【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る 作:延暦寺
死にたくない。
それは、普通の人間であるならば誰もが思う事である。
誰だって長生きしたいし、痛い思いもしたくない。
勿論、俺だってそうだ。
普通に生きていれば、大きな事故や病気をしない限りは長生きできるだろう。
だが、俺はその普通の生活ができないことを理解している。
サイコロステーキ先輩に転生した俺は、何年後かに下弦の伍“累”にバラバラにされて殺される。
それはもう呆気なく殺される。
勿論、そんな事は御免被りたい。
生き残る為には何でもするつもりで、俺はまず両親に鬼殺隊にならないという旨を伝えたが、あえなく却下されてしまった。
俺の家……栖笛家は結構な名家らしく、柱こそ輩出はしてないもののかなり昔から鬼殺隊に貢献し、それなりの地位を築いてきたらしい。
子供も必ず鬼殺隊に入隊させているため、俺のわがままでその伝統を崩すわけにはいかないという事だった。
何を時代錯誤な事をとも思ったが、そもそもの時代が時代なので当然といえば当然の結果である。
ならばと俺は家出をした。
子供の足でどこまで行けるかは分からないが、栖笛家とは完全に縁を切り、完全なるモブに徹しようとした。
しかし、家出した先で鬼と遭遇してしまう。
一応、護身用に刀は携えていたものの剣術の覚え等ない俺はひたすらに、我武者羅に刀を振り回した。
気づけば朝を迎え、鬼は日光を浴びそのままサラサラと粒子化し消え去った。
間の悪い事にそこへ鬼殺隊が到着し、俺が鬼を倒すところを見てしまう。
子供なのに鬼を倒すなんてすばらしい才能だと持て囃されスカウトされてしまったのだ。
それを聞いた両親は、俺の家出を不問とし我が子は天才だなんだと持て囃す。
歴史の修正力と言うのは恐ろしいもので、この世界はどうあっても俺を鬼殺隊へと入隊させたいようだった。
俺は鬼殺隊から逃げるのは諦め、死なないために鍛えることにしたのだった。
☆
「ふっ、せいっ、はっ!」
我が家の庭で、空を裂く素振りの音と俺の声が響く。
「……ふう、こんなものかな」
それからしばらくして、日課の素振りを終えた俺は額に浮かんだ汗を手で拭う。
「坊ちゃま、お疲れ様です。今日も精が出ますね」
日課を終えたタイミングで、使用人の一人が汗を拭くために手ぬぐいと井戸で水を渡してくる。
俺は礼を言いながら手ぬぐいと水を受け取り一息つく。
「それにしても、坊ちゃまは本当に勤勉ですね。天才なのですから、凡人のように汗臭い修行をしなくてもよろしいのではないでしょうか?」
そう、困った事に俺は……というかこのキャラは天才だった。
原作では呆気なく死んでいたが、年齢に見合わぬ傲慢さ、隊が壊滅状態という現状を理解しているにも拘らず余裕の表情と態度から考察するに、本来のサイコロステーキ先輩は天才ではあったが、それ故に慢心しあっさり敗れ去るという典型的な努力をしない天才タイプだったのだろう。
努力をしない天才タイプと言うのは古今東西、様々な漫画に登場するが大抵は主人公などにあっさりと負けてしまうのだ。
怠ける天才、努力する凡才に劣る、と言うしな。まぁ、俺がさっき考えた言葉だが。
だが、もし天才が慢心せずに努力を続けたら?
高確率で噛ませ犬から脱することができるのではないだろうか。
浅はかな考えと思われるかもしれないが、運命の修正力により鬼殺隊から逃れられないのであれば、ただひたすらに愚直に鍛え続け強くなるしか道はない。
幸いにも、先ほど述べた通りこの体は中々のスペックを擁している。
鍛えれば鍛えるだけ強くなり、教わった技術はスポンジが水を吸収するがごとく面白いくらいに身に着く。
ちょっと修業が癖になりそうなレベルであった。
10にも満たない年齢で全集中の呼吸を会得してしまった時は、もはや笑うしかなかった。
これだけのポテンシャルを持っていてあっさり死んだ先輩は、どれだけ慢心していたのだろうとツッコミたくなるレベルである。
「僕は……強くならなくてはいけないんです。
一見、殊勝な事を言っているようだが、結局のところ自分が死にたくないから頑張るというだけの話だ。
「流石です、坊ちゃま! この私、感動いたしました! 不肖わたくし、微力ながらこれからも坊ちゃまを支えさせていただきます!」
何を勘違いしたか、俺の言葉を聞いた使用人は感動に打ち震え、滂沱の涙を流していた。
その後も、俺は時には父に修行を付けてもらいながら入隊試験の日までひたすらに鍛え続けるのであった。
サイコロステーキ先輩は、原作でのあの態度などから天才ゆえの慢心キャラだと解釈し、この設定にしました。
そして、天才だから鍛えたらそりゃ強くなるよねというお話です。