【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る   作:延暦寺

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前回、薬についての感想がいくつか見られましたので、今回の話で補足を入れています。
一応、前から考えてはいましたが自分なりの解釈マシマシですので、解釈違いあった場合は何卒ご容赦お願い致します。



マモリキレタヨ

 目が覚めると、目の前では美少女が俺の顔を覗き込んでいた。

 あぁ……ここが天国か……。

 どうやら、猗窩座との戦いで俺はついに命を落としたらしい。

 悔いが無いと言えば嘘になるが、それなりに充実した人生を送ったのではなかろうか。

 ――と、ボケるのはここまでにしておこう。

 ここは天国ではないし、死んでもいないというのは俺の胸の痛み(恋じゃないよ)が現実だと告げていた。

 よくよく相手の顔を見てみれば、どうやら禰豆子ちゃんのようだった。

 この世界に転生してからは口枷を付けた状態の禰豆子ちゃんしか見たことなかったので、気づくのが遅れてしまった。

 そして、禰豆子ちゃんはというと俺が目が覚めたのを確認すると花が開くようにパッと笑う。

 うーん可愛い。妹にしちゃいたいくらいだ。もちろん、炭治郎くんの事も好きなので一緒に弟にしたい。

 

「賽、起きた。良かったねぇ」

 

 と、禰豆子ちゃんは笑みを浮かべたまま俺の頭を撫でてそんな事を言う。

 

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」

 

 突然喋りだした禰豆子ちゃんを見て、俺が思わずハッキョーセットになってしまったのは仕方のない事だと思う。

 

「っ⁉ ぐぉぉぉぉ⁉」

 

 しかし、叫んだのがいけなかったのか俺の胸にズキンと尋常じゃない痛みが襲い悶絶する。

 

 そうか、隠れ里編を終えたから禰豆子ちゃんが次の段階に移行したのか。

 禰豆子ちゃんがこの状態という事は、炭治郎くん達も原作通り無事に上弦2体を倒すことができたのだろう。

 あとは、他の皆も無事だと良いのだが……。

 

「何、今のきったない高音の悲鳴は!」

 

 俺の悲鳴を聞きつけたのか、ドタドタと慌ただしい足音が聞こえたかと思えば、しのぶが部屋へと乱入してくる。

 

「あ、しのぶじゃん。しのぶが此処に居るって事は、もしかして蝶屋sぐえぇ」

 

 見知った顔を見たことで俺は安心しつつもそう話しかけようとすると、突然しのぶに抱きしめられる。

 

「し、しのぶ? ちょっと、お兄さん胸が痛いなぁ……なーんて」

 

 ズキズキと痛む体に耐えながら、俺はしのぶにそう話しかける。

 しかし……、

 

「馬鹿……心配したんだから……っ」

 

 と、大粒の涙を流しながら熱烈なハグをしてくるしのぶに何も言えなくなってしまう。

 

「……心配かけて悪いな」

「まったくよ……賽が重傷で運ばれたって聞いたときは、気が気じゃなかったんだから……。姉さんなんかお百度参りをするって言って聞かなかったのよ。もちろん止めたけど」

 

 おっとそいつは止めて正解だったな。

 それにしても、少し大袈裟過ぎやしないだろうか。

 確かに大怪我ではあるが、命に別状はないというのは医学に詳しいしのぶならすぐに分かるだろうし、珠世様もうちの屋敷に常駐している。

 なので、ここまで心配するようなことではない。

 むしろ、上弦に遭遇したにしては奇跡レベルの怪我だ。

 

 ちなみに、俺は2日ほど眠っておりあばらの骨が折れていたらしい。

 

「だってあなた……今まで鬼と戦って怪我したことなかったじゃない……」

 

 と言われてしまえばぐうの音も出なかった。

 

「しのぶ、だい、だいじょうぶ? よしよし」

 

 泣いているしのぶを慰めようと、禰豆子ちゃんはたどたどしくも童子をあやすような優しい口調でしのぶに話しかけながら頭を撫でる。

 うーん、天使かな? 天使だったわ。

 

「ふふ、ありがとう。禰豆子ちゃん」

 

 禰豆子ちゃんの行動が功を奏したのか、しのぶは自身の涙を拭うと禰豆子ちゃんに笑いかける。

 禰豆子ちゃんもしのぶが泣き止んだと分かると満足そうに笑っていた。

 うふふ、あははと微笑ましい時間に癒されるが、ふと部屋の入口で気まずそうに佇んでいる珠世様と目が合った。

 

「すみません、仲睦まじい所をお邪魔してしまいまして。賽さんが目覚めた様子でしたので話を聞こうと……お邪魔でしたら、また後で伺いますが……」

「いえ! 話しましょう! 大丈夫です! な、しのぶ!」

「え、えぇえぇ! 大丈夫ですよ珠世さん! はい、話しましょう!」

 

 珠世様の気遣いに対し、俺達はお互いに顔を赤くしながら必死に話を進めようとするのだった。

 

 

「そうですか……上弦の参を逃がしてしまいましたか」

「すみません、あと一歩のところだったんですが……やはり、無惨は抗体を作って対策してきますかね?」

「いえ、それならば然程問題ではないと思います」

 

 不安そうに尋ねる俺に対し、珠世様は首を横に振る。

 

「毒や薬の成分に対してそれを分解、打ち消す抗体を作ることはできるでしょうが、どういう効能かまでは無惨は知ることができません。なので、そもそも人間に戻す薬とさえ認識できておらず、情報を共有したとしても、弱体化する薬程度にしか考えていないはずです。無惨は、人間に戻す薬があるとすら思いもしないでしょう」

 

 もっとも、自分と別れた後に知識を高めていたら分からないが可能性はかなり低い、と締めくくる。

 頭無惨ェ……。

 

「今回、賽さんにお渡ししたものは試作品ですし、抗体を作られたとしても完成品はまた別の成分となるので悲観することはないです」

 

 それを聞いて俺はホッとする。

 勿論、楽観視し過ぎるのもよくはないが、確か原作でも老化の効果までは分からず珠世様の細胞の記憶を読んでようやく理解していたので案外大丈夫かもしれない。

 というか、そう自分に言い聞かせないと俺の精神が保たない。

 

 その後、猗窩座に稀血爆弾を使用した際の効果や、量産は可能かや改善についてなどしのぶを交えて話していると、俺に会いたいという客人が居るというのでここまで来てもらうことにする。

 

「申し訳ございませんでしたぁ!」

 

 ひょっとこの面を被ったその客は、部屋に入るなり思わず感心してしまうほどの綺麗な土下座を披露する。

 なんでも、俺と猗窩座が戦っている時に助けてもらったのが彼……藻武鉄(もぶてつ)さんだという。

 里が襲われ、大根……もとい大混乱でしっちゃかめっちゃかに逃げていたらあの場に出てきてしまったのだという。

 

「鬼を逃がしてしまっただけではなく、我らの希望である柱様に大怪我を負わせてしまい、なんとお詫び申し上げれば……こうなれば、腹を切ってお詫びを……」

「では、私が介錯いたしましょう」

 

 藻武鉄さんの言葉に、しのぶが敬語でそんな事を言いだし始めたので「しのぶ、ステイ」と大人しくさせる。

 

「藻武鉄さん……でしたっけ? そんなに謝らなくていいですよ。俺は気にしてませんから」

 

 猗窩座を取り逃がしてしまった事は確かに痛いが、それよりも人命優先である。

 皆を死なせないと誓った以上は、救える命は救いたい。

 

「それよりも、藻武鉄さんは怪我とか大丈夫でした? あとは、里の人達も」

「はい、お陰様で無事でございます! 里の者も、怪我人は大勢居りますが、奇跡的に死者は出なかったです。それも、柱を始め、鬼殺隊の皆さまのお陰です!」

 

 藻武鉄さんの言葉を聞き、俺は安堵する。

 頑張った甲斐があるというものだ。

 ついでに、しのぶから鬼殺隊の状況も聞くと、やはり皆怪我はしているものの死者はいないというので最良……とまではいかないものの、それなりにいい結果だろう。

 

「今回、賽様には到底返しきれぬ程のものを頂きましたので、少しでも恩を返したいと思いますので、私にできる事でしたら何なりとお申し付けくださいませ!」

「ふむ……」

 

 なんでも、というのは魅力的な言葉ではあるが実は一番困る言葉でもある。

 選択肢が多すぎると、逆に思いつかなかったりするのだ。

 とはいえ、何も要らないと言っても藻武鉄さんは納得しないだろうし、彼の精神的負担を軽減するためにも要望は出した方がいいだろう。

 

「あ、じゃあちょっと作ってもらいたいものがあるんだけど」

 

 俺は、前から「これって作れないかなぁ?」と思っていたとあるアイテムの構想を伝える。

 

「ふむふむ……分かりました! この藻武鉄、全身全霊をかけて賽様のご恩に報いるためにも頑張らせていただきます!」

 

 藻武鉄さんはそう言って自身の胸をドンと叩くと、最後に深々と頭を下げて、早速頼まれた仕事をしようとその場を後にするのだった。

 

「まったく……賽は甘いんだから」

「あれでいいんだよ。ここで許さないと、俺が文字通り命を賭けて助けた意味がなくなっちゃうしね」

 

 俺自身がそれほど怒っていないというのもあるが。

 まぁ……お館様はともかくとしてイグッティと実ちゃまからは鬼を逃がしたことで色々言われるんだろうなぁ……あ、胃が痛くなってきた。

 

 

 ――それから3日後の夜。

 絶対安静という事で俺は暇を持て余していた。

 怪我で動けない俺の代わりにしのぶが担当地域の警邏に出かけており、カナエさんは俺の代わりに事務仕事をしている。

 炭治郎くんは未だ昏睡状態で、善逸と伊之助も任務で居ない。

 つまり、皆忙しくて俺の相手をしている余裕がないのだ。

 

 最初は、怪我にかこつけてサボれるぜヒャッハー! って感じだったのだが娯楽も何もないので飽きるのは早かった。

 

「あー、何かあっと驚くようなことでも起きないかなぁ……」

 

 俺が禰豆子ちゃんを撫でながらそんな事を呟いていると、俺に客人が来ていると使用人に言われる。

 藻武鉄さんかなとも思ったが、どうやら違うらしい。

 顔や全身に包帯を巻き和装に身を包んだ怪しさ満点の男だという。

 門前払いをしようかとも思ったが、俺に会うまでは帰らないと頑なで、不気味でもあったので申し訳ないが俺に対処してほしいとの事だった。

 俺は痛む体に鞭をうちながら玄関へと向かう。

 部屋に招き入れても良かったのだが、万が一皆を巻き込んだりしたら大変だからな。

 外に出てみれば、なるほどこれは確かに怪しい。

 立ち居振る舞いに隙は無く、不審者丸出しで警戒度MAXなのだが、不思議と敵意や害意は感じられなかった。

 

「アンタかい? 俺に用事があるっていうのは」

 

 俺が声をかけると全身包帯男はこちらへと振り向き口を開く。

 

「貴様を探すのにえらい時間がかかったぞ。まぁ……元気そうで何よりだ」

 

 聞き覚えのある声に俺はドキリとする。

 まさか……そんなのありえない。

 そう自分の中で否定するも、男はシュルシュルと顔の包帯を取って自分の素顔を露にする。

 

「栖笛賽、貴様に話がある」

 

 目の前には、数日前に死闘を繰り広げた猗窩座の姿があった。

 思わず悲鳴を上げようとしたところで胸の激痛により悶絶したのは言うまでもなかった。




猗窩座殿おかわり

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