【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る 作:延暦寺
幕間なので読んでも読まなくても本編に差支えはありません。
前回の獪岳については、私の技術不足により上手くまとめられなかったので省略しています。
按摩なりなんなりで「分からせ」たと思っていてください。
――私には、友と呼べる人物が1人だけ居る。
私の一族は、とある者の存在により呪われており代々短命であった。
その者を討ち取る為だけに心血を注ぎ、この呪いを打ち砕かんとしてきた。
故に、その生れ、生き様から友など作る余裕などなかった。
だが、どういう訳か私には友ができた。
最初は、他の子供達と変わらないように見えた。
失礼な言い方をしてしまえば、才も強さも感じなかった。
最終試験を無傷で突破したという報告は聞いていたが、毎年1人や2人はそういった子供らが居るし、不思議でもなかった。
きっかけは……そう、何年か前の上弦と柱、平隊士の2名が戦い生き残ったというものだった。
十二鬼月の中でも、下弦は柱と呼ばれる鬼殺隊でも上位の者であれば無傷で討ち取る事も可能で、実際何度も勝利を収めてきた。
しかし、上弦に関しては違う。
ここ100年以上、上弦に勝つ者は現れず幾多もの子供達の命が失われてきた。
そんな上弦に対し、生き残ったとすれば興味も出るというものだった。
上弦との戦いで生き残った者の名前は、花柱の胡蝶カナエ、平隊士の栖笛賽であった。
カナエの方は常日頃から鬼と仲良くしたいと心底信じており、また自身もそう喧伝していて、鬼に対し並々ならぬ憤怒と憎悪を抱えている鬼殺隊の中では一風変わった人物だった。
とはいえ、柱となるからには相応の実力があり、決して弱くなかった。
そして、もう1人の人物である栖笛賽。彼は、我が鬼殺隊に代々務める栖笛家の子供であった。
その2人の報告を聞けば、思わず驚いてしまったのも無理はないだろう。
カナエの方は上弦との戦いにより両足を失ってしまったが、生きているだけでも幸運だ。大抵の者は高確率で命を落としてしまうから。
が、驚くべきなのはもう1人の方であった。
柱でないにもかかわらず、なんと無傷で生還したというではないか。
今、こうして目の前で対峙しても無傷で生き残れるほどの風格は感じられなかった。
その後、怪我により戦う事が不可能となったカナエから柱を引退すると聞き、快く了承する。
とはいえ、戦力の要である柱が欠けてしまったのは正直痛い。
当時、ただでさえ柱の人数が足りていなかったのだ。
どうしたものかと悩んでいると、カナエから提案があった。
「お館様。恐れながら進言がございます。私と共に戦った栖笛賽。彼を柱に推薦したく思います」
聞けば、彼はまるで予知でもしているかのように上弦の鬼の攻撃を全て避けていたという。
彼が全力で囮になった事で、重傷を負ってしまったものの生還ができたというではないか。
いざ対峙しても強さを感じられないのに、実際は上弦と戦っても無傷で生還できる男。
そんな一風変わった人物を柱にすれば、もしかしたら何かが変わるかもしれないと直感が働いたので、多少の力業を使い彼を柱へと就任させた。
賽が柱になってからは、事あるごとに柱を辞めたいと言ってきたが、その度に私はその案を却下してきた。
彼を辞めさせてはならないと私の勘が告げていたからだ。
その度に私は真摯に説得し、会話を続けた。
そして幾度も会話を繰り返していくと……気づけば友と呼べる間柄になっていた。
彼は、鬼殺隊の中でも珍しく忠誠心が薄い。もちろん、私を軽んじているというわけではないが他に比べてへりくだったりしないので話しやすかった。
外に出れない私の為に外の面白おかしい話をしてくれたり、鬼との戦いでの愚痴を聞いたりと、賽との会話は楽しかった。
1人を贔屓するわけにはいかないと、私と賽の関係は公にせず、公衆の面前はあくまで上司と部下という事にしておいた。
そんな私と賽の関係を知らない柱達からはやれ「忠誠心が薄い」だの「何故あんなのが柱なんだ」と苦言を呈してきたが、その度に流してきた。
一度、演技でもいいからやる気を見せてはどうかと賽に聞いてみたのだけれど、
「あ? そんなの言いたい奴には言わせておけばいいじゃん? ていうか、俺も自分は柱にふさわしくないと思ってるから引退したいんだけど? え? だめ? クソが!」
と、自分を崩さずいつも通りだった。
そんな彼を見て、半ば呆れつつもそれこそが賽の魅力なんだと微笑ましく思った。
それからしばらく後、下弦の肆を撃破、義勇と共に那田蜘蛛山に赴き下弦の伍を討伐。
煉獄と共に上弦の参と遭遇するも生還、そしてついには上弦の陸を単独撃破と今までの皆の評価を覆すような怒涛の功績を打ち立てる。
100年変わる事のなかった状況を、たった1人で打ち破ってしまった彼を見て私は生まれてから一度も震える事の無かった心が歓喜に打ち震えるのを感じた。
あぁ、私の勘は間違っていなかったのだと。
そして、許されるならば彼は私の自慢の友だと騒いで広めたかった。
彼が何か功績を立てるたびに「流石は柱最強の男だ」と私が褒めると、賽は必ず嫌な顔をするのが何だかおかしかったので、これからも時々いじってやろうと柄にもない事を思ってしまう。
まぁ、彼を最強だと思うのは私の本心だが。
普段は鬼殺隊の為に自分を律しているが、おそらくはこれが自分でも気づかなかった私の素なのだろうと実感する。
賽と話す度に新しい自分が見つかる気分だ。
そうそう、話は変わるけど賽は元柱のカナエの後を引き継いだので、今後の仕事を滞りなく行うために蝶屋敷に住んでいる。
カナエの妹のしのぶは、柱にこそなれていないものの医学、薬学に長けており、鬼殺隊に欠かせない人物だ。
そんな胡蝶姉妹だが、どうやら賽のことが好きらしい。
しかし、肝心の賽が自分への好意に気付かずやきもきしているという情報を手に入れた。
え? 情報の入手手段? ふふ、それは秘密だよ。
賽には世話になっているし、彼には幸せになってもらいたいので上弦を倒した褒美という名目で彼女達との婚儀を取り図ろうと提案したのだが断られてしまった。
だけどね、賽。私は諦めていないよ。
いつか必ず君達には幸せになってもらう。
それが友人としての私の願いだ。
もし、叶うのならば……彼らが幸せになるのをぜひ見届けたいものだ。