【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る   作:延暦寺

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本日2話目となります。
本編としては1話目です。


ドキッ鬼だらけの隠れ里~  ポロリもあるよ~ その壱

 刀鍛冶の里は隠れ里である。

 鬼の襲撃を防ぐため、基本的に里の場所は知らない。

 隠の皆さんによりリレーのように運ばれて里へ行くのが基本の移動法である。

 もっとも、それだけ入念に隠している里が鬼達にバレてしまうので大惨事となってしまう事になる。

 だが、今回のイベントに関して言えば鬼殺隊の脱落者は居ないので気が楽といえば楽だ。

 鍛冶師の皆さんも犠牲になってしまうので出来る限り救いたいが、奴らが登場するまでの動きが分からないので、少し非情ではあるが多少の犠牲は目を瞑らなければならない。

 ひとまず、鉄珍様に形がいびつな変なツボが地面に置いてあったら絶対に近づかないように忠告するのが今のところの最善手だろう。

 あとは、パトロールくらいか。

 

「わーーーー‼ すごい建物ですね! しかもこの匂い、近くに温泉もあるんですかね賽さん!」

 

 隠れ里に到着すると目隠し、耳栓鼻栓を外された炭治郎くんが笑顔で年相応にテンションを上げていた。

 その様子が可愛かったので頭を撫でておいた。

 ここまで連れてきてくれた隠の人にお礼を言うと、俺達はまず挨拶の為に鉄珍様の所へと向かう。

 あ、ちなみに善逸と伊之助は他に任務があるので残念ながらお留守番である。

 俺としては彼らも連れてきたかったのだが、あんまり人を増やして移動をさせたくないと許可をもらえなかった。

 まぁ、今回ここで起こる未来は知らないだろうし、里の特性を考えたら当然のことではある。

 

 鉄珍様の屋敷につくと、俺達は案内係の人に連れられ鉄珍様のいる部屋へと通される。

 

「どうもコンニチハ。ワシ、この里の長の鉄地河原 鉄珍。里で一番小さくって一番偉いのワシ。畳におでこつくくらいに頭下げたってや」

 

 と、以前にも聞いたことがあるセリフを一言一句違わずにしゃべる鉄珍様。

 どうやら、これが鉄珍様の持ちネタらしい。

 

「竈門炭治郎です。よろしくお願いします!」

 

 そんな鉄珍様を前にし、炭治郎くんは元気よく名乗りながら素直に頭を床に打ち付ける。

 うーん、ええ子やなー。

 

「鉄珍様、お久しぶりです。変わらず元気そうで何よりです」

「うんうん、アンタも元気そうでなによりや。ほいで、蛍なんやけどな。今行方不明になっててな。ワシらも捜してるから堪忍してな」

「蛍?」

 

 貰ったお菓子をボリッと頬張りながら炭治郎君が尋ねる。

 

「そうや、鋼鐵塚蛍。ワシが名付け親」

「可愛い名前ですね!」

 

 本人はとても蛍って感じじゃないけどな。

 儚さとは無縁にもほどがある。

 

「可愛すぎ言うて本人から罵倒されましたわ。あの子は小さい時からあんなふうでな、すーぐ癇癪起こしてどっか行きよる。すまんの」

「いえいえそんな! 俺が刀を折ったりすぐ刃毀れさせたりするからで……」

 

 と、炭治郎くんなりに37歳児をフォローするが、鉄珍様はそれをすぐに否定する。

 

「いや違う。折れるような(なまくら)を作ったあの子が悪いのや」

 

 プロとしての矜持か、鉄珍様からビリビリと何とも言えない気迫が伝わってくる。

 その後、ただ待っているのもあれだという事で炭治郎くんは里自慢の温泉へ入りに行くことにする。

 鬼いちゃんが暴れる前に決着がついたとはいえ、堕姫戦でそれなりに怪我はしていたので湯治も兼ねているのだ。

 炭治郎くんが居なくなったのを確認すると、俺は鉄珍様に耳打ちをする。

 

「鉄珍様。お耳に入れておきたいことがあります。……詳しい事は省きますが、もし、地面に突然謎のツボが置いてあったら決して近づかぬ、触らぬようにと里の者にも忠告しておいてください」

 

 素直に鬼が来るから、と言えればいいのだが……それを言った所で何で知ってるんだと問い詰められるだろうし、ここからすぐに里を捨てて逃げ出したとしても途中で背後から不意打ちを喰らう可能性もある。

 なので、変に立ち回らず素直に奴らはここで倒しておいた方がいいのだ。

 

「……よくわからんが、柱であるアンタがそう言うなら肝に銘じておこうかね。里の奴らに伝えておくよ」

 

 鉄珍様は俺の忠告を受け取り頷いて了承してくれる。

 こういう時は、お館様の職権乱用により柱になってよかったと実感する。

 もし俺が一介の平隊士ならば何の権限があってと一笑に付されていたことだろう。

 まぁ、だからって柱を続けたいとは思わんがな!

 どうせなら被服担当とかに回されて前田まさお氏と女性隊士の服について存分に語りあっていたい。

 ……なんて、叶わない夢を望みながらも俺は鉄珍様の屋敷を後にすると先に温泉に入っているだろう炭治郎くんの後を追う。

 その道中で見覚えのあるモヒカン強面の人物がこちらに歩いてくるのが見えた。

 彼の名は不死川玄弥。実ちゃまこと不死川実弥の弟である。

 目つきの悪さがよく似ている。

 

「あ、ちす……」

 

 向こうも俺に気づいたのか、なんとなく気まずそうに頭を下げて挨拶をしてくる。

 流石に俺が柱だからか、玄弥もどことなく大人しい。

 

「よぉ、不死川弟くん。元気か?」

「あ、はい。元気っす」

「そうかそうか、それはよかった。「あの……」ん?」

 

 玄弥は俺の言葉を遮り何か言いたそうにするが、何やらもじもじとしている。

 そのまま何とも言えないような空気が流れるも、意を決したのか玄弥はこちらを見ながら口を開く。

 

「兄ちゃ……いや、兄貴は元気そうでしたか? あと、俺のこと………何か言ってなかったっすか?」

 

 ふむ……ここは何て答えるのが正解だろうか。

 元気か否かで言えば、こちらがうんざりするくらいに元気いっぱいだ。

 だが、玄弥くんの事は何も言っていない。しかし、ここでそのまんまストレートに「あいつは弟なんか居ないって言ってたよ、眼中にないみたい☆」とか言おうものなら空気の読めないクソ野郎である。

 まぁ、実の本心は分かっているし、少しフォローをしてやろう。

 柱の中には何となく2人の関係を察している人も居るし、少しくらいは平気だろう。

 

(さね)は元気すぎるくらいに元気だよ。君のことは……まぁ、口にこそ出さないものの気にはかけているようだから安心すると良い。君も知っての通り、実はすっっごく素直じゃない。今は会っても悪態しかつかないかもしれないけど、いつかは仲直りできる。信じて頑張るといい」

「……頑張るっす。ありがとうございます」

「うん、応援してるよ。ただ、命あっての物種だ。絶対に無理をして実を悲しませないようにね」

「はい……っす」

 

 玄弥は小さくお礼を言うと、ぺこりと頭を下げて立ち去っていく。

 彼にも幸せになってもらいたいんだがなぁ……というか、鬼殺隊の人達は基本的に皆幸せになってほしい。

 ただ、彼の場合は相手がお労しい人だけあって助けるのがどちゃくそ難易度高い。

 しかも、鳴女の血鬼術でどこに飛ばされるかも分からないので、運よく会えるとも限らない。

 煉獄さんと宇髄、あとおまけで獪岳が無事な事でどう作用するかにかかっているな。

 

 そんな事を考えながら俺は温泉へと向かい、炭治郎くんと一緒に一時の平和を享受するのだった。

 っていうか、炭治郎くんが思ったよりもムキムキでちょっとビビったのは内緒だ。

 可愛い顔してやるじゃない……。

 

 

「あ、賽さん! 賽さんも炭治郎君と一緒に来てたのね!」

 

 温泉を満喫した後、炭治郎くんと共に隊士用の宿へとやってくると、温泉浴衣を着た蜜璃ちゃんが出迎えてくれる。

 うーん、相変わらず素晴らしいものをお持ちだ。

 

「っ⁉」

 

 俺が蜜璃ちゃんの体に感心していると、急に背筋が冷たくなったので周りを見渡す。

 

「? どうしたの、賽さん?」

 

 突然の俺の行動に不思議そうにする蜜璃ちゃん。

 なんでもないと適当に誤魔化すと、そのまま3人(+箱に入っている禰豆子ちゃん)で食事が用意されている客間へと向かう。

 

「そういえば、甘露寺さんは、なぜ鬼殺隊に入ったんですか?」

 

 食事中、気になったのか炭治郎くんがそんな事を聞いてくる。

 

「ん? 私? 恥ずかしいな~。えーどうしよう聞いちゃう?」

 

 と、炭治郎くんの質問に対しもじもじする蜜璃ちゃん。

 俺は理由を知っているが、あれを聞いた人は皆同じような気持ちになるだろう。

 なぜなら……、

 

「添い遂げる殿方を見つける為なの‼ やっぱり自分よりも強い人がいいでしょ? 女の子なら守ってほしいもの! わかる? この気持ち。男の子には難しいかな」

 

 ……だからである。

 

 実際、炭治郎くんは冷や汗をだらだらと流しマジでか、という表情をしていた。

 俺は原作で知っていたが、現実で実際に聞くととんでもない理由である。

 鬼殺隊の中でもトップクラスの異質な理由だろう。

 カナエさんは鬼と仲良くしたいと言っているし、鬼殺隊の女性陣は変わり者が多い。

 

「そういう意味では賽さんは私の理想の殿方よね。何せ、柱最強だし、私の体質に何も言わないで受け入れてくれたもの!」

 

 くそ、お館様が俺のことを最強だと囃し立てるものだから、皆が真に受けている。

 まぁあれだ。蜜璃ちゃんから理想だと言ってもらえるのは正直嬉しい。

 

「でも賽さんはだめよね。だって、カナエちゃんとしのぶちゃんが居るもの」

「え、待って。ちょっと待って!プレイバック! 何? その話って、もしかして結構広まってるの?」

 

 蜜璃ちゃんの聞き捨てならない言葉に俺は思わず聞き返す。

 

「有名よ? 同じ女の子ってのもあるけれど、あの姉妹は賽さんの事すごい好きって傍から見てても丸わかりよ。多分、他の柱の人達も普通に察してると思うわ」

 

 まじか……。

 うわー、マジで?

 恥ずかしすぎてサイコロステーキになりたくなる。

 ここで炭治郎くんが空気の読めない言葉で場の空気を換えてくれないかとも思ったが、顔を赤くしながら尊敬の眼差しでこちらを見ていた。

 

「大人ですね……っ」

 

 と、純真過ぎる感想でトドメをさしてくれやがった。

 いっそ誰か俺を殺してくれ。

 その後、あまりの事実に思考回路がショート寸前になりどういう会話をしていたか全く覚えておらず、気づけば朝になっていたのだった。




隠れ里編となりますが、原作はもう折り返しなんですよね……

ちなみに隠れ里編では揺らめく恋情・乱れ爪を使ってる蜜璃ちゃんが一番好きです。

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