【完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る 作:延暦寺
正直、鬼の中であの人だけ過去が別格な気がします。
別な意味で別格なのは唯一過去が明かされていない玉壺
「ぐるあああぁぁぁ! 放しやがれぇぇぇぇ! 頸を斬らせろぉぉぉぉ!」
産屋敷邸にて、とても人間とは思えないような獣の咆哮が響き渡る。
その声の正体を探るまでもなく、実弥だというのは誰もが理解できた。
俺達は今、緊急の柱合会議の為に産屋敷邸に集合していた。
本日の議題は2つ。
日光を克服した鬼……つまりは禰豆子ちゃんの存在により近づいてくる大規模な総力戦への準備、そして猗窩座こと狛治の処遇についてであった。
そのため、俺達柱のほかに狛治とサポート役として珠世様も参加していた。
最初は狛治の存在は隠そうと思ったのだが、いざ戦う時にいざこざが起きても仕方がないのであらかじめ柱の賛同は得ておこうと思ったのだ。
んで、狛治を紹介した途端に実弥が狂った獣のように吠えまくり狛治に襲い掛かろうとしたところで、悲鳴嶼さんに取り押さえられている。
流石は柱一の怪力だけあり、実弥が暴れるも悲鳴嶼さんは微動だにしない。
実弥は正直予想通りの反応だが、他の柱については3度目の鬼という事もあり表面上は平静を保っている。
「実ちゃま、まず話をしたいから……「うるせぇ! 何が話だ! 聞けばそいつは上弦」……
いつまでも聞く耳を持たない実弥に対し、俺は業を煮やして怒気を放ちながら名前を呼ぶ。
俺のただならぬ雰囲気を感じたのか、実弥はようやく大人しくなった。
禰豆子ちゃんや珠世様の時も同じように会議を開いたが、2人は原作でも許されていたので俺も特に真剣にはならなかった。
だが、今回は違う。
元上弦の参である狛治の加入は、完全に原作と乖離している展開の為、どういう結果になるか予想がつかない。
狛治が加入するというだけで大幅なメリットが得られる以上、俺も今までになく本気で取り組む必要があるのだ。
流石に今回はふざけている余裕はない。
「……どうやら、みな話を聞く準備ができたようだね。賽、話を」
ようやく静かになったのを確認すると、お館様が先を促す。
ちなみに、本来ならもっと病気が進行しており会議に参加すらできなくなっていたはずの彼は、珠世様を早めに加入させたお陰で病気の進行を原作よりも大幅に遅らせている。
故に、こうして会議にも参加できているのだ。
俺は周りを見渡すと、今回の経緯を話すことにする。
事の発端は、俺が狛治に対して試作の人間化薬を使った事に起因する。
試作であるため効果時間は短いものの、一時的に人間に戻った狛治は人間の頃の記憶を取り戻した。
また、鬼ではなくなったことにより無惨の呪いも外れ、完全に自由になったので自分をこんな風にした奴に復讐をしたいという事を伝えた。
ちなみに、狛治の呪いが外れて無惨の監視がない事は珠世様に確認済みである。
でなければ、鬼殺隊の本拠地である産屋敷邸にも連れてこれなかったしな。
「それを信用しろっていうのか? 派手にうさんくせーな」
耳をほじりながら宇髄がそう言う。
まぁ、彼の言い分も分からなくはない。
俺は、原作知識という最大のアドバンテージがあるので狛治の言う事を信じることができるが、他の人から見れば鬼が狡猾にこちらを騙そうとしているようにしか見えないだろう。
しかも、上弦の参とくれば猶更だ。
禰豆子ちゃんや珠世様はともかくとして、狛治は猗窩座時代に今の地位に昇り詰めるために数えきれないほどの人間を殺してきた。
鬼殺隊である以上、それは看過できない。
故に、俺は狛治の過去とこれからの条件に付いて説明する。
まず、これが期間限定の協定で目的を果たせば遠慮なく頸を斬っていいということ。
俺らが(正しくは俺と鬼以外が)知りえない鬼の情報を全て開示すること。
鬼殺隊の戦力強化に全面的に協力すること。
これらは、全て狛治本人に許可も得ている。
その前報酬、というわけではないが無惨を殺せばすべての鬼が死ぬ、という情報が伝えられた。
もちろん、それは俺も知っていたが迂闊にそれを言う訳にはいかない。
他の鬼の情報についてもそうだが、俺は
大半の者は俺の情報収集能力が凄いだけと思ってくれるかもしれないが、中にはそれを不自然と感じる者も居るだろう。
そして最悪の場合、俺が鬼と通じていて嘘の情報を流しているのではないかと考え「いよいよもって死ぬがよい」と問答無用で殺しにかかってくる奴もいるかもしれない。
流石にそれは考え過ぎと思われるかもしれないが、実際に実行しそうな奴を俺は知っている。
本人の名誉の為にも本名は伏せるが、最初が「さ」で最後が「み」の名前が3文字の柱である。
それ故に、狛治経由で鬼情報を共有できるというのは非常にありがたいのだ。
「ちょっと待て! 鬼舞辻無惨を倒せば全ての鬼が死ぬという事は、最初の条件と矛盾するのではないだろうか!」
とは煉獄さんの言葉。
「それは、私から説明しましょう。全ての鬼、とは言いましたがあくまで鬼舞辻無惨の呪い、つまりは繋がりのある者だけになります。故に呪いの外れた私と愈史郎やそこの狛治さん。それと禰豆子さんは対象外となります」
「なるほど、了解した珠世女史!」
珠世様の言葉に納得したように頷く煉獄さん。
もっとも、先ほどの説明はあくまで俺と珠世様の推測である。
うろ覚えではあるが、珠世様由来の愈史郎が現代まで生きていたはずなので無惨の繋がりがなければ生き残るのだろうという結論になった。
もっとも、実際は違うかもしれないがそれをわざわざ言う必要はない。
「情報の真偽についてはどうすんだ? そこの鬼から情報を得たとして、どうやってそれが正しいかどうかを判断する? 間違っていた場合、俺達の方が追い込まれることになるぞ」
「それは、信じてもらうというほかない。勿論、鬼である俺のことを信じられないというのは重々承知している。だが、生憎と俺には証明する手立てがない」
宇髄の言葉に狛治はそう答える。
ま、そうだよな。正しいっていう証拠がなければ、信じようがない。
俺だけが、狛治の言葉が真実だと分かっているのだ。
「そこはほれ……狛治を信じる俺を信じろ」
と、言うしかないだろう。
俺の言葉を聞いた宇髄は、それ以降考えこんでいるのか黙ってしまう。
「わ、私は信じるわ! だって、狛治さんがあまりにも可哀想だもの! このままじゃ、恋雪さんにも顔向けできないだろうし……」
と、最初に名乗りをあげたのは蜜璃ちゃんだった。
恋柱の名を冠するだけあり、狛治の悲恋に心動かされたのか涙目であった。
……まぁ、蜜璃ちゃんならそうなるだろうと思いわざわざ過去の話をしたんだけどな。
ずるいと思われるかもしれないが、今回ばかりはあらゆる手を使わせてもらう。
「僕も……別にいいよ」
さぁ次は誰を陥落させようかと考えていたところで無一郎くんが名乗りだす。
正直、彼は一番行動が読めなかったので完全に想定外だ。
「炭治郎がね、賽を褒めてたんだ。尊敬できる人で、一番信頼できる人だって。彼がそう言うなら僕も信じてみるよ」
た、炭治郎----!
この場には居ない少年のナイス過ぎるアシストに俺は心の中で感謝する。
もう、これは「お前、弟決定な」と禰豆子ちゃんと共に俺の身内にするしかあるまい。
目が覚めたら盛大に撫でまわしてやろう。
そして、無一郎くんを皮切りに他の柱も次々と名乗りを上げる。
「……仕方ねぇ。俺も賛成してやるから派手に感謝しろ。情報っていうのはいつの時代も最大の武器だ。そこの鬼は信用できないが、賽、てめぇの言葉なら信頼してやる」
「うむ! 俺も正直、彼のことは信用しかねるが、無限列車で出会った時の邪気は確かに感じられん! 真に改心したという賽の言葉は信じるとしよう! もっとも、裏切ったと分かれば即頸を斬らせてもらうがな!」
「それで構わん。疑わしいと思えばいつでも俺の頸を斬れ」
宇髄と煉獄さんという頼りになる柱ツートップも賛同してくれて非常に心強い。
もっとも、狛治というよりも俺を信用してとの事だったが、狙ったわけでは無いが2人の信頼度を上げていて良かったと思う。
残るは、何を考えているか分からない冨岡さん、イグッティに悲鳴嶼さん、絶賛否定中の実ちゃまとなる。
「俺は反対だ。そもそも鬼というのは信用できん。正直に言ってしまえば、そこの女鬼も俺は信じていない。賽、お前に関しても何故これほどまでに鬼に肩入れするのかが理解できない」
とグチグチと否定するイグッティ。
「俺も当然反対だ! 百歩譲ってあの平隊士が連れていた鬼は人を喰った事がねェというからまだ分かる。そこの女鬼もお館様から招致したというから納得する。だが、そいつだけはダメだ。今までどれほどの人間を喰ったか分からねぇ。そんな鬼と共闘なんて反吐が出る!」
当然ながら、実ちゃまも忌々しそうにしながらそう否定する。
悲鳴嶼さんに関しては迷っているようで無言を保っていた。
イグッティは面倒くさいので、口説き落とすなら実ちゃまだろうな。
「なぁ、
「あぁ? そりゃ無惨をぶっころしてェに決まってんだろうが!」
「なら、目の前の鬼には目を瞑ることはできないか? 俺達は、鬼の情報を何も持っていない。今まで、そのせいで何人の隊士が無駄死にしてきた? 何人の柱が上弦に敗れてきた? 宇髄も言っていたが、情報ってのは最大の武器なんだよ。お前は、その武器無しで勝てるっていうのか?」
「当たり前だろうが! 鬼は全て殺す! 目の前の鬼も見逃さねぇ! 無惨も殺す! そのために俺は柱になったんだ!」
なおも頑なに認めようとしない実弥。
「煉獄さん」
「なんだ!」
「狛治と対峙した時、もし俺が居なかったら1人で勝てましたか?」
「勝てる! ……と言いたいが、本音を言えば無理だな。朝まで耐えることはできただろうがおそらく死んでいただろう! なので、賽が居て助かったと言える!」
俺の問いに対し、異様なまでに堂々と答える煉獄さん。
「蜜璃ちゃん、無一郎くん。上弦の肆と伍は楽勝だった?」
「楽勝じゃなかったわ。炭治郎君に言われるまでどんどん増える鬼なんて知らなかったもの。皆で協力しなきゃ多分死んでたわ」
「僕も、正直記憶を取り戻さなかったらあのまま死んでた可能性があるかな……。たまたま相性が良かっただけ。賽みたいにほぼ無傷で生き残るのは流石に無理だと思う」
蜜璃ちゃんと無一郎くんの答えに俺は満足しながら頷く。
「そんなわけで、上弦の肆と伍ですらこの結果だ。参ともなれば、うちの柱の中でも上位の煉獄さんですら敵わない。そして、残りは上弦の壱と弐、そして首魁の無惨。はい、これを踏まえて改めて聞くけど情報なしで勝てると思うか?」
実弥は、上弦と出会ったことがないため、どこか鬼を舐めている節がある。
実際に上弦と戦った者の話を聞き、彼は黙ってしまう。
さらに細かく言えば鳴女も上弦になっているし、誰か補充している可能性もあるが確定情報ではないので言わない。
「ちなみに、冨岡さんと悲鳴嶼さんはどうです?」
「俺には……関係ない」
俺の問いに対し、冨岡さんは言葉少なにそう答える。
一見、非常に投げやりな答えに聞こえるが、確かこのころの冨岡さんは自分は柱に相応しくないと拗らせているはずなので実際は「(自分は柱じゃないし、このような重要な会議に参加する資格はないので)俺には関係ない」と言ったあたりだろう。
……めんどくせぇ!
「正直に言うと、私も基本は認めたくない。だが……賽には獪岳について世話になったし、先ほどの話を聞く限り、勝率を少しでも上げるにはこちらが折れねばならぬというのも理解した。故に、私は……賛成だ」
あくまで、賽の言葉を信じる、と付け加えて悲鳴嶼さんも賛成する。
これで過半数の賛成を得られたことになる。
めんどくさいので冨岡さんも勝手に賛成側に入れておく。はっきり言わないのが悪い。
そのことを言ったら「え」って顔をしていたが肯定も否定もしなかったので無視である。
さて、残りはイグッティと実ちゃまだが……。
俺は、ふと名案を思い付いたので蜜璃ちゃんに耳打ちをする。
蜜璃ちゃんは分かったわ、と小さく頷くとイグッティの方を向いて口を開く。
「伊黒さん……貴方が協力してくれたら、嬉しいわ」
「分かった、協力しよう」
はい、チョロ黒さん釣れましたー。
卑怯というなかれ、これも戦略である。
実ちゃまには悪いが、これでほぼ全員の賛同を得られたので狛治は正式に鬼殺隊の仲間となる。
実ちゃまは納得できないだろうが、これも全員が生き残る為だ。
彼にはいずれ納得してもらおう。
「どうやら、結論は出たようだね。さて、次の議題だが……」
それまで静観していたお館様は、狛治についての議論が終わったと見ると次の議題へと進むのだった。
――最終決戦は、もう目前と迫っている。
実ちゃまが無駄に粘るので長くなりました()
イグッティも粘らせると終わらなさそうだったので展開の為にチョロくなりました