【本編完結】サイコロステーキ先輩に転生したので全力で生き残る   作:延暦寺

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今回、視点が何度か切り替わりますのでご注意ください。


再誕

 ――暗い。昏い。

 闇に塗りつぶされ、上か下かも分からない空間に俺は居た。

 俺は、何でここに居るんだっけ? 何をしてたんだっけ?

 

 ――あぁ、そうだ。俺の理想のハッピーエンドの為に無惨を倒そうとしてたんだっけ。

 そして、油断から無惨の毒を真正面から浴びて倒れちゃったんだ。

 意識を失う間際、しのぶの泣いている顔が見えた。

 まいったなぁ……しのぶを泣かすのはもう最後にしようと思ってたのになぁ。

 

「驚いたな、まだ意識を保っているのか」

 

 俺が自身の迂闊さに反省していると、不意に無惨の声が聞こえてくる。

 声の方を振り向けば、最終形態ではなく人間の姿の無惨が立っていた。

 

「私の血を大量に浴びて、なお未だに事切れないというのは素直に称賛する。――おっと、私をどうにかしようなどと思わぬことだ。私は本体ではない。貴様の体内に侵入した残滓だ。直に、貴様の中に溶け込み消えるだろう」

 

 俺の殺気を感じたのか、無惨はそう言う。

 心なしか、本体よりも頭がよさそうに見えるのは気のせいだろうか。

 

「――貴様を侵食する際に記憶を読ませてもらったが、正直言って驚いたぞ。まさか、未来を予知していたとはな。どうして未来を知りえたのかは謎だが、そういう事なら、貴様が的確に私の邪魔を出来たのも納得できる」

 

 どうやら、俺が鬼滅の刃という漫画を読んで知ったという事までは分からなかったらしい。

 なんらかのフィルターでもかかったのだろうか。

 

「だが、だからこそ分からないことがある」

「何だよ、分からない事って」

「貴様の記憶の中では、本来であれば累に殺されているはずだったとある。そして、それを回避する為に努力していたと。だが、自身の運命を打ち破ったのなら何故そこでやめなかった? 折角生き延びたというのに、何故鬼狩りを続け、自身を命の危険にさらしてきた? その結果、こうして私に敗れ死を迎えている」

 

 確かに、累に勝った時点で引き留めてくる耀哉達を無視して一般人として、モブとして過ごすという手もあった。

 無惨が死ぬのは確定してるし、わざわざ危険な目に遭う必要もない。

 

「貴様は、私と同じだ。何を犠牲にしてでも自分1人が生き残ればいいと思っていたはずだ」

「しのぶがな……泣いてたんだよ」

「何?」

「あれは4、5年くらい前だったかな? おたくの所の童磨と元柱である胡蝶カナエが戦っているところを見るまでは、関わるもんかと思っていたんだ」

 

 唐突に語りだした俺に対し無惨(残滓)は、何を言いたいのか分からないという風に眉を顰める。

 

「でもな、不思議なもんで気づいたらカナエさんを助けるために童磨の前に飛び出してたんだよ。当時はただの平隊士でしかない俺が上弦の前にだよ? 我ながら、自殺行為だと思ったし、これは死んだなって思ってた」

 

 だけど、奇跡的に生き残った。

 そして、カナエさんを生存させることが出来た。

 両足は戦いの影響で使い物にこそならなくなってしまったが、命があるだけマシと言えよう。

 そして、気づいた時には蝶屋敷だった。

 そこで……俺はしのぶに感謝されたんだ。しのぶは、ボロボロと涙を流して嬉しそうにしてたよ。

 ――その時からかな、あぁ……目の前に居るこの人達は確かに生きてる人間なんだなって。

 それまでは、あくまでフィクションの中に入ったという感覚しかなく、目の前の人達もどこか現実味が感じられなかった。

 でも、それからはここが現実だと再認識し、俺は目標を改めることにした。

 もちろん、俺の第一目標は生き抜くこと。

 そして……本来ならば死ぬはずだった人達を助ける事。

 運命は変えられるって言うのはカナエさんで実証済みだったしな。

 俺には原作知識という最強のチートがあった。俺ならできると思った。

 その結果、救うことが出来た。

 

 勿論、時期などが分からず救えなかった人も居る。

 だから、俺は自分の手が届く限りは救うことにしたのだ。

 

「やはり、貴様の言っている事は理解できんな」

 

 俺の言葉を聞いて、無惨は呆れたように首を横に振る。

 

「は! タコ辻無惨様に理解してもらおうと思ってねーよ。脳味噌を無駄に増やしたくせに悪手しかうてないアンタにはな」

「もうすぐ死ぬというのに最後まで口の減らない人間だ」

「――いつから、俺がもうすぐ死ぬと錯覚していた?」

 

 俺がそう言うと、無惨(残滓)は明らかに狼狽えた表情を浮かべる。

 そうそう、そういう顔が見たかったんだよ。

 

「いい加減さ、俺という人間を理解しようぜ。何回裏かかれてると思ってんの? 学習できないの? 頭無惨様だからすぐに忘れちゃうの? こっちには珠世様と狛治が居たんだよ? アンタの性質は筒抜けなんだ。アンタの血が猛毒だって事もな」

 

 そこまで説明してやった所で、無惨は俺が何を言わんとしているのかようやく理解したようだった。

 

「まさか!」

「そのまさかだ! 俺が! アンタと戦うのに血清を用意していないわけないだろうがぁ!」

 

 無惨の血を色濃く受け継いでいる狛治という切り札が居るのだ。

 無惨の血用の血清を用意するのは容易い事なのだ。しのぶと珠世様にとってはな!

 とはいえ、それも100%ではなく死ぬ可能性もあった。

 倒れる間際に咄嗟に血清を打ちはしたが、結構な賭けであった。

 が、どうやら賭けには成功したようで段々と意識が覚醒していくのを感じる。

 心なしかしのぶの泣いている声も聞こえる。

 早く覚醒して泣き止ませてあげんとな。

 

「わ、私の体が……」

 

 血清がどんどんと俺の体の中を駆け巡り、無惨の体が崩れていく。

 

「まぁ、悲観するなよ? 今すぐ、てめぇの本体も地獄に送ってやるよ。……じゃあな、お労しい無惨様」

 

 

 

 

「もっと血清を持ってきて! 早く!」

 

 街の隅の方で私は救護班にそう叫ぶ。

 賽が無惨の毒により倒れた後、私は他の人達に背を押され賽の治療に当たっていた。

 本当は無惨との戦いに参加したかったのだが、賽を優先しろと言ってくれたのだ。

 治療中、鳴女という鬼が死亡したのか無限城は崩壊し、地上へと放り出されてしまった。

 その際、彼だけは守らなければならないと必死に守り、何とか安全を確保できた。

 賽を守った時に無理な体勢だったためか、体のあちこちに激痛が走っている。

 おそらく、骨の何本かは折れてしまっている。

 だけど、私よりも賽の方が優先だ。

 

 彼は、自分自身を弱いと評価しているがそうは思わない。

 悲鳴嶼さんや不死川さんは口には出さないけど頼りにしているというのは伝わってくる。

 彼は私を含めた鬼殺隊にとって、希望の星なのだ。

 だから死なせるわけにはいかない。

 

 だけど……一向に目が覚めない。

 先ほどから珠世と共に共同開発した血清や薬を何本も打っているが、無惨の毒の浸食が止まらない。

 彼自身も倒れる間際に血清を打っていたようだが、効果が見えない。

 もしかして失敗だったのだろうか?

 そんな最悪の予想が脳裏をよぎる。

 

「賽……起きてよ……っ! ほら、皆が無惨と戦ってる音が聞こえるでしょう? 皆、アンタが復活するのを待ってるんだから! 早く起きなさいよ!」

 

 動かない賽を見下ろしていると、涙が零れてくる。

 私は、いつからこんなに弱くなったのだろうか。

 無惨と戦うのならば多大な犠牲が出ることは覚悟の上だった。

 だけど、いざ賽の姿を見てしまうととてもじゃないが耐えられなかった。

 

「賽……あんたが好きなのよ。姉さんもあんたが好きなんだって……2人の女を泣かせる気なの?」

 

 無駄と分かっていながらも賽の手を握り、私は訴えかける。

 私が両手で賽の手を握ると、熱が伝わってくる。

 ……熱? そんなはずはない。先ほどまで死へと一直線で、どんどん体温が低くなっていったはずだ。

 だけど、今の賽は熱すぎる程に熱い。

 

「ヒビ……? いや、蜘蛛の巣の形をした痣?」

 

 気づけば、賽の顔には蜘蛛の巣状の痣が浮かび上がっていた。

 一瞬、無惨の毒で顔がひび割れたのかと思いかなり焦ったのは内緒だ。

 

 そして、待ち望んでいた人の目が開く。 

 最初は状況が飲み込めてないようだったけれど、すぐに把握すると起き上がる。

 

「おはよう、しのぶ。ちょっと寝坊しちゃったか?」

「えぇ、遅刻よ。ここに姉さんも居たら2人で怒ってるところだわ」

 

 毒で死にかけていたというのに、賽はまるでこれが日常だと言わんばかりにいつも通りのふざけたやり取りをする。

 

「さて、そんじゃあ寝坊しちゃった分は働きますかね。しのぶ、謝るのは後でな」

「あ……」

 

 痣の事を伝える前に、賽は無惨の所へと走っていってしまう。

 痣が発現すると確か……私は、痣の情報を思い出すと嫌な予感がするが、何故か賽なら大丈夫だという謎の安心感もあった。

 

「……今は、そんな事を考えている場合じゃないわね。私も行かないと……!」

 

 私は自身の両頬をピシャリと叩いて気合を入れると、涙を拭って無惨の所へと走り出すのだった。

 

 

 

 

 目覚めてから妙に体が熱い。

 無惨の毒の影響かとも思ったが、それにしてはいつも以上に体の調子がいい。

 なんというか、自分の想像以上に体が動くのだ。

 

 目の前の方を確認すると、他の皆が勢ぞろいで無惨と戦っているのが見える。

 俺もすぐさま参加しなければと思った矢先、ゾクリと背筋が冷たくなる。

 ほとんど本能で透き通る世界を発動すれば、無惨が何かをしようとしているのが理解できた。

 そして、その行動のせいで鬼殺隊がほぼ壊滅状態になるという事も予想できた。

 

「っ!」

 

 俺は更に加速する。

 自然と刀を握る力が強くなる。

 燃やしていないのに刀が赤くなっている気がするが、それどころではない。

 

「うっらあぁぁぁ!」

 

 俺は刀を蛇腹モードに切り替えると、今まさに皆へ攻撃しようとしていた無惨の背中に生えている触手をすべて(・・・)斬り落とす。

 

「賽さん!」

「賽!」

 

 俺の姿を見て、皆が嬉しそうな表情を浮かべる。

 どうやら、俺の思っている以上に心配をかけてしまったらしい。

 全部終わったら謝らないとな。

 そんな事を考えながら、俺は無惨の方を向く。

 

 奴はそんな俺を見て驚愕の表情を浮かべていた。

 どうやら、俺の体内に居た残滓とはリンクしていなかったらしい。そういうとこやぞ。

 ほんじゃま、ここらでダメ押しの煽りでもかましておきますかね。

 

「お、丁度いいくらいの鬼がいるじゃねぇか」

 

 それは、俺の原点ともなるべきセリフ。

 

「こんな鬼なら俺でも殺れるぜ」

 

 あえて強い言葉を使う事で、自身を奮起させる。

 

「俺はな、平和に暮らしたいんだよ。皆と一緒にな」

 

 それは、俺の偽らざる本音。

 

「あんたの仲間は全滅だし、残ってるのはお前のみだ。さっさとお前を倒して、皆と凱旋させてもらうぜ」




次回、決着(最終回ではないです)


以前、感想で賽の痣は蜘蛛の巣とかっていうのを見かけたのでこれだ!ってなりました。
あの有名なコマと同じ痣です。

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