【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る 作:延暦寺
「お前らはもう"花街"から出ろ」
定期連絡の為に集合した際、宇髄がぽつりと言う。
「きゅ、急にどうしたんですか宇髄さん」
突然の宇髄のセリフに炭治郎君が戸惑いながら尋ねる。
「……賽からの情報により嫁の一人である雛鶴の居場所は分かったが、それ以外はいまだ不明だ。3人の無事が確認できるまではと先延ばしにしていたが、これ以上引き延ばすと被害が増え続けかねない。誰が鬼かも分かってはいるが、上弦かどうかまでは分かっていない。もし、上弦だった場合、お前らの階級では対処できない。あとは俺と賽で何とかするからお前達は去れ」
うーん、ワンチャン俺も一緒に帰っていいよって言われるかとも思ったがそう上手くいかないらしい。
まぁ、どっちみち宇髄の引退を阻止しなければならないので帰るつもりはないけどな。
すっっっっっっごく帰りたいけども。
「いいえ宇髄さん! 俺達は……‼」
「恥じるな。生きてる奴が勝ちなんだ。機会を見誤るんじゃない。……行くぞ、賽」
「アッハイ」
宇髄に呼ばれたので俺は急いで立ち上がる。
「そんなわけで、宇髄の言う通り帰れ。上弦だったらお前達じゃ本当に危険だ」
ま、上弦なんですけどね! 陸なんですけどね! 帰っていいですか!
この後、素直に炭治郎くん達が帰らないことを祈るばかりだ。
「何やってんだ、賽!」
「今行くからそう急かすな」
宇髄に呼ばれたので、伊之助の制止を無視して宇髄の後についていく俺だった。
「決行の時間だが、昼間は人目が付きすぎるから夜にするぞ」
「まぁ、仕方ないわな」
俺達は国非公認の組織なので表立って動いていると色々と面倒な事になる。
それ故に人目が少なくなる夜に行動をするのだが、鬼からすると夜が最も活発となる時間帯なのでホントクソゲーもいいところだ。
「俺は夜までの間に雛鶴を助けてからお前の助太刀に向かう」
「あ、それなんだけどさ。炭治郎くんらが自分が助けに行くって言いださないように黙ってたんだけど、まきをさん達の居場所に心当たりがある」
「何だと?」
屋根の上を走りながら、驚いたようにこちらを見る宇髄。
「正確な場所までは分からんが、おそらくどこかに不自然な空間があるはずだ。鬼は蕨姫花魁と名乗って人間のふりをして遊郭で働いている。鬼が店で働いていたり巧妙に人間のふりをしているほど人を殺すのには慎重になるはずだ」
「なるほど、殺した後始末があるからどこかに隠された拠点があるって訳か」
「そういう事だ。俺には炭治郎くん達や宇髄のような索敵、探知能力がないから見つけられないが……」
「なるほど、俺なら見つけられるな」
俺の言葉に、宇髄は合点がいったようだった。
宇髄は、音柱と呼ばれるだけあり音に関連することが得意だ。
小さい音も聞き逃さず、蝙蝠のように音を反響させてソナーのようなこともできる。
見た目は忍とは程遠いが能力は、間違いなく本物だ。
「短期間で鬼が誰かを見破った事と言い、元忍である俺より情報収集能力に長けてるってどうなってるんだかな」
「ふ、長年の経験って奴さ」
「ハッ! 俺より年下が何言ってやがる」
まぁ、ただの原作知識なんですけどね!
先ほどの俺の推理も確か炭治郎くんあたりが言っていた気がする。
知る人が見れば主人公の手柄を横取りするクズだが、そんな事をツッコめる人物はこの世界には居ないのでセーフである。
それよりも、他の嫁さんが生きているかもと知っただけで嬉しそうだな。
常日頃から嫁ズの命が最優先と豪語しているだけはある。
その後の話し合いの結果、宇髄は嫁ズと攫われた人たちの救出後、俺と合流。
俺の方はそれまで、堕姫と鬼いちゃんの相手をしなければならない。
……まぁ、単純に2対1と聞けば無理ゲーと思いがちだが、鬼いちゃんが居るのも知っているしどうすれば倒せるかも分かるのでいけなくもないか……?
最悪の場合、炭治郎くん達を壁にすればいけるだろう。
――なんてクズ丸だしな事を考えながら、俺は夜まで待つことにするのだった。
☆
「んひいいいいい! やべぇやべぇやべぇ! 忘れてたあああああ!」
夜、隊服に着替え太夫を引退(?)した俺は遊郭の街を爆走していた。
いやね、不意打ちで行けるかな? って思って堕姫が居るはずの部屋に行ったのに居ないのよ。
誰に聞いてもどこに行ったか分からないって言うから、おかしいなぁ怖いなぁって思ってたわけよ。
そこへ俺のどどめ色の脳細胞が唐突に活性化して思い出したのだ。
炭治郎くんが居た店で働いていた鯉夏花魁が明日には街を出ていくこと。そして原作ではその前日……つまりは今日の夜に鯉夏さんを襲いに行くのだ。
これを思い出すまでに時間がかかってしまったので、今どうなっているかがまるで予想がつかない。
頼むから無事でいてくれよ……っ。
そんな風に祈りながら街中を走っていると、とある通りで人影が見える。
「居た……っ」
見れば、そこには正体を現し帯をまとっている堕姫と、倒れている炭治郎くんと善逸の姿があった。
俺より先に店を出ていた善逸は、どうやら炭治郎くんと共に戦っていたらしい。
が、やはり上弦相手には歯が立たないようだった。
ちなみに、原作では確か善逸は捕まっていたような気がするがこの世界では特に捕まってはいなかった。
いったい、どこで助かるフラグが立ったんだろうか?
「って、呑気にそんな事を考えている場合じゃないな」
堕姫は、帯を操作し今にも炭治郎くんと善逸に斬りかかろうとしていた。
俺はすぐに加速すると、炭治郎くん達の前に躍り出て帯をすべて弾く。
「ち、また新手なの! ……安楽?」
自分の攻撃が弾かれたことで忌々しそうに叫ぶ堕姫だったが、俺の姿を見れば信じられないといった表情を浮かべる。
「ちょ、ちょっと安楽こんな所でなにやってるのよ……そんな鬼殺隊みたいな格好して……」
「……」
堕姫の悲しそうな言葉に、俺は何も言い返すことができない。
非情な鬼相手とはいえ騙していたのは事実だ。
「ていうか、何? もしかしてアンタ男なの? 何で女装して……しかも人気の太夫なんかにのぼりつめてたのよ」
正直、それは俺も不思議で仕方ない。なんでやろなぁ?
こちらを見てる炭治郎くんがマジっすか? 売れっ子だったんですか? みたいな顔でこちらを見ている気がするが、気のせいだという事にしておこう!
「……てたのに。信じてたのに! 人間にしては見所があると思ってたのに! なんなら鬼にしてあげようと思ってたのに! 許せない!」
――血鬼術・八重帯斬り。
堕姫の叫びと共に四方から幾重もの帯が交差するように攻撃をしてくる。
が、俺はそれを全て避け堕姫の頸を切り裂いた。
俺は何度も、透き通る世界を使い施術をしてきた。おかげで、彼女の動きはもはや透き通る世界を使うまでもなく手に取るように分かるのだ。
これくらいの攻撃を避けるくらい造作もない。
「は?」
何故、何時、頸を斬られたのか分からない。
そんな表情が堕姫からは読み取れた。
「う、うわああああん! お兄ちゃん! 頸斬られたぁ! 信じてた安楽に騙されて頸斬られちゃったああああああああぁ!」
直後、自分の頸が斬られたことを理解したのかまるで子供のようにギャン泣きをし始める。
いや……本来は子供だったはずだから、これが素だろう。
堕姫はひたすらに自身の中に居る兄を泣きながら呼び続ける。
そして、堕姫の体に変化が訪れた。
彼女の腹部分からズズズと鬼いちゃんが現れ始める。
「すまん」
「え?」
「あ?」
が、端から鬼いちゃんが出てくると分かっていたのなら、それを待つ道理はどこにもない。
チン、と短く金属音が鳴った瞬間、鬼いちゃんこと妓夫太郎の頸は堕姫と向かい合うように地面に転がり落ちる。
「お、前……なん、で頸を……」
妓夫太郎はこちらをぎろりと睨み、信じられないという風にそう言う。
悪いな、アンタの戦法上、長引かせるわけにはいかないんだよ。
流石の俺も広範囲毒攻撃はどうにもならないので、先の先を打たせてもらった。
「お前、ふざけんなよぉぉぉ! 普通、変形中は待つのが決まりだろうがぁぁぁ」
「そうよ! アタシを騙してただけじゃなくお兄ちゃんが出てくる途中で斬るなんて卑怯よ!」
俺の行動に対し、2人の怨嗟の声が夜空にこだまする。
「……すまない」
短い間ではあったが、一緒に過ごしただけに少しばかりの情が湧き、それが罪悪感となり俺の胸を締め付ける。
堕姫のしてきたことは到底許されることではない。ないが、俺が罪悪感を覚えるくらいは許されるだろう。
「謝らないでよぉ! アンタの事絶対、絶対に許さないんだからぁ! うわぁぁぁん! 悔しいよう悔しいよう! 何とかしてよお兄ちゃあん! 死にたくないよォ お兄……っ」
「梅……!」
そして、2人の頸は砂のようにはらはらと崩れ去っていく。
「あの世では……2人仲良くな」
この結果は俺が招いたものではあるが、気持ちのいいものではない。
上弦を放置するとろくな結果にはならないし、宇髄も救えたのでベストなはずなのだが……それでも、俺の心の中には後味の悪さだけが残っていた。
大正コソコソ言い訳話
堕姫、妓夫太郎戦に関しては賛否両論あるかと思いますが、鬼いちゃんが居るのも分かってて倒し方も分かってるから、悠長に戦う必要はないかなと思いかなりあっさり目にしました。
原作でも宇髄さんが出現中に攻撃をしようとして避けられてましたが、それよりも早く攻撃に移行してたので倒せました。
気配もないですし(免罪符)
禰豆子の暴走イベント? 知らない子ですね。