【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る 作:延暦寺
下弦合わせれば3勝2分で人間やめてますね()
「俺はもう……働かない!」
遊郭での堕姫、妓夫太郎戦を終え、宇髄の引退フラグを無事にへし折った俺は蝶屋敷の自室にてうつぶせになりながらそう叫ぶ。
いや、だって考えても見てよ。
数年前の童磨戦ではカナエさんを救い、猗窩座戦では煉獄さんを救い、先日の堕姫、妓夫太郎戦では宇髄を救った。
それに加えて、下弦である零余子ちゃんと累も倒している。
俺めっちゃ頑張ったよね⁉ それはもう文字通り身を粉にして頑張ったよ! 粉骨砕身だよ!
カナエさんはともかくとして、煉獄さんと宇髄が居るならもう余裕だろ! 俺居なくても行けるって!
できないってのは嘘つきの言葉なんですよ、できる出来るやればできる!
「あらあらまぁまぁ、どうしたの? そんなに不貞腐れて」
不意に花の匂いが鼻腔をくすぐり、心地よい声が聞こえてくる。
そして、ふわりと俺の頭を撫でる。
誰あろう女神カナエさんだ。
「いや……なんというか、ちょっとこの間の戦いはしんどくて……少しばかり心が折れました」
今思い出しても堕姫のあの表情は胸が締め付けられる。
倒さないという選択肢はなかったのだが、もう少し穏便に出来なかったのだろうかとかそんな事ばかり考えている。
今までは過去を知っているだけに同情こそはしたものの、こんな気持ちになった事はなかった。
それが今回に限ってこんなに沈むなんてのは完全に予想外であった。
やはり、少しの期間とはいえ馴れ合いをしてしまったのがダメだったんだろうなぁ。
この後は、同情できそうな鬼といえば猗窩座くらいだから気が楽と言えば楽だが、その分難易度も段違いに跳ね上がるので別の意味で気が重くなる。
「よしよし、大変だったね。賽くんは頑張ったよ。大丈夫、このカナエお姉さんがちゃーんと褒めてあげるから」
カナエさんがそう言うと、ふわりと俺の頭に手を乗せ優しく頭を撫でてくる。
あ~……バブみ柱に癒されるぅ。
「……」
「……」
俺がカナエさんに極限まで癒されていると不意に部屋の入口に立っている2人の人物と目が合った。
ていうかしのぶと宇髄だった。
「お邪魔でしたか?」
俺とカナエさんの方を見降ろしながら、しのぶは慈母のような笑みを浮かべながら敬語で尋ねてくる。
アカン……アカンでこれはぁ。しのぶが原作モードになる時はめちゃくちゃ怒ってる時やでぇ……。
つい先日も遊郭から帰ってきたら原作モードになってて大変だったんやでぇ……っ。
「……いや、大丈夫、です。はい、なんかすいません」
俺は少しでもしのぶ大魔神の怒りを鎮めようと、姿勢を正し丁寧に受け答えをする。
「どうして謝るんですか? 大丈夫です、私は何も怒っていませんよ? ただ、お邪魔でしたか? と聞いただけです。何も怖い事はありません。姉さんと随分仲がよさそうだなぁって思っただけです。そのくせ私には構ってくれないとかそんな嫉妬みたいな感情は一切持ち合わせておりませんよ」
嘘だ!
「ほら、賽さんにお客様ですよ? 柱である宇髄さんが賽さんに用事があるみたいですよ」
「何か……派手に邪魔しちまったみてーだな」
「うん……あ、いや大丈夫」
お互いに何だか気まずい空気が流れる。
後ろでは、カナエさんが困り眉で「あらあらうふふ」と誤魔化し笑いをしていた。
「あー、なんだ。少し話したいことがあるからついてこい」
「了解……」
俺は、背後に突き刺さる視線を感じながらも宇髄についていくために部屋を出ていく。
その際に「後で
☆
――蝶屋敷の一角にある浴場。
俺と宇髄は2人きりで湯につかる。
「いい湯だな」
「だろう? 蝶屋敷自慢の薬湯だ」
しのぶプロデュースの薬湯で筋肉痛や切り傷、擦り傷、筋肉痛、肉離れ、あとは筋肉痛などの効能があるおすすめの風呂である。
「遊郭ではすまなかったな」
「っ! 宇髄が謝った……だと。これは明日槍が降るか……?」
「よーし、ケンカ売ってんなら派手に買ってやる」
「すんません、冗談です」
殺気を漲らせながら立ち上がろうとする宇髄に対し謝ると、チッと舌打ちをしながら元の位置へと戻っていった。
「こっちは真面目に話してんだから茶化してんじゃねーよ。正直、お前が居なけりゃ俺の嫁達は救えなかったし、被害も広がっていただろう。改めて礼を言う。俺の嫁達も感謝してたって伝えてくれって言ってたぞ」
「いや、だから良いって! 俺だって曲がりなりにも柱なんだしさ。市民を守るのは当然のことだ」
嘘である。
この男、端から自分の保身しか考えていない。
その結果、周りを守ることに繋がっているので都合のいいように勘違いさせているだけのクズである。
「ま、そういう事にしといてやるか。手紙で言うのも柄じゃねーし、直接言いたくてな」
なんとも義理堅い男だ。とても、非戦闘員を遊郭に連れて行こうとしていた派手柱には見えない。
まぁ、擁護するならばあの時は嫁ズが音信不通になったから宇髄なりにかなり焦っていたんだろう。
「あ、あと聞きたいことがあったんだがいいか?」
「聞きたいこと?」
宇髄が俺に聞きたいことってなんだろうか。
「お前さ、ぶっちゃけ胡蝶姉妹のどっちが本命なんだ?」
「んぶっふ⁉ げっほげっほ! い、いきなり何言ってんだ!」
唐突な宇髄の問いに俺は思わずむせてしまう。
「いやー、前から派手に気になっててよ。カナエとは因縁浅からぬ関係だし、しのぶはお前の補佐だろ? しかもどっちも年頃とくれば、気にもなるもんだ。おら、誰にも言わねーから俺にだけ言ってみろ」
くそ、さっきまでのシリアスムードはどこに行ったのかすっかり下世話モードに入っている。
カナエさんとしのぶ……正直、どちらも美人で俺の好みである。ぶっちゃけどっちも好きだ。
かといってどちらかとそういう関係に……というのは今は考えられない。
今は死なないように必死に頑張っているので、そんな気になれないのだ。
だけど、もし……無惨を倒して全員生き残れたら俺は……。
「ちーっすご主じーん。伝令っスー」
俺がどう答えようか悩んでいると、天の助けとばかりに窓から一匹の鴉が入り込んできたかと思うとくっそチャラい口調で話し始める。
こいつは俺の鎹鴉で名は
「なんかー、お館様がお呼びですぐ来てほしいってことっすー。あ、ご主人一人で来てほしいって言ってたっすよー」
お館様が? 何の用だろうか?
いやまぁ、おおかた上弦の陸を倒したことに関係しているのだろう。
一応は討伐の報告は鎹鴉を通じてしているが、直接話したいってところだろうか。
何にせよ、宇髄の下世話な質問から逃れられるし、この後に控えるしのぶの
今ばかりはお館様に心から感謝できる。
「いやー残念。このまま宇髄と話をしたかったがお館様が呼んでるんじゃ仕方ないなー……それじゃ、そういう事で!」
言うが早いか俺はその場を離脱すると、すぐさま着替えてお館様の居る屋敷へと向かうことにするのだった。