【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る   作:延暦寺

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貴方の落としたのは汚い獪岳ですか?綺麗な獪岳ですか?

 ――獪岳。

 善逸の兄弟子であり、岩柱である悲鳴嶼さんの関係者である。

 基本的に自分本位であり、何事も自分が優先でなければ気が済まないという自己中っぷりで、子供の頃に鬼と遭遇するも自分だけが生き残る為に一緒に住んでいた子供を売り、この後も助かる為に自ら鬼になることを選んで、最後は善逸に倒されるという運命が待っている。

 人間側では珍しいクズであり、俺としてもこいつは助けなくていいんじゃないかと思ったのだが……それだと善逸の師匠である桑島慈悟郎がひっそりと切腹し苦しみながら死んでしまう。

 面識こそないが、そんな最期はあまりにも不憫だし善逸が可哀想だ。

 故に獪岳が鬼になる道を選ぶ前に腐った性根を叩き直し、悲劇を回避させようというわけだ。

 もうここまで来たら救える奴は皆救おうと開き直っている。

 なお、そのせいで善逸のモチベが上がらずオリジナルで編み出した技が生まれなくなる可能性があるが、そこら辺はきっちり修行させて辻褄を合わせることにする。

 強化フラグと人命、どっちが優先かという話である。

 

 んで、獪岳を預かって1ヶ月が経過した。

 え? 端折りすぎ? こまけぇこたぁいいんだよ! 獪岳を詳しく描写しても仕方がない。結果さえわかれば、過程などどうでもよいのだ!

 で、俺の献身的な説得と教育(・・)の結果……。

 

「兄貴! おはようございます! 本日もいい天気ですね!」

 

 なんということでしょう。クソを下水で煮込んだような性格だった獪岳は匠達の手により、すっかり綺麗な獪岳となっていました。

 人間、変われば変わるものである。

 まぁ、簡単に言ってしまえば奴の心の中にある幸せを入れる小さな箱の穴を埋めてやったのだ。

 方法については……まぁ、あれだ。

 人道的な理由から秘匿させてもらおう。

 

「……いやー、何回見ても慣れないわぁ。綺麗な獪岳が普通に気持ち悪い」

 

 爽やかに挨拶をする獪岳を後ろの方で見ていた善逸がぽつりと呟く。

 それが聞こえていたのか、爽やかな表情を浮かべていた獪岳は途端にビキビキと表情を変え、頭上に「!?」の文字が浮かんでいるかのように幻視するほど凶悪な顔つきになると善逸の方に向かって口を開く。

 

「あぁ、なんだ善逸、文句あるのか? チビで雑魚の分際でよぉ?」

「獪岳?」

「アッハイ、すんません。なんでもないです、兄貴!」

 

 俺が名前を呼ぶと、獪岳は姿勢を正しピシッと敬礼をする。

 ……まぁ、あれだ。基本的には綺麗な獪岳に変身こそしたが、根っこの部分というのはどうしても残ってしまうものである。

 とはいえ、悪態をつくだけで特に何か暴力を振るったりとかそういうのはない。

 まぁ、善逸と獪岳は仲が悪かったらしいし、これくらいなら許容範囲だ。

 綺麗な獪岳は演技か? とも疑ったことがあるが、炭治郎くんと善逸の高性能探知機により本気で改心したというのは確定済みである。

 もっとも、炭治郎くんと善逸の高性能探知機をすり抜けるような化け物みたいな演技力、ステルス性の持ち主だったらどうしようもないが……そこは獪岳の善性を信じようではないか。

 

 その後、綺麗な獪岳を悲鳴嶼さんに引き会わせる。

 俺は会わせるかどうか迷ったのだが、獪岳の方から悲鳴嶼さんに会って懺悔したいとの事なので予定を調整して会わせるのだった。

 

「顔を上げよ、獪岳」

「だけど、俺は……っ!」

 

 2人きりにした方がいいと思い、少し離れた場所に居るため会話こそよく聞こえないが獪岳が涙ながらに土下座をし、それを悲鳴嶼さんが許している様子だった。

 あの惨劇を起こした張本人をあっさり許せる悲鳴嶼さん心広すぎない?

 獪岳曰く、3/4殺しくらいは覚悟しているとの事だったのだが何事もなく和解しているようだった。

 しばらく2人で何やら話しているようだったが、やがて2人がこちらへとやってくる。

 

「栖笛、礼を言うぞ」

「いや、礼を言われるようなことなんかしてないさ。こういう結果になったのは獪岳の努力のお陰だ」

 

 正直、原作を見る限りでは心底のクズに見えたし、改心は無理だと思っていたので最良の結果だった。

 もし改心が無理だった場合の最終手段もあったのだが……まぁ使わずに済んでよかった。

 

「そんなことないです。兄貴の指導があったからこそ、大事な事に気付けました。もし、兄貴に出会ってなかったら……多分、俺は碌な最期を迎えてなかったんじゃないかと思います」

 

 うん、それ正解。

 正直、獪岳を救うのはどうかなって思っていたのだが、こうやって綺麗な獪岳を見るとこいつも救えてよかったなと思える。

 その後、獪岳の事は悲鳴嶼さんが引き取ることとなった。

 と言っても継子にするとかそういうわけではなく、単に共に行動するという意味だ。

 お労しい兄上の件はどうしようかと悩んでいたが、柱最強(・・)の悲鳴嶼さんと一緒に行動するなら安心だろう。

 そう、最強(・・)の悲鳴嶼さんなら安心だとも!

 

 そんなわけで獪岳は蝶屋敷を出ていくことになったので、悲鳴嶼さんを交えて送迎会をし送り出した。

 

 

「賽さん……相談があるんですがいいでしょうか」

 

 獪岳が悲鳴嶼さんの所へ行ってからそれなりの時が経ったある日、自室で雑務をしていると手紙らしきものを持った炭治郎くんがおずおずと訪ねてくる。

 

「どうした?」

「ええとですね……遊郭で上弦の陸と戦った時に刀を折ってしまったので新しい刀をお願いしてたんですが……その、これが……」

 

 そう言って手渡された手紙を見ると、そこには怨嗟に満ちた荒々しい文字で「お前にやる刀はない」と書かれていた。

 他にも、「呪う」や「憎い」など書かれていて大人げなさMAXだった。

 ……猗窩座戦で刀を失くしていなかったのでセーフかとも思ったのだが、どうやらこちらの予想を遥かに上回るレベルで子供だったらしい。

 あの37歳児よぉ……。

 ていうかあれか。堕姫、妓夫太郎戦が終わってこの手紙が来るって事は隠れ里編か……。

 やだなぁ、上弦が2体来るんでしょぉ?

 今回に限っていえば、鬼殺隊は誰も脱落しないので気楽なイベントと言ってしまえばそれまでだが、それでも死の危険はあるし実質最終決戦前の最後の戦いになるので気が重い。

 とはいえ、炭治郎くんが行かない訳にもいかないし、お目付け役を仰せつかっている以上、俺もついていかざるを得ない。

 

「あの、どうしましょう?」

「そうだね……里の方に行って直接話してみようか」

 




原作知識フル活用で無惨を追い詰めていくスタイル

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