【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る 作:延暦寺
このアイディアはワシのじゃ……
今回は炭治郎視点から始まります。
――ヒノカミ神楽・碧羅の天
賽さんに言われ、列車と融合したという鬼の首を探しついに見つけた俺は、夢の中で見た舞を再現して巨大な頸に斬りつける。
本来は、蜘蛛山で思い出したんだけどその前に賽さんが助けてくれたので使わずじまいだったが上手く頸を斬れたようだ。
「ギャアアアアアア!!!」
瞬間、凄まじい断末魔と揺れが俺達を襲う。
このままでは乗客の人達が危ないと思い守ろうと動き始めるが、先ほど刺されてしまった腹が酷く痛み出した。
そして、その痛みのせいで初動が遅れ、暴れる列車の衝撃に身をゆだねる形になってしまう。
俺は……死ねない。俺が死んだら、俺の腹を刺したあの人が人殺しになってしまう。
死ねない……誰も死なせたくない。
その後、何とか生き残った俺は近くに居た伊之助に、俺の腹を刺した人を助けるようにお願いをする。
伊之助は何やら納得いかないようだったけれど、何とか説得して動いてもらった。
(俺も……早く怪我人を助けないと……)
俺は、自身の痛みを抑えるため呼吸を整える。
(禰豆子……善逸……煉獄さん……それに、賽さん……きっと全員無事だ、信じろ……)
遠のきそうになる意識を何とか繋ぎ止めながら、俺はふと賽さんの顔を思い浮かべる。
初めて出会ったのは蜘蛛山で十二鬼月と遭遇した時だった。
禰豆子も捕まって俺もやられそうになった時、あの人はどこからともなく現れ、禰豆子が鬼と分かっていたにも拘わらず助けてくれた。
あの人と一緒に過ごすようになってしばらく経つが、あの人の考えている事は未だに分からない。
鬼殺隊の柱であり、お館様と呼ばれる人から最強の評価を受けている人。
他の柱は皆聞く耳持たなかったけど、あの人は最初から俺達兄妹を受け入れてくれていた。
俺は、鼻の良さには自信があったけど、あの人からはほとんど匂いがせず無臭に近い。
善逸も、音がほとんど聞こえなくて気味が悪いと言っていた。
でも、これだけは確信できる。あの人は優しい人だ。そして、絶対に死なせてはいけない。
あの人は……。
「全集中の常中ができるようだな! 感心感心!」
と、突然煉獄さんが俺の顔を覗き込んで話しかけてきたことで思考が中断される。
「煉獄さん……」
「常中は柱への第一歩だからな! 柱までは一万歩あるかもしれないがな!」
気の遠くなるような煉獄さんの言葉に、俺はちょっとだけ……ほんのちょっとだけくじけそうになりながらも「頑張ります」とだけ答える。
その後、煉獄さんの助言の下に呼吸を行い、何とか止血を行う。
「あの……賽さんは無事でしょうか? それに乗客の皆さんは……」
「賽は知らん! どこで何をしているのか見当もつかんがあいつが死ぬなど毛ほども思わないからきっと無事だろう! それと、怪我人こそ多いものの命に別状はない!」
死者が居ないと聞き安心したけれど、賽さんが行方不明というのは心配だ。
煉獄さん曰く、死ぬはずがないらしいけれど。
ドオン!
突如、轟音が響く。
俺と煉獄さんは会話を中断し、音のした方を見る。
段々と土煙が晴れてくると上半身に不思議な文様を刻んだ男が立っていた。
そして、瞳を見ればそこには『上弦』と『参』の文字。
(上弦の……参? どうして今ここに……)
心臓の鼓動が早まるのを感じる。
圧倒的強者だというのが離れていても分かった。
ドン、という音が聞こえたと思ったら上弦の参が目の前に迫っていた。
(死……っ)
脳裏によぎる死の気配。
体を動かして避けようとしても動かない。
こうしている間にも拳がどんどんと迫ってきたけれど……そこへ煉獄さんが割って入り、相手の腕を真っ二つに切り裂いた。
「いい刀だ」
上弦の参は斬られた腕を即座に回復させるとそんな事を言う。
「なぜ手負いの者から狙うのか理解できない」
「話の邪魔になるかと思った。俺とお前の……」
「君と俺が何の話をする? 初対面だが、俺はすでに君のことが嫌いだ」
背中越しから煉獄さんの怒りと嫌悪の匂いが漂ってくる。
先ほど俺に攻撃したことがよっぽど腹に据えかねているようだった。
その後も煉獄さんと上弦の参は会話を続けていったかと思うと、上弦の参はとんでもない提案をするのだった。
「素晴らしい提案をしてやろう。お前も鬼にならないか?」
「ならない」
当たり前のことだけれど、煉獄さんは即座に拒否をする。
だけど、そのあとすぐに俺は信じられない言葉を耳にした。
「俺は興味あるな、詳しい話を聞かせてくれよ」
そこには、いつの間に現れたのか上弦の参の背後から賽さんが現れそんな事を口にしていたのだった。
☆
列車に乗っている乗客全員を助け終わったので炭治郎くん達を探していたら、ちょうど猗窩座が煉獄さんを勧誘していたので割り込ませてもらった。
わざわざ声をかけたのは単純に時間稼ぎだ。
もう少しで夜明けなので、出来る限り時間を引き延ばして生存率を上げようという魂胆である。
猗窩座を倒す、という選択肢もあるにはあるのだが今回は優先度的には煉獄さんの生存>猗窩座の討伐なので、今回は猗窩座を逃してしまっても構わない。
下手に猗窩座を倒そうとしてしくじった場合のリスクを考えると、生存することに注視した方が確率も高くなる。
それに、うっかり猗窩座を倒したことで原作とは違う上弦が追加されても困るしな。
一応、上弦の血鬼術くらいは覚えているので対策ができるが、新しい上弦が来ると詰んでしまう。
そんなわけで時間稼ぎだ。
「お前は……」
「どーも、影柱の栖笛賽です」
「賽! 興味があるとはどういうことだ」
煉獄さんが大声で叫ぶが、今はスルーさせてもらう。
「賽……そうか、お前が……お前が?」
俺が名乗った事で一瞬納得しそうになった猗窩座だったがすぐに首を傾げる。
「お前が本当にあの方が言っていた賽か? これほどまでに弱そうなのが柱だと? 覇気も、闘気も……殺気すらも感じない!」
「俺もそう思う。俺はふさわしくないから柱を辞めたいって言っているのに、お館様が辞めさせてくれなくてねー。嫌になっちゃうよね」
俺はへらへらと笑いながら腰を低くして話し続ける。
怪訝そうな表情を浮かべる猗窩座であったが、思う所があるのか少し思考した後に口を開く。
「だから、鬼になりたいというのか?」
「うーん、考え中かな? 鬼って老いないし死なないんだろう?」
そこだけ見れば意地汚く生き残りたい俺にとってはすごい魅力的に聞こえる。
が、鬼になるととんでもない爆弾を抱えることとなる。
「あぁ、100年でも200年でも鍛錬し続けられて強くなれるぞ。お前からも杏寿郎を説得するといい。同じ人間ならば効果があるかもしれない。そうすれば、お前のような弱者でも鬼になれるように取り計らってやろう。弱者は嫌いだがあの方が気にかけているから特別だ」
「うーん、そうしたいのは山々なんだけど気にかかることがあるんだよね」
「何だ?」
「ほら君達のボス……あー、首魁の鬼舞辻無惨。あの人、中々に恐ろしいよね。鬼になってもあの人の機嫌損ねただけですぐ殺されそうじゃん?」
俺がそう尋ねると、先ほどまで饒舌だった猗窩座は急に押し黙ってしまう。
ま、肯定もできなければ否定もできないよな。
つい最近もあの有名なパワハラ会議によって下弦も解体されたばかりのはずだし、猗窩座自身も重度のパワハラを受けているはずだ。
「沈黙は肯定と取るよ。俺って基本的に楽して暮らしたいからそんなストレス溜まりそうな生活はごめんかな。というわけで、やっぱ鬼になるのは無しって事で」
時間稼ぎも充分なので俺はそう締めくくると、刀の切っ先を猗窩座に向け、柄にあるスイッチを押す。
「っ!」
俺の日輪刀が、スペツナズナイフのように刀身が射出され猗窩座に向かう。
これが俺の刀の第二の仕掛けである。
結構な不意打ちだったのだが、猗窩座にそれを紙一重で避けられてしまったので素早く刀身を巻き戻し柄に戻す。
刀身と柄はワイヤーでつながっているので、ワイヤーさえ無事なら何度でも使える優れものである。
もっとも、不意打ち専用なので避けられたら同じ相手には使いにくくなってしまうが。
「不意打ちとは舐めた真似をしてくれるな……杏寿郎は鬼になってほしいが、貴様は殺す」
ビキビキと血管を浮かばせながら殺意に満ち満ちている猗窩座。
正直盛大に漏らしてしまいそうになるが、炭治郎くん達の手前そうもいかない。
「鬼になるのは断ると言っただろう!」
そして、猗窩座のヘイトが俺に向いたのを見逃さず煉獄さんが炎の呼吸で猗窩座に斬りつける。
が、それすらも猗窩座は避けてしまう。
猗窩座は血鬼術の効果だかで殺気、闘気をまとった攻撃は避けてしまう。
それ以外の攻撃も鬼特有のスペックにより、生半可な攻撃は避けてしまうだろう。
攻撃が当たらない相手ってのは本当に厄介である。
「賽! もしや本当に鬼になるかと思って肝を冷やしたぞ!」
「悪い悪い。相手を油断させようと思ってね」
煉獄さんと軽口をたたきあった後、いよいよ本格的に猗窩座戦が開幕となる。
基本的にメインアタッカーは煉獄さんで、彼が致命傷を負いそうになった時は俺が的確に邪魔をする。
流石は上弦という事もあり、中々に攻撃を避けるのに苦労する。
童磨のような飛び道具はないものの肉弾戦がかなり強く、刀で斬りつけてもダメージがほぼ通らない。
俺はステルス性能に極振りしているせいで火力に関しては柱でも下位の部類に入る。
……が、それはそれでやりようがあるというものだ。
「がっ……⁉」
先ほどまで楽しそうに笑っていたバトルジャンキーの猗窩座は急に血を吐き苦しそうに表情を歪める。
そして、体中の切り傷付近から徐々に肌がどす黒く変色していった。
「ようやく効いてきたか……」
いやー、流石は上弦。
中々効き目が遅いから焦った焦った。
「貴様……何をした……!」
「俺さ、うっかり説明するの忘れてたんだけどさ。俺のこの刀の刀身と刀身の間にね、藤の毒が入ってるんだよ」
これが第三の仕掛けだ。
通常の刀モードで戦うときは機能しないが、蛇腹モードになった際は中に仕込まれていたしのぶ特製の藤の毒が漏れ出し、相手を斬りつけるたびにじわじわと侵食していくのだ。
流石に、しのぶのように鬼によって毒の調合を変えたりと器用な事は出来ないが……それでもそれなりの効果はある。
実際、猗窩座は苦しそうにうめいていた。
「この……卑怯者、がぁ!」
「悪いね、俺の辞書に正々堂々なんて文字はないんだよ」
俺の辞書にあるのは、卑怯の二文字。
生き残る為には、それこそなんだってやってみせる。
「俺も賽のやり方には疑問を覚えるが、勝つためならやむなしだ! このままその頸、落とさせてもらおう!」
毒で動きが鈍った猗窩座の隙を逃すまいと煉獄さんが一瞬で距離を詰め、頸を斬り落とそうとした瞬間――。
ベンッ
という、三味線のような音が聞こえ、猗窩座の姿が掻き消える。
今のは……確か、鳴女? だったかの血鬼術だろう。
あわよくばとも思ったが、やはりそう簡単にはいかないらしい。
気づけば日も昇り始めている。
煉獄さんは傷だらけではあるが、どれも致命傷というわけでは無い。
彼を……煉獄さんを生存させることに成功したのだ。
こうして長かった夜は終わりを告げる。
次のフラグの事は今は忘れ、とにかく全員が生き残った事を喜ぼう。
そして蝶屋敷でしのぶ達に癒されよう。
卑怯卑劣は褒め言葉。
童磨が乱入する展開を感想で見かけてめちゃくちゃ笑ったので採用したかったんですが、童磨やお労しいお兄様が追加で来ると現段階では普通に詰むので原作通り猗窩座殿だけにしました(血涙)