【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る   作:延暦寺

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我等友情永久不滅

 鎹鴉からの呼び出しの後、俺は隠に背負われお館様の屋敷に連れてこられた。

 

「待っていたよ、賽」

 

 お館様の居る場所まで案内されると、そこにはあまねさんに支えられているお館様の姿があった。

 

「御壮健で何よりです、お館様。益々のご多幸をお祈り申し上げます」

 

 俺は片膝をつくと頭を垂れ恭しく口上を述べる。

 

「……つれないな、賽。今この場に居るのは私とあまね、そして賽だけだ。いつものように接してくれないか?」

「ご冗談をお館様。私は常にお館様に最上の敬意を払っており、忠誠を誓っております。故に、いつも通りと申されましても、これが私のいつも通りであり……」

「賽」

「……わかった、わかったよ。いつまでも引退させてくれないからちょっと意地悪しただけだ」

 

 お館様……耀哉が見るからに悲しそうな表情で名前を呼ぶので、俺は観念したとばかりに姿勢を崩すと砕けた口調で話す。

 

「はは、賽はうちの鬼殺隊最強の柱だからね。そう簡単に引退させるわけないだろう? おもしろ……いやもったいない」

「おい、今面白いって言わなかったか?」

 

 俺がぎろりと睨みながら尋ねれば、耀哉はそっぽを向いてすっとぼける。

 ――俺が何故こんな砕けた態度を取っているのか? それは、単に俺と耀哉がいわゆる友人という奴だからだ。

 きっかけは……花柱であるカナエさんが引退時に俺を推薦した時の事だったか。

 誰もが目指し、羨んで仕方のない役職である柱。

 そんな柱に特例でなれるにもかかわらずに気の進まなそうな表情に興味を持ったとの事。

 そして、鬼殺隊の連中は基本的にお館様至上主義者でイエスマンしか居なかったから俺が新鮮に映ったのだそうだ。

 耀哉はその立場、生まれから同年代どころか年の近い友人さえ居なかったので是非とも友人になってくれと頼まれたのである。

 それ以降はたびたびこうして会ってお互いに素をさらけ出して他愛のない会話をしている。 

 普段はポーカーフェイスである耀哉も俺の前では本当の表情を出してくれるのだ。

 

 勿論、公私混同はするべきでないし柱の一人を贔屓していると思われれば外聞も悪いという事で、こうやって秘密裏に会う事しかできず、普段は他の柱と同じように俺も耀哉も接している。

 俺もボロが出ないように、普段からお館様と呼んでるしな。

 

「それで耀哉。わざわざ鎹鴉を使ってまで呼んだ理由は何だ? まさか、ただ単に話したいだけってわけでもないだろう?」

「そんな身構えなくてもいい。私は単に賽をねぎらいたかっただけなんだ。何せ……上弦を倒し、ここ100年ほど変わらなかった状況を打破してくれたんだからね。その知らせを聞いたときは、年甲斐もなく気分が高揚したよ」

 

 耀哉の言葉に俺は何とも言えない気分になる。

 あれは単に原作知識を知ってるからこその反則技なので、こうもストレートに感謝されると居心地が悪い。

 

「……君も知っての通り、私の一族は鬼舞辻との因縁により代々短命だ。私も20を超えはしたが、余命幾許かもないだろう。皆の前では言えないが……正直、私の代でも奴は倒せないだろうと半ばあきらめかけていた」

 

 耀哉はそこまで言うと俺の方を見えないはずの目で見つめてくる。

 

「だが! そこへ賽、君が現れた。元柱であるカナエと共に上弦の弐と対峙し生存。そして、下弦の肆、伍の単独撃破、さらには炎柱の杏寿郎と共闘し上弦の参を撃破目前まで追い詰める。さらには上弦の陸の単独撃破」

 

 どこのバケモンですかね、それ。

 

「私はね、君の活躍を聞く度に誇らしくなり、君さえいれば鬼舞辻無惨も倒せると確信している」

 

 いやー、流石にそれは買いかぶりすぎですなぁ。

 俺なんか常に死の恐怖に怯えてるチキンよチキン。今までも原作知識チートと運が良かっただけである。

 この後の鬼どもはやべー奴しか残ってないので、正直勝てる気が全くしない。

 特にお労しいお兄様と無惨は無理ゲー中の無理ゲーだ。

 原作と違い、煉獄さんと宇髄が居るが正直それでも不安しかない。

 

「君が他の者たちを率いてくれれば、もし私が途中で死んでも「てい」何をするんだ」

 

 耀哉のセリフを遮り、奴の頭に軽くチョップをすると耀哉は軽く驚きながらこちらを見上げてくる。

 

「うっせうっせ! 俺の前で二度と死ぬとか弱気な事言うんじゃねー。いいか耀哉。お前は生きるんだ。そしておじいちゃんになって孫に看取られて天寿を全うして死ぬんだよ。なぜなら、無惨は確実に死ぬからな」

 

 炭治郎くん達を中心にした鬼殺隊の面々によってな!

 俺? 隅っこの方で皆が死なないように応援してるよ! 

 

「……ふふ、はははは。そうだな、賽が言うならきっとそういう未来が待っているんだろう。不思議だ、君が言えばきっと実現すると思えてしまう」

 

 まぁ、確定した未来だからね。そりゃ信憑性もバツグンよ。

 

「そうだね、少し弱気になっていたようだ。賽を信じて、もう少し生きあがいてみせるよ」

「おう、そうしろそうしろ」

 

 この後、耀哉はメガンテを唱えて無惨もろとも死のうとする。

 結局それは無駄死にに終わってしまい、耀哉の子供たちに要らぬ苦労を掛けてしまう事になる。

 が、そんな事は決してさせない。

 こんな俺を友人だと慕ってくれている耀哉を無駄死にさせるわけがない。

 そりゃ、柱を引退させてくれないし、俺をからかって楽しんでいる節があるので気に喰わないところもあるが大事な友人だ。

 耀哉は今までの苦労の分、これから幸せに生きる権利がある。

 

 先ほどの俺の言葉で、少しでもメガンテを躊躇してくれればいいんだけどな。

 

「あ、そうだ。もう一つ用件があったのを思い出した。今回、君は上弦の陸撃破という功績をたてた。よって君の望む褒美を与えようと思うんだがどうだろうか?」

「あ? なんでもいいの?」

「もちろん」

「それじゃ、柱のい「引退以外でね」クソが!」

 

 なんでもじゃねーのかよ! 詐欺だ詐欺! 消費者センターに訴えるぞこら!

 

「そうだな……もし思いつかないなら、カナエ、しのぶとの婚儀でも取り図ろうか?」

「はぁ⁉ いや、何で急に2人の名前が出てくるんだよ!」

「いやほら、君達は長い事一緒に住んでいてお互いに想い合っているのにいまいち踏み切れていないだろう? だから、お礼に私が取り持ってあげようかと思ってね。結婚は良いよ、賽。子供達も可愛いしね」

「だ、だからって2人はいかんでしょ2人は! そんな不誠実な……」

「天元なんか3人の嫁が居るけれど?」

 

 そうでしたぁ! 

 いやでもほら、今は結婚とかしてる場合じゃないしね?

 ていうか、さらっと想い合ってるとか言ったこの人。

 まさか本人よりも先に別の人から聞くと思わなかったわ!

 

「もしも他に望みがなければ強制的に婚儀になるよ」

「最悪な職権乱用だ! いや待って、今考えるから……っ」

 

 えーとえーと、望みだろ?

 金……柱になってからたんまりもらってるから今更要らないし、出世……はもう実質一番上だし、むしろ降格したいくらいだが却下されたばかり……女、いやこれも結局強制婚儀エンドだ!

 俺としては2人と結婚できるなら嬉しいんだが、そんな場合ではない。

 俺がこうして悩んでいる間も、耀哉は謎のカウントダウンを行っている。

 えーい、病人じゃなければしこたまどついているものを……っ。

 

「思いついた! 思いついたから数を数えるのをやめてください! えっとね、とある人物に会いたいから行方を探してほしいんだけども……」

 

 と、俺は脳裏に浮かんだある人物について耀哉に語るのだった。




賽と耀哉は地元じゃ負け知らず

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