【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る 作:延暦寺
黒死牟と戦闘を開始してからどれほどの時が経っただろうか。
俺の天才的な戦略と悲鳴嶼さん、実ちゃまの活躍により、黒死牟は満身創痍となっていた。
対して、俺達の方は怪我こそしているものの致命傷まで至っている者はいなかった。
それどころか痣すら出していない。
それもこれも、俺のインスタント赫刀や赫刀グレネードにより再生が追い付かず、攻撃もままならなかったからだ。
「もう……楽にしてくれ……これ以上、生き恥を晒したくない……」
そして、ついには心の折れた黒死牟が膝をつき、自身の頸を差し出してくる。
「私は、これまで何をやっていたのだろうか。人間を辞めてまで最強の座を求めたというのに、このような訳の分からない人間に良いように弄ばれるなど」
訳の分からないとは失敬な。
俺は単に、生き残ることに全力なだけだ。
生きる、という目的に限っては俺も無惨と同類かもしれない。
「子孫を斬り捨て、侍であることも辞めたというのに何故私は弟に追いつけなかった? 何故何も残せなかった? 何故私は何者にも……」
「あ、そんなの知るかよ。自分の弱さを認めず、弟から逃げた時点で、お前は既に成長することをあきらめたんだよ。俺は自分が弱い事を知っている。認めている。だから、努力した。そして誰かに頼ることを厭わなかった。その結果がこれだ」
「……」
俺の言葉に、黒死牟は押し黙る。
「他に言い残すことはあるか?」
「ない」
黒死牟の答えに、俺は「そうか」と答えそのまま頸を斬り落とす。
原作のように第二形態になるかもと心配していたが、それは杞憂だったようでそのままボロボロと崩れ去りあとには壊れた笛だけが残っていた。
「さぁ、先を急ごう。もたもたしてると無惨が復活しちゃうからな」
俺は後で弔ってやろうと笛を拾い上げ懐にしまいながら振り向くと、全員が何とも微妙な表情を浮かべていた。
あの実ちゃまでさえ苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
「どったの? ほれ、さっさと行こうぜ」
「お、おう……」
「うむ、そうだな……」
俺が急かすと、何とも歯切れの悪い返事をする。
皆の反応が気になるが、ここで問答をしている余裕もないので、さっさと無惨のもとへと向かうことにする。
ちなみに、無惨の場所は平隊士により既に把握済みで、発見した隊士達はとっくに下がらせ、冨岡さん達を待機させている。
イグッティと蜜璃ちゃんは、まだ鳴女と戦闘中らしい。
鳴女は戦闘力はないが、血鬼術が厄介だからな。
2人は後で合流してくれると信じておこう。
☆
俺達はひたすら全力で無限城を駆ける。
少しでも遅れれば被害が増えるからだ。
幸いにも俺の知らない上弦は誕生していなかったらしく、無事に冨岡さん達と合流することができた。
「賽さん!」
無惨の繭へと辿り着くと、俺の姿を見つけた炭治郎くんが叫びながら寄ってくる。
「無事だったんですね」
「あたぼうよ、俺を誰だと思ってる。生き残る事最優先の俺だぞ? それよりも、無惨の様子はどうだ?」
「鎹鴉を通しての連絡では、そろそろ復活しそうとの事です」
どうやら結構ギリギリだったらしい。
やはりイグッティと蜜璃ちゃんの姿は見当たらないので、間に合わなかったようだ。
柱2人の欠員は痛いが、原作と違いこの場には煉獄さんと宇髄、そして獪岳が居る。
戦力としては充分お釣りがくるレベル……と言いたいが、それでも最大限に警戒しないといけないのが無惨の厄介なところだな。
あいつ、頭無惨の癖にスペックだけはマジでラスボスだからなぁ。
「皆、そろそろ無惨が復活する。
俺の言葉に、その場にいる全員が頷く。
ある者は抜刀し強く握りしめ、ある者は鞘に刀を納めいつでも抜刀できるようにしている。
そして、それを見計らったかのように繭から黒い影が飛び出し、抜け殻となった繭の上に降り立つ。
「……忌々しい顔ぶれが並んでいるな」
それは髪が白くなり、四肢が異形へと変じていた無惨であった。
「それに猗窩座……死んだと思っていたが、まさか裏切ってそちら側に居るとは、失望したぞ」
「何が裏切りだ。一方的に俺を鬼にしたのはそちらだろう。それに、今の俺は猗窩座ではない。狛治だ」
そんな狛治の言葉も興味がないという風にため息を吐くと奴は周りを一瞥し、手に持っていた何かを俺達の方へと投げ捨てる。
それは、頭だけとなった珠世様であった。
「見ろ、そいつの哀れな姿を。私に薬を分解されまいともがいていたようだが、結果そのような哀れな姿となり、私は薬を分解し終えた。貴様らのやってきたことは全てが無駄だったのだ」
無惨は、自身の全能さに酔いしれているのか両手を広げてそんな事をのたまっていた。
人間に戻す薬と聞いて、素直にそれだけしか効果がないと信じている無惨が本当に滑稽だったが、流石にそれをここで言ってしまえばバレてしまうので心の中で盛大に馬鹿にする。
そして、無惨が勝ち誇っている間に俺は珠世様の頭を回収し、愈史郎の血鬼術で姿を消していた回収&救護班に珠世様の頭を渡す。
血を与えれば、今ならまだ間に合うはずだ。
「賽さん……すみません……人間に戻す薬に関しては失敗してしまいました」
「珠世様、今は無理せず喋らないで回復に専念してください。薬に関しては分解されるのは想定済みです」
むしろ、本命はそのあとの効果である。
原作通り効いているのは無惨の髪の毛を見れば一目瞭然だ。
「分かりました……賽さん、お願いします。私の夫と……子供の仇を必ず……」
その言葉に俺が頷くと、珠世様は安心したのかそのまま目を閉じる。
一瞬死んでしまったかと焦るが、どうやら回復に専念する為に瞑想状態に入ったらしい。
俺は、珠世様にふんだんに人間の血を与えるようにと救護班に伝えるとそのまま危険領域から離脱させる。
そして振り向くと、無惨の演説はまだ続いていた。
うーんこの頭無惨様。
「私は復活したばかりで、まだ体力が回復していない。故に回復に専念するため、お前達は見逃してやろう。こちらとしてもこれ以上お前達、異常者の集団に付き合ってられないからな。お前達は生き残ったのだからそれで充分だろう?」
そのあまりの言葉に、その場にいた全員の殺気が膨れ上がるのを感じた。
「死んだ人間が生き返ることはないのだ。いつまでもそんなことに拘っていないで、日銭を稼いで静かに暮らせばいい。鬼に殺された者は大災にあったと思え。そうすれば復讐心もわかないだろう。天変地異に何かをしようとは普通思わないからな」
いやいや、そういう災害に遭わないために人間達は色々対策するんだよ。
自分を災害だというなら、ますます放っておくわけにはいかないじゃん。
「夜明けまで時間稼ぎをしようと目論んでいたようだが、ここは光届かぬ城の中。私の提案を素直に受け入れた方が利口だと思うが?」
「寝言は寝てから言ってくれます? 鬼舞辻蛸さま。じゃなかった、無惨様」
徹底的な上から目線の無惨の鼻っ柱を砕いてやろうと俺は話しかける。
そんな俺の言葉が聞こえたのか、無惨はこちらを殺意のこもった目で見降ろす。
「そうだな。貴様の存在を忘れていた。他の者は見逃してやらなくもないが、貴様だけは殺す。私を侮辱した罪は貴様の命をもって償え」
「アンタたちの部下は揃いも揃ってアンタみたいな上から目線だったけど、どいつもこいつも俺の策にまんまとハマって全員死んだぞ? そんな情けない十二鬼月(笑)の上司がいくら凄んだところで怖くないって頭無惨様」
嘘です、めっちゃ怖いです。
周りに皆が居なかったら鬼になるのを志願してたレベルで怖いです。
あと、狛治。俺の言葉を聞いてさりげなくへこむな。
「残念だが、貴様のその煽りは強がりだという事は理解している。貴様自身は強くない。あくまで周りに助けられているに過ぎない。そもそも、だ。私は頸を斬ったくらいでは死なず、肝心の太陽もこの室内では意味がない。どうやって勝つつもりなのだ?」
どうやって勝つつもりかって?
こうやって勝つんだよ!
俺が合図をすると、その場にいた狛治以外の全員が『赫刀』を発動する。
すでに痣が発動してしまっている者は自力で発動し、握力の足りない者などは俺考案のインスタント赫刀を発動する。
いつから、インスタント赫刀が俺だけだと思っていた?
俺が無惨への対策をしていないわけないだろうが、ヴァカめ!
イグッティ、蜜璃ちゃんを除いた柱7名、かまぼこ隊、玄弥、カナヲちゃん、獪岳の計13名の赫刀所持者で無惨を囲み、俺は笑みを浮かべながら口を開く。
「さぁ、いつまで強気でいられるかな?」
この後の展開としては、主人公がドイツと協力し紫外線照射装置を開発して、無惨にそれを四方から浴びせながら「鬼殺隊の技術力は世界一ィィィィ!」と叫びながら決着を考えていましたが、無惨への精神攻撃が足りなかったので没になりました。
次回、全員赫刀のフルボッコタイムが始まります。
知識こそパワー