になった。異論はあるかな?」
「うむ! 鬼を生かすことは承知しかねるが、賽が見張るというのならば問題なかろう!」
「嗚呼……鬼にも分け隔てなく接するその心、理解できん……」
「誰にでも優しい栖笛さんほんと素敵さん……」
いやまってまって、ごめん前言撤回させてください。
早く帰りたくて心にもない事言っちゃったんです本当なんです。売り言葉に買い言葉なんです。
炭治郎くんに同行するとか死亡フラグ最前線再びじゃないですか勘弁してください。
「ほら、4人で間違いなかっただろう?」
そんなお館様の声がボソリと聞こえた気がした。
あぁ、タイムマシンがあれば数秒前の自分を殴って止めてやりたい。
今後、炭治郎と無理なく絡んでもらうために主人公にはやらかしてもらいました。
主人公に対する他の柱の(ほぼ)一言評
悲鳴嶼「強いのに本人にやる気が感じられず悲しい」
宇髄「派手に地味。俺の方が絶対忍者らしい」
冨岡「あいつを見ると、やはり俺は柱ではないと実感する」
煉獄「強いな!」
不死川「強いけどむかつく。実ちゃま呼びはもうあきらめた」
伊黒「強いけどむかつく。イグッティと呼ぶな」
甘露寺「私の体質に何も言わないし、強くて素敵」
時透「どうでもいいかな……」
おまけ
産屋敷「面白くて気に入っている。彼は素晴らしいおも……私の子供だ」
カナエ「命の恩人で私の同志です。色んな意味で面白い方です」
しのぶ「鈍感柱で少女嗜好疑惑。屋敷に居る時もしっかりしてくれれば……」