【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る 作:延暦寺
最大の難関であったはずの十二鬼月、累を乗り越えた俺は幸せの絶頂であった。
もう死の恐怖に怯えずに済むと思っていた。
なのに、何故俺は炭治郎くんの監視という核弾頭級の死亡フラグに自ら突っ込んでしまったのだろうか。
何度思い返してみても、あの時の俺はどうかしてたとしか思えない。
それもこれも、無駄に頑固な実ちゃまが悪い。
あとで1個だけトウガラシの入ったロシアンおはぎを喰わせて鬱憤を晴らしてやろうそうしよう。
「……まぁ、なっちゃったものは仕方ないか」
基本的にお館様の命令は絶対だ。
あの人が監視をやれというなら部下である俺はやるしかない。
どうせ、累戦で生き残った以上は原作準拠なんてさらさらする気はない。
ならば、開き直ってどんどん原作に介入していこう。
さしあたって、俺の残り少ない原作知識で重要なのは煉獄さんの死と祭りの神の引退だ。
この2人は柱の中でもトップクラスに位置する強さを持っている。
彼らが戦力として残るか否かで今後の難易度も変わってくるだろう。
一番良いのは、さっさと柱を引退して我関せずになる事なのだが……お館様に「炭治郎くんの監視をするなら柱の仕事ができなくなるので引退するから監視に専念させて♪」って言ったら却下された。くそが。
あとは可能性としてはこの世界でのカナエさんや原作での祭りの神のように今後の戦いに参加できないような怪我を負う事なのだが……死ぬのは嫌だし痛いのも嫌なので回避力に極振りしますって感じでやってきたので無しだ。
そもそも死にはしないが戦うのは無理になる程度の怪我を自発的に負うってのは普通に難しい。
上弦相手にそんな舐めプかましたら次の瞬間にサイコロステーキである。
なので、結局のところ煉獄さんと祭りの神を救えるか否かにかかっているというわけだ。
問題は、いつごろの時期だったかが全く分からない点だが……まぁ、炭治郎くんの監視という大義名分があるので、彼らについていけばおのずと原作イベントに遭遇することになるだろう。
あとは、安全圏からいかにも頑張ってますアピールをしながら彼らをサポートしていけばいい。
「5回⁉ 5回飲むの? 1日に⁉」
俺が今後の予定について練っていると、唐揚げが好きそうな声が聞こえてくる。
あの声は……確か善逸か。
彼も養生の為に蝶屋敷に来ていたのだが、来た当初からあんな感じで騒がしい。
普通にうるせーし注意しようと病室に向かったら、既にアオイちゃんが善逸に怒鳴っていた。
「善逸、今度は何で騒いでるんだ?」
「うぉぉぉ⁉ びっくりしたぁ! また急に現れたよこの人ぉ! もう嫌だぁ! なんにも音聞こえないし怖いんだよぉ!」
「い、いつの間に……」
にぎやかな空間に割って入れば、善逸は俺を見て泣き叫び、炭治郎くんも驚きの表情を浮かべていた。
うーん、ここまでビビられるとお兄さん悲しくなっちゃう。
というか、俺は他の柱に比べても割と親しみやすいと思うんだけどそんな怖いのかしら。
「ちょっと賽さん! 気配を消して移動しないでくださいって再三注意してるでしょう!」
「賽さんに再三注意……」
「はぁ⁉」
「ごめんいまのなし」
俺の小粋なジョークに対し、アオイちゃんは額に血管を浮かばせながら見たことない表情でぶち切れている。
流石にまずいと思ったので俺は素直に謝ることにした。
「賽さんの移動は心臓に悪いんですから、もっと自分の存在感を出して移動してください! 特に病人の方には刺激が強いんです!」
「はい、反省してます」
癖になってんだ、気配消して歩くの……とボケようと思ったが、今度こそ本気で怒られそうだったのでグッと堪え反省の意を示す。
いやまぁ、実際のところ普段からこうやって気配やらなにやらを消してないといつどこで鬼に襲われるか分からないんだよ。
俺が不意打ちをすることはあっても、不意打ちをされるなんてのはあってはならない。
なので、表面上は謝りはしたが決して改める気はない。決してだ!
その後は他愛のない会話を交わし、アオイちゃんは用事があるという事でその場から立ち去ることにする。
俺も事務仕事をしなけりゃならんので、アオイちゃんに続きその場を後にしようとしたところで声をかけられる。
「あの! えーと栖笛、さん!」
振り向けば、そこには真剣な顔をしている炭治郎くん。
「蜘蛛山でもそうでしたが裁判の時も庇ってくれてありがとうございました」
「いやいや気にするな。俺が勝手にやった事だ」
君と禰豆子ちゃんはこの世界の最重要人物なのだ。原作改変をしてしまっている以上はどう転ぶか予想がつかないので、必然的に俺ができる限り原作通りに持っていく必要があるしな。
もっとも、それを説明するわけにはいかないので適当にはぐらかすが。
「それなんですけど……なんで、そんな俺達に良くしてくれるんですか……? 初対面ですよね?」
君達が主人公だからだよ! と言えれば楽なんだがどう誤魔化したものか……。
俺は原作知識をフル動員させてナイスな言い訳を考える。
「えーと、あ、そうだ。俺はね、君の妹……禰豆子ちゃんと言ったかな? 彼女のように人を喰わず、人間の味方である鬼を知っているんだよ。あの子からは敵意を感じなかったから、俺の知っている鬼と同じく敵対しないと思ったんだ」
その鬼というのはもちろん珠世さんの事だ。
が、当然ながら俺と珠世は面識がない。俺が一方的に原作を読んで知っているだけだ。
ここでミソなのが知っていると言っただけで会ったとは言っていない事。
その鬼が珠世さんだと一言も言っていないという事だ。
が、今俺が言った条件で炭治郎くんが思い当たる鬼といえば……。
「まさか、珠世さんを知っているんですか⁉」
と、勝手に勘違いしてくれるわけだ。
おそらく、炭治郎くんの中では俺が過去に珠世さんに会ったことがあり、その影響で鬼に対しても公平的な判断を下せるようになったから自分達に味方してくれたのではと自分に都合のいいように勘違いしただろう。
俺は嘘は何も言っていない。ただ、真実全てを言ったわけではないのだ。
それを勝手に炭治郎くんが勘違いしただけなので俺は悪くぬぇ。
人を騙すのに嘘を吐く必要はないのである。
「ま、ご想像にお任せするよ」
俺は意味深な笑みを浮かべると、これ以上ボロを出す前にその場を後にするのだった。
☆
「きゃー! かーわいいー!」
病室を後にして部屋に戻ってくると、そんな黄色い声が聞こえてくる。
何事だと部屋を覗けばカナエさんが禰豆子ちゃんとワチャワチャと楽しそうにしていた。
「はぁ、姉さん。もう少し落ち着いたら?」
「だって見てよこの子、
禰豆子ちゃんを見て大はしゃぎするカナエさんに対し、呆れたようにツッコミを入れるしのぶ。
そして、そんな2人を見て不思議そうに「むー?」と首を傾げる禰豆子ちゃん。
更にそれを見て再び嬉しそうに叫ぶカナエさん。
……なんだこのカオス。
「あ、賽くんおかえりなさい」
「カナエさん、これは一体何事ですか?」
「アナタが連れてきたこの鬼を見て姉さんがもうそれは大はしゃぎなのよ」
カナエさんに問いかけるが、代わりにしのぶがげんなりした表情で答える。
まぁ……カナエさんの喜びようも分からなくもない。
何せ、彼女は昔から鬼と仲良くしたいとずっと言っていたのだ。
それが突然、本当に仲良くできる鬼(しかもかわいい!)が現れたのである。
喜ぶなという方が無理な話だ。
「ねーずこちゃん♪」
「むー」
「きゃあああああ♪」
それにしても、こんなにテンションの高いカナエさんは初めて見るな。
……ま、こんな嬉しそうなカナエさんが見れただけでも今回、頑張った甲斐があるってもんだな。
そんな事を感じながら、3人の美少女たちを眺めつつ仕事をする俺であった。